女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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喜多ちゃん(♂) その3

 

「で、で、でも。ここでやめたら一生そのこと、引きずるんじゃ……」

 

 ぐさっ。

 

 後藤ひとりの言葉が心につき刺さった。

 

 うすうす自分でもそう思っていたことを正面から指摘されたからだ。……後藤ひとり本人は正面どころか横向いたままだったけど。

 

 

 

 

 後藤ひとり。隣のクラスの女。

 

 話したことは一度もないが、名前くらいは知っている。ある意味で、校内の有名人だから。

 

 いわゆる不良とか他人に迷惑を掛けるような生徒ではない。いじめられているわけでもない。ないが、いつもひとりぼっち。誰かと話しているところを見たことが無い。いわゆる陰キャ。それも究極の。

 

 それでいて、制服を拒否していつもピンクのジャージを着用し、身体に似合わぬでっかいギターを背負って登校してくるアウトロー。噂にきくところでは、ライブハウスに出入りし学外でバンド活動をしているとか。

 

 自分で言うのもなんだが、オレは学校の中でもかなり友達の多い陽キャの部類だと思う。いつもつるんでいるのも、男女問わず似たような連中ばかりだ。

 

 そんなオレにとって、後藤ひとりはまったく未知の存在だ。どう付き合えばいいのか、なんと話しかければ良いのか、見当もつかない相手だ。これはオレだけでない。学年全体、いやおそらく先生も含めた学校全体にとって、似たようなものだろう。

 

 いわゆるスクールカーストの上位とか下位とか、そんな枠を超越したアンタッチャブルな存在。それが後藤ひとりなのだ。

 

 

 

 だが、それでもオレは、いま彼女を無視するわけにはいかない。

 

 最近、オレは柄にもなくとあるバンドのとある先輩にあこがれてしまった。オレの好みど真ん中の中性的なルックスでいつもクールな人。

 

 淡々と演奏しながら自分の手元に向けた真剣な眼差し。メンバー達に視線を向けて厳しい表情。そしてときおり、本当にときおり観客に見せる、とろけるような笑顔。

 

 とにかく、ギター(?)をつま弾く姿勢、演奏する際の立ち居振る舞いが格好いい人なのだ。きっとそれは、音楽に対する姿勢、いや人生に対する振る舞いそのものなのだろう。

 

 舞い上がったオレは、いつものノリで軽い気持ちで声をかけた。だが、玉砕。まるっと完璧に無視されてしまった。プライドを傷付けられたオレは、ギター弾けるとウソついてそのバンドに入れて貰った。いつも通り、ノリとコミュ力と押しの強さで何とかなると思い込んでいたのだ。

 

 しかし、……ギターとかバンドとかは、そう甘いものではなかった。結局なにひとつできなくて、尻尾を巻いて逃げてしまった。

 

 いつもヘラヘラしているオレだが、それでも人間らしい罪悪感はある。責任も感じている。なによりあこがれの先輩に軽蔑されたくない。しかし、こんな情けないことを友達になんて相談できない。

 

 ……あああ、こんな土壇場になっても、こんなチンケなプライドにしがみついているオレ。本当になんて情けない。こんな自分がイヤになる。

 

 そんな時、見てしまったのだ。階段下の謎空間で、後藤ひとりがギターを弾いている姿を。

 

 技術的なことはいまいちわからないが、その音色はまるで歌声のようでとても心地よかった。いつものおどおどした姿ではなく、ギターだけに集中し一心不乱に弦をつま弾いている彼女は、端的にいって、……格好良かった。憧れの先輩の横に立っても遜色ないと思えるほどに。

 

 そして、軽い気持ちで声をかけただけのオレに向かって、逆に放たれたこの台詞。

 

「ここでやめたら一生そのこと、引きずるんじゃ……」

 

 そうだ。そうだな。その通りだよ、後藤ひとり。

 

 もし後藤ひとりにギターを教えてもらえたら、オレもバンドの先輩に謝りにいける。……きっと。

 

 

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