11話
最近アイがルルーシュていう事務員兼プロデューサーとやたら関わろうとする機会が増えた気がする。アイは彼の事が好きなのだろうか、それとも彼の反応を面白がって揶揄ってるのか。当の本人は嫌がってるように見えるが。
今日もそんな何でもない1日だった。
「何?アクアが出る映画について来いだと…?」
「うん、いいでしょ?因みに私も出演するよー?」
「断る。大体なんで俺なんだ?マネージャーのミヤコさんがいるだろ?」
「だってミヤコさん忙しそうだもん。」
「なら俺の今の現状もよく見てみろ。」
そうアイに作業をしながらルルーシュは言う。彼は今俺たちの家に料理と芸能関係者の連絡を同時にこなしながらしてる。それだけではない。ここ最近アイの活躍に比例して事務所も忙しくなり書類関係も増えてきた。彼は何でもないかのように数時間でこなしてるが、あの量や書類内容では普通なら丸一日掛かるものだった。
それに、今後の為にルルーシュが色々な芸能関係者とパイプを築く為に会いに行ったりしてる。
この幼児体型になってしまったせいで遅くまで起きてるのが難しくなったが、彼が寝てる姿を見た事がない。たまにトイレで深夜目が覚める時があるが、それでも彼は起きてパソコンやアイのスマホで色々調べてるようだった。アイや俺たちを気遣って照明を消して作業してる姿はある種のブラック企業社員のようだと思ってしまった。
「え〜!お願いー!私とアクアの頑張ってる姿見てほしいのー!!」
「……はぁ。その映画の詳細教えてくれ。」
「あはっ!はいこれ!」
────────
子どものように一喜一憂してるアイが俺に見せてきた映画に関する情報を確認する。
確認すると5割は一度会ったことのある人たちでその内3割はある程度親交のある人物たちだった。
そういえばこの映画の監督は五反田だったな。アイの人気が出始めたきっかけをくれたドラマが五反田が監督していた。
なら礼ついでに行くとするか。他は誰かいる…?
そう思いページをめくると気になる人物がいた。
『有馬かな』
10秒で泣ける天才子役として今話題の子役だが、それだけではない。周りに合わせるとか関係なく私を見て、と言わんばかりの演技力。それ故に注目してしまう。演技力や自信を持ってる。
(これは使えそうだ。)
彼女は今芸能界で引っ張りだこの存在。テレビで見ない日はないくらい今勢いのある彼女。この子とこの子が所属してる事務所や関係者と良い繋がりをもっておけば…!
「週末はちょっとしたハイキングだな。」
「ハイキング…?ってことは!?────────あはっ!アクアとルビーに行くって伝えておくね!」
────────
俺たち御一行はとある田舎の撮影現場に来ていた。今回は、アイとアクアが出演する映画は『それが始まり』という作品名。
内容は、自分の容姿にとことん自信のない女がなぜか山奥にある怪しい病院に行って整形を受けるという話。
今回の撮影に関してアイに特別な事をするつもりはない。マーケティングに関してもだ。理由はシンプル。今回のアイの演技力や人気が出始めた知名度、そして作品の内容とそれを形として表現する五反田の力さえあれば人気は出ると思ったからだ。
なら俺の今回の目的はなにか?それは先程もいったが有馬かなとの繋がりを作ること。それをする上で1番重要な役割はルビーとアクアだ。
同年代だと言うこともある為比較的友達といった友好関係になりやすい。それを利用し彼女の事務所のスタッフと上手く関係を結ぶ方針だ。
「お久しぶりです五反田監督。本日はよろしくお願いします。」
「お、久しぶりだなルルーシュ。例の件の話はちゃんと通ってるんだよな?」
例の件とはアクアを事務所に入れ登録すること。なんでも事前に入れておかないと何か問題があった時に身元が分からない為困るとのこと。
だがそもそも、今後の苺プロの成長のためにもアクアやルビーと有馬かなの繋がりは必要だからそういう問題があったにせよ俺は関係なくアクアを事務所に登録していた。
「問題ない、それとバーターの件ありがとう。」
「バーター?あの、ルルーシュさんバーターって何ですか?」
「物々交換、交換条件という意味もあるがビジネス、特にこの芸能界での意味では、プロダクションが人気の芸能人と抱き合わせで、これから売り出したい芸能人を出演させるという手法の事だ。」
「まぁあれだ早熟、お前の出演を引き替えにアイも出演させるって事だ。よくあることだから覚えとけ。」
「なるほど…!」
「それよりこのあとはアクアの撮影時間だ。準備してこい、それと共演者の有馬かなにあったらしっかりと挨拶をしておくように。いいな?」
「え?あ、はい。」
そういってアクアは撮影の準備するためにスタッフとミヤコさんと一緒に別室に移動する。五反田に確認したら今日はアクアの撮影日でアイは別日の予定のようだ。
アイは俺と一緒に撮影を待ってる。今のうちに有馬かなの事務所の人に挨拶をしておいた方が良いか。
「五反田監督、忙しいところ申し訳ないが今のうちに有馬かなの事務所の人と挨拶をしておきたい。案内できるか?」
「おー、そっか分かった。少し待ってろ。」
「あ、私も行きたい!私もかなちゃんと一緒に共演するんだし挨拶しておかないと。」
それもそうだな。変なことを言いそうだが、空気は読めるやつだから問題ないだろう。
────────
有馬の事務所との挨拶は無事終わった。俺たち側からしたら有馬は今人気の子役女優。相手側からしたらこれから更に人気になる女優と鳴物入りで入った謎の子役俳優。お互い利用し合えれば良い関係だと相手も思ったのだろう。比較的良好な感じで挨拶を終えれたが…あとはそれを更に活かすかはアクアたち次第だが…
「何がどうしてああなった?」
「だって、マ…アイドルのアイをバカにしてきたんだよ!?」
「アイの演技がヘッタクソとかふざけたこと言われたから。」
まずい、どうやら話を聞くとルビーも一緒に控え室にいたらしいが、そこで駄々を捏ねてたところ有馬からうるさいと怒られた。
そこで終わったら良かったが、有馬が台本になかった役とセリフが急遽入ったからコネで入ったんだろ?とかアイの演技は下手なのにこの前のドラマの時は編集とかカメラのアングルで上手く誤魔化したんだろ?とか言われたんだとか。
人間、自分の悪口より自分が崇拝するものを悪く言われるとムキになるものだ。
喧嘩にはならずに済んだが、両者の関係はかなり悪い。
今回の問題の争点となってるのはアイの起用は演技が下手なのにコネで採用されたと思ってるところだ。
実際今回はバーターで起用されたところがあるから有馬の主張を完全に否定は出来ない。がせめて認識を改めるくらいにはしとかないとな…。
が、まずはアクアのところに行くか。
「アクア、セリフは覚えたか?」
「えぇ、まぁ。」
「いけそうか?」
「さぁどうですかね…演技の才能なら俺よりルビーの方が上手いですし。」
「ふっ、そうか───。有馬に言われた事についてどう思う?」
「アイツは、アイをバカにした───。だからその考えを改めさせる。」
やる気は十分だ。俺はこの作品の監督ではない。五反田がどういう意図でアクアを起用したがってるのかは分からない。
だがある程度予測する事は出来る。それはおそらく俺と同じ。コイツは、アクアは他の子どもと比べ考え方や行動が大人びている。いや大人そのもの。どこでそういう考え方を覚え身につけたのか気になるところだが…。
まぁそれは後でで良い。今はアクアに監督の意図を理解してるのかを確認するとしよう。
「監督は何故ルビーや他の子役ではなくお前の起用を望んでたのかわかるか?」
「それはさっき言ってたバーターとか監督に砕けた態度をとってたから気に入られたとしか…。」
「違うな、間違ってるぞアクア。突き詰めるところ、コミュニケーション能力だ。」
後は自分で考えてみるんだ。俺はそう言って後にする。
『コミュニケーション』一般的に意思疎通などの表現を指す言葉。日本では対人での関わり合う能力をイメージされてるが、場に溶け込むことや空気を読む。相手との話を合わせることも立派なコミュニケーションだ。
俺が以前の撮影現場で芸能関係者らと交渉してる間にアクアと監督の間で何があったのか分からんが、アクアのそういうコミュニケーション能力を買ったのだろう。
監督が求めてるものをアクアが理解しそれを演じることが出来れば有馬のアイたちへの評価や認識が変わるだろう。
まぁ最悪撮影前に有馬が近くでいる前でアイと台本の読み合わせでもして今後の撮影を円満に進めていきたいものだ。
────────
「ご苦労アクア、監督の意図を良く理解した。」
撮影が一通り終わりアクアに
「いや、俺はただいつも通りの自分をやっただけだし…演技なら彼女の方が凄かったよ。」
「だが五反田監督がさっき言っていただろう?コミュ力が大事なのだと。それにお前も昔聞いていただろ?俺がアイに言ってた話。」
それは前回のドラマ撮影後の帰りの車内での会話。勉学の重要性、その意味を。
「俺は少し有馬のところに行ってくる。」
先程の撮影でアクアの監督の意図を読んだ完璧な演技を見て初めて有馬は気付いた事があるだろう。今まで自分が1番だと思っていたが自分と同等の、いやそれ以上の者だっていること。他の人に横暴な態度をとっていること。これに関しては俺も他人事ではないな。
監督は有馬の問題をこの撮影でお灸を据えたかったのだろう。だがこれで終えてしまうと彼女の良さが引き出せなくなるかもしれない。それは良くない。
「初めまして有馬かな。私はアイと先程共演したアクアのプロデューサーのルルーシュだ。先程の演技素晴らしかった。」
「…グスン…それ何の嫌味よ。あなたのアクアの方がよかったじゃない!」
馬鹿にしてるの!?そういって感情をあらわにする。
「いいや違うな、純粋な演技力なら有馬、君の方が上だ。では何故アクアの方が演技が上手だと感じた?」
その後俺はアクアやアイに伝えたことを伝えた。何も言わず己で自己分析しても構わないが、有馬の性格やこれまでの経験だとそのままにしておくと彼女の大事な強みを今後活かせなくなる可能性がある。それだとお互いの事務所が発展しない。
彼女は立派な子役女優だがそれでもまだ子ども。何が良く何が良くなかったのか、どうすれば良いのかその指標を伝えておくことも大事だ。加えて他の事務所、しかも自分より良かった演技をした者の事務所のやつに言われたらきっと今後も彼女の心に記憶されるはずだ。
「それをアクアに伝えていたからあんなに上手かったの?」
「俺は全部を伝えてない。最終的にアクアが考え行動しただけだ。」
「ねぇ…アイが今人気上昇中なのは貴方のおかげ?」
「違うな間違ってるぞ。幾多の芸能関係者がアイの可能性を感じアイがそれに応えただけだ。」
「なるほどね…、ねぇ、アクアやアイだけじゃなく私の撮影の時も一緒に来てくれない?」
「は?」
こいつ俺の話を聞いてなかったのか?それに違う事務所の奴が来るのはどう考えても問題になるだろ。
いやそういうことか。
「なるほど、お前がブリッジ役、つまり俺と芸能関係者の仲介役をしてくれる訳か。」
有馬の事務所のスタッフだけでなく有馬自身も行動してくれるのはありがたい。それに少なからず今後の撮影などで有馬の行動や態度は改善されるはず。その改まったきっかけをくれた要因の1人が彼なんです、と俺を紹介してくれることでよりアイも事務所も強くなっていく。
「そういうこと、ただし条件がある。」
「何だ?」
「今は子役として売れてるけど成長していったら子役の事務所は追い出されるの。だからその時はあなたの事務所に入れさせて。いえ、入らせて下さい。」
「…いいのか?お前ほどの実力なら他の有力な事務所からスカウトが来ると思うが?」
「その時はその時で考えるわ。でも今は貴方の事務所が良い。あなたの元へ入りたい。」
「フッ…良いだろう。その契約結ぶぞ。」
彼女は変わった。それは1人の少年と共演したのがきっかけか、それとも1人の魔王と出逢ったのがきっかけか。
そして彼女も変わっていった。歌い踊り舞う2人の子どもを隠し持つ聖母も魔王に出会い彼の持つ分かりにくい優しさに惹かれていく。
かつて世界の憎しみやこの世全ての悪を担った魔王は新たな地で彼女たちと共に暮らしていく。
『ギアス』それはかつて言われた王の力は人を孤独にするとは程遠い世界だった。
だがそれでも時の歯車は動き出す。