女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
ど、どうする? どうする私?
ぼっちは焦っている。狼狽している。錯乱しているといってもいい。
階段下の人気のないスペースに、男の子と二人きり。肌が触れるほどの至近距離。そして目の前にいるのは、ぼっちがもっとも苦手とする人種。チャラくて陽キャでイケメンな男の子。
ぼっちが溶けてスライムにならずにかろうじて人型を保っているのは、この男の子が喜多ちゃんだから、に他ならない。
た、たしかに、前世と同じ台詞だけど、このウエーイ男子が、本当に喜多ちゃん? もし喜多ちゃんだったら、たとえ外見があれでも、中身はいい子のはずだけど……。
仮にそうだとして、この喜多ちゃん(♂)は、前世同様やっぱりギター弾けないのだろうか? ギターと間違ってベースを買っちゃったのだろうか? 虹夏ちゃん(♂)やリョウさんから逃げてきたのだろうか? そして、……結束バンドに入ってくれるだろうか?
ええーーい。どのみち喜多ちゃんなしの結束バンドなんて考えられないんだ。ここは私が勇気を振り絞って……。
「え、えーと、喜多……くん。ぎ、ギターに興味ありま、す?」
「ん? あ、ああ、ちょっとね」
陰キャ女子から逆に問いかけが返ってくるとは、思っていなかったのかもしれない。喜多ちゃん(♂)は一瞬だけ戸惑った表情になる。
「い、い、い、いま自分のバンドでギターボーカル探してるんだけど……」
そして喜多ちゃん(♂)、ちょっと悲しそうにつぶやいた。
「……ごめん。オレ、ギターに興味はあるんだけど、自分ではまったく弾けないんだよ」
や、やっぱりー。
「ははは。実はオレ、バンドの先輩目当てで弾けるってウソついて入って、結局なにひとつわからなくて逃げちゃったんだけど……」
やっぱりー。
「……ギターって、初心者がひとりで始めるの難しすぎるんだよな。メジャー? マイナー? 野球かよ?」
そこまで同じかー。
「だから、一度逃げ出したオレがもうバンドなんてしちゃダメなんだ、きっと」
そう言うと思ったー。
や、やっぱり、この男の子、見た目はちゃらちゃらしてるけど、まちがいなく喜多ちゃんだ。
ならば、ならば、結束バンドのために、あきらめるわけにはいかない。喜多ちゃんならば、たとえ男の子でもパリピでもチャラ男でも、やる気になってくれるは、ず、……だよね?
「で、で、で、でも。でも、ここでやめたら一生そのこと、引きずるんじゃ……」
それは、決死の覚悟のもとに口にした、ぼっち全身全霊のひと言だった。
イケメンが口をとざす。チャラくない真面目な顔で、黙ってぼっちの顔を見つめる。
あ、……隂キャからこんなこと言われて、お、おこっちゃった?
頭から血の気が引いていく。足元からスライムに変わっていくぼっちの身体。
「ふーん。……ならさ、後藤さん。オレにギター教えてくれよ! オレの先生になってくれ! いいだろ!!」
……よかった。前世の喜多ちゃんと同じ台詞。ぼっちは息をつく。スライムになるのはやめる。
前世では、断りたくても断りきれず、いやいや引き受けたギターの先生だったなぁ。でも、今回は断るはずなんて……。
「こんな上手い後藤さんが教えてくれるなら、頑張れそうな気がするぜ」
ぼっちの眼前、正面から見つめる小さな顔。長いまつげ。整った鼻筋。キラキラと飛び交うオーラ。香水の香り。
ややややっぱりむむむむりむりむりむり! むりぃ! 断れーい、私。
「今度こそギター弾けるようになって、前のバンドの先輩に謝りに行くんだ!」
喜多君(♂)が、嬉しそうにぼっちの両手を握る。
ひーー。
とっさに顔を背けるぼっち。今度は全身が溶け始める。
で、できるのか、わたし? このキラキラオーラ全開のちゃらちゃら喜多ちゃん(♂)のギターの先生が? 本当に、できるのか?