女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「……わ、わたし、もしかして、人生2回目?」
後藤ひとりがそれを自覚したのは、小学校に入学した頃のことだった。
とある日曜日の午後。だらだらと休日を満喫していたお父さんが、ふと思いついたのだ。目の前で無邪気に遊んでいる可愛い娘。この娘にも、たまには格好いいところをみせてやるのもいいかな、と。
そして、持ち出してきたのは、若い頃につかっていたギター。「あらあら」と言いながら懐かしそうな顔の妻と、興味津々の娘の前で、数年ぶりに弦をかき鳴らす。
上手いのかそうでないのかもわからないまま、父のつま弾くギターの音を聴いていたひとり。……それは、唐突に起こった。
突然、ひとりの脳みそに衝撃がはしったのだ。例えるなら、まるで稲妻が直撃したような感覚。
(えっ? あれ? わたし、その楽器、弾いたことがある!)
反射的に声が出た。自分でもわけがわからない。
「お、お父さん、私にもそのギターかして!」
ギブソン、レスポール・カスタム。
触れただけでわかった。この子は、私の相棒だ。
構え方は本能で知っている。父の愛用ギターと戯れる幼子を、微笑ましいものを見る目で見守る父と母。
ぴろぴろーん。
手が、指が、勝手に動く。つま弾く音がフレーズになり、そして自然に曲になる。
じゃがじゃがじゃーーん。
指が短くて弾きづらい。けど、確かに私の身体は、心は、魂は、ちゃんと覚えていた。忘れるはずがないのだ。絶対に。
「うおおお! さすがオレの娘! ひとりは天才だぁ!!」
お父さんが虚空に向けて叫んでいるが、ひとりはそれどころではない。
それは、フラッシュバック。
自ら演奏するギターの音色とともに、脳髄のなか、魂のなかに、前世の記憶が津波のように押し寄せてくる。
生まれつきのひとりぼっち。ひたすらギターを弾いていた中学生時代。ギターヒーロー。隂キャのまま高校生。結束バンド。台風のライブ。かけがえのない仲間。そして、文化祭。フェス。レコーディング……。
理屈はまったくわからないが、これは確かに二度目だ。二回目の人生だ。ならば、……やることはひとつ。
「前世よりももっともっとギター上手くなって、高校生になったら結束バンドでみんなの夢をかなえるんだ!」
ギターヒーローとして活動を始めたのは、その直後のことだった。
お父さんは、かつてギターに青春をかけたはずの自分よりもあっという間に上手くなってしまった小学生の娘のお願いを、快く受け入れてくれた。PCや回線やその他配信機材一式を揃えてくれたのだ。
前世同様に顔見せ声出し一切無し、ストイックなまでにひたすらギター掻き鳴らすだけの動画チャンネル。
動画サイトにまだ『弾いてみた』動画が少ない時期だったこともあるのかもしれない。
だが、自分の身体より大きなギターをかかえ、小さな手で必死に弦をつま弾くのは、どう見ても外見は小学生の少女なのだ。なのに、並みのプロよりもあきらかに上手い。もはや異常と言ってもよいレベルの技術。チャンネル開設直後から注目されたのも、当然のことと言えるだろう。
さらに、いつの間にか幼女は少女に成長していく。演奏技術の進歩も止まらない。動画に映っていないところで膨大な練習していることが、誰の目から見てもあきらか。そんなギターヒーローの成長から、視聴者は目を離せるはずがない。
そんなわけで、ギターヒーローのチャンネルは開設直後から登録数は爆上がり。配信する動画はどれもとんでもないアクセス数を誇ることになった。
そして、大量の好意的なコメントに調子に乗ったひとりは、やらかしてしまう。
前世で好きだったマニア受けするバンドの曲。コピーし何度も練習し覚えていた曲を、……二回目の人生ではまだ世間に発表される前のその名曲を、つい弾いてみた動画として配信してしまったのだ。
本来の作曲者であるバンドがその曲を発表したのは、3日後のことだった。
たちまちネットでは、バンド側の盗作じゃないか、あるいは発表前の流出じゃないかと言い出す者が現れた。音楽関係のメディアで報道されたこともあり、ちょっとした騒動になってしまったのだ。
ひとりが元の曲にかなり独自の大胆なアレンジをいれまくっていたことあり、『偶然の一致』ということでおおきな炎上や裁判沙汰にならなかったのは、本当に幸いだった。
元の作曲者には申し訳ないことをしたと反省している。でも、親を通して直接やりとりした件のバンド関係者によると、騒動のおかげでバンドの一般への認知度も高まり、売り上げはかえって増えたと聞いているので、神様はきっと許してくれるだろう。
……とにかく、この事件をきっかけとして、ギターヒーローの名は一気に世に知られることになった。
チャンネル登録数、動画アクセス数、共に、いまや前世の時の数十倍以上。ひとりが高校生になる頃には、ギターヒーローの名は国内ではトップクラス、世界でも有数のギター演奏配信者として知られるようになっていたのだ。
この世界線のぼっちちゃんは原作以上に有名人です。
次は喜多ちゃん(♂)が出る予定です。