やはり俺の日常ラブコメはまちがっている。   作:ARuTo/あると

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④雪ノ下雪乃は、静かに茜色に思いを馳せる。

 ブレンドコーヒーにカフェオレ、変化球にオーレ。カウンターの卓上には目にも豊かなザ・午後の珈琲タイムが形成されている。

 店を探すこと暫し。俺は趣味嗜好が異なる二人も納得しそうなカフェを発見した。手洗い休憩の道中で見つけたこじんまりとした店で腹を空かせた輩が思わずよだれを垂らしてベロりんちょしてしまいそうな名前をしていた。

 

 「いや~、やっと座れた~。にしてもお兄ちゃん。珍しくお手柄だね」

 「ばっか、お前。俺が何度妹の危機を救ってきたと思っている。百戦錬磨もいい所だ。可愛い妹の周囲には敵が多いからな。目を光らすのには自信がある」

 

 自信満々八幡とばかりに胸を張って豪語すると、小町がうげぇ……と苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

 「うわぁ気持ち悪い……。そういうのはせめて家の中だけにして欲しいなぁ……。今は雪乃さんもいる事だし」

 

 その本人をちらと見やる。微笑ましい光景にでも映ったか。雪ノ下は掌を小さく口元にやって、柔らかな表情を讃えている。

 

 「あの……雪ノ下さん?」

 

 沈黙を貫く雪ノ下に対して俺は怪訝な表情でその真意を問うた。すると、雪ノ下は長い睫毛を携えた瞳を閉じて、ブレンドコーヒーが入ったカップに手を添えた。

 

 「相変わらず仲がいいと思って。……確かに、兄という立場を悪用して過保護ムーブを繰り出すのは下衆だけれど。まあ――」

 

 雪ノ下は不意に視線を窓辺に移すと、一呼吸おいて微睡むような声音で言う。

 

 「……良いお店ね」

 「そりゃ、どうも……」

 

 ワインレッドを基調としたヨーロピアンな店内。紅茶を好む雪ノ下が如何にも好きそうな場所だ。奉仕部で彼女一人を見かけた時もそうだが、コーヒーカップ片手に笑みを浮かべる姿はいささか絵になり過ぎている。現実を非現実にする魔力をお持ちらしい。まあ、実を言うと、雪ノ下が下ってきたエスカレーター横にここと同じ看板の小店があって目星はついていた。全然関係ないが、そこは某アニメの聖地らしい。そうか、貴方が今日のコーヒーマスターか。もしや雪ノ下の魔力の根源は……。

 

 「にしても混んでるな。俺、あの列に並ぶくらいなら店を出ている自信がある。いや、帰るかもしれん」

 「……判断が早いのは結構だけれど、そう早とちりし過ぎると結果はついてこないものよ。時に忍耐も必要ではないかしら」

 

 などとウフフ、謎に勝ち誇る雪ノ下を尻目に店内を見回す。

 休日という事もある。辺鄙な場所にある店だが、窓際に面している事もあり、それなりに人目に付きやすいのだろう。付近にはメッセ目当ての客が往来しているので直ぐに潰れるという事もあるまい。こういうこじんまりとした店は少ないから長く生き残って欲しいと願う。一人客に優しい店、マジ感謝。ノーパソ叩きながら入り浸らせて欲しい。それは返って迷惑、店を滅ぼしかねないんだよなぁ……。

 なんて不況的な時事問題に頭を悩ませていると、小町がわなわなと震えていた。

 

 「美味しすぎる……夜な夜な小町が作っていたカフェオレは一体……?」

 「個人で作れるクオリティなんて、そんなもんだろ」

 

 適当に相槌を打つ。夜中ごそごそしていたのはそれか。地縛霊かお前は。そういえば小町だけにコマコマした妖怪がいたような……。

 まあ、それはいいとして俺もやったなぁ……オリジナルドリンク開発。打ち上げで作ったカクテルもそうだが、とにかくマッ缶を再現するのが難しいのなんの。砂糖を入れても入れても完成しねぇ!これもう液体に入る砂糖の飽和量超えてるんじゃないの?マックスの意味ってそういう……。

 雪ノ下は顎に手をやって、何やら猫を見る時と同じくらい真剣な顔をしながら、俺が注文した飲み物を観察している。

 

 「……比企谷君はどういう珈琲を注文したの?不思議な香りがするのだけど」

 

 見た目にさして変わりわない。強いて言えば茶色が少し濃い事ぐらいだろうか。

 

 「コーヒーっていうか、これはオレだな。オレ」

 

 さもありなんとばかりに答える。すると、何故か雪ノ下は眉根を寄せて不満げな表情をする。

 

 「は?俺……?貴方まさかこれが自分の化身とでも言いたいの?」

 「いや、違ぇよ…‥。どう解釈したらそんな中二病じみた答えに行き着くんだ。抹茶オレとかあるだろ?そのオレの事を言ったんだよ」

 

 言うと、雪ノ下は特に間違いに羞恥する事もなく、「ああ、そういう……」といったため息交じりの反応を見せるばかり。ていうか、雪ノ下が俺って発言するの滅茶苦茶珍しいな。俺系ヒロインは平塚静と決まっているが、一人称俺系クールビューティーも悪くない気がする。

 そんな妄想をあと小一時間したいところだったのだが、先んずれば人を制すとばかりに雪ノ下が説教じみた口調で何やら意見を提示してきた。

 

 「発音がなってないわね。オレの語源はフランス語。間違いではないけれど、現地風に言うならオーレと発音するべきではないかしら」

 

 「うるせほっとけ。……大体、現地がどうこう言うが、そういう雪ノ下はフランスに行ったことあるのか?」

 

 彼女が帰国子女である事は知っている。がしかし、大抵は英語圏。精々、アメリカ・イギリスといった所が常。

 質問に対して雪ノ下は顔色一つ変えずに答えた。

 

 「あるわよ。家族旅行で数回」

 「なん……だと……」

 

 至極当然とばかりに答えられてしまった。

 

 「それにここ、オーレと丁寧に記載されているじゃない」

 

 ニッコリと不敵な笑みを浮かべながらメニュー表を指さす雪ノ下。確かに俺の注文した飲料名にはしっかりきっかり『オーレ』の三文字が浮かんでいる。QED.証明終了。こうも事実を明示されては反論できない。よくもまあここまで八方塞がり追い込んだものだ。とはいえ、俺には最後のカードが残されている。可愛い可愛い妹の小町ちゃん!助け舟のご到来~!

 

 「小町はどう思う。ぶっちゃけどっちでもいいよな。な?」

 

 頷いてくれたらお菓子をあげるよ、とばかりに不審者じみた圧をかける。

 

 「あーそのままそのまま。続けて続けて」

 

 小町はにたにた俺達のやり取りを鑑賞する傍観者と化していた。え、ちょっと待って。これもう実質的なゼロ解答じゃねぇか。助け船はあっけなく沈没。最早、黒船来航みたく大物が駆け付けないと状況を覆せない段階にきていた。ペリー助けて!

 

 「あ……はは……」

 

 最後に出てきたのは呻き声ともつかない空虚で乾いた笑い。

 そうね。俺の知識が浅かった甘かった。腑に落ちないのは確かだが、まあこの程度の勝利は譲るのが吉。二人が楽しそうで何より。

 とにかく、

 ゆきのんお姉さんの大勝利!オ~レ!

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