春休みはほぼ毎日部活はある。それは入学式の時など演奏をすることもありますし、その先のことも。だけど、あくまで練習は個人の自由に任せられているところもあって春休みの終わり近くは強制に集まりがありますが、それ以外は学校に来て練習してもいいですし、ぶっつけ本番に近いことをしてもいいという感じ。
もちろん、僕はほぼ毎日来ている。だって他の人と比べても圧倒的に覚えも悪いですし、上手くないですから。
だけど、そんな僕に一つの悩みがある。
「それにしても…後輩…」
中学校の時は部活とかとは縁遠いような人間だったから後輩と関わる機会なんてなかった。だから、もちろん後輩との付き合い方というのも分からない。あんまりへりくだり過ぎても後輩はやりにくいと思いますし、だからといって上から行き過ぎるのも無理。あんまり人付きあい自体が得意じゃない僕にとってはかなりキツイですね。
本当にどうしようと考えていると扉の開く音が聞こえた。
「おう、お前も来てたのか」
「滝野くん」
滝野純一くん。僕と同学年で同じトランペットを担当している。入部してからずっと滝野くんにはお世話になっている。トランペットの弾き方も分からなければ、楽譜の読み方だって完璧じゃない僕のことを手取り足取り、全て教えてもらった人。本当に滝野くんには返しても返して切れないほどの恩がある。
「お前って休んでるのか?」
「休んでますよ。僕はロボットじゃないですから、さすがに休まないとキツイので」
「それならがいいが。俺としてはお前がいつか倒れちゃうんじゃないかと思って気が気じゃないぞ」
「大丈夫です。僕はそれなりに強い体をしている方だと思っているので」
「いや、そういう話じゃなくて」
滝野くんは僕の後ろの席に座る。
「そう言えば、滝野くんに一つ聞いてもいいですか?」
「いいぞ」
「後輩との付き合い方ってどうすればいいんですか?」
僕の質問に滝野くんは首を傾げている。
「後輩との付き合い方?」
「はい、僕にも後輩がそろそろ出来るわけですし、どうやって接していけばいいのかなぁと思っちゃって」
滝野くんはそういう経験が豊富そうですしね。なにかいいアドバイスが貰えるかもしれない。
なぜか、滝野くんの回答を待っていると滝野くんは僕にチョップをしてきた。
「お前は考え過ぎ!」
「え?」
「そんなこと真剣に考えなくていいんだよ。お前があんまりそういうこと得意じゃないなのは分かってるし、その辺りは無理せずやればいいと俺は思うぞ」
本当に滝野くんは優しい。これは僕が出会った時から滝野くんに対して抱いている印象。さすがに僕みたいな覚えの悪いような人間を相手にすれば投げ出してしまってもおかしくなかったと思う。だけど、一度も滝野くんは嫌な顔をせずに教えてくれた。本当に僕は周りの人たちに恵まれている。
「お前はどんな奴にも気を遣っちゃうから後輩にも力を割くと今よりもキツくなっちゃうんだろうしな」
「で、でも…」
「でももヘチマもない。お前はちょっと力を入れ過ぎなんだよ。もうちょっと気を抜いて、楽にやってみた方が俺はいいと思うぞ」
「そうかなぁ……」
それから僕と滝野くんは入学式で弾く予定になっている曲の練習を始めた。コンクールでやるわけでもないので、皆はある程度の練習で済ませると思うけど…僕はそういうわけにはいかない。只でさえも覚えが悪いし、要領が悪い、他の同級生や先輩たちと比べても圧倒的に下手なので練習しないと本当にヒドイことになってしまう。
そして一通り、終わると滝野さんが僕にあることを聞いてきた。
「そう言えば、まだ仲直りしてないのか?」
「う、うん。そうですね。僕の方から無理矢理に話し掛けに行ったりしたら今以上に嫌われちゃう気がしますし。それにどちらともこのままの方がいいのかなぁと今は思っていたりします」
「そうか?これはあくまで俺の意見だが、俺は入部した頃の空気が好きだったぞ」
「入部した頃……ですか」
「別に昔のように戻れなんて言わない。過ぎた時間はどうしても取り戻せないし、これはお前だけの問題じゃないからな。今や色々と糸が絡み合ってかなり面倒くさくなっているのも分かっているつもりだ。だけど、関係の修復が不可能というわけじゃないと俺は思う」
「そうですかね。僕はもう無理かなぁと思っていたりします」
関係を修復させようとすれば…できるかもしれない。でも、もう皆があのことを思い出したくないはず。だったらしっかりと記憶に蓋をしてもう記憶の奥底に沈んでもらう方がいいかもしれないですね。
「まあ、無理には言わない。お前がそのままでいればいいと思うんだったら、俺はいいぞ」
滝野くんは優しいんですよね。本当は滝野くんも僕に対して言いたいことなんてたくさんあるだろうに。
「…ごめんなさい」
「なんでお前が謝ってるんだよ」
「いや、滝野くんには色々と迷惑を掛けてしまっているので」
すると滝野くんは僕の髪に手を伸ばしてごちゃごちゃにかき回してくる。
「はぁ……お前は俺にぐらいは気を遣うなよ。俺的にはかなりお前と仲良い気でいるんだからよ」
「…あ、ありがとうございます…」
やっぱり僕にはもったいほどの…友達ですね。
それからお互いに曲の練習を再開したのも束の間、後ろの扉が開く音が聞こえた。
「あ~~滝野が音海くんのこといじてる~」
「おい、いじめてないぞ」
「え~~だって大人しい音海くんと滝野が一緒にいるなんて、ここだけ切り抜いた『いじめ』じゃないかな~」
「いじめじゃないですよ。僕は滝野くんと一緒に練習をしていたんです。加部さん」
加部友恵さん。僕と滝野さんと同級生。とても明るい性格をしていて、落ち込んでいる時は励ましてくれる人。僕にとっては加部さんは太陽。どんなに僕が落ち込んでいても、いつも明るい言葉を掛けてくれて本当に優しい人なんです。皆のお荷物でしかない、僕に対しても優しく接してくれるような人でトランペットの演奏も綺麗。
「そうなんだ……って…音海くん!」
なぜか、加部さんはすごい勢いで僕のところに走ってきて両肩を掴んできた。
「な、なんですか?」
「音海くんってしっかりと休んでる!?」
「や、やすんでますよ」
「だって毎日練習に来てるよね。昨日、会った時に優子が「ずっと練習してるんだよね。私がいくら言っても止めないし、本当に疲れるよ。練習することが悪いことじゃないし、むしろ良いこと。でも、このままだとあいつが倒れちゃうんじゃないかと思って心配なんだよ」って言ってたのよ」
滝野くんだけじゃなくて吉川さんにまで心配を掛けてしまっていたのか。
「そこまで心配を掛けてしまっていたのならすいません。でも、僕は人より覚えが悪いですし、家での練習もできないのでここでしか練習できないんです」
「それは分かってるつもり。音海くんが頑張っているのも分かるんだけど、少しぐらいは息抜きも必要だと思うよ」
「…そうですね。なるべく休むようにします。皆さんに心配を掛けてしまうのは望むところではないので」
自分だけならいいですけど、他の人に心配を掛けてしまうのはだめなこと。
「分かってくれたならよかった。それじゃあ、今日は三人で練習しよう!」
「そうだな」
そしてその後、三人で入学式に演奏する曲の練習をしたのだった。
主人公は誰かと結ばれて欲しいですか?
-
結ばれないで欲しい
-
結ばれて欲しい