少しずつ部活見学に来てくれる人たちが増えてきていた。多分、あの感じだとそれなりにたくさんの一年生が入ってくれる可能性が高いと思う。中にはもう入部届を出してきた人もいるし、まだちょっと悩んでいる一年生もいる、本当にそれぞれだけど、一応期限としては明日まで。
今日も僕は授業が終わるとその足で音楽室へと向かう。音楽室に行く途中で一年生らしき人たちや、運動部の人たちが校舎内でトレーニングをしている人たちを見た。今日は天気が悪いので運動部の人たちもほとんどが体育館か校舎で活動している。
そしてそんな人たちを横目に僕は音楽室に着いた。音楽室に入ると同時にどこからともなく声が聞こえてきて、後ろから誰かに抱き着かれる。
「あ~音海く~ん」
「部長、お疲れ様です」
小笠原晴香先輩。とても優しい人であり、吹奏楽部の部長もこなしている。小笠原先輩にもかなりお世話になっていて色々と助けてもらったこともある。
「おつかれ~」
声だけでも小笠原先輩がお疲れモードに突入しているのは分かる。
「今日も部長は頑張ったと思いますよ」
「音海くんだけだよ。こんなに私のことを甘やかしてくれるのは~」
「そうですかね」
「そうだよ~~私の愚痴も聞いてくれて甘やかしてくれてもう音海くんしかいないよ。音海くんのお陰で私はまだ部長としてやっていけているわけだしね」
「それは僕のお陰じゃなくて部長だからですよ。部長はとてもすごい人なので」
僕はただ先輩の不安を聞いているだけで何かを手伝っているわけではない。最初こそかなり不安そうだった、部長も少しずつ自信が付きつつある。
「やっぱり音海くん、うちに嫁ぎに来ない?」
「え」
「だって音海くんみたいな人が近くに居たら、どんなことでも頑張れちゃう気がするから!」
「そ、そうですか?」
「うん!!だから、どうかな?」
「…ど、どうかなって聞かれましても」
ちょっとずつ小笠原先輩は距離を縮めて来るので、僕も少しずつ後ずさる。すると小笠原先輩の後ろから田中先輩が距離を詰めて来る。
「ほら~後輩を怖がらせない~」
田中先輩に確保されて小笠原先輩はどこかに連れてかれた。
そんな様子を見ていると中世古先輩が話し掛けてくれた。
「ごめんね」
「全然、大丈夫ですよ」
「晴香は音海くんのことをかなり気に入っちゃってて」
「僕なんかで部長を笑顔に出来るならそれは嬉しい限りですよ」
自分のような人間が一瞬でも人を笑顔に出来るならそれはとても嬉しいこと。
「音海くんがそう言ってくれてまだよかった」
「僕は皆さんに支えられているので皆さんの助けになれるなら」
そこで僕は最近の悩みを中世古先輩に聞いてみることにした。
「中世子先輩って後輩との付き合い方とか上手いですよね」
「そ、そうかな?」
「はい、僕が個人的に中世古先輩を見ていて思ったんです。僕も中世古先輩のお陰でとても吹奏楽部に馴染みやすかったので」
「そう言ってくれることは嬉しいけど、そんな大したことはしてないよ」
本当は中世古先輩は謙虚な人。今見たいに自分が褒められたとしても決して自分はすごくないと言い続ける。そういうところもいいと思いますが、素直に喜んでいる中世古先輩も見てみたかったりする。
「いや、中世古先輩がどんなことを言ってもすごいですよ。僕も後輩が出来るので、後輩とはうまく付き合っていきたいんです」
「音海くんならいつもの感じでいけば普通に後輩とも上手くやっていけると思うよ」
「そうだといいんですが…」
やっぱりどんどん不安が高まっていく。今は体験入部だからまだ完全に入部とはならないですけど、数日ごろには本入部になる。その時になるべく緊張せず、後輩に不安を与えないようにしないといけない。
「ねぇ!」
僕は肩を掴まれてやっと呼びかけられていることに気付いた。
「あ、なんですか?」
振り返るとそこには吉川さんが…怒っていた。もう今にも爆発してしまいそうなほど。
「ねぇ~私が呼んだらすぐに返事してよ!」
「すいません、ちょっとボーっとしてました」
「も~~私のことを蔑ろにしたら許さないからね」
「吉川さんを蔑ろにしませんよ」
「それならいいけど…」
「それで吉川さんはどうしたんですか?」
「なに、あたしは用がないとあんたに声を掛けちゃいけないの!?」
「い、いや、そんなことはないですけど」
「あたしはただあんたと……は、はなしたい…だけ」
「そうなんですか。楽譜のことですか、それとも新しい顧問の先生の方ですか?」
吉川さんが話し掛けて来ることとなると…この部のこれからに関することが多いですよね。ですが、どうやらそれは吉川さんの怒りをさらに加速させただけのようだった。
それからしばらくの間はいくら声を掛けても吉川さんが返事をしてくれることはなかった。
主人公は誰かと結ばれて欲しいですか?
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結ばれないで欲しい
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結ばれて欲しい