トランペットの音色   作:主義

8 / 12
放課後

今日も放課後は練習をした。滝先生が来て、この部活は今までと百八十度変わろうとしていた。本気で全国を目指す方向に行こうとしている。

 

中には不満を持っている人もいるみたいだけど、一度決まったことが覆ることはないと思うので従うしかない。

 

 

 

 

僕としては自分のような人間がコンクールで引くことにならずに安心しているというところがある。やっぱり年齢が一つ上というだけで後輩のチャンスを奪ってしまうのは嫌だったから。

 

 

 

 

 

 

「どうしたのよ?」

 

 

「何でもないですよ」

 

 

「そう。それなら早く帰り支度を整えてちょうだい」

 

 

「はい」

 

僕は吉川さんを待たせないようになるべく早く準備を整えた。

 

 

 

 

 

 

僕と吉川さんの家は離れてる。

 

正確に言えば吉川さんの家と僕の家は真反対なのだ。

 

 

 

 

それなのに吉川さんはずっと僕の家の方向に歩いて来る。

 

 

「いつも思っていたんですけど、これだと吉川さんはかなりの遠回りなんじゃないですか?」

 

 

「ええ、そうね」

 

 

「なんでこっちに来るんですか?」

 

 

「あんたをしっかりと家に送り届けるためよ」

 

 

「いや、僕って小学生とか幼稚園児じゃありませんよ。さすがに自分の家に帰るぐらいは出来ます」

 

 

「だめ。あんたはどこかに寄り道とかしちゃうかもしれないし、ちゃんと送っておかないと心配なのよ」

 

吉川さんからしたら僕は…小学低学年と同じなのかもしれない。

 

 

「そ、そうなんですね」

 

他愛のないような話をしながら歩いていると吉川さんが呟いた。

 

 

 

「あんたってさ、練習熱心よね」

 

 

「そうですかね。皆さんに比べたらそこまでじゃないと思いますけど」

 

 

「いや、あんたほど真剣に練習している人ってそんなにいないわよ。あたしが見ているだけでもあんなに練習してて、本当にすごいと思っているわ」

 

 

「僕は吉川さんみたいに上手くもないですし。人よりも何十倍も呑み込みが遅い分、しっかりと練習しないといけないんです」

 

 

「それがすごいって言ってんの。みんながみんな、あんたみたいに努力できるわけではないのよ。あんたみたいにただひたすらに上手くなろうと努力し続けられるのは一つの才能だとあたしは思っている」

 

 

「吉川さんに褒めてもらえるのはとても嬉しいですけど、僕はそんなすごい人間ではないですよ」

 

自分が大したことのない人間だというのは自分が一番理解しているつもり。だから少しでも皆に付いて行くにはより一層頑張らないといけないんだ。

 

 

「も~あんたはもうちょっと自分に自信を持ちなさい。誰よりもあんたの努力を一番近くで見てきたあたしが言うんだから」

 

 

「そ、そうですかね」

 

 

「そうよ。もし、あんたに何か文句を付けて来るような奴が私に言いなさい。それがあの顧問でも先輩でもあたしがちゃんと言ってるあげるからさ!あんたは今のまんまでいいの」

 

 

「わかりました」

 

たまに僕がマイナス思考に寄ってしまう時でも吉川さんは僕のことを認めて、励ましてくれる。

 

 

「いつも思ってますけど、吉川さんに言われるとなんか自然と勇気みたいなものが沸き上がって来るような感覚があるんですね」

 

 

「それこそ言い過ぎよ。あたしにそんな力はないわ」

 

吉川さん自身に自覚はないのかもしれない。少なくとも僕は吉川さんの言葉に救われているんだ。

 

 

 

「ただ、あたしはあんたの側で見守ってあげることしかできないわ」

 

 

「それだけで十分ですよ。誰かが自分のことを見ていると思うと余計に頑張れるものなので」

 

誰からも見られなくても頑張るのが当たり前だとは思う。それでも誰かが自分のことを近くで見てくれていると思うと、もっと頑張ろうと思える。しっかり努力を積み重ねて、自分の目標に向かって頑張らないとと。

 

 

「あんたには絶対にオーディション通ってもらわないといけないんだから」

 

 

「それはかなり難題ですね」

 

 

「そんなことないわ。あんたの上達速度はやっぱりすごいでし、これだけ努力している人が報われなかったらおかしいもん」

 

 

「吉川さんにそこまで言ってもらっている以上は自分もこれまで以上に努力をして、オーディションを通るように頑張ります」

 

今までオーディションを自分が通る姿を想像したことがなかった。だって他の人たちに比べて自分が圧倒的に劣っているから通るわけがないと。

 

 

でも、吉川さんは僕のオーディション通過を本気で信じてくれている。自分のことを信じてくれている人の為い。

 

 

「うん!頑張りなさい!!そしてあたしもあんたに負けないぐらいに頑張るからさ。あたしとあんたと香織先輩で絶対にコンクールでるんだから」

 

 

「そうですね。皆さんと肩を並べて演奏しても大丈夫なぐらいに頑張ります」

 

 

「そうよ。あたしはあんたの努力が絶対に報われるって信じてる」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

それからも吉川さんと会話をしながら帰ったけど、吉川さんの家の方向とは真逆なので申し訳ないという気持ちを持っていた。吉川さんに心配を掛けてしまっている所為で吉川さんにこんなところまで付いてこさせてしまっている。

主人公は誰かと結ばれて欲しいですか?

  • 結ばれないで欲しい
  • 結ばれて欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。