女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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なんかよさげな壁の前

 

「えー、みんなに今日集まってもらったのは他でもない。アー写を撮るぞ!」

 

 とある休日。結束バンドの打ち合わせ。メンバーを前にして宣言したのは、リーダーである虹夏(♂)だ

 

 ……あ、あれ? たしか前世でもこんなことがあったような気がするけど、今日だった、かな?

 

「アーティスト写真のことっすか、伊地知先輩?」

「そうだ。4人揃ったし、暇なうちに撮っておこうかと」

 

 そう。そうだ。たしか、わたし、みんなで撮った写真がうれしくて、ポスターにして部屋の壁と天井一杯に張り尽くした記憶が……。

 

「どんな写真にするんすか?」

「そりゃおまえ、なんかよさげな壁とかの前で決めポーズだよ」

「ノープランじゃないすか」

「まぁなんとかなるだろ。ほらぼっちちゃんも、レッツらゴー」

 

 STARRYの備品扱いだというちょっと本格的な一眼レフと三脚をもちだしてきた虹夏(♂)を先頭に、四人は下北沢に繰り出した。

 

 よ、よくわからないけど、あのカメラならきっと、綺麗な写真が撮れるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

「あ、あのー、あっちに、なんかよさげな壁が……」

「おおお、さすがぼっちちゃん」

 

 ぼっちが前世の記憶を頼りに見つけたよさげな空き地。よさげな壁。その前に虹夏が三脚をセットする。

 

(そ、そういえば、……前世の時のアー写。私はうれしかったけど、みんなはどうだったんだろ?)

 

 パシャ!

 

 良い天気。絶好のアー写日和。しかし、ぼっちはふと不安になる。二度目の人生、多少なりとも心に余裕があるからこそ感じてしまう余計な不安なのかもしれない。

 

 パシャ!

 

(も、もしかして、私みたいな暗い女が映っていた写真、……本当は私以外はそんなに嬉しくなかったのかも)

 

 パシャ!

 

「うーん、いまいちバンド感がないなぁ。お通夜みたいだ」

「ジャンプとかどうっすかね? 絵になるし、みんなの素の感じとか出そうだし」

「有識者が言っていた。OPでジャンプするアニメは神アニメ……と」

 

(そ、そ、そのうえ、今の結束バンドは男の子もいるし。あ、今日もわたし、よりによってこんな華やかさのかけらもない格好で……。みんなは普段からオシャレで格好いいのに)

 

 ぼっち人生二度目である。いまさら服装に関する信念(?)を曲げるつもりは無いが、自分のセンスが他人とほんのちょっとだけ異なるかもしれないという事くらいは、自覚している。

 

「じゃあ、とりあえずジャンプしてみるか。撮るぞ! 5,4,3……」

 

 はっ!

 

 自分の世界に入っていたぼっち。虹夏(♂)の声で我に返る。

 

「ほら、後藤さん、ジャンプ!」

 

 えっ? えっ?

 

 パシャ

 

 

 

 

 映像を確認する虹夏(♂)がその場で固まっている。

 

「虹夏、どうした?」

「伊地知先輩、どうしたんです?」

 

「こ、こ、これは、失敗だ。撮り直そう! みんなもう一度ならんで! あ、ぼっちちゃん、……ジャンプは控えめにね」

 

 虹夏(♂)があわてて叫ぶ。うわずった声。あきらかに普段とは違う挙動不審。

 

 ピン!

 

 ピンと来た。リョウの脳髄にビックリマークがきらめいた。付き合いの長い幼馴染みの不審な動きに気づかないわけがない。

 

「……虹夏。その『失敗作』ボクにもみせて」

 

 リョウが虹夏ににじり寄る。

 

「だ、だめだ!」

「なぜ? ボクと虹夏の仲なのに」

「リョウはだめだ! こ、これは、呪いの心霊写真だ!」

「ウソだね。……ぼっち、なんだろ?」

「リョウ! おまえ、こーゆー時だけ妙にカンがよくなりやがって」

 

 ピン!

 

 じゃれあう幼馴染みふたりの様子に、喜多(♂)も何かに気づいた。

 

「伊地知先輩! その写真オレにも見せてください!!」

「うわ、喜多、おまえまで。だめだったらだめ!」

「いいじゃないですか! ずるいぞ、先輩!」

 

 

 

 

 ピーン!

 

 アホな男子達の様子に、さすがのぼっちも気付く。気づいてしまった。前世の記憶がよみがえる。

 

 アー写? ジャンプ? スカート? あっ!!

 

 ぼっちの頭から血の気が引く。前世の時は申し訳ないとは思ったものの、それほどたいした問題ではなかった。全員女の子だったから。しかし、この世界の結束バンドは前世とは違う。主にメンバーの性別が……。

 

「あ、あ、あの、虹夏、くん!」

 

「は、はい!」

 

 虹夏(♂)がその場に固まる。全身硬直。動けない。

 

「あの、その、むむむ無価値な物を映して、もうしわけありません。ごめんなさい。ごめんなさい。……お、おねがいだから、消して、くだ、さい」

 

 その場で消え入りそうなぼっちの声。虹夏(♂)の背中を冷たい物がつたう。自分がとんでもなく悪いことをしているような気がしてきた。

 

 虹夏(♂)、反射的にその場で土下座。全身全霊の土下座。他に何をすべきなのか、まったく思いつかない。

 

「ぼ、ぼっち、ちゃん。こ、これは事故だ! 事故なんだ!!」

 

「お、おねがいだから、消して、ください。・・・ほ、本当にごめんなさい」

 

 目の前で蒼白な顔をしてうつむいているぼっち。全身がプルプルと細かく震えている。

 

 

 

 

 ええ? も、もしかして、ぼっちちゃん、……怒ったり恥ずかしがっているのではなくて、本気で『無価値な物を見せて申し訳ない』と思っている?

 

 精神が小中学生からあまり成長していない熱血ロック純情少年である虹夏(♂)としては、ぼっちに怒られることはもちろん覚悟していたが、もう少しかわいらしい反応を予想していた。こんな反応はまさかまさかの予想外だった。

 

 唖然。愕然。そして、虹夏の脳裏に次に浮かんだ感情は、……怒り、だった。

 

 この子は、なぜこんなに自分に自信がないのだろう? なぜこんなに自己評価が低いのだろう? 卑屈になってしまうのだろう?

 

 前座の前座お情けライブの時、ぼっちちゃんがどれほど格好よかったのか。練習のたび、オレやリョウがどれほど君に頼っているのか。そして、自分がどれほど魅力的なのか。……なぜ、それを、わかってくれないのか!

 

「ぼ、ぼっちちゃん!」

 

 虹夏(♂)がさけぶ。ぼっちに迫る。

 

 は、はい?

 

「君が謝る必要なんて無いんだ!」

 

 で、で、で、でも、見苦しい写真を撮らせてしまって……。

 

「ちがう! 見苦しくなんてない! あの写真はオレにとってはすごい価値があるものだ!」

 

 え……?

 

 頭に血が上った虹夏(♂)。自分で何を言っているのかわかっていない。

 

「いいものを見せてもらってオレはむしろ嬉しかった!」

 

 ええええ?

 

「この写真はオレの一生の宝物にする!」

 

 さ、さ、さすがに、それは、……。

 

「ポスターにして部屋中に貼りまくる!」

 

 やめてぇ!!!

 

 

 

 

「このまま見てても面白いけど、さすがにそろそろ止めた方がいいかな……。喜多!」「はい!!」

 

 リョウにうながされ、喜多(♂)が動いた。虹夏(♂)を後ろから羽交い締めにする。

 

「お、おい、喜多」

 

 ポムっ!

 

 そして、リョウが虹夏(♂)の頭頂部にハリセンを振り下ろす。

 

「リョウ、な、なにを」

 

「虹夏、君の気持ちは理解できなくもないが、いい加減にした方がいい。……みろ。ぼっち、ドン引きしてるじゃないか」

 

 そこには、プルプルと震えながら、まるで汚物を見るような目で虹夏(♂)を見る、一匹のツチノコがいた。

 

 あ……。

 

 

 

 

 

 パシャ!

 

 男子みんなで謝り倒し、なんとかぼっちに復活してもらって再度取り直したアー写は、なかなか良いできだった。

 

 背は低いが無駄にジャンプ力がある元気小僧の虹夏(♂)。背は高いが気だるげでやる気の無いジャンプのリョウ。おちゃらけたホストのような喜多(♂)。そして、うつむいたままほとんど跳躍していない小さなぼっち。四者四様、動きと表情の大きすぎる落差がかえって躍動感を感じさせている。

 

「いろいろあったが、バンド感に青春っぽさと個性がプラスされた良い写真が撮れたぜ。カメラマンの腕がいいからな」

「虹夏はセクハラしてセルフタイマーをセットしただけ」

「写真のデータオレにもください」

「あっ私も……」

 

 初めて、……じゃないけど、この世界でやっと巡り会った結束バンドみんなとの写真。しかも、男の子もいるし。わ、わたし、もしかして、すでに陽キャ女子なのでは?

 

 にへへへ。

 

 スマホを眺めながら、だらしない顔で笑うぼっち。

 

 前世と同じようにポスターにしよう!

 

 

 

 

「えーと、先輩? どうせみんなで共有するならさ、一人づつ、……じゃなくてツーショットの写真も、撮りません、か?」

 

 そろそろ帰ろうかと三脚をかたづけていた虹夏(♂)に対して、喜多(♂)が声をかけたのはその時だった。ふと思いついた風を装っているが、実はずっと声をかけるタイミングを計っていたのは、喜多(♂)だけの内緒だ。

 

 えっ?

 

「ツーショットって、二人づつの写真ってことか? いまさらリョウと撮ってもなぁ」

「せっかくいいカメラだし、バンド結成の記念になるかなぁ、……なんて」

「……いいかもね、やろう」

「あれ? リョウも?」

 

 幼馴染みの親友は、この手のことはとにかく面倒くさがる男だったはずだが、……って、え?

 

 虹夏(♂)は気付いた。リョウと喜多(♂)の視線が誰に向いているのか。たった今共有されたアー写をスマホでながめながらニヤニヤしている少女。普段は個人的な写真には絶対にうつりたがらない少女。練習やバイトの合間にスマホを向けても、すぐにゴミ箱に隠れてしまう少女。

 

「あ、あー、そうだな。バンドメンバーの親睦を深める意味でも、二人づつの写真もいいかもな。……ぼ、ぼっちちゃんも、いいよ、ね?」

 

 え、ええええ? 私とみなさんで写真二人きりの写真撮って、お互いに共有されるってこと? ちょっと恥ずかしいけど、みなさんがいいなら……。

 

 

 

 

 その日の夜、ぼっちの部屋の押し入れがメンバーとの一緒の写真で埋め尽くされた。前世と同じだ。

 

 うへへへ。

 

 ただ、前世と違う点がひとつだけ。

 

 あ、あれ? この写真の前で着換えるの、……なんか、恥ずかしいな。

 

 着換える前。ぼっちは、結束バンドのメンバーと二人づつぎこちなくおさまったツーショット写真のフォトフレーム達を、そっと倒す。

 

 ついでにその頃。虹夏(♂)とリョウと喜多(♂)の部屋にも、それぞれとぼっちとのツーショット写真が飾られたことを、さらにスマホの待ち受け画面にされちゃったことを、ぼっちはまだ知らない。

 

 

 

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