女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「は?? 出す気ないけど……」
STARRYに冷たい声が響く。虹夏(♂)の身体が固まる。
ライブに出してくれ。……実の兄であり、STARRYの経営者である星歌(♂)にそうお願いした答えが、これだ。
「4月のライブ、誉めてくれたじゃないか!」
「あんなのバンドじゃない。それは自分でもわかってるだろ?」
くっ!
あの時の演奏がまがりなりにもライブとして成立したのは、実質的にぼっちちゃんひとりが頑張ったおかげだと言ってるのだ。そして、虹夏(♂)はそれを否定できない。
虹夏(♂)は兄の顔を睨む。拳を握りしめる。
「……一生仲間うちで楽しく放課後やっとけ!」
あからさまな挑発。虹夏(♂)は爆発した。兄の挑発に、正面から乗っかった。
「黙ってれば言いたいこと言いやがって、このクソ兄貴!」
沸騰したヤカンのように激昂する虹夏(♂)。それを見て笑う星歌(♂)。立ち上がり、正面から対峙する。
「くらえ!」
ヘラヘラと笑いつづける兄の満面の笑顔に向け、弟の渾身の右ストレート!
「ふん。柔道小僧の怒りにまかせたパンチなんぞ、オレにあたるかよ!」
だが、あたらない。拳が空を斬る。星歌(♂)は、サイドステップだけで弟の拳を避けたのだ。
「……アホな弟には身体で教えてやらんとなぁ」
ニヤニヤした表情のままの星歌(♂)。瞬時に距離を詰める。そして右正拳突きが飛ぶ。
ミシっ。
虹夏(♂)は避けられない。かろうじて腕でブロックするが、その衝撃をもろに喰らった。腕の骨が軋む。
くっ!
「ひぃぃぃぃ! に、虹夏君、店長さん、いいいいったい何を」
突如として目の前で繰り広げられたあまりにもバイオレンスな光景に、ぼっちの身体が一瞬にして溶け落ちた。
「店長は、ギター始める前は空手やってたそうだよ」
いつも通りのリョウ。冷静な解説。
な、な、なに落ち着いてるんですか、リョウさん! ととととめなきゃ、とめなきゃ!
「ぼっち。この兄弟は昔からいつもこんな感じだから、気にしないでいい」
えっ? えええ?
「後藤さん。店長は、年の離れた弟さんが成長して対等にケンカできるようになったのが嬉しくて仕方がないんですよ。だから、ついからかってしまうんでしょうねぇ」
PAさんまで?
「て、てめえ、バンド始めてから怪我するの恐がって正拳は封印したとか言ってなかったか?」
「……本物の天才ってのを間近でみて、もうギターには未練無くなったんでね」
一瞬、ポカンとした顔の虹夏(♂)。
にやり。
数瞬後、兄の正拳をもろに喰らったはずの弟が笑う。その手が、星歌(♂)の拳を掴む。
「じゃあ兄貴の腕、遠慮なくぶっ壊していいってことだよなぁ」
同時に、虹夏(♂)の両足が飛んだ。兄の腕の関節を極め、体重をかけ地面に倒す。
「なに!」
「おお、飛びつき腕十字?」
「さすが伊地知先輩! まさかそんな大技をこんなところで!」
リョウと喜多(♂)が脳天気に歓声をあげる。一方で……。
「ににに虹夏君、やめてください!!」
溶解メンダコになりながらも、ぼっちは叫ばずにいられない。
くりだした必殺の大技が完全に極まる直前、ボッチの悲鳴が虹夏(♂)の耳にとどいた。反射的に身体がひるむ。ほんの一瞬、動きがとまる。その瞬間をついて、星歌(♂)は腕を引き抜いた。そして、あわてて距離をとる。
「今のはマジで危なかったな。……助かったよ、ぼっちちゃん」
起き上がりながら星歌(♂)がつぶやく。実の弟に腕をへし折られる寸前だったにもかかわらず、心底嬉しそうな顔をしながら。
くそが!
「さて、続きをやるか? いちおう言っとくが、例えオレが負けてもそれとライブの件は別の話だぞ、小僧」
虹夏(♂)が振り向く。悲鳴をあげた女の子に顔を向ける。今この瞬間、どんな表情で自分を見ているのか確かめたかったその少女は、……半分溶けながら泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「……け、ケンカしないでください、虹夏、君」
くっ。あ、あんな顔したぼっちちゃんの前で、これ以上は……。
「み、み、三十路の独り者のおっさんのくせに、いまだに家族の写真を枕元に飾ってるくせにぃ!」
「う、うるせー、オレはおっさんじゃねぇ! まだ29だ!!」
捨て台詞を叫ぶ弟。ムキになって反論する兄。
「バーカ、バーカ、明日から我が家の晩飯はカップ麺だ! 洗濯も自分でやれよ!!」「なんだと、このクソガキ。小遣いあげてやるからそれは勘弁してくれ!!」
こどものケンカのような応酬の後、虹夏(♂)は半べそをかきながら外に走り去ってしまった。
「あ、ま、まって、虹夏君!」
「山田先輩! 何してるんですか? おいかけますよ」
「ええぇ? 面倒くさいからやだ」
「そんなこと言わないで!」
「……ぼっちちゃん、ちょっと待って!」
虹夏(♂)を追いかけようとする結束バンドメンバー。だが、ぼっちの肩が後ろから掴まれた。振り向けば、つい先ほど目の前で殴り合いの兄弟げんかを演じていた金髪無精ヒゲの強面おっさんだ。
ひぃぃぃぃ!
反射的に、ぼっちは仰向けに倒れ込む。犬の服従のボーズをきめる。
「……あ、えーと、ぼっちちゃん。君の口から虹夏につたえてくれないか。ライブに出たいならまずオーディションうけろって」
は?
「一週間後に演奏見て決めるからって……」
は、はぁ。
「店長、虹夏君に直接言ってあげればいいのに」
PAさんが横から割り込んだ。
「……いや、なんか照れくさいだろ」
「弟さん大好きおじさんなのはバレバレなのに、何を今さら……」
ひとつため息をついたPAさん。そして、ぼっちに視線を向ける。
「……それから、後藤さん! あなたに言っておくことがあります!!」
ひっ!
PAさんの迫力に、おもわずぼっちは正座した。
「男性の前で犬の服従ポーズなんてしちゃいけません! とくに、この人の前では絶対にダメです。何されるかわかりませんよ!」
「え? あ、は、はい……。ごめんなさい」
ぼっちは素直に謝る。直感的に、PAさんが本気で怒っていることがわかったのだ。
「おまえ、言い方が酷くない? ぼっちちゃんのオレに対するイメージが……」
「あんなポーズで固まっている後藤さんにカメラ向けながら、よくそんなこと言えますね、店長!」
「あ、い、いや、これは、雇用主としてバイトを管理する義務というか……」
「問答無用です。スマホ没収!」
ああああ、オレのぼっちちゃんコレクションがぁ!
え? え? 店長さんって、前世からこんな人だった? ……だったかも。