女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「オレさ、今度こそちゃんとギター弾けるようになって、前のバンドの先輩達に謝りに行くんだ!」
喜多君(♂)が、嬉しそうにぼっちの両手を握る。
ひーー。
喜多君(♂)のオーラ、眩しいだけでなく圧が強い。強すぎるぅ。
溶けかけたぼっちの身体が、吹き飛ばされた。
はっ!
ぼっちが目を覚ます。いつの間にか人間に戻っている。目の前で喜多君(♂)が苦笑いをしている。
「あーゴメン。まさか手を握っただけでスライムになるとは……」
え? わ、わたし、気を失って……? まさか、喜多君(♂)が介抱してくれた? よ、よだれとか、垂らしてないよね??
ジャージの袖で口の周り拭くぼっち。喜多君(♂)が、それを見ない振りしてくれている。
「でさ、さっきの話どう?」
えっ?
「オレにギターを教えてくれるって話」
「あ、そ、そして謝りに行くんですよね。それが、いいと思います」
……わたし知ってます。喜多君(♂)は、それができる子だということを。
「じゃ、いつ教えてもらえる? 放課後? ライブハウスでバイト? じゃあ、その後でいいから!」
押しの強さは前世と同じ。さすが喜多君(♂)。
「あ、はい、で、では、ライブハウスに、行きましょう」
喜多君(♂)、……STARRYに行ったらびっくりするだろうなぁ。でも大丈夫、虹夏君(♂)もリョウさんもいい人だから。わかってくれるから。
STARRYまでほど近くの地点。喜多(♂)が急に立ち止まった。
「バ、バイト先って、下北沢だったのか……」
ぼっちは喜多(♂)の後ろに隠れる。これから何が起こるのか知っているのだ。
「ご、後藤、さん? なに?」
おそるおそる喜多(♂)の袖を掴むぼっち。自分から男の子に触れるなんて、この人生初めてかもしれない。
「き、き、喜多君、……おねがいです。逃げないで」
へ?
「ば、バイトの場所はSTARRYってとこで、バンドには、虹夏君(♂)とリョウさんが……」
えっ? ええええ? ……ご、ごめん、オレ、やっぱり帰……。
だが、運命は喜多(♂)を逃さなかった。
「あ、ぼっちちゃーん、……って、あー、逃げたギターー! てめぇ、そこを動くなよ!!」
男の子の怒号。凄まじい勢いで駆け寄る水玉のはちまき少年。虹夏(♂)だ。
あひいいい!
その迫力に、喜多(♂)は動けない。そのまま襟を掴まれる。力尽くでぼっちから引き剥がされる。虹夏(♂)の腰が入る。次の瞬間、喜多(♂)の身体は宙を舞った。
え、え。えええ?
あまりにも衝撃の光景。その場で硬直するぼっち。
ぜぜぜ前世では、ケンカになんかならなかったのに。お、男の子って。
「おお綺麗な背負い投げ」
冷静に、いつもどおり抑揚無い声で解説してくれるのは、リョウさんだ。いつの間にか、二人から庇うようにぼっちの前に立ちはだかっている。
「虹夏は柔道をやってたんだ」
そ、そんな呑気に! ととと止めなきゃ、ふたりを!
またもや身体半分スライムになりながら、そして地面に這いつくばりながら、それでもじたばたとふたりの間に割り込もうとするぼっち。
だ、だ、だめです。だめです。虹夏ちゃんと喜多ちゃんがケンカするなんて!
だが、そんなぼっちをリョウさんが止める。
「喜多は抵抗する気が無いみたいだ。虹夏もこれ以上ひどいことはしないよ」
「そうか。喜多、おまえ、ギター弾けなかったのか……」
「ご、ごめん、……なさい。許してください。この通り」
STARRY、床に土下座する喜多(♂)。それを取り囲む虹夏(♂)とリョウ。
その様子を、ぼっちはおそるおそる眺めている。マンゴーの段ボールの中から。
人生二度目のお姉さんとしては、もしまたケンカになったら止めなきゃと思っていたのだが、やっぱり男の子同士のやりとりはちょっと恐い。
「……突然音信不通になるから心配してた」
「伊地知先輩。山田先輩。……お、おこらないんですか?」
「まぁ、さっき投げ飛ばしたし。気付かなかったオレ達も問題あるし、……喜多のおかげでぼっちちゃんに出会えたしな」
(よかった。本気のケンカになったらどうしようかと心配だったけど……)
虹夏ちゃんは、たとえ男の子でもやっぱり優しい虹夏ちゃんだ。
「ところで、喜多。正直に答えて欲しいんだが、……おまえ、リョウが目当てでオレ達のバンド入ろうと思ったのか?」
開店前の店内。四人でテーブルに座り、雑談が始まった。まるで昔からの友人のように、虹夏君(♂)が親しげに話しかける。
「えっ? えーと、その、……はい」
顔を真っ赤にした喜多君(♂)。モジモジとした仕草が可愛らしい。
うふふふ。この世界の喜多君(♂)も、やっぱりリョウさんが好きなのね。
「ふーーん。なぁ、喜多よ。おまえ、見た目チャラくて女好きそうにみえるんだが。……単刀直入に聞くぞ。おまえ、女の子が好きか?」
「え、ええええ? チャラいとか、ハッキリ言うっすね、伊地知先輩。もう恥かきついでだからはっきり言っちゃうけど、……好きです。女の子大好きです。特に山田先輩みたいなちょっと浮世離れしてユニセックで楽器が様になってる女の子もろに好みなんです、オレ」
やけくそで答える喜多君(♂)。ちらちらと視線をリョウさんに向けるが、当のリョウさんはうつむいたままで表情がみえない。
「ほほぉ、なるほど。しつこいようだが、おまえの恋愛対象は男じゃなくて女の子なんだよな。それでもリョウが好きか?」
「しつこいっすね! オレは山田先輩が好きだ。一目惚れで悪いっすか! ……はっ、ま、まさか、もしかして、伊地知先輩と山田先輩は実は付き合ってる、とか?」
今度は真っ青になる喜多君(?)。
もちろん私もビックリしている。虹夏ちゃんとリョウさんは確かにとても仲良しな幼馴染みだったはずだけど……。あっ、でも、この世界の虹夏君(♂)は男の子だから、そんな関係の二人もありえる?
「そうじゃなくて、……うーん、なんと言えばいいのか」
虹夏君(♂)、頭をボリボリかきながら、困り切った顔。私もわけがわからない。
「リョウ、いつも紛らわしい格好してるお前が悪いんだぞ」
「虹夏、……ボクから言うよ。見せた方が早いかな。ぼっち、……君はちょっと外へでててくれないか?」
え? え? え? りょ、リョウさん、なぜ上着を脱ぎ始めたの?
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