女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
下北沢高校2年、伊地知虹夏はテンパっていた。
虹夏はドラムに青春をかけるロック小僧だ。そして、今日の夕方、生まれて初めてのライブだ。なのに、……あろうことか、バンドのギターにすっぽかされてしまった。連絡もとれない。
もう残り時間はほとんどない。しかしそれでも、たとえ無駄だとわかっていても、熱血小僧である虹夏(♂)は、なにもせずじっとしてはいられなかった。野良ギタリストを捜しに、下北沢の街に出たのだ。
「……とはいえ、いるわけないよな。野生のギタリストなんて」
バンドの新メンバーとは、もっとお互い親しくしておくべきだった。のらりくらりと言い訳して練習に参加しない時点で、きちんと話をしておくべきだった。せめて連絡先くらい確認しておくべきだった。
……思い出作りのライブの機会を作ってくれた店長に、なんて言い訳をしようか。悔やんでも悔やみきれない。後悔と反省が頭のなかでぐるぐると回っている。
そして、公園で足が止まる。
視線の先、ブランコに人が揺られているのだ。高校生くらいの女の子。
ピンク色のジャージ? そんなことは問題ではない。背中に背負っているのは……。
「あああ、ギターッッ! それギターだよね? 弾けるの!?」
気づいたときには、その娘に声をかけていた。
「虹夏、……ちゃん?」
「……ど、どうしてオレの名前知ってるの? 虹夏って」
あまりの衝撃に固まったままのひとり。
「あ、あ、あ、そ、そろそろ、二時かなぁって……」
それでもなんとかごまかそうと声を出せた事こそ、人生二度目でちょっとだけ成長した証なのかもしれない。
「二時って、もう夕方だよ。 あ! いきなりごめん。オレ下北沢高校2年。伊地知虹夏」
伊地知虹夏? やっぱり、この人が虹夏ちゃん?
「……オレの顔に何かついてる?」
「あ、え、ええええーと、その、あの、……虹夏って、可愛らしい名前、ですね」
虹夏ちゃんが男の子?
ひとりの頭の中は真っ白だ。
虹夏ちゃんと出会ったら、今度は笑顔で応えようと思っていた。大人になった余裕を活かしてちゃんと挨拶しようと考えていた。しかし、さんざん考えていた言葉は、すべて消えてしまった。
「え? あ、ああ。母さんがつけてくれた名前なんだ。女の子みたいでちょっと恥ずかしいけど、オレは気に入ってる。……君の名前は?」
「あ、あ、あ、え、えーと、ご、ご、後藤ひとりです」
「オレ、バンドでドラムやってるんだ。後藤ひとりちゃんはギターどれくらい弾けるの?」
い、いきなり名前? 男の子に名前を呼ばれるなんて!
ひとりの脳みそはますますテンパる。
「あ、ええと、そ、そこそこ、弾ける、と、おもい、ま、す」
「ラッキー! お願いだ! 今日だけサポートギターしてれないか! 頼む!!」
「あ、え? そ、その、あの……」
「ありがとう!! 早速ライブハウスへGO!」
虹夏(♂)が手を握る。男の子の手。大きくて強い。強引に引き寄せられる。
え、えええええ! 心の準備がぁ!!