今回は一年前のお話です。
僕は日曜日なのにいつものように早起きをして身支度を整えてから家を出た。休日なのに制服に着替えて学校に行くということにも慣れてきた。
そしていつものところには鎧塚さんがいた。
「鎧塚さん」
「…おはよう」
「おはようございます」
「いこっか」
「そうですね」
僕は鎧塚さんの隣を歩く。鎧塚さんはあんまり話すような人ではないので話すときは僕から話題を振ってそれに対して鎧塚さんが答えるという感じかな。
「今日はどうなりますかね」
「なにが?」
「何だかんだいっていつも問題が起こりますから。言い合いをしたりと」
「たしかに」
本当にもう集まらない方が良いんじゃないかなぁと思うほど。
でもやっぱり吉川さんや中川さん、傘木さん、鎧塚さんは本当に仲が良い。正直この中に僕がいるだけで場違いを感じてしまう。そんなことを吉川さんい言おうものなら「あんたはいればいいの!」と言われた。
そんなことを話していると学校の正門が見えてきた。日曜日ということもあって聞こえて来るのは野球部やサッカー部の声だけで他は何も聞こえない。ここまで人がいないのも日曜日ぐらい。土曜日だと吹奏楽部もあるし、他の部活も土曜日だとあるところがほとんどだろうしね。
下駄箱で上履きに着替えて僕と鎧塚さんは音楽室に向かう。
「そう言えば最近は…三年生と一緒にいるの?」
まさかそんなことを鎧塚さんから聞かれるとは思っていなかったので反射的に答えられなかった。
僕は少しだけ考えてから答える。
「そうですね。まだ一緒にいますね」
「そっか…」
鎧塚さんはそれ以上に聞くこともしなかった。それからお互いに無言で何かを喋ろうとは思わなかった。
音楽室に着くとそこには吉川さんだけがいた。
「おはようございます」
僕が挨拶をすると吉川さんは挨拶を返してはくれるものの、ちょっと顔が歪む。
「あんたまたみぞれと一緒に来たの?」
「あ、はい。ちょっと家も近いので」
そうでもなければ鎧塚さんと一緒に来るなんてことはない。だって僕と鎧塚さんはそれほどお互いについて知っているわけでもなければ仲が良いわけではない。これを言ってしまうと不仲のように思われるかもしれないが鎧塚さんはあんまり会話をしたがらないですし、僕もそれを感じてあんまり話さない。だから唯一、日曜日だけは一緒に登校するので話すのはその時ぐらい。
「そう。今度からあたしも行くわ!」
「え、一緒にですか?」
「なにいやなの!?」
「いや、そういうわけではないですよ。でも吉川さんの家だと僕たちと待ち合わせをするよりも一人で向かった方が近い気がするんですけど」
逆に僕たちと待ち合わせをかなりの遠回りになってしまう。正直、吉川さんのような人が何の目的もなく、自分が損をするようなことをするとは思えないですけど。
「いいの!!一緒に行くと言ったら一緒にいくの!!!」
「あ、はい…」
吉川さんは言葉を曲げずに言うので諦めてしまった。吉川さんが良いというのなら僕が言うことではありませんしね。
それから吉川さんや鎧塚さんと話していると残り二人のうちの一人が来た。そしてその一人は僕を見つけるとなぜか後ろから抱きしめて来る。
「おはよう」
「あ、はい…おはようございます?」
未だにこれに慣れない。もちろん出会ってすぐの頃からこんな感じではなくて…少しずつ話すようになって結果的に今に至る。
「抱きしめて来るのは止めて欲しいんですが」
「え~いいじゃん。あたしとキミの仲なんだからさ」
「いや普通のお友達ですよ。特段親しい関係ではないと思いますよ。それに中川さんもあんまりこういうことをすると勘違いをしてしまう男性もいると思うので止めた方がいいですよ」
僕は中川さんとクラスは違うので普段の彼女についてはあんまり知らない。だから吹奏楽部にいる時の彼女のことしか知らない。なので普段からこういう風なことを色々なことをしているかもしれないし。
「私はそんなことしないよ」
「それなら良かったです。なら僕への抱き着きも止めてくれませんか?」
「それは聞けないかな」
「なんでですか?」
「だってキミと密着していると気持ちいいし。なんか安心するっていうか」
僕にそんな特別な力はないので中川さんの言っていることは理解できない。もっと体がガッシリしていて筋肉質みたいな人に抱き着くと安心するというとかならまだ分かる。それは守られている感覚を覚えるから。でも僕みたいに細くて頼りがいのない人間に抱き着いて安心するという感覚は本当に分からない。
そんなことを考えていると僕と中川さんの間に吉川さんが無理矢理入って引き剥がす。
「あんたたち離れなさい!!」
引き剥がされると中川さんが明らかに不満そうな顔で吉川さんのことを見ている。それに対して吉川さんも後ずさることなく中川さんの方を見ている。
ちょっと危ない空気が流れ始めそうだったので僕が二人の間に入って取り持つ。
「まぁまぁ…今日は折角集まったわけですし喧嘩は止めましょう」
「それもこれもあんたの所為なのよ!」
なぜか吉川さんは僕に対して怒りをぶつけて来る。
「あんたが夏紀とべったりくっ付いているのが悪いんでしょ!」
「…い、いや…それは…」
「あんたは女性とくっつき過ぎ!」
そんなことを言われても…。僕としてはあんまり争いごとに巻き込まれるのは避けたいので上手く立ち待っているつもりなんですけど、どうしても巻きまれてしまうんです。
「…ごめんなさい」
「なんであんたはいつも女の子と親しくなるのよ!?」
「なんでと言われましても」
それにそこまで親しくなっている感じはしないんですけど。鎧塚さんや中川さん、傘木さんとは普通の友人ぐらいの距離感。ちょっと中川さんが密着してくる時がありますがそれぐらい。他の先輩方とは本当に適切な距離感で接していますし。
「もう…あんたはこれから暫くはあたしと過ごしなさい!」
「…え?」
「いいから私と一緒にいなさい!そうすれば他の女の子と親しくなったりしないだろうしね!」
それはそれでダメなのでは。吉川さんのような人気な人の近くに居ると色々と恨みを買ってしまいそうな気がする。今は特にあんまり波風を立てたりしたくないですし。部の為にも。
「それでいいわね!?」
吉川さんは僕に選択権を与えない。こんな圧で迫られたら肯定的な返事をしない限り、納得してくれなさそうですね。でもこれで全てが丸く収まるのなら。
「は「なんであんたが好きにするの?」」
肯定的な返事をしようとした矢先に中川さんの声でかき消されてしまった。
「なにか言った、夏紀」
「言った。なんで音海くんが優子と一緒に過ごさなきゃいけないの?」
僕でも分かってしまうぐらいに今の空気は悪い。中川さんが言ったことに対して吉川さんは明らかに怒ってる。鎧塚さんは別に止めようとせず、自分の作業に移っている。
この状況で二人を止められるのは僕だけ。
「二人共、一度落ち着きましょう。これから演奏をするわけですし」
「大体、夏紀はこいつと距離が近いのよ!」
「別にいいじゃん。それに音海くんとあたしの問題だよ。優子が突っ込むべき問題じゃない」
「…あたしは真剣に取り組みたいの」
「すればいい。あたしが音海くんと一緒に居ても優子には何も関係ないでしょ」
それからどんどんヒートアップしてきて、僕は止めるタイミングを見失ってしまった。お互いにどんどん言い合っている。さすがにこれ以上はマズイと思って突き飛ばされることを覚悟して止めに行こうと思った瞬間に音楽室の扉が開く音がした。
「またやってるの」
「…傘木さん」
「大丈夫。ここは私に任せて」
そう言って傘木さんは二人の元へと歩いていく。
「も~~また喧嘩してるの?」
「希美に関係ないでしょ」
「そうはいかないよ。今日は皆で演奏するために来てるんだしね」
その後、傘木さんは中川さんと吉川さんにだけ聞こえるような声でなにか言ったようでそれを聞いた二人は急に大人しくなって、本題の演奏の準備が始まった。
演奏が始まるとあっという間だった。
この時だけはピアノを弾く。普段はトランペットしか弾いていないので…新鮮な気持ちもある。
そしてある程度、弾くと少し休憩することになった。
僕は床に腰を下ろして、休んでいると僕の隣に傘木さんが座った。
「音海くんってピアノ上手いよね」
「え、そうですか?」
「うん。良い音色。心地よくてこっちが演奏するのを忘れちゃうぐらいに」
「それはさすがに言いすぎですよ」
「そんなことないと思うけどなぁ~私は本当にキミの音が好きだよ。本当に音海くんっていう男の子は純粋で優しい人なんだと再確認できるから」
「純粋で優しくはないと思いますよ」
僕という人間はみんなが言ってくれるような綺麗な人間ではない。僕だって我儘を言うことだってあるし、たまには誰かを傷付けてしまうこともあると思う。僕だって普通の人間。
「それは音海くんが思っているだけで、周りの子たちは優しいと思っているよ」
「そうですかね…」
「うん、少なくとも私はそう思うよ」
傘木さんは言い終わると立ち上がって、またなにか言い争いをしている吉川さんと中川さんの元へと向かった。
自分では自分のことを優しいと思わない。たぶん、僕はただ我儘なんです。この吹奏楽部という居場所がとてもいいと思うからこそ、周りの人たちに悪い印象を与えないように立ち回っているだけ。
僕から言わせれば…皆さんの方が優しい。ピアノ以外に関しては触れたこともないような僕に飽きれたりもせずに手取り足取り教えてくれた。
どこかで根を上げてもおかしくなかったはずなのに。
すると急に誰かが僕の肩を触ってきた。
「なにか考え事?」
「あ…鎧塚さん」
「なにか悩んでいることでもあるの?」
「そう見えましたか?」
「うん」
もしかして眉間にしわを寄せてしまっていたのかな。
「何でもないです。ただ皆さんは『優しい』と思っていただけですよ」
「そうなの?」
「はい」
すると傘木さんが「そろそろ再開するよ~」という声が聞こえてきた。そんな傘木さんの隣にはまだ不服そうな二人もいたが、今はお互いに定位置について楽器を持っている。
「僕たちも行きますか」
「うん」
それから僕たちは日が暮れるまで五人で演奏したのだった。
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主人公は誰かと結ばれて欲しいですか?
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