有馬から今度出演するドラマの作品名を確認したら『今日は甘口で』という作品、通称”今日あま“と呼ばれる大人気恋愛漫画だった。
だが色々と訳あり問題ありの制作事情のようで、全14巻分をたったの半クールの6話で構成するらしく当然話をばんばんカットしたり、できるだけ多くの役者を使いたいらしい製作陣の意向でオリキャラが出て活躍する始末。役者も演技未経験の若手モデルが多いらしく作品の質は酷いもの。ルビーも有馬の演技力の悪さを疑問視してたり全体の作品の質の援護の仕様がなくハッキリと酷いと言ったくらいだ。
その事を有馬に伝えると勢いよく机を叩きあげ
「うっるさいわねー!!アンタの妹そんな事言ってたの!?死ねよ!あいつ!」
「相変わらず口悪いな。」
と感情が爆発して全力で演技をしてない理由や作品をはじめ、芸能界での政治的な目的を伝えた。曰く、これから売りたいモデルを沢山起用しいっぱい出させイケメン好きな女性層にリーチ、つまりweb広告を見てもらうことが目的。演技力は2の次だそうだ。
故に演技力の無い役者の中で有馬が全力で演技をすると実力の差が目立ちすぎて今以上に作品が悪くなる。良い演技が必ずしも良い作品に繋がる訳ではない。
「確かにこの作品は企画からして売り手の都合が前に出過ぎてる。作品として面白くなりようがないわ。────アイツなら上手く出来たんだろうけど。」
「それってルルーシュのこと…?ねぇ、あの人がいなくなったことの話もう少し詳しく教えてよ。」
いや話すと言ってもな、朝起きたら普通にいなかったんだよな。最初は仕事かと思ったけど、何日経っても結局家に帰って来なかった。
でもそういえば…
「深夜頃にミヤコさんと何か話してたな…。」
深夜頃ベランダ越しで2人が話していた。だから話してる内容は聞き取れ無かったけど、ルルーシュの力強い瞳、ミヤコさんの寂しく不安そうな表情を浮かべていたのが印象に残ってる。
その出来事を有馬に伝えた。
「…あの人ね、あなたも知ってると思うけど、私のワガママで私の撮影の現場にも一緒に来てくれたの。関係者と挨拶して上手く関係を築くって言ってたけど私のワガママにも付き合ってくれてね。────彼は、彼自身の目的とか色々あったんだろうけど、誰かの為にずっと頑張ってくれてた。」
だからきっと今回も誰かの為に行ってるはずよ。有馬はそう言ってアイツのことを信じているようだった。
「…役者にとって大事なのは“コミュ力”、それはアンタや彼が教えてくれた。今まで自分の演技をひけらかしてた。それはあの撮影の後も少し続いてたの。”コミュ力“知ってるようで知らなかった言葉の意味。だから旬が過ぎればあっという間に仕事がなくなった。────私より演技が上手い子は幾らでもいて、でもそれでも私を使う意味。それが大事なんだって気付いた。」
有馬は変わった。以前と比べ製作陣の意向や意図を読めるようになった。成長したといえば成長した。でもそれが良い方向の成長しているのだろうか?有馬の良さはそういうところじゃない。
「ねぇ、アクアを誘った理由もう分かってくれたよね…?誰にボロクソ言われてもいい。お願い、私と一緒に良い作品をつくって。」
有馬のその言葉は正しく祈りのようなもので俺の手を包み込むように握る。俺は有馬の願いを引き受けることにした。
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見つけた。パキスタンにあるとある水脈の中にある神殿。俺はそれを色々ハッキングし水脈の門を開き神殿とコードを同調した。
結果は上手く行った。後はアイと直接ここにきてCの世界に行けば…。そこにあるアイの意識を見つければ…!
連絡を取ろうとした時、タイミングよく電話がなる。ミヤコさんからだった。そこで俺たちは互いの近況を報告した。
そこでアクアとあの有馬がとあるネットドラマの作品に出演するらしくアクアが台本を持って役作りをしてるという。
俺はミヤコさんに撮影日と現場を尋ねると、丁度日本に帰り着く時で都合が良かった。なら家に一度戻る前に直接現場に行こう。きっとアクアも有馬も怒ってるだろうし。それに、鏑木。お前には一つ聞きたい事があるしな。
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予算も時間も丁寧さもない雑な現場に来た。俺の役はヒロインに付き纏うストーカー役。何の因果かアイを殺したストーカー役を演じる事になるとは…。
鏑木勝也…星野アイと何らかの関係があった男…。俺とルビーの血縁上の父親でアイの死に関わったかもしれない男…。隙を見てあの男の毛髪でも使ったコップでも何でもいい。DNA鑑定に回せそうなものを見つけて回収しなければ…。
俺は頭の片隅にその事を考えつつ、撮影に集中する。だが、元々の演技力の無さと久々にするのもあってか個人的にも上手く行かなかった。
内心、予算や時間の無さと言った製作陣の問題もある為、このシーンを使われても仕方ないか、なんて思ってたら主演の顔に雨漏りした水滴が顔に着くトラブルが発生した為一度撮影を止める。
一度頭の中で演技を整理してるところ有馬がやってきた。
「普通に出来るじゃん。何が裏方志望よ。」
「こんなの練習すれば誰にでも出来る。他の人の邪魔をしない程度に下手じゃ無いだけで、俺自身何の魅力もない。」
あの時、有馬が俺に感じたのは俺の精神と肉体の年齢差が生んだギャップによる異質感や監督やルルーシュの助言もあってこそ。
肉体が精神年齢に追いついてきた今、俺はただの役者になり損ねた存在。期待していたのなら悪いな。
そう有馬に一言伝えると有馬は俺の演技の上手さというよりちょっとしたテクニックや作品に寄り添う親切さを感じてそれが役者にとってはとても良いらしい。
有馬も主演級の仕事を貰えるのは10数年ぶりらしく気合いが入ってる有馬に、俺も久々にお前を見るなって伝えると傷付いていた。
「確かに、私にとっての闇の時代は大分長かったわ。───中々仕事が貰えなかった。何の為に努力してるのか分からなくなって、でも稽古だけは続けた。きっと
本当に今まで辛かったけど続けてきて良かったって思った。彼女はそう言って本当に嬉しそうだった。前も後ろも真っ暗な世界で一緒にもがいてた奴がいたと。それは俺のちょっとした役者人生としての事なのだろうか。
だが俺も知った。有馬も俺と同じく、役者人生で抗いていた。だが有馬は俺と違い役者を諦めず何かに期待し信じてずっと進んできてたんだって。
俺はセットの準備が終わり撮影の再開までの間、鏑木がいる所を探していたら喫煙所に鏑木の声が聞こえた。誰かと話してるようだった。
鏑木と後声が聞こえるのは2人…?1人は監督か?もう1人は…?そうやって自然な形で耳を澄ませてると
っ!?何でアイツがここにいる!?
ルルーシュ。
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「相変わらず顔面至上主義なキャストばっかですね。鏑木プロデューサー。」
「おぉ、芸能界の仕事から逃げ出したと思ってたけど?ルルーシュプロデューサー。」
お互い挨拶代わりにちょっとした揶揄いの言葉を言い合う。
「───にしてもルルーシュ君は不思議と何年経っても容姿が全然老けないねぇ。一体どんな美容ケアをしてるのかな?」
「さぁ?親からの遺伝を
「内容次第では応えるけど、俺のやり方は知ってるだろ?」
「取引だろ?いいだろう。で、何を求める?リーチ数を増やしたいか?それとも作品の評価及び話題性か?と言ってもどう考えても、この最終話しか無理だが?」
俺が聞きたい事、それはアイの相手、アクアやルビーの父親に関すること。アイの持ってたスマホの情報や、芸能界での関わってきたスタッフ。そしてアイの家庭環境で求める異性の像…それらを予測すると候補者は5人にまで絞り込んだ。4人はこれまで得た芸能界の人脈等活かし情報を得たが1人だけ人脈を活かしても深い情報を得ることが出来なかった。
それは“カミキヒカル”インターネットで誰でも知ってる情報は得た。劇団ララライのOBで10歳から16歳までの6年間在籍しその後は不明。
が今は神木プロダクションの代表。俺が知りたいのはコイツが劇団ララライにいた時の情報。
コイツの素性も含め細かな情報が一切掴めてない。まるで自分を相手にしてる感じで素顔を見せない。
色々調べていると鏑木が以前アイと仕事上で関わってた時、ワークショップ…つまり体験型の講座で劇団ララライを紹介したのを知った。
もしかしたらそこで何かあったのでは?と。そういう詳細の会話だったりはその現場にいた人に聞かないと分からない。そう、お前だ。鏑木。
「ん〜そうだねぇ、このドラマは役者の宣材が目的。それを大きく活かしてくれるなら…。」
宣材…。宣伝材料用、サンプルやモデルの紹介。それを活かすことか。鏑木のことだ。演技力はそこまで求めてないし、考えてもない。だが宣材を大きく活かすならこのドラマの場合、多少の演技力は必須。ならどうするか。時間も予算も経験もない。今更経験のある有馬やアクアに演技指導をしたところであまり意味はない。貴重な時間を無駄にするだけ。
これまでの話数を確認したが、目に余るものだった。
逆にいうと、これ以上下に下がりようのないクオリティーなら、何かきっかけがあればもの凄く跳ねる可能性もある。ギャップ差で話題も出る可能性もある。
“鳴嶋メルト”コイツは顔の良さやノリでここまで芸能界を渡り歩いてきたタイプ。そして演技力の無いなかでの主演ドラマ。つまり天狗になって、自分自身に今酔ってるわけだ。
そこをまずは突く。でなければ作戦の第一歩がクリア出来ない。この作戦まずはアクアと有馬の力が必須。撮影時間まであと僅か。急がねば。
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「お前…一体どのツラ下げてここに来た?」
「え…嘘……?何でここに……?」
もう時期撮影が再開される中現場は異様な雰囲気に包まれた。それは知る人ぞ知る敏腕プロデューサーであり芸能界を去ったとされるルルーシュ、そしてその彼と向かい合ってる彼らの態度。
アクアは自分を律しながらも言葉の節々に怒りを感じる。有馬はもう会えないかもしれないと思ってた相手が突然目の前に現れ、驚きと戸惑いを感じる。
「フッ…そうだよな。撮影で影響が出る訳にはいかないから、お前らが知りたいこと、“何故突然失踪したのか”を答えてやる。────それは、
「…んだそれ?そんなふざけたような言い訳は?お前の身勝手な行動で…ルビーがどんな思いをしてたか分かってんのか!!?」
「ちょ…アクア落ち着いて…。」
「…後で話は幾らでも聞いてやる。が、俺も暇ではないんでね。交換条件でもしようか。俺の作戦に協力してくれたら先程言ったように、話は幾らでも
「…ッチ分かった。覚えとけよ。」
俺がこの2人に会うとなると、どちらかが感情的になると予想していた。態度や性格がやや悪い有馬か、ルビーやミヤコさんを含めた家庭を大切にしてたアクアか。どちらでも良かったがアクアが感情的になってくれたのは助かった。
アクアの役はヒロインを付け狙うストーカー役。セリフを見るに感情的になる必要がある。アクアは感情が表に出にくい為敢えて挑発行為をすれば感情が乗っかる。役に味が出る。才能のある役者ならこういうのは意味ない策だが、普通の役者なら使える。
それに頭に血が昇って思考力を鈍らせれば俺たちの交換条件の詳細に気付きもしない。
さぁ、場の雰囲気は少し作ったぞ、鳴嶋メルト。あとはお前がその雰囲気に乗るだけだ。
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俺はあの喫煙所で3人の会話をある程度は聞いていた。その中で鏑木の目的は役者の宣材が目的で演技力は求めてないと言っていた。つまり有馬の起用目的は安い料金で有馬のネームバリューを使えることと、作品の認知度を高めるだけ。
つまり有馬の今の実力を評価してる訳じゃないということ。
有馬のあの時言ってた何とも言えない嬉しそうな表情がちらつく。
結局世の中そんなものだぞ。利用しようとする奴が利用するだけ。そんなの分かりきってたことじゃねぇか。でも
このまま終わるのも面白くねぇよな?鏑木だけじゃねぇ、アイツの事でもイライラしてんだ。こっちは
「折角だから、滅茶苦茶やって帰るか。」