女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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この世界のギターヒーローは、原作よりも十倍増しで有名人です。




ある日のSTARRY

 

「いい歳したおじさんがスマホ見てニヤニヤするのやめた方がいいですよ、店長」

 

 開店前のSTARRY。カウンターに腰をかけスマホを眺める無精ヒゲの男。その隣でため息をついている黒い服の女。PAさんが店長(♂)に声をかけたのだ。

 

「え? 一応確認したいんだけど、おじさんって、まさかオレのこと?」

「他に誰がいるんです?」

「アラサーという点ではおまえだってかわらな……、いえ、なんでもありません。ごめんなさい」

 

 PAさんが睨む。店長(♂)が黙る。数瞬の沈黙の後、ふたたび口を開く。

 

「……で、もうひとつ確認したいんだけど、オレ、にやにやしてた?」

「ええ。文字通りの『おじさん』という顔で、ちょっと気持ち悪いくらい。……何をみているんですか?」

 

 店長(♂)がショックを受けて固まっている。そこにずいっと身体ごとのしかかり、横からスマホを覗き込むPAさん。

 

「べべべ別にエッチなサイト見てるわけじゃないぞ。ほら、単なる『ギター弾いてみた動画』だ」

 

 スマホ画面に映っていたのは、ギターを掻き鳴らすピンク色のジャージの少女だ。

 

 

 

 

「あ、ギターヒーローさんですね」

「知ってるのか?」

「もちろん。彼女のチャンネル登録者数いくつだと思ってるんですか。音楽関係では国際的に有名人ですし、配信界隈でも話題ですよ」

「へぇ。まるで自分も動画配信やってるみたいな言い方だな」

 

 PAさんが視線をそらす。顔を背ける。そのまま会話の方向をそらす。

 

「で、そのギターヒーローさんが、どうしたんですか?」

「あ、いや、もともとギターの技術は卓越してたんで昔から注目していたんだが、最近ますます凄いんだよ。表現力が一気に増したというか。……まだ高校生なのに、いったいどれだけ練習してるんだろうなぁ」

「下北沢のライブハウスの経営者ともあろう人が、またずいぶんと彼女をかってるんですね」

「ああ。STARRYでライブやってほしいなぁ、と思う程度にはかってるよ。……こんな場末の弱小ライブハウスで単独のライブなんて絶対にやってくれないだろうけどな」

 

 へぇ。

 

 PAさんが、あらためて店長(♂)の顔を見つめる。

 

 この店長(♂)。仕事に関することにはいたってマジメで家族思いで基本的に善人なのだが、性格がかなり捻くれている。あまり他人を誉めることはない。その彼にここまで言わせるギタリストとは。

 

「……で、ニヤニヤしていたのはなぜなんです? 女子高校生であるギターヒーローさん相手に、よからぬ妄想でもしていたんですか?」

 

 今日のこいつはしつこいな。……などと考えながら、店長(♂)は観念して正直にこたえた。

 

「チャンネルでリクエストしたら、答えてくれたんだよ。ほら、この曲」

 

 金髪無精ヒゲが嬉しそうな顔でスマホをかざす。PAさんがまたひとつため息をついた。

 

「いい歳してミーハーなんだから。……そういえば、ギターヒーローさんのチャンネルのプロフィール。いままでは何も書いてなかったのに、最近追加されましたね」

「ああ、ひと言だけな。『とあるバンドに入れてもらいました。毎日楽しくて充実しています』……だとさ」

「ちょっと業界で話題になってたようですよ。『今までバンド活動していなかったとは』『表現力が一気にあがったのはそのせいか』『孤高のヒーローをいったいどこのバンドが射止めたんだ?』……って」

 

 PAさんが自分のスマホにSNSのコメントを表示する。

 

「ふーん。ギターヒーローが業界で話題ってのは本当なんだなぁ……」

 

「なにをいまさら」

 

「配信では顔は見えないし正体不明だけど……、

 めっちゃギターが上手い女子高校生で、

 おそらく自宅の押し入れから配信してて、

 桃色の髪にいつもピンク色のジャージで、

 使うギターはギブソン『レスポール・カスタム』で、

 最近にバンドに加入した、

 ……か」

 

 店長(♂)とPAさんがゆっくりとカウンターから振り向く。そして、同時にため息をついた。

 

「……世界って、意外と狭いもんだよなぁ」

「ホントですねぇ」

 

 

 

 

 二人の視線の先にいるのは、バイト開始前の時間を使って打ち合わせをしている結束バンド。その中でもひときわ目立つ、桃色の髪にピンク色のジャージの少女。

 

「直接お願いしたらオレのギターにサインもらえないかな。……それより、ホントにオファーしてみようか。STARRYで単独ライブやらないかって」

「彼女自身は秘密にしているつもりみたいですから、やめておきなさい! それに、彼女ひとりだけに声をかけるなんて、結束バンドの皆さんに失礼じゃないですか」

 

 結束バンドのメンバーは、スマホと楽譜を前に盛り上がっている。なんでも、オリジナルの曲が完成したらしい。

 

「……あいつらだってギターヒーローのことくらい知ってるだろうに、気付かないものかなぁ?」

「さすがに山田君は気付いているんじゃないですか?」

「たしかに、あいつなら知ってて黙ってるかも。だけど、虹夏なんてギターヒーローのファンだと公言してるくせに、……我が弟ながらこんなにアホだとは思わなかった」

「虹夏君はまっすぐな子ですから。あのくらいの男の子が、動画の中のヒーローよりも、目の前の魅力的な女の子に目を奪われちゃうのは仕方ないですよ」

 

 結束バンドの四人。一見、皆マジメに打ち合わせをしているようにみえる。しかし、その環の外にいる第三者から見れば、少年達はちらちらとピンク色の髪の少女ばかりを見ているのが丸わかりだ。

 

「オレがあの年代のころは、もう少し落ち着いて音楽やっていたと思うけど」

「そう思ってるのはたぶん自分だけです。……ていうか、店長だって虹夏君のこと言えないでしょ。さっきからスマホのカメラで後藤さんばかり狙ってるじゃないですか」

 

 ギク! 店長(♂)の動きが止まる。

 

「えっ! ご、誤解だ。これは、ギターヒーローちゃんの動画をみてるだけで……」

「ウソおっしゃい! あなた最近後藤さんを隠し撮りばかりしてるじゃないですか」

 

 ギクギク! え? ば、バレてた?

 

「……後藤さんみたいな控えめでおとなしくてちょっと暗いオドオドした女の子が店長の趣味なのはわかってます。ましてやギターが超上手いんですから、ストライクど真ん中でしょ」

 

 オレの女の好みを的確に指摘するのやめて!

 

「もし後藤さんに手を出したら、……虹夏君に家族の縁を切られても知りませんよ!」

 

 オオオレがぼっちちゃんに、ててて手を出す、わけが、ないだろ!

 

「……冗談のつもりだったんですが。その顔は、まさかとは思いますが、合意があれば許されるとか、ロックだから年の差なんか関係ないとか、考えてません、……よね?」

 

 思ってない。思ってない。神に誓って思ってないから!

 

 どうだか。あなたの陰キャ女子趣味には前科がありますからね。

 

 うわー、やめろー! それ以上、言うなぁ!!

 

 一応警告しておきますけど……。今のあなたが女子高校生に手を出したら犯罪ですよ! それを絶対に忘れないでください!

 

 だからマジな顔で警告しないで!

 

 

 

 

「おい、そこの色ボケやさぐれおとな二人!」

 

 カウンター席からスマホをぼっちにむける店長と、それを身体を張って阻止しようとするPAさん。その姿を第三者から見れば、……組んず解れつ絡み合っているようにしか見えなかった。

 

 そのふたりの前、いつの間にか虹夏(♂)が立ちはだかっている。

 

「な、なんだ、虹夏?」「い、色ボケって、私もですか? 虹夏君」

 

 無遠慮な弟に狼狽する星歌(♂)。PAさんはショックのあまり、背景に『ガーン』という擬音が見える。

 

「うるさいんだよ。打ち合わせの邪魔なんで、いちゃつくなら外でやれよ」

 

「いっいっいちゃついてなんて、いないぞ”」「わ、私と店長さんがいちゃつくわけないです!」

 

「いちゃついてただろう!」「ふたりはそういう関係だったんすね?」「ぼっち、あんな大人になってはいけない」「あ、はい」

 

 この時とばかりにメンバー達が結束している。

 

「ががガキ共、おとなをからかうのはやめろ! ていうか、ここはオレの店だ。オレが何やろうと勝手だろ!」

「うわ、いい歳して開き直りやがった」

 

 そう言われてしまうと、実の弟といえども、無料で場所を借りている虹夏としてはなにも言い返せなってしまう。

 

 

 

 

 一方で、そんな兄弟の様子を見せられて、おなじく年の離れた妹がいるぼっちの口元がおもわずほころぶ。

 

(……店長さん(♂)と虹夏君(♂)、お互い口は悪くてもやっぱり仲がいいんだな。男の子の兄弟っていいな)

 

「……じゃあ、大人の店長に頼みがある。聞いてくれるか?」

 

 虹夏(♂)が改めて口を開く。今度はマジメな顔だ。

 

「あ、ああ。なんだ?」

「オレ達、新曲出来たんだ」

「そうらしいな。で?」

「ライブさせてくれ」

 

(も、もしかして、この世界の店長さん(♂)は、オーディション無しで結束バンドにライブさせてくれる?)

 

「は?? 出す気ないけど……」

 

(やっぱりー)

 

 

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