まともだったらどれ程幸せだったのだろう、アンドロメダ・トンクスはそんな出来もしない事をぼんやりと考えていた。
彼女の言う「まとも」の基準は世間一般のものではない。
そんな「まとも」なら彼女はとっくに合格点以上であり、悩む必要も無く逆に彼自身が「まとも」のお手本と言っても過言ではないくらいだ。
アンドロメダが言っているのは、自身の一族にとっての「まとも」だった。
幼い頃からどことなく自分だけは何かが違うと感じていた。
両親は人を恨んだり呪ったりする方法は幾らでも教えてくれたが、アンドロメダはそれよりも綺麗に髪を希望通りに染められる方法を教えて欲しかった。
家の本棚に数えきれない程、闇の魔術に関する本が並べられていても、アンドロメダが読みたかった「吟遊詩人ビードルの話」や可愛らしい妖精達が載っていそうな本は一冊も無かった。
おとぎ話も空想もおしゃれもダメ、由緒正しき純血を誇るブラック家では血を裏切らぬ事と血を絶やさぬ事だけに重きを置いた。
その方針が理解出来ず、幼い頃「どうして?」と母親に問うと、母親は実の娘を人間とは思っていないような冷ややかな目でアンドロメダを見た。
その様子を隣で見ていた姉のベラトリックスはゲラゲラと笑い軽げていたが、母親から下品な笑い方だと 叱られると、シュンと大人しくなり横目でアンドロメダを睨んだ。
ベラトリックスは、一族に背き血を裏切り汚したからアンドロメダ本人もその家族も殺してやりたかったと言うのかもしれない。
だが、アンドロメダは知っている。
ベラトリックスはもっとずっと幼い頃から、いやきっとアンドロメダが生まれる前から彼女の事を恨んでいたに違いないと。
そしてアンドロメダ自身もまた、そのどうしようもなく溢れ出す恨みの感情に覚えがあった。
恨み、というより嫉妬。それは妹が生まれると知ってから始まった。
両親が自分に向けていた注目も愛情も全て妹に向かってしまった時、彼女は初めて姉という人物を知れた気がした。
ベラトリックスは酷い癇癪持ちで、一度キレだすと食卓に整然と並べられたせっかくの豪華な料理の皿でさえもひっくり返してしまう程手がつけられず、両親はそんな彼女を早々に見限りなるべく触れないようにしていた。
姉がそんな感じだからこそ、両親は尚更アンドロメダに期待し愛情を注いだ。
アンドロメダもまた、あんな姉みたいにだけはなりたくないと嫌悪していた。
だが、今ならなんとなく分かる。
姉がやたらと暴れたり物を壊し回ったりしているその理由。
両親にもう一度自分だけを見て欲しかった。両親からの愛情を独り占めしたかった。
それはもう叶わずどうする事も出来ない儚い夢。
アンドロメダは虚しくなるだけなのですぐにそんなものは捨てたが、ベラトリックスは違ったのかもしれない。
そんな2人の少しのズレが後年、取り返しのつかない大きなズレへと変貌する事をまだ誰も知らない。