高坂麗奈さん。今年吹奏楽部に入学してきた女の子で黒髪のロングで男子からの人気も高そうな子。
高坂さんはとても寡黙な人で話し掛けても返って来る言葉は少ない。
こっちが100で言えば、10ぐらいで返答が返って来るようなイメージかな。それでも後輩にはなるべくこの部活を居心地がいいと思って欲しいし、何度も話し掛けた。吉川さんからは「あの子は何度話し掛けても意味ないわよ」とか言われたりもしたけど、諦めずに話し掛け続けると少しだけ変化が見れた。今まで10ぐらいしか返ってこなかったのに25ぐらい返って来るようになった。
「高坂さんって好きな食べ物とかあったりする?」
「それをあなたに言って意味があるんですか?」
「ないよ。でも、ちょっと高坂さんのことを知りたくて」
「…パスタ」
「パスタ、美味しいよね!」
端見たらぎこちないと思うかもしれないけど、これでもかなり進歩した方だと思う。前は答えてくれなかったしね。
「僕もパスタは好きだよ。特にカルボナーラとか大好き」
こんなありきたりな会話でもいいので、高坂さんとはコミュニケーションを取っておきたい。もしかしたら、高坂さんは僕となんか話したくもないかもしれないけど、それでも今の高坂さんを見ているとトランペット組で孤立してしまいそうで少し怖い。
彼女は孤立を恐れてないかもしれない。吹奏楽部としての目標は全国に出場することですし、会話をしている時間は無駄と決めているのかも。
それでも僕は高坂さんと話してみたい。
「高坂さんはトランペット、上手いよね」
「………」
「僕も練習はしているんだけど、高坂さんみたいに上手くはなれないかな」
「……それを私に言っても何の意味もない」
「ごめんね。僕はただ高坂さんが上手いって言いたかっただけなんだ」
今日はちょっと話過ぎたかも。
高坂さんの機嫌を損ねないうちにここはもう退散することにしよう。
「高坂さん、僕は隣で練習しているから何かあったら言ってね」
そして教室から出て行こうと出口へと歩いている最中に高坂さんが急に話し始めた。
「…私はあなたの音色がそこまで卑下するようなものだとは思えない」
「え…」
「あなたは誰よりも練習している。それに土曜日も一番最後まで練習しているのも知ってる」
「…見られてたのか。恥ずかしいな」
「なんで恥ずかしがるの。あなたは誰よりも努力している。私はあなたのことをそんなに知らないし、何度も話し掛けてきてたまにうっとおしい時もあるけど、それでも私はあなたの音色は美しいと思う」
まさかそんなことを高坂さんから言われるとは思ってもいなかった。
「もっと自分の音色に自信を持てば、あなたの音はもっと美しくなると思う。私なんかが言っても何の意味もないけど」
「…いや、嬉しいよ。高坂さんみたいな人から褒められると」
「…そう。一つだけ聞いてもいい?」
「うん、僕に答えられる範囲のことであれば」
「なんであなたは自分の音色に自信がなさそうなの?さっきも言ったけど、決してあなたは努力をしていないわけでもなければ、下手なわけでもない。それなのに弾いている時のあなたは自信がない。その理由は何かあるの」
「…自信がない理由……。それは僕に努力が足りないからじゃないかな」
「それがあなたの答え?」
「うん。根本的に初めて1年足らずの人間が今までやってきた人に敵うわけないしね」
僕は高坂さんが評価してくれるような人間ではない。もっとダメな人間なんだ。
「そう」
高坂さんはそれだけ言って自分の練習へと戻っていった。僕もそれを確認して隣の教室に移動した。
主人公は誰かと結ばれて欲しいですか?
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結ばれないで欲しい
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結ばれて欲しい