やはり俺の日常ラブコメはまちがっている。 作:ARuTo/あると
冷房の効いた店内を散策する。廃れた感の否めないショッピングモールには雑貨屋やレストランが軒を連ねている。吹き抜け空間に踊り出れば岩を模した崖を登る競技、ボルダリングを楽しめるアクティビティがあり、近々進化する娯楽施設に驚きを隠せないどうも俺です。
「相変わらずサイゼうんまかったなぁ〜!ねね、お兄ちゃん。次どこ行く?」
「ん……ああ。どうしようかね」
妹を連れて白昼堂々デートするどうも俺です。それはいいのだが、前提としてマリンピア、通称"マリピ"にサイゼはない。ボルダリングをやるような吹き抜け空間もない。では何故、我々はサイゼで昼食をとる事が出来たのか。
答えは簡単。海浜幕張にいるからである。
徒歩圏内という事もあり、当初予定していたマリピに足を踏み入れたのだが、好みのレストランないし食事にありつけず、結局バスを使ってここまで繰り出してきた。小町がごねたのも一つの理由ではあるが。んもう!おかげ様で無駄に体力を消費しちゃったじゃない!帰りの気力はもうゼロよ!と、言いたい所ではあるが、ここはプリキュアな小町である。可愛いから許す。それしたら何しても許されちゃうんだよなぁ……。
まあ、マンネリ化というか、いつも行く場所に飽きるのは分からんでもない。俺とて、商業施設に一人入って何をするかといえば本屋で立ち読みをしたり、前述したサイゼで時間を潰すくらいのものであり、大した収穫もなく一日が終わる。アパレル系の店に入るにしても視線が気になって購入どころではないし、何より昼間の男一人客の怪しさは異常。環境要因でハードル上げるのほんとやめて欲しい……。男性の育休が取りやすくなりました?嘘つくのやめて貰っていいですか?
ちなみに全然関係ないが、ここプレナの本屋はだいぶ前に無くなったらしい。これ豆知識な。
なんて柄にもない事を全力で考えていると、見覚えのある人物がエスカレーターを下ってくるではないか。
「……あっ、雪乃さんだ!おーい雪乃先輩!やっはろ〜」
小町は周りの事など目もくれず、元気よく片手をひらひらさせながら目先の美麗嬢に声をかけた。その挨拶、馬鹿っぽいというか、とにかく今は色々と面倒な事になるからやめろ。
雪ノ下はこちらに気がついたようだ。片手を小さく上げて挨拶一つすると、てくてく丁寧な足取りで近づいてくる。
「小町さんに……それと比企谷くん。こん……」
返事の第一声が途切れる。なんだなんだと兄妹揃って思わず息を呑んでしまう。
「先輩……あ……今日はご機嫌うるわしゅう?……え?」
沈黙に耐えかねたのか、小町が即座にフォローに廻るがいかんせん言葉を丁寧にし過ぎたせいで何か変な感じに裏返っている。自分でもよく分からなくなってる始末。
雪ノ下の耳が朱色に染まっている。羞恥しながら身をよじって居住いを正すと、対面している俺達にさえ聞こえるか聞こえないかくらいの声量で一言呟いた。
「こんにちは。や、やっはろ……」
思わず心臓が跳ねた。揺れる瞳を直視できない。
おい誰だよ、この挨拶が馬鹿っぽいとか言った奴。やっはろ〜はガハマ教における最高にして最古の祝福だぞ。いやはや、まさか雪ノ下教のあねのん並びに御息女にまで浸透しているとは。うん……やっぱりいい……。もっと流行らして大陸を制圧しよう!手始めに千葉大陸から!
「か……」
思わぬ発言に、小町は目を見開いてかなり興奮しているご様子。
「かんわいい!先輩、もっとやって下さい!」
言いながら小町は雪ノ下に勢いよく抱きついた。え〜、何これ。なんか百合百合幸せなんですけど〜。ここが天国でござるか〜?
日本の幸福度ランキングは最下位に近いらしいが、この二人の仲睦まじい様子を見てみろ。小町は「この代償は兄が払いますのでお気になさらず〜」なんか言って、対する雪ノ下は「あら、そう。では煮るなり焼くなり好きにさせて貰うわ」なんてキャッキャウフフしている。あれ〜おかしいな?僕なんだか幸福度が急激に下がって怖くなってきたよ〜?
そういえば二人とも妹だったなーなんて冷静な分析に立ち返ると、ようやく現実に引き戻された。
「……おう、雪ノ下か。なんか気稀な巡り合わせだな」
俺の記憶が正しければこの面子が揃う事はあまり多くなかった筈だ。ましてや俺達の最初の目的地はここから幾ばくか離れた場所である。点と点が繋がった瞬間とでも言うべきか。
繋がり……といえば俺は雪ノ下と少なからず一連の出来事に折り合いをつけ、雪ノ下家との関係も良好とは言い難いがそれなりにはこなせるようになっていた。
「このクソ暑い中、よく外出できるな。なんか意外だわ」
酷暑の休日。移動するだけでも体力が奪われる季節だ。その体力に自信があるとはいえない雪ノ下なら尚のこと。
「そうかしら。確かにこの暑さには堪えるものがあるわね。けれど、室内に篭り切りで過ごしていては体が鈍るし、体力も落ちる。少し辛い思いをしてでも外出するのは気分転換に良いと私は思うのだけど」
「……おっしゃる通り。模範回答だな」
「そういう貴方も意外ね。夏休みに外に繰り出してくるなんて何百年ぶりかしら」
「古代生物じゃないから。言っても、去年の千葉村辺りから外に出た記憶がないが」
日焼け止めで頻繁にケアしているのか、雪ノ下はその抜けるような美しき白い肌を維持していた。対する俺も中々の美白だと思うんだけどな。ニートはイメージに反して肌が綺麗。これ豆知識な。
俺と雪ノ下は今まで通り、当たり障りもない会話を披露して見せたのだが……左方の小町が何だか目をぱちくりさせて、身長が満たないながら顔を覗き込んできた。
「……お兄ちゃんなんか進展あった?小町にはそう見えるけど」
言われた矢先、急に何かを意識してしまって思わず体を仰け反らしてしまう。対する雪ノ下も顔は窺い知れないが視線を逸らして黒髪を手櫛で整えていた。
「……さあな。進展はないが進級はしているぞ。最高学年。先輩風を吹かしてもーー」
「ああ、はいはい。だまりんしゃい。ところで雪乃先輩。もしよかったらなんですけど、これからお茶でもしませんか?こちとら暇でちょー!暇なもので」
小町は俺の返答を冷たく遮ると、わざとらしい声音を響かせながら詐欺の常套句が如く、雪ノ下を誘い始めた。なんか……タイプは違うがこうして相手を誘導するあたり、俺と槍口が似ているな……。
「……そうね。今日は特に予定という予定があるわけではないし、ご迷惑でなければご一緒する事も出来なくはないと思うわ」
「こっちはこっちで正直じゃないなぁ……。とはいえ、迷惑だなんて。こちらから是非ご一緒させて下さい!」
小町は雪ノ下に聞こえないくらいの声量で一人ごちると、再び彼女に駆け寄って優しく腕を引き始めた。
イメージOPソング『君にクレッシェンド』