やはり俺の日常ラブコメはまちがっている。 作:ARuTo/あると
暗く静まり返った車内。
テールランプをかちかちと鳴らす音が聞こえる。
どれくらいの間そうしていたのか。特に意味は無いが、時々、そんな黄昏れにも似た哀愁を感じていたい時がある。
不意に腕時計を見やる。
時刻は午前零時を示していた。
秒針の刻みに呼応するように、橙の情熱的な灯火は明暗を繰り返す。
小説の冒頭のような、一連の格好つけに満足した所でエンジンを切った。
今日は真面目ぶって駐車場に車を停めている。千葉を離れる以前は路駐なんて日常茶飯事でよく警察の方々にお世話になっていた。
私にしては珍しい。
近くに自販機があったので至福の時間のお供にと、視線を彷徨わせて一本の缶コーヒーを購入した。
私の手には細長く黄色いデザインの飲料缶が握られている。
全く私らしくない。
孤独を味わうにはブラックが最適。そう決め込んでいるのにどうしたものか。
こうした一連の行動に特に意味は無いのだろう。少なくとも私に意味はない。これはちょっと脳のランダム、ただの調子の良し悪しだ。
いや、逐一意味づけをしなければ生きていけない不器用な人間もこの世の中には存在したな。
今頃、彼は心臓の律動も正確に刻めないくらい四苦八苦の日常を過ごしているのだろう。
私は一人、街頭に照らされた夜道で苦笑した。
大きな橋の一番高い所を目指して歩いた。入り口には解読するのも困難な傷だらけの落書きに混じって「美浜大橋」という明朝体が刻印されていた。
いつの日か立ち寄った懐かしの橋。つい半年前の話ではあるがな。
私は今でも数ヶ月に一度、飽きもせずこの場所を訪れている。最近はこのルーティーンも困難なくらい忙しくなってしまったが。
潮の香りを携えた風が私の流麗な黒髪を揺らす。
やはりここへ来ると彼、彼女達を思い出す。
特に彼。死んだ魚のような目が脳裏に過ぎる。
当時を思えば、教師らしからぬ発言をして自分を糾弾したくなる日もある。とはいえ、あれはいささか特殊な環境で事例で関係だった。
私も少なからず共犯関係だったのだろう。いやまて、そもそもキッカケを作ったのは私だったか。
プシュりと気持ちのいい音を立ててコーヒーの蓋を開ける。そのままグビっと酒を飲むように勢いよく流し込んでーー
「……うッ!……おいおい」
口内に絡みつく甘味の濁流。
彼はこんなものを毎日のように飲んでいたのか。いや、不味くはないのだが。これはいささか手詰まりを起こした大人の飲み物ではないのか。
もしかしたら大量の砂糖が引き起こす脳内麻薬が彼の高校生離れした観察力を補っていたのかもしれない。そうも考える。
今頃、彼、彼女は上手くやっているだろうか。
リア充の事だ。きっと爆発してるに違いない。そうに決まってる。あの二人、いや三人に甘々な青春など送れる筈がない。いやでもでも!もしかしたらーー
「ちッ……ヤニが切れた。うう……帰るか」
そんな初恋にも似た若いエネルギーにトリップしていたのも束の間。一人愚痴りながら思い出を後にする。
爆弾を爆発させるもよし。凍結させるもよし。あるいは別の手段もあるかもしれない。
尤も、未練は人の為にあるのではなかったか。