Ghoti' 前世で読んでたガチ競技系世界に転生してバーチャル配信者達の師匠になった   作:ルシエド

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西暦2059年4月14日(月) 21:21

 それが正しいのかどうかは知らないが、善幸は前世でバーチャル配信者というものを様々なカテゴリに分類する作家の意見を読んだことがある。

 いい人と、面白い人。

 人を集める人と、定着させる人。

 雑談勢、対人勢、実況勢。

 

 伊井野いのりは雑談型のVliver。

 善幸にとって、最も理解し難いタイプのVliverであった。

 

 善幸は、ただ話すことにそこまでの価値があるとは思えず、それで万単位の人間が集まったり、金や人気が大きく動くだなんて訳が分からなかったのだ。

 彼にとって会話とはただの意思疎通であり、それ自体が人を楽しませるコンテンツという感覚がよく分からない。

 まともに学校生活を過ごしていれば、小中高の学校のどこかで『会話そのものをコンテンツにするクラスの人気者』を1回くらいは記憶していたはずなのに。

 

 いのりに配信コラボに誘われた時、善幸は『自分は高確率で失敗するだろう』と思っていた。

 だから、配信の開幕と同時に長々とした念押しをして、頭を下げ、何かあっても自分の責任だとリスナーに呼びかけたのだ。

 

 愛想よくいつも笑うということができない。

 お世辞が得意ではない。

 相手の発言の意図を定期的に組み込めない。

 人間観察力で補っているものの、他人の気持ちを共感する形で読み取ることができない。

 話を盛り上げられない。

 流行りのドラマの話もできない。

 冗談に真面目な解答を返してしまう。

 相手が言われたくないことを言ってしまう。

 雑に賛同すればいいところで事実を述べて否定してしまう。

 そして、善幸本人が才能に溢れているせいで、なんでもない発言が無自覚に嫌味になってしまう。

 

 だから、『自分は高確率で失敗するだろう』と思っていた。

 なのにその予想は、いのりの手で覆された。

 手と言うよりは、口で覆されたと言うべきなのかもしれないが。

 

「……」

 

「せんせ~、まぶた卒業した~? すごくわたし見てくる~」

 

「建築の動きを見て学んでる。ってかまぶた卒業って何?」

 

 YOSHIが何かを言って、いのりが色を付けて返事を返してくれる。

 YOSHIが面白いことを言えなくても、いのりが面白いことを言ったり、いのりの発言に彼が自然に応えると、それが面白いノリの言葉になっていることが多い。

 いのりの発言は、YOSHIから見て反応に困るものが少なく、どう反応すればいいのか分かりやすく、素直に反応するだけでなんとなく軽快な掛け合いになる。

 

 YOSHIがちょっと失言しかけると、いのりが大笑いしたり、発言をちょっと曲解して大仰に反応したりして、発言が燃える前に笑い話に昇華してくれる。

 YOSHIの何気ない発言を拾ってはいのりが喜んでくれるため、何故かいのりの振る舞いだけで、YOSHIがリスナーにいい人だと見られるようになっていく。

 

 相手に合わせてなんとなくチューニングした喋りができる。受動的に会話を乗りこなす。それが伊井野いのりの雑談スタイルが持つ強みである。

 

「せんせ~ありがと~、便利だね空気の足場~、普段風を使ってるから空気の扱いも得意なの~?」

 

「イメージの系統は同じかもな。戦闘に必要な部分に点を振る必要がないから、いのりくらいなら何十人だって抱えられ……」

 

「老後の面倒も見てほしい~」

 

「俺一生お前のこと抱えてないといけないの?」

 

 伊井野いのりと話していると、話し相手は実像よりもいい人に見え、実像よりも話が上手に見え、実像よりも面白く見えるのだ。

 

「Vliverは老後も美少女のままなのが特徴~」

 

「ネットではな! そりゃそうだろ!」

 

 ならば、リスナーの一部にも似たような気持ちはあるのだろう。

 

 「自分がつまらないコメントをしてもこのVliverならきっとキレのある面白い会話にしてくれる」。

 「Vliverが面白いレスポンスをしてくれるから自分も面白い人間になったような気になれる、自分がつまらない人間じゃなくなったように思える」。

 「その場に参加して思ったことをそのまま書き込んでいくだけで、とても楽しい人の輪の中に加えてもらえたような気になれる」。

 

 おそらくそれが、会話に、雑談に、そして声や言葉に、価値を持たせるということなのだ。

 

 雑談。

 それは人類が大昔に手に入れた原初の娯楽。

 素の人間性と会話の技術が試される、人と人の間に娯楽を生み出す、その人自身の魅力を視覚化させる汎用ツール。

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()には……『YOSHI目当てで引き寄せられてきた新規層』の一部を、そのまま定住させる力があった。

 

 

 

 

 

【13.得意なことは?】

 

「野球とポシビリティ・デュエル」

 

「わたしはお料理とか小物作りとか~。せんせ~、野球得意なんだ~? 意外なんだけどなんでかしっくりくるなぁ~」

 

「しばらくやってないから鈍ってる気もするな……2つの競技に集中できるほど器用じゃあないし……」

 

「得意な野球の中で特に得意なプレーとかあるの~?」

 

「刺殺」

 

「……ポシビリティ・デュエルでせんせ~が一番多く敵を倒した方法は何~?」

 

「刺殺」

 

「一貫性オブ一貫性~!」

 

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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○ちょっと笑う

○いらない一貫性

○敵までひと貫きしてますね

○たぶん本当に得意なのは刺殺じゃなくて牽制

 

 

 2人は一階の残りの壁に取り掛かった。

 

 

【14.自慢できることは?】

 

「たまたま得られた教え子3人に才能があったことだろうか。こういう幸運は中々無いだろうと思う。何かを教えても反抗的でなく、素直に教えた内容を聞いてくれたのも望外の幸運だった。こう言うのもなんだが、プロゲーマーは自分を信じて困難を乗り越える能力が高くて素直に聞いてくれないことも多いからな……」

 

「え!? 世界王者になれたことじゃないの~!?」

 

「そりゃただの結果論だ。自分の可能性を探求して、必要と思った鍛錬をして、全力でぶつかって、時の運が俺に味方し、それで俺が勝っただけの話だ。それで何かの上下が決まったわけでもない。今でも、俺じゃなくてあいつらが世界の頂点に立ってた可能性の方が高かっただろう、と思わされる奴らはいる」

 

「ほえ~」

 

「俺が素直に自慢できるのは幸運だ。試合の結果をもたらした幸運とかより、人との巡り合わせの幸運の方が、素直に自慢できるような気がする。俺は俺の社会不適合度合いを自覚してるし、そこを周囲の人間が補ってくれてる自覚もあるからな……」

 

「なるほど~せんせ~の人生観だ~」

 

「人の可能性の多寡ってのは語りにくいし自慢しにくいしな……大したことを成してない内から自分の可能性を大声で語っても虚しいだろうし……自慢ってのは他人にも理解できる客観的事実でなければならないものだから……だよな? たぶん」

 

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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○いのちゃん褒められてるじゃん

○インタビュアー伊井野、才能覚醒

○変な人だ

○ノリが変だけど普通にいい人だよねYOSHIさん

 

 

「ん、ここ少し難しいな。いのりちょっといいか」

 

「ほいほい」

 

 YOSHIが3つ目のスキルを発動し、いのりの肩をポンと叩いて、クリエイティブ感覚に優れるいのりから建築センスのほんの一部をコピーした。

 

 

【名称:センスコピー】【形質:肩に触れた人間の特定センスを数値相当にコピーする】

破壊力:0

絶対力:0

維持力:3

同調力:9

変化力:9

知覚力:9

 

 

 対象の能力を知覚し、対象に同調し、対象のセンスを自己変化で獲得するスキル。

 

 精神系は非常に扱いが難しく、相当に大量の点数を振ってもなお効果量はたかが知れており、形の無いイメージをしっかりと固めなければ実用的にならず、対策も取られやすい。

 しかも誰もが魂や精神といったものを見たり触れたりしたことがないため体感的に操れず、才能がなければ使いこなせない。

 

 だがそれでも、幻を見せ、他人の心を読み、建物に残留した思念を発見し、妨害を貫通して超長距離のテレパシーをこなし、集中力を奪う広域フィールドを展開し、他人の才能をコピーする圧倒的な固有性と汎用性は、多くのプレイヤーの憧れを一身に集めてやまないものだ。

 

 YOSHIはいのりのセンスの大部分をコピーする意味はないし、できないだろうと考えていた。

 だから"ピンと来る"に絞って使う。

 

 作り方がピンと来なかった部分に対し、少量のセンスコピーを加えて"ピンと来る"ようにする。

 そしてピンと来た内容を噛み砕いて吸収し、維持力3で長続きしないスキルを解除した後も、吸収した内容を活かせば先程まで出来なかったことが軒並み出来るようになっている。

 こうすることで、ちょっと躓いた部分を素早く的確に乗り越えていくのだ。

 

 古風な言い回しと今時の言い回しを混ぜて言うならば、『システマチックにコツを掴む』スキル運用だと言えるだろう。

 

「お~上手い上手い~」

 

「いのりが上手いから俺も上手いんだぞ」

 

 複雑な箇所を、YOSHIの手が、いのりを思わせる作業工程で完成させていった。

 

 

【15.血液型は?】

 

「A型」

 

「うわ~、っぽい~」

 

「っぽいってなんだ」

 

「科学的根拠は一切ないけど~血液型にはそれぞれの特徴があるっていう古来からの言い伝えがあるんだよ~A型は神経質で几帳面~B型はマイペースで自分勝手~O型は大雑把で適当~AB型は難解で二面性がある~みたいな~」

 

「んじゃあ……いのりは几帳面だからA型……いや、マイペースだからB型か? そういうことだよな」

 

「わたしはAB型~」

 

「あてになんねえじゃねえか」

 

「ふふふ」

 

 いのりは、YOSHIの視界にも映るコメント欄を指差した。

 

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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○今ずれたよ~

○よそ見してるから一箇所ずれた

○ブロック置くとこずれたよ

○ズレない置き方あるの知ってる?

○A型発狂

 

 

「ほら、これがA型リスナーだよ~」

 

「……お、おう」

 

「ワールドクラフトビルダーズは性格が出るゲーム~、散らかす人は散らかしっぱなし~、適当な人はまっすぐ積めない~、雑な人はいつも狙わずして左右非対称~、なので適当な建築をするVliverにイライラするリスナーは全てA型という言い伝えがあるのだ~。やがてA型は適当な建築配信に耐えられず全員死んでしまうんだよ~」

 

「なんでA型全員殺そうとしてんだよ、俺もA型だよ」

 

 

【16.座右の銘は?】

 

「考えたことないな……」

 

「わたしは『できないと決めたのはお前だ』あたりかな~。昭和の時代の自己紹介って感じだよね~、自分の座右の銘語り~」

 

「ああ、そうか。なるほど、分かった。自分の好きな言葉やフレーズは、そのまま自分の嗜好を示す指標になる。座右の銘を語ることで、間接的に自分の人格を解説することにもなるのか……」

 

「せんせ~座右の銘を考えておくとエヴリィカがせんせ~のアクリルキーホルダー四種を出す時にせんせ~のセリフとして使えるバリエーションが出来るんだよ~」

 

「アクリルキーホルダー!? 何!? 俺の!? 四種!?」

 

 なんとか一階部分の壁が全て完成したので、壁の内側の模様を塗り込みに2人は家の内側へ。

 

 

【17.尊敬している人は?】

 

「桑田真澄」

 

「……誰~?」

 

「……」

 

 YOSHIの喉から言葉がせり上がって来たが、静かに飲み込まれた。

 

「検索してみよ~。ふむふむ~。1983年から高校野球で活躍して、そのままプロに入って活躍した野球選手~……!? 76年前の人だ~!」

 

「そうだな」

 

「マイナーなとこ攻めてくるね~」

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

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○誰だ……

○マニアックがすぎる

○誰も知らないだろ

○一生ついていきます、YOSHI先生

 

 

 ばっ、と、いのりが元気よく手を上げた。

 発言の許可を求めているらしい。

 しかしYOSHIが発言の許可を出す前に語り出したため、完全に意味の無い可愛いだけの所作と成り果てるのだった。

 

「わたしには~1人めちゃくちゃ尊敬している人がいます~! その人の影響でVliverになりました~! せんせ~が絶対に会ったことのない人です~! その人に貰ったインカムを今も使ってます~!」

 

「ああ……貰い物だったのか」

 

「わたしのたからもの~。これがあったからこれまで頑張ってこれたし~、これがあったから挫けないでいられたんだ~」

 

「いいことだ」

 

「これをくれた人に恩を返したくて~、立派になった自分を見せたくて~、でもわたしはまだ全然新人Vliverなので胸を張ってお礼に言う勇気がなくて~、だからもうちょっとだけ立派になって~、自分に自信が持てたら~、みたいな~」

 

「言い訳みたいな言葉の色だな。俺に言い訳してもしょうがないだろう」

 

「……それはそう~」

 

「頑張れ」

 

「……ん! がんばります~!」

 

 YOSHIは内心で納得した。

 インカムがハイエンドなのも、古くなって型落ちになっても使い続けているのも、大切な人からの贈り物だということならば納得がいく話だ。

 思い出は精神を安定させる。

 思い出はイメージを補強する。

 ゆえに、思い出は強さに直結する。

 精神論とは別のところで、思い出は人を強くするエネルギーとして役割を果たす。

 

 このインカムもまた、伊井野いのりという個人の強さを支える柱なのである。

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○たまに話題に出すけど誰なんだろうね

○あの時期に活躍してたVliver誰だっけ

○いのちゃんこの話する時楽しそうだよな

○そんないのちゃんを応援するんだ

 

 

 一階内側の、壁の模様が完成した。

 

 

【18.自分を動物に例えると?】

 

「鷹。風に乗るから」

 

「おお~……的確だ~! わたしはこれイノシシ以外答えちゃいけないやつだと思うんだ~。ね~」

 

「君が猪獣人じゃなかったらマンボウみたいだなと言ってたところだ」

 

「マンボウ~!? なんで~!?」

 

「なんとなく」

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○わかる

○わかる

○わかる

○わかってしまうな……

 

 

 YOSHIが空中に足場を作り、そこをひょいひょいと飛び上がりながらいのりが階段を組み上げていく。

 

 

【19.主な配信のジャンルは?】

 

「ポシビリティ・デュエル以外手札が無いぞ」

 

「でもせんせ~は独特な位置だから~、今後はよそのVliverの配信にお邪魔する出張コラボ配信がいっぱいできるんじゃないかな~? せんせ~が気が向いたらやるくらいでいいと思うけどね~。あ、わたしはこういう何かをコツコツ作りながらお喋りしてる感じかな~」

 

「じゃあ逆にめったにやらないのはなんだ?」

 

「えっ……………………ほ、ホラーゲーム?」

 

「苦手なのか」

 

「苦手ですぅ~~~~こわいぃ~~~あのあのあの~! 昔見たホラー映画で~、暗闇から滲み出るように現れて~、BGMが止まるのが怖過ぎで~、抵抗しても皆殺されちゃう強すぎの黒髪女の霊が~、本当に本当に本当に駄目になっちゃって~!」

 

「怖くなったら呼べ。俺は俺より強いおばけとやらを見たことがない。負ける心配は一切ないぞ」

 

「た、頼れる~……!」

 

 階段を3階まで仮組みしたいのりが、ひらりと地面に着地した。

 

 

○怨霊は世界大会出てないからな……

 

 

 頭空っぽなコメントが、コメント欄に流れた。

 

 

【20.主な配信時間帯は?】

 

「合同練習配信はまう、いのり、東郷の要望の空いた時間が合致した時に行う予定だ。休日は昼夜、平日は夜を予定してるが、朝にもやるかもしれない。夜の練習配信は3人の要望を聞いて俺が判断することになる……はず」

 

「せんせ~は1人しか居ないから~、個別指導配信を3つ並行してやったりはできないんだよね~」

 

「そういえば、配信時間帯にも意味があるのか?」

 

「できるだけずらしたいところはあるけど~難しいよね~同じ時間帯にいっぱい同じ事務所の配信があると~事務所まるごと好きなリスナーさんはどれを見ればいいか困っちゃうだろうし~」

 

「ああ、確かに」

 

「でも配信業ってもうずっと~編集した動画を好きな時間を投稿するより~、リアルタイムのライブ配信するのが主流なんだよね~。それに皆が見てくれる時間ってなるとやっぱり18時~24時とかになるから~、皆が夜に配信しようとして~、どうしたって配信時間は被っちゃうんだよね~」

 

「……考えてみればそうなるか……」

 

「わたしは結構深夜の配信もしてるよ~まったりゆったり進める配信は深夜のリスナーさんに相性いいみたいで~あと時差のある海外のリスナーさんも見てくれる感じ~ミッドナイト型、ミッドナイノシシじゃ~」

 

 配信のビジネスモデルは、広告表示数ではなく、投げ銭(スパチャ)に依存するものへと移行した。

 これはストレートに推しへ金銭を渡せるため、『推し活』という社会的な流行潮流と完全に合致し、歴史に残る大ヒットアニメを超える金額の経済を常時動かし続けるソーシャル・システムと化した。

 

 だが、投げ銭(スパチャ)はリアルタイムの配信と、リアルタイムの視聴者の間で成立するもの。

 環境の変化は供給の変化に直結し、このビジネスモデルを成立させるライブ配信などを急速に主流へ押し上げる。

 配信業は急速な拡大と共に、リアルタイムのライブ配信主体の配信界隈を形成していった。

 

 結果、数十人・数百人・数千人のVliverが同じ時間帯に配信を行う状況が成立し、そこに何万・何十万・何百万というリスナーが殺到して、話題になった配信に10万人規模の流入が起こる、並大抵のコンテンツでは比肩することもできない超巨大な"塊"ができるようになった。

 

 これこそがVliver修羅界。

 この環境において頭角を現し、リスナー達に選ばれ、年単位の活動を継続し、有名税の誹謗中傷に耐え、常に新しいことに挑戦し、既存リスナーに見放されない『これまで通り』を提供しながら、新規リスナーを招く『これまでと違う』を提供し続けたものだけが、皆に知られるVliverとなる。

 即ち、名の知られたVliverは例外なく非凡である。

 

 YOSHIはこれから、そこに放り込まれるのだ。

 

「しかし、夜は眠くなるからな」

 

「眠くなるよねぇ~」

 

「ライブ配信中のシークバーを動かせるようにして、夜の19時くらいに1時間くらい対戦配信して、以後23時間くらい配信つけっぱなしにして、その23時間の間に後から見に来た人達が投げ銭(スパチャ)してくれることを期待して寝るとかはどうだろう」

 

「……色々とアウトではあるかな~……」

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

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○無法

○最強

○発言が怖い

○負荷でサーバー潰す奴の発想なんよ

○色々悪用できちゃうんだよなぁ

 

 

 YOSHIといのりの2人で1階の天井、2階の床をトントントンとテンポ良く組み上げていく。

 

 

【21.配信の始まりの挨拶は?】

【22.配信の終わりの挨拶は?】

 

「俺はどっちもないぞ」

 

「考えておかないとね~。へっへっへ~、わたし達がチームメイトとして誠心誠意考えてあげるんだぜ~」

 

「い、いらん……」

 

「わたしなら始まりの挨拶はいのの~、終わりの挨拶はおつのし~、なんだよね~。イノシシの『ノシ』が『(^^)ノシ』って感じでね~。でもたまにこんいのとか言ったりもするかな~」

 

「始まりの挨拶で差別化できてるなら、終わりの挨拶なんて『また会いましょう』とかで十分じゃないのか」

 

 いのりの陽気な微笑みが、悪戯っぽい笑みに変わった。

 

「たとえば~、ありえないことだけど~、わたしがせんせ~にPDの試合で勝ったとして~」

 

「別にありえるだろう。PDは一番強けりゃ絶対に負けないゲームってわけでもないし……」

 

「ありえないことだけど~! わたしがせんせ~にPDの試合で勝ったとして~!」

 

「意外に譲らない所では譲らないなこいつ……」

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

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○そうなんです

○そうなんです

○ほんとそうなんですよ

○頑固に気を使うんだよねこの子

 

 

「わたしが得意げに笑って~、膝をついたせんせ~が私を見上げて~、そこでわたしが言うわけだね~、『おつのし~』」

 

「煽んな」

 

「これが終わりの挨拶の応用~」

 

「応用するな」

 

「なんだと~おうこのう生意気言いおって~」

 

「横暴に舵を切るな」

 

「Oh no~……」

 

「欧米で嘆くな」

 

 1階作りより遥かに速いペースで、YOSHIといのりが作る2階の壁が出来上がっていく。

 

 

【23.ファンネームは?】

【24.ファンマークは?】

 

「とうとう来たか、マジで全くピンと来ないやつが……なんだファンネームとファンマークって……」

 

「わたしがリスナーさんをうり坊って呼んでるのがファンネームだよ~。わたしが猪の獣人だから、後ろをとことこついて来るのがうり坊~」

 

「あー、あー、今いくつかの情報が頭の中でかっちり噛み合った。なるほど、ファンをうり坊と呼ぶのがファンネーム……」

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○うり坊です~

○お前もうり坊にならないか?

○うり坊でチーズズでタツノコです

○全体はエヴリスって言うよ~

 

 

「ファンマークは簡略化した表現のため~絵文字1つでファンを表したものだね~わたしのファンなら猪の絵文字~まうちゃんのファンならチーズの絵文字~アチャー君のファンなら狙撃銃の絵文字~。SNSの名前の横に絵文字を付けたり~、絵文字をファンの顔代わりに使ったりするんだ~」

 

「独特の文化だな」

 

「被りを避けるためのバーチャル配信者用ファンマーク検索サイトは2019年くらいからあるらしいよ~」

 

「被り避けとかマジで独特の文化だな……いや待てその時期からもうファンマークのデータベースとか作ってたのかリスナー界隈?」

 

「固有顔文字とかもある人はあるんだよね~」

 

「……やはり、この界隈は異界……」

 

________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○ʅ( ՞ਊ՞)ʃ

○ʅ( ՞ਊ՞)ʃ

○ʅ( ՞ਊ՞)ʃ

○ʅ( ՞ਊ՞)ʃ

○ʅ( ՞ਊ՞)ʃ

 

 

【25.初見さんに一言!】

 

「いのりのリスナーさん初めまして。いのりの邪魔にならないように頑張ります」

「せんせ~のファンの皆さん初めまして~。せんせ~の邪魔にならないよう頑張ります~」

 

 ほぼ同時に、言葉が重なる形で、2人は言った。

 

 声がほとんど重なって、いのりが笑って、YOSHIが気恥ずかしそうな無表情で頭を掻いた。

 

「別に俺は邪魔とか思わないぞ」

 

「わたしだってそうなんですわ~。これがいのリズムです~」

 

「どれ? どれがいのリズム?」

 

「いの一番のいのリズムです~」

 

「だからどれだよ」

 

 黒白青メイド服をゆらゆら揺らして、いのりは笑った。

 

「あのな、いのり……別に俺が居るからって動画見に来たやつは、俺のファンとは限らないんだから、別に丁寧な接し方とかする必要はないんだぞ。どうせゲーマー界隈はVliver界隈より民度が低いから大抵の言動は流されるだろうし……」

 

「え~でも~もしかしたら好きになってもらえるかもしれないし~好きになってもらえたらここに居てくれるかもしれないし~そうしたらここがもっと賑やかで楽しい配信になるかもしれないから~」

 

「……」

 

「いい人か悪い人かは~、その後に時間をかければ分かるから~、何かあったらそれからでいいかなって~。それならほら~、とりあえず誰が相手でも仲良くしてみようかな~別に損はないし~という気持ちなんだよね~」

 

「……そうか」

 

「色んな配信者がいると思うけど~、ここはわたしの配信だから~、みんなにはみんなと仲良くしてほしいし~、みんなにそう求めてるなら~、わたしがまずそうしてないといけないかなって思うな~」

 

「みんなと仲良く、って?」

 

「そうそう~。せんせ~がきっかけで今日初めてわたしの配信に来てくれた人に~、今日を『1回だけ配信を見たことがある』って思い出じゃなくて~、『そう言えばあの時から見始めたんだっけ』っていう思い出として今日が残ったら~、なんだかいいなぁって思うのですな~」

 

「ああ。たぶんきっと、それは良い考え方だ」

 

「楽しい今日も~、楽しい昨日も、楽しい明日も~、1人だとなんだか虚しくて~、でも他の人が居たら楽しいだけじゃなくて嬉しくて~、わたしじゃない誰かがわたしの周りに居てくれるのが嬉しくて~、だからここに来てくれる人が増えるのは~、わたしにとっての幸せなんだ~」

 

 コメントが流れている。

 いのりが発言する度に、YOSHIが発言する度に、それに反応するコメントが流れて、各々の考えや気持ちが混ざって流れてコメントに見える。

 その中に1つ、コメントが流れて。

 

 

○初見ですがなんかここ、好きな空気かもです

 

 

 流れて、数え切れないほど流れ行くコメントの川の中に、飲まれて消えた。

 そのコメントと同じ気持ちのコメントが、いくつも、いくつも、山のように川のように流れて行く。

 

 いい人であるから、いい人であることを期待されるのか。

 いい人であることを期待されていると自覚したから、努めていい人であろうとしているのか。

 おそらく、伊井野いのりに限っては両方で。

 そこに境界線はない。

 

 時には苛立ったり何かを嫌いになったりもするけども、それでもいい人だから、いい人であってくれと無数の人々に願われても、その期待の重みに潰されず、いい人で在り続けることができる。

 

 そして。

 この場所(はいしん)はただただ期待され、願われている。

 

 ずっと楽しい場所であってほしい。

 ずっと繋がる場所であってほしい。

 ずっと優しい場所であってほしい。

 

 叶うなら、ずっと続いていてほしい。

 願わくば、ずっとここに在ってほしい。

 期待する、ずっとその良さだけは変わらないでいてほしいと。

 

 ぴこん、とデバイスの音が通知で鳴って。

 

 伊井野いのりの登録者数が、また少し増えた。

 

「よし、2階も壁は完成か」

 

「いぇ~ハイタッチ~」

 

 ぱぁん、と。小気味のいい音が響いて、リスナーの耳に優しく届いた。

 

 

 

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