女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
その日、後藤ひとりは朝から異様なほどテンションが高かった。
普段からひとりの奇行になれているはずの後藤家の両親が、娘を心配し病院に連れて行こうと思ったほどだ。
ギターを背負い、大量のバンドグッズを身につける。もちろん制服など拒否。愛用のピンクジャージにバンド女子として精一杯の武装して学校へ向かう。
クラスメイト達が目を合わせてくれない。前世と同様、誰も話しかけてこない。でも、ひとりは気にしない。気になるはずがない。
放課後、公園でひとりブランコに揺られる。
一見同類にみえる孤独そうなサラリーマンが暖かい家族に迎えられるのを見ても、うらやましいとは思わない。なぜなら……。
(やっと、やっと、この日が来た。やっと、もう一度、結束バンドのみんなに出会うことができる)
ひとりは空を見上げる。
(この世界に生まれてから十五年、……いえ、この人生がやり直しだと認識してから約十年。この日だけを待ちわびながら、ただひたすらにギターの練習をやってきた)
青い瞳に青い空と白い雲が映っている。あの日とおなじだ。
(今の自分は、前世とはちがう。前世よりもはるかにギターが上手い。小学生で始めたギターヒーローのチャンネル登録者数も前世の十倍以上。そのうえ、人生を繰り返した私の精神は、前世よりも大人だ。バンドでもそれなりに音を合わせられる。ついでに、他人の目を見て話せるようになった、……ちょっとだけだけど)
……最後の点だけは、何度人生をやり直してもあまりうまくやれる自信がないが。
(と、とにかく、今の私は、結束バンドのみんなよりギターも人生も経験を積んだおねぇちゃん。だから、私は前世よりもバンドの力になれる。前よりもメンバーのみんなと仲良くなれる。楽しい日々を送れる。もしかして本当に在学中にメジャーデビューできちゃう可能性だってある!)
人生繰り返しを意識してから、ただただこの日だけを楽しみに生きてきたのだ。わくわくがとまらない。
……そ、そろそろだよね。虹夏ちゃんに声をかけられるのって、何時頃だったかな?
正確な時間までは覚えていないが、あれはたしか夕方。まだ暗くなるまえのはず。
まだかな。まだかな。
心臓がドキドキし始めた。こんなところはちっとも成長してないな、わたし。でも、もうすぐのはず。はず、だよね。……ま、まさか、前世の世界と歴史が異なる世界? まさか、そんな。
ひとりの背中を詰めたい汗が伝う。動悸がさらに激しくなる。
も、も、もしそうだったら、どうしよう? 二度目のこの人生、これからなにを目標に生きていけば……。
一度そんなことを考えてしまうと、心が闇に覆われていく。不安の黒雲が果てしなく大きくなっていく。身体が溶け出しそうになる。
待ち望んだ声を聴いたのは、その瞬間だった。
「あ、ギターッッ! それギターだよね? 弾けるの!?」
後ろから掛けられた声!
(き、きたー、虹夏ちゃん)
生まれかわってから、何度も何度も夢に見た瞬間だ。勢いよく振り向く。
虹夏ちゃんっ!! ……あっ、えっ?
そして、ひとりは固まった
「に、虹夏、……ちゃん?」
そこに居たのは、白いシャツ。手首にリボン。金髪の……。
「あれ? どうしてオレの名前知ってるの?」
……お、お、男の子? この世界の虹夏ちゃんは、男の子? ええええ?
男の子の名前が『虹夏』だっていいよね?