Ghoti' 前世で読んでたガチ競技系世界に転生してバーチャル配信者達の師匠になった   作:ルシエド

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▼初集合 鼠、猪、狙撃手、そして転生者
西暦2059年4月13日(日) 10:30


 4月13日(日)、10時30分起床。

 それがこの日のYOSHIの起床となった。

 

 あてがわれたエヴリィカ専用配信者共同宿泊施設、アルタミラの洞穴の一室にて目を覚ます。

 善幸がベッドに入ったのは同日早朝4時半を過ぎた頃。

 しかし、少子化対策センターの予算を抑えたベッドとは違う、人気配信者の心を繋ぎ留めるためのまあまあ高いベッドは、六時間に満たない睡眠時間でも善幸の体力を大幅に回復させてくれていた。

 

 この時間に起きた理由は明白だ。

 11時からコラボメンバーで点呼。

 11時30分から今後一緒にやっていく仲間達との初配信が待っているからである。

 

「……タイムスケジュール、タイムスケジュールを確認……遅刻してねえよな、俺……」

 

 善幸は端末を探す。

 無い。

 枕元を探す。

 無い。

 掛け布団の中を探す。

 無い。

 もう一度枕元を探す。

 無い。

 

「……」

 

 部屋のスリッパの中を探して、ようやくそこに転がり込んでいた端末を発見し、少し焦り始めていた胸を撫で下ろす。

 

「よかった、よかった……ふわ……」

 

 あくびを一つして、端末を起動、閲覧履歴からエヴリィカ公式サイトへ移動。ついでにブックマークに公式サイトのURLを放り込む。

 タイムスケジュールを開き、今日の日付を選択し、Twin Twinkle Twelveを選び、TTT女性部のタイムスケジュールに絞り込む。

 

 昨日少し気になっていた日曜朝ヒーロー番組の実況配信は、もうすっかり終わってしまっていた。

 今は日曜の10時半。

 

 

【【 Everyday's εύρηκα! 】】

 

■■■■■■■■■■■■

■2059年4月13日 (日)■

■■■■■■■■■■■■

 

 

●10:00【同時視聴】ひつじがヒロインの声帯を担当したネトのフリの限定映画を見て公開処刑【しいぷう/エヴリィカ】

 

●11:30【ポシビリティ・デュエル】結成! 新チーム! GOGO合同練習【不寝屋まう/エヴリィカ】

 

●11:30【ポシビリティ・デュエル】コラボと先生が来るんだぜ~【伊井野いのり/エヴリィカ】

 

●12:00【料理】4月を最高に楽しくする500円以内の絶品れしぴー【大河ぱとら/エヴリィカ】

 

●13:00【ポシビリティ・デュエル】1億年前からの親友が一緒に戦ってくれます【うさみのうづき/エヴリィカ】

 

●13:00【PD】一蓮托生【タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤー/エヴリィカ】

 

●13:00【ポシデュエ】へたくそすねーくが上級者2人にキャリーされますぅー【蛇海みみ/エヴリィカ】

 

●15:00【歌枠】夜まで過去50年の春アニメのアニソンメドレー【千和・ズルワーン/エヴリィカ】

 

 

 

「多いな」

 

 善幸は昼周りだけを見たが、それでもハチャメチャに多かった。日曜日。それはVliverにとっての激戦区であるらしい。

 朝・昼・晩全ての時間帯が個別のVliverによって埋め尽くされ、全て追っていたらそれだけで日曜日が消し飛んでしまいそうだ。

 ともかく、善幸にとって重要なのは一箇所。

 

 

●11:30【ポシビリティ・デュエル】結成! 新チーム! GOGO合同練習【不寝屋まう/エヴリィカ】

●11:30【ポシビリティ・デュエル】コラボと先生が来るんだぜ~【伊井野いのり/エヴリィカ】

 

 

 自分が参加するここだけだ。

 

「ん」

 

 善幸は配信までまだ55分あることをちゃんと確認してから着替え、うんと背伸びをする。

 タイムスケジュール確認のついでに途方もなく大量な着信通知とメッセージ通知があることには気付いていたが、無視した。

 センターの『先生』からの通知であったからである。

 

 念のためメッセージアプリの受信メッセージを見て、要件を確認してから返信せず、既読マークがつくが既読無視。

 こういう時は半日ほど放置して「あれ? なんか返信返ってこないな? とうとう愛想つかされたか……?」と不安にさせてから話を始める方が上手くいくのだ。

 でなければ、ネチネチとした嫌味をダラダラと垂れ流され、一時間くらいは余裕で経ってしまう。

 

「飯を食おう」

 

 善幸は部屋を出て、共用ロビーへと向かう。

 並立する塔のようで箱のような3つの居住区画を繋ぐ、木々の合間にかかった蜘蛛の巣のような共用ロビーの区画には、冷凍食品やアイスの自動販売機と共用電子レンジがいくつか置かれている。

 

「ラーメンと……カレーライスと……オムライス……いや唐揚げも……いややっぱオムライスで……あ、フライドポテト……いややっぱオムライス……あんかけチャーハンあるな……ローストビーフも……でもやっぱオムライス……」

 

 善幸は迷い、レンジでチンしてすぐお店の味が出て来るラーメンとカレーとオムライスとフライドポテトを購入した。

 善幸は食費がかかるタイプではないが、一気に大量に食べて長時間活動したり、長時間飲まず食わずで試合をした後に山のように食べたりするタイプの競技者である。

 

 レンジでチンして出来上がった冷凍オムライスを食べ始めると同時に、カレーとフライドポテトをレンジで温め始める。

 オムライスを爆速で食べ終えると同時、すぐレンジから取り出してすぐ食べる連撃の構え。

 風成善幸の雑な私生活を象徴するような食べ方である。

 

「もぐ」

 

 善幸は自分の可能性以外に興味が無い。

 興味がないので、好き嫌いがない。

 基本的に『全部美味いじゃん』で食事を摂る。

 食にこだわりがないがために、全部が好きなのだ。

 そのせいで、好き嫌いが無いくせに食事選びで迷うことがたびたび発生するのである。その時の彼はどこか、ファミリーレストランでメニューからどれを選べば良いのか迷いに迷いながら目をキラキラさせる幼稚園児のそれに似ている。

 

 食事のついでに、善幸は機械端末をささっと操作し、今日一緒に仕事をする相手の公式プロフィールを確認する。

 公式サイトに掲載されているVliverの設定は、そのVliverがずっと使っていく基本の骨子であり、それを徹底して守る人も居れば、初回配信で投げ捨てる人も居て、はたまた初期設定をネタにして笑いを取りまくるVliverも居るという。

 

 

【不寝屋まう】

 異世界で魔王を倒した勇者一行に、一時同行していた旅のお仲間。皆と一緒に日本にやってきた、ネズミの伝令師。異世界では街と街を繋ぐ伝令をしていたが、日本では高校の陸上部に入っている。いつまでだって走っていられる体力が自慢。

 

【伊井野いのり】

 異世界で魔王を倒した勇者一行に、一時同行していた旅のお仲間。皆と一緒に日本にやってきたイノシシのメイドさん。異世界では錬金術師で、日本では小物や化粧品を作る洋品店を開いている。綺麗なものを作ることが得意らしい。

 

【アチャ・東郷】

 異世界で魔王を倒した12人の1人。平和な世界でのんびりするため、11人の仲間と一緒に日本にやってきた。異世界でのジョブは『狙撃兵』。甘い食べ物は大好きだが甘い考えは大嫌い。孤高を好むが、仲間を大切に思う気持ちも持つ。

 

 

 「こいつら同郷の異世界人設定だったのか……」と善幸はちょっとだけ思った。配信中にどのくらいこの設定を守って話せば良いのか、界隈の外の人間である善幸にはいまいちピンとこない。

 配信開始30分前に点呼をするのは、その辺りの話もすり合わせるためなのか。

 今現在10時45分。

 点呼が11時。

 配信開始が11時30分。

 善幸はもうちょい早く起きればよかったなと思い始めていた。

 

 爆速のレンチン、爆速の食事。善幸は10時48分頃にはオムライス・カレー・フライドポテトを完食し、ラーメンに手を付け始める。

 5分あれば部屋まで戻って点呼する現地にログインすることも容易いことだ。

 善幸はもうちょい早く起きればよかったなと本格的に焦り始めた。

 

 完食して部屋に戻ろうとする善幸であったが、その途中で見慣れないものを見かけてしまう。

 

「う~、ぬ~、この~」

 

「ん?」

 

 床の一部が外れていて、そこの隙間に車椅子の片輪が嵌まり込み、車椅子に乗った女性が困り果てている様子であった。

 善幸はその車椅子に見覚えがある。

 近年噂の、第三世代自動運転車椅子だ。

 学習型AIによってどんどん賢くなり、赤外線センサーによって周囲の地形を把握し、乗っている人間が操作しなくとも、押す人間が誰も居なくとも、自動運転で市街地のありとあらゆる場所を踏破する機能を備えた人気車椅子だ。オフロード非対応。

 

 善幸の目は、人並み外れた洞察力を備えている。

 この状況の理由もすぐに理解した。

 床の一部が外れていて、その下の回線が露出している。

 おそらくこの建物は建物中に高速回線が引かれていて、そこに不調があり、業者が修理中だったのだろう。

 

 だが、おそらく業者がここを離れる時にここは修理中だという立て札や人避けを建て忘れた。

 そして、床材と下の回線経路の光反射率の差の関係で車椅子の赤外線センサーが穴を見落とし、そこにタイヤを落としてしまったのだ。

 作業中にマンホールの蓋を外していたのに落下防止処置をしておかなかったせいでマンホールに通りがかった人が落ちる事案、と似たようなものだろうか。

 車椅子の女性は困っているだけでなく、どこか焦っていて、どこか急いでいるようだった。

 

 善幸は仕事に遅れる可能性、及びそれによって今回の仕事相手に軽蔑される可能性を考えるが、それよりも目の前の女性を助けることを選択した。

 人を助けてから急いで自分も仕事に向かう。

 2つを欲張って求めて成功させる。

 その方が、自分を試せると思うからだ。

 

「車椅子を持ち上げる。転がり落ちないように注意してくれ」

 

「へ? ごめんね、ありが……───あ」

 

「3、2、1で行く。ゆっくりな」

 

 息を呑んだような音がしたが、善幸は作業に集中しているので気付かない。

 

 善幸は車椅子のタイヤの形状を確認し、万が一にも手が滑らない安定した位置を掴むべく、配線コードに手を突っ込みつつ車椅子の外側を迷いなく掴んだ。

 車椅子のタイヤの外側は路面や土壌の汚れがべとりと付いていたが、善幸は気にしない。

 回線をかき分けるように差し込んだ手で、ゆっくりと車椅子の片輪を持ち上げ、タイヤに絡まっている回線のコードを外し、そのまま嵌まり込んでいたタイヤを床の上に上げる。

 

 乗っている女性が怖い思いをしないよう、ゆっくりと。

 

「よし」

 

 車椅子の女性を見た時、善幸が最初に気にしたのは、最新型の流行りの自動運転車椅子とは不似合いな型落ちインカム型ハイエンドデバイスだった。

 数年前のハイエンド型。

 今現在10万円くらいのミドルスペックデバイスよりは性能が高いものの、流石に善幸の剣ネックレス型のような現行のハイエンドデバイスと比べれば性能は落ちる。

 

 車椅子では最新型を買っているのに、デバイスの方は更新していない。

 ハイエンドデバイスを買うタイプの人間なのに、ハイエンド環境維持のために必要な買い替えをしていない。

 普通の人が一見しただけでは気付けない不自然なズレを、彼は敏感に嗅ぎつける。

 

 善幸はそのついでに、その女性が絶世の美女であるということに気がついた。

 

 まるで、黄金の麦畑のような自然で優しく柔らかな金の髪が流れている。

 その髪よりも女性が纏う雰囲気の方がなお柔らかい。

 柔らかな金の髪は視覚的な印象を、柔らかい雰囲気は体感的な印象を引っ張り、『キツい美人』とは対照的な『愛される美人』の見た目を形成している。

 

 絶対に『美少女』とは言われない、絶対に『美女』としか言われない顔つきが、その女性の顔貌のレベルの高さを証明している。

 不寝屋まうの素の顔が『標準的な嗜好を持つ男子なら大体が"普通に可愛い"と評価する顔』のレベルならば、彼女は『2060年のAIが美人扱いされる女性の統計データから生成した理想値の美人』といった風貌だ。

 この特徴があるから美人、ではなく。

 全ての調律によって美人が成り立っている。

 

 善幸は興味も持たないが、細身な割に胸も大きく、ある意味『男の夢』のような容姿であった。

 他人を威嚇せず、自然に愛される柔らかさがあり、誰が見ても美しいと思う、美麗と色気と魅力のオンパレードのような美人。

 

 この場所に居て、そういうデバイスを身に着けているということは、高い確率でエヴリィカのVliverであるはず、なのだが。

 容姿だけ見るのであれば、『配信者にならなくても容姿を売り物にしていけば食っていける人種』のようにも見えて、そこに不思議な印象があった。

 

「君もここに所属している配信者か」

 

「……だね~。今日もこれから配信で~、急いでたから本当に助かって、ありがとうという気持ちを述べる所存~」

 

 女性はとてものんびりとした、癒やされる声と話し方をしていた。

 声を聞いているだけでHPが回復するタイプ。

 

「多くないとは言わないが、珍しいな。明確に他人の目を引くレベルの美人が、バーチャルの世界の配信者をやっているっていうのは……」

 

「あんね~、顔しか見ない人とかおっぱいしか見ない人とかすっごく多くてね~、じゃあありのままのわたし自身を見てもらうには現実の外見が一切関係の無い世界に行くのが一番かな~ってなったので、それでVliverになりましたぁ」

 

「……そうか」

 

 贅沢な悩みで、切実な悩みであった。

 かつ、本気の悩みであった。

 それが嘘ではないことを、善幸の洞察力と、彼女の本音の言葉に伴う声色が証明している。

 

 自分が美人であることを()()()()()()()()()()()()()()()、そんなVliverの中の人に、善幸は時間が無い中で最低限の礼を尽くした。

 

「今日から正式にエヴリィカに世話になる、YOSHIだ。得意なことはポシビリティ・デュエルの対戦全般。俺の力が必要だと思った時は呼べ。エヴリィカのVliverのためにありとあらゆることを教え、ありとあらゆる敵を粉砕するのが、俺が今回与えられた仕事だ」

 

「おっ、頼れるぅ~」

 

 女性は陽気に、悪戯っぽく笑った。

 笑顔になると、魅力が倍増する女性だった。

 おそらくはその魅力を封じ込め、自分の信念や人格に正しい評価を下してもらうために、彼女がVliverというものをやっているのだろう。

 

「でも、困るまでは自分の力で頑張るんだぜ~」

 

「そうか」

 

「ネットワークの上でなら、足が動かなくてもみんなに迷惑は全然掛けなくて済むからね~。いっしょけんめ頑張るよ~!」

 

「ああ。頑張れ。俺も今日からお前の仲間だ」

 

 彼女もまた、自分の可能性を試す者。

 

 善幸は彼女に対する敬意の萌芽を感じながら、かなりギリギリな残り時間に少し焦った。

 

「すまない。俺は急ぐ。またいつか会えたらな」

 

「じゃね~」

 

 善幸は笑顔の女性に背を向け、急いで部屋へ。

 

 団体戦で世界大会に挑戦していた頃、チームメンバーに遅刻を叱られて最終的に逆さ吊りにされてハワイの海に落とされそうになっていた時のことを思い出し、善幸は全力で走り出した。

 

 

 

 

 

 結論から言えば、善幸は間に合った。

 

 善幸は。

 

 点呼に参加すべく善幸が移動した先は、エヴリィカの配信用サーバーの1つ。雑談もでき、模擬戦もでき、修行もでき、遊べもする仮想空間だ。その気になれば、1つのフィールドで1つの都市すら再現できる。

 が。

 YOSHIがフィールドに入ったその瞬間、空間投影ディスプレイを開いたまま、猛烈な勢いで画面を叩きまくっている不寝屋まうが、YOSHIの目の前を必死の形相で通り過ぎて行った。

 

「……?」

 

「すまーん! 待っとってー!」

 

 YOSHIは周りを見渡す。

 フィールドタイプ『恐竜島』。

 無数の実在した恐竜、あるいは誰かが創作した恐竜が闊歩する、広い広い無人島。

 そこの中央にあたる研究所区画にて、不寝屋まうと、YOSHIがチームを組む予定の男と、ここに居るはずのないTwin Twinkle Twelve女性部のVliverが三人ほど駆け回っていた。

 

 まうと、男。そして兎と、辰と、巳の女性だ。

 

 YOSHIは全員の手元の操作内容を素早く遠目に確認し、状況を理解する。

 全員がフィールドの基礎設定を行っていた。

 つまり、おそらくはこうだろう。

 今日、このフィールドを何らかの形で使おうとしていたエヴリィカの集団は2つあった。

 その集団が配信前に、同時刻にこのフィールドにログインしていた。

 

 

●11:30【ポシビリティ・デュエル】結成! 新チーム! GOGO合同練習【不寝屋まう/エヴリィカ】

●11:30【ポシビリティ・デュエル】コラボと先生が来るんだぜ~【伊井野いのり/エヴリィカ】

 

●13:00【ポシビリティ・デュエル】1億年前からの親友が一緒に戦ってくれます【うさみのうづき/エヴリィカ】

●13:00【PD】一蓮托生【タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤー/エヴリィカ】

●13:00【ポシデュエ】へたくそすねーくが上級者2人にキャリーされますぅー【蛇海みみ/エヴリィカ】

 

 

 そして操作の競合や設定の同時操作やなんやかんやあって、配信に使うためのフィールドの設定を操作ミスでうっかり初期化してしまったのだろうと、YOSHIは予測のあたりをつける。

 その推測は、実際に的中していた。

 

「『配信トラブル』ってやつか。こういうのに手際よく対応できるかどうかも、Vliverとしての才能の1つに数えられる……」

 

 11:00からの点呼はまだしも、11:30の配信開始までに間に合わなければリスナーにバレる。

 なので全員で元に戻そうとしている。

 しかし膨大な設定項目をすぐには元に戻せない上に、そもそも元の数値の全てを覚えているわけではない。

 だから苦戦している。

 そんなところか。

 

「ごめんなさい! そこに座っててください! 今! 今すぐに準備終わらせますので!」

 

 丁寧語の女性は、YOSHIに椅子を勧めて駆け出していった。

 頭に兎の耳、白い髪に黄色い花の髪飾り、バニーガールの服の上に漫画の女医のようなミニスカートと白衣を着せたようなデザイン。背は高くないものの女性らしさに溢れたスタイルの良さを持ち、普通の男であれば目のやりどころに困るだろう。

 

 十二支の兎、『うさみのうづき』。

 リスナーから親しみを込めてうさみん、うづきんと呼ばれる兎の女医。

 

 なんか原作以外でもどっかで見たことあるな、と善幸は思った。

 それは前世のSNSで何度かチラッとだけ見た、彼女のファンアートエロ画像の記憶だった。

 いいね9.8万のエロ画像。

 善幸は思い出せなかった。

 

「疾風迅雷。待たせることはしない」

 

 淡々と四字熟語を述べる女性は、今日が実質的な初日のYOSHIに事務所の醜態を見せていることを恥じている様子だった。

 

 竜の角、竜の翼、竜の尾。焼けた鉄の如く赤黒い髪。スレンダーですらっと高い背が目につくモデル体型に、婦警の服装、腰には目立つ大剣、そして背負われた陣羽織。デザインの元ネタは日本橋葭町の人気芸者・菊弥が始祖と言われる、男の羽織を身に着けて闊歩したという深川仲町の女性たち、『辰巳芸者』か。

 

 十二支の辰、『タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤー』。

 自分で自分に付けた名前が絶妙にダサい、という部分を含めて個性を成り立たせている女性。

 

 なんか原作以外でもどっかで見たことあるな、と善幸は思った。

 それは前世のSNSで何度かチラッとだけ見た、彼女のファンアートエロ画像の記憶だった。

 いいね1.2万くらいのエロ画像。

 善幸は思い出せなかった。

 

「アッハハハー、うけるぅー」

 

 YOSHIに一切目もくれず、目の前の作業に集中している少女もいた。

 

 白いドレスに、薄青の髪。眠そうな目に小柄な体格。白いドレスから垂れ下がる無数のリボンが、身動きする度にひらひらと揺れる。揺れるリボンの先には赤い点の模様があって、リボンが揺れるとまるで白い蛇のように見えた。目の錯覚により、全身が蛇の群れのように見えるデザインの少女。

 

 十二支の蛇、『蛇海みみ』。

 抜け殻になったイラストレーター。

 

 なんか原作以外でもどっかで見たことあるな、と善幸は思った。

 それは前世のSNSで何度かチラッとだけ見た、彼女のファンアートエロ画像の記憶だった。

 いいね2.4万くらいのエロ画像。

 善幸は思い出せなかった。

 

「……ふむ」

 

 俺も手伝うか、とYOSHIは立ち上がる。

 気遣いは嬉しいと思うものの、今の彼は『お客様』ではない。彼女らと共に闘って行く『仲間』にならなければならないからだ。

 ポシビリティ・デュエルに関する知識であれば、Vliverが本職である彼女らより詳しいという自信もある様子。

 

 立ち上がったYOSHIがフィールドの設定メニューを開き、使用言語を日本語からドイツ語に変える。ポシビリティ・デュエルのこのフォーマットのこのバージョンだと、ドイツ語のインターフェースでしか開かないメニューがあるからだ。

 日本語UIでは右上にあるメニューボタンが、ドイツ語UIで左上に移動したのを確認し、開いたメニューの23項目目を開いて、その中の17項目目を開いて『はい』にあたる選択肢を選び使用設定の許可を出し、一度メニューの最初まで戻って使えるようになった32項目目を選択する。

 

 周りの誰もが知らない裏技でフィールド編集履歴を開き、そこの設定数値をパッパッパッと反映する。

 ついでにまう達が入力した中の間違った設定数値を修正する。

 このフィールドに来たことがなく、このフィールドの元の設定数値など知るはずもないYOSHIが、まるで魔法のように失われたものを元の形に戻していく。

 

「おお……」

 

 誰かがそっと、感嘆の声を漏らした。

 

 シュン、と、ログイン特有の音がする。

 

 全て戻し終わって日本語設定に戻したYOSHIの隣に、今来たばかりの女性がやって来る。

 

「今日から仲間だね~、よろしく~!」

 

 猪の耳に、セミロングの髪、表が明るい茶で裏が明るい紫の色のインナーカラーヘア。やや小柄な体格に、ミニスカートとスリットを多用した露出多めの黒白青のメイド服。裾や袖、服の各所に吊り下がっている無数の石は設定に準じた賢者の石か。丸っこい顔、丸っこい目が小動物的で愛らしい。

 

 『美女』と呼ばれたことはあっても、『美少女』と呼ばれたことのない女性がデザイナーに求めた、ともすれば子供っぽく見えすぎてしまうくらいに、『可愛らしい』『美少女な』姿。

 

 十二支の亥、『伊井野いのり』。

 のんびり癒やしのハイパーメイド。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 なんか原作以外でもどっかで見たことあるな、と善幸は思った。

 それは前世のSNSで何度かチラッとだけ見た、彼女のクソコラグランプリの記憶だった。

 いいね4.8万くらいのクソコラ画像。

 善幸は思い出せなかった。

 

 

 

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