女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「あ、へっ、へぃ大将、やってるぅ?」
リョウさんに歌詞を見てもらうために待ち合わせしたおしゃれカフェ。前世の記憶はあるものの、ぼっちにとってはやっぱり一人では入りづらい。どうやって入ればいいのかわからない。だから、前世同様のかけ声とともに店に入ったのだが……。
「へいいらっしゃい!!」
ほっ。
ぼっちは胸をなでおろす。
威勢良く応えてくれてありがとうございます、リョウさん。さすが、この世界でもノリは変わらないんですね。
おしゃれカフェのカウンター。気だるげな雰囲気を漂わせたリョウさん。右手に握っているのがカレーのスプーンでも、口の中に頬張っているのがラッキョウでも、それがかえって絵になるなぁ。背も高いしモデルみたいであいかわらず綺麗で格好いい。私もあと十回くらい生まれかわったら、こんな女性になれないかなぁ。
「……早く歌詞見せて」
「あっ、はい。お願いします」
「うむ。拝読いたす」
歌詞ノートを差し出す。心臓のドキドキが高まっていく。
(り、リョウさん、私の歌詞をみて、なんて言ってくれるかな)
「……ぼっち的にはこの歌詞で満足?」
やっぱりー。
はっきりとは言わないけど、あきらかなダメ出し。
(この世界のリョウさんを試したつもりはないけれど……)
それは、我ながら薄っぺらい応援ソング。前世のリョウさんにダメだしされた歌詞。でも、この世界で私の歌詞を歌うことになるのは、前世よりも遙かにチャラチャラしてパリピでしかも男の子である喜多君(♂)だ。
さすがのぼっちも、前世のような隂キャ女子属性全開の超尖った歌詞をこの世界の喜多君(♂)に歌わせるのは、さすがに申し訳ないのではないかと思ってしまった。だから、まずはリョウさんにこれを見せ、意見を聞きたかったのだ。
「ぼっち。……正直な気持ちが聞きたい」
珍しく真面目な顔のリョウさんが、静かな口調で問い掛ける。
は、はい?
あれ? 前世とちょっと違う展開のような……。
「結束バンド、楽しい?」
え?
それは、ぼっちにとってあまりにも意外な問いだった。
……この人は、いったい、なにを言っているんだろう?
「この歌詞、ぼっちの性格と違いすぎる。性格の明るい虹夏やチャラい陽キャの喜多に合わせようと無理してるんじゃないのかい?」
え? え? え? 性格と違いすぎるのはその通りですけど、む、無理なんて、していないです。
「歌詞だけじゃない。ぼっちのギター、上手すぎる。虹夏や喜多はもちろんボクとくらべても、演奏の技術レベルが違いすぎる。ボクは心配なんだ。……もしかして、合わせるの苦労しているんじゃない? 演奏たのしくないんじゃない?」
そ、そ、そんなこと、ないです。結束バンドとても楽しいです。……リョウさん、どうして、そんな事いうんですか?
「ぼっち。はっきり言うよ。ボクは、音楽が好きな人が好きだ。だからぼっちが大好きだ。だからこそ、ぼっちには、意に沿わない音楽をやって欲しくない。もし結束バンドが楽しくないのなら、やめても……」
や、やめてください!!
おしゃれなカフェが一瞬しんとなった。ぼっち、前世と今世を通じてもっとも大声が出た瞬間かもしれない。
「りょ、リョウさん。私は、……結束バンドが大好きです。結束バンドのみなさんとと過ごす日々がとても充実しています。下手くそな歌詞を見せたことは謝りますから、そ、そんなこと、……言わないでください。おねがい、です、から」
リョウはぼっちの大声に驚いている。いつもよりも目を見開いて、ぼっちの顔を凝視している。
「ごめん。……ぼっちのことを考えたつもりだったんだけど、ボクのひとりよがりだったかもしれないね」
そして、素直に謝ってくれた。
わ、わわわたしこそ、ごめんなさい。私みたいな陰キャが大声出してしまって、……この場で切腹してお詫びを!
「それはいいから。……ボクの方こそ、曲の話になると興奮しちゃうことがあるみたいだ。本当にごめん」
……リョウさんが音楽に対していつも真剣なのは、前世のときから知ってます。
「ぼっちが結束バンドにかける想いはわかった。……じゃあ、歌詞、なおしてくれる?」
「じ、実は、……歌詞、あといくつか用意してあるんです。こっちの方が私らしいと思います。リョウさん、みていただけますか?」
真剣なリョウさんに対して、私も出し惜しみはしない。たとえ二周目のズルだとしても、二度の人生経験のすべてをぶつけなきゃ失礼だよね。
苦笑いしながら再びノートを読み始めるリョウさん。次第に顔が真剣になる。
歌詞のタイトルは……『ギターと孤独と蒼い惑星』。
「へぇ、いいね。……これを喜多郁代に歌わせると思うと、ゾクゾクする」
ちょっとサディスティックな顔になるリョウさん。
「この『あのバンド』もいい。ぼっちらしいと思う。きっと深く刺さる人がいる。少なくともボクには刺さりまくりだ」
ニヤリと笑う不敵な顔。まるでいたずらっ子が悪巧みを思いついたような。
あ、あれ? リョウさん、前世でこんな表情したかな? そ、そ、そして、えーと、じ、自分でもよくわからないけど、リョウさんのこんな顔をみて、私もちょっと、……ゾクゾクしてしまった。
「曲が湧いてきた。ぼっちとはいろいろ話したいことがあったんだけど、……今日は帰る」
「ま、まってください!」
決死の思いで声をかける。自分でもどうしてなのかよくわからない。
「じ、じ、実は、第三弾もあるんです!」
ここまでは、前世の私が作った詞。でも、この世界に生まれてきてからの、……二周目だからこそ作れた詞もあるんです。
ついさっきまで、これはまだ誰にも見せるつもりはなかった。自信がなかった。だけど、さっきのリョウさんの顔をみて、どうしても読んでもらいたくなった。
「……もしかして、ボクを試してる?」
今度は、ちょっといぶかしげな顔になったリョウさん。
「ち、違うんです。リョウさんを試すなんて、そんなおそれおおいことするわけがありません。……まだ歌詞にもなっていない、私の想いを綴ったつづったものなんですけど、どうしてもリョウさんに見て欲しくて」
「ふむ」
「わ、わ、わたし、ずっとひとりで、孤独で、陽キャが苦手で、世間が恐くて、でも誰かに見つけて欲しくて……。さっきの歌詞は、そんな気持ちを正直に綴ったものなんです」
(……それが前世の私)
「そうだね」
「で、で、で、でも、今はちょっとだけ違うんです。まるで運命のように結束バンドのみんなとまた巡り会えて、嬉しくて、楽しくて。だけど、もともと陰キャな私は、そんな感情をどう表現すればいいのか、二度目なのにいまだにわからなくて……。リョウさんに、それを教えて欲しいんです」
(二周目の私は、一周目と同じじゃない。結束バンドのみんなが前世と違うように、私も少しは違っている。成長している。どっちも私だけど、リョウさんには両方を見て欲しい)
リョウさんは、ちょっと不思議そうな目をして、だけどすぐに元のクールな顔に戻った。
「わかった。みせて」
数分後。
「これは……」
ノートを読み終えたリョウさんが、顔をあげ……ない、そのままプイと横を向く。手の平で顔を覆って、なにやら鼻をグシグシと言わせている。わずかに覗く頬が赤いような気がする。
……それは、ぼっち自身が言うとおり、歌詞にすらなっていないただの詩。散文。文字の羅刹。
先に見せた歌詞が前世のぼっちが世の中にぶつけた心の叫びだとすれば、これは今のぼっちの結束バンドに対する思いのすべてを素直な言葉にしたものだ。
みんなに会えた喜び。
仲間にしてもらえた感謝の気持ち。
そして、また結束バンドで再び演奏できたことの感動。
今のぼっちは、そんな気持ちを心の中だけにとどめておくことができなかった。あふれる想いを、誰かに聴いて欲しかった。
……のだが。
りょ、リョウさん。呆れてる? じ、じぶんでもあまりにも青臭い詞だと思ったし、ややややっぱり見せなきゃ良かった。
「ご、ごめんなさい。恥ずかしいです。見なかったことにしてください!」
ノートをひったくろうとして、……リョウさんに取り返される。
「これ、ぼっちの本心だと言ったよね」
は、はい。恥ずかしい、ですけど、……はい。
(ぼっち、ここまで結束バンドのことを……。まだオリジナル曲もない、正式のライブすらしたことないボク達なのに)
「じゃ、じゃあ、……受け取るよ。結束バンドに対するぼっちの気持ちは、たしかに受け取った」
あ、ありがとうございます。
(ぼっち、ありがとうはこちらの台詞だよ)
しかし、そんなリョウの気持ちを理解できるほど、残念ながらぼっちは成長できてはいなかった。
……リョウさん、視線を合わせてくれないのはなぜ? 顔が真っ赤なのは?
「でも、曲はしばらく待って。……ボクも、気持ちを整理したい」
え?
(こ、こんなストレートな結束バンドメンバーへの告白みたいな歌詞、虹夏がみたら鼻血ふくだろうな。喜多は泣くかもしれない。ボクだって……目の前のぼっちを抱きしめるのを我慢するのに必死だし)
え? え?
「な、なんでもない。まずは、さっきの『ギターと孤独と蒼い惑星』『あのバンド』だね。絶対いい曲にするよ」
「は、はい。おねがいします」
そこはぜんぜん心配してませんから。
リョウを見上げるぼっち。リョウに対する絶対の信頼を感じさせる眼差し。至近距離で視線を合わせたリョウの顔が、ますます赤くなる。そして、数瞬の沈黙の後、リョウの口が開かれる。
「……ごめん、お金ないからおごって」
えっ!
「絶対に返す。だから、毎日直接面と向かって請求しにきて欲しい。……これからもずっと」
は、はぁ。……意味がよくわからないけど、こーゆーところはかわらないなぁ、リョウさん。