女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「あれ? おまえも虹夏達のオーディション見るの?」
STARRY。結束バンドメンバー達がオーディションの準備をしているステージの前、店長がいつの間にか隣に座っているPAさんに声をかけた。
「仕事の参考になりますから。それに、若いイケメンな男の子たちの勢いのある演奏みるの好きなんです」
「おまえ、そーゆーのって、……ショタっていうのか? なんにしろ自分の歳を考えろよ」
「……あなたにだけは、それを言われたくなかったですね」
バカな大人のバカな会話をよそに、メンバー達の準備は終わる。リーダーである虹夏(♂)はひとつ深呼吸。ちょっと震える声で叫んだ。
「け、結束バンドです! ギターと孤独と蒼い惑星って曲を、やりまーす!!」
「……虹夏君はあんなに初々しくてかわいらしいのに。ホントに血が繋がってるんですか?」
「まさか、おまえ、……虹夏に手を出すつもりなら、まずはこのオレを倒してからだ!」
「手を出すわけないでしょ! このブラコンやさぐれ男!」
(へぇ、……ちゃんとバンドしてますねぇ)
結束バンドの演奏が始まった。
(結成から数ヶ月の高校生バンド。その演奏に期待などしていなかったのですが……)
PAさんはおもわず独りごちる。ちょっとだけ姿勢を正す。実は可愛いイケメンを鑑賞して目の保養にするつもりだったことを反省し、心の中で詫びる。
……まず、曲がいいですね。高校生が作ったオリジナルの曲としては、作詞も作曲も標準をはるかに飛び越えています。そして、まがりなりにもそれを曲として演奏できている。バンドとして成り立っている。この年代のバンドとしては、それだけでもまぁ十分及第点でしょう。
メンバーも、それぞれ個性的で魅力的。
まずはドラムの元気小僧、虹夏君。
技術的にはもう少しだけど、持ち前の勇気と根性でメンバーを引っぱるバンドリーダー。プレッシャーに弱いくせに、自分の役割を果たそうと必死に頑張る頑張る姿がたまりません。ちょっとやんちゃでケンカ早いくせに、何事にも真っ直ぐで純真なイケメン。さっき店長さんにはあんな事いったけど、……お姉さんの大好物ですよ。
次にベースはクール男子の山田君。
この子、技術的には同世代では頭ひとつ抜け出ていますね。作曲の才能もあるし、音楽的センスはピカイチ。自分で作った高度な曲を余裕綽々な態度で楽々と弾きこなす姿は、嫌味なほどです。
その上、ステージの上で他のメンバーに的確な指示まで出せる、まさに結束バンドの精神的な主柱と言える存在。山田君がいつもの調子でさえあれば、結束バンドは大丈夫でしょう。
ちょっと心配なのは、こーゆー子は実はメンタル弱かったりするんですよね。逆境になると真っ先に潰れちゃう。。……そんな弱点も含めて、いつも無理してクールぶってユニセックスな外見のイケメン男子。お姉さんは、そんな山田君を見ているだけでお腹いっぱいです。
そして、ボーカルの陽キャは喜多君。
ハッキリ言って、ギターの腕はまだまだです。ボーカルも、カラオケ上手の域から脱していませんね。緊張で声も身体も細かく震えているのに、……なぜか立ち居振る舞いがいちいち格好いいんですよね、彼は。
おそらく、彼はこれまで必死に努力してきたのでしょう。常に格好良く、キラキラした陽キャであろうと。女の子にもてて、スクールカースト上位に位置するためには、そうあらねばならぬと。……だから、きっと演奏も心配はいりません。最近の彼をみればわかります。彼の一生懸命は、いまは結束バンドに向いていますから。演奏なんて、すぐに上達しますとも。
そんな、外見ホストみたいなチャラ男のくせに、何事に一生懸命なイケメン男子。お姉さん、ゾクゾクしちゃいますよ。
そう、結束バンドは男子3人がそろいもそろってタイプの違うイケメンなんです。ヤバいですよ。3人揃ったステージをみるだけで、心が潤います。目の保養になります。これはバンドとして大きな武器になります。女性ファンが絶対につきます。STARRYの経営にとってもありがたいですね。
……でも、この3人。どうやらもう意中の女の子がいるらしいんですよね。それが結束バンドの紅一点。リードギターの後藤さん。
外見だけなら、……いえ性格もちょっと、いえ、かなり、個性的、というかはっきり言って陰キャな少女です。中身は優しくてとってもいい子なんですけどね。……ともかく、本来バンドの花形であるはずのリードギターですが、残念ながら彼女には一片の華やかさもありません。今もそうですが、いつも猫背で俯いています。
なのに、ギターの腕は別格です。文字通りの異次元。ネットでは、ソロに限ればもしかしたら世界でも有数のギタリスト、なんて噂されてるほど凄腕です。だけど、……今日の演奏ではあまり前にでてきませんね。もしかして、あえて目立たないようにしている?
まぁ、しょせんオーディションです。バンドとしてここまでできていれば、まちがいなく店長は合格にしてくれるでしょう。あえて他のメンバーとは釣り合わない技術を見せるまでもありませんね。でも、……みたいなぁ。ギターヒーローの本気、みせてくれないかなぁ。
(よ、よかった。メンバーの性別は違っても、これは、確かに、……結束バンドだ)
ステージの上。ギターをつま弾きながら、ぼっちは胸をなで下ろしている。
ぼっちはここまで、あえて目立つような演奏はしていない。ただひたすら正確に弾くことに徹していた。ぼっち以外のメンバーが頑張ってきたことを店長さんに見て欲しかったのもあるが、それだけではない。
ぼっち以外が多少ミスしたって、ボーカルの音程が狂ったって、リードギターがリズムを保って引っぱってさえいれば、バンド演奏としてはグダグダに崩壊することはない。あえてメンバー達がついてこれない可能性のある演奏をする必要はない。どんな形であれオーディションに合格するには、それが一番確実だと思ったのだ。
(大丈夫。大丈夫。前世の時のオーディションと同じくらいには上手くいってる。この調子なら、きっと合格できる)
もう少しで曲は終わる。そうすれば……。
ふと顔をあげたぼっちは気づいた。リョウさんが、こちらを見ている。
『いけ、ぼっち!』
視線がそう言ってるような気がした。
へ?
リーダーである虹夏君(♂)を見る。
『ぼっちちゃん。オレ達の全力を兄貴に見せてやろうぜ!』
確かに目がそう言っている。……ような気がする。
喜多君(♂)は? ……こちらを見る余裕ないのは仕方が無いですね。
ともかく、……二周目の私は、ちょっとだけ成長してるんです。リョウさんと虹夏君のアイコンタクトだって、わかっちゃうんですよ! だから、ちょ、ちょっとだけなら、本気出してもいいよね。
いくぞ!
「あ、ありがとうございました!」
演奏が終わった。店長さんはひとつため息。そして、ゆっくりと顔をあげると、メンバーにむけて口を開いた。
「ふん。……まずはドラム、肩に力入れすぎだ。もう少し落ち着けアホが。
ベースは自分の世界に入りすぎ。だいたいステージの上で余裕ありすぎの態度がむかつくんだよ、おまえ。
ギターボーカル、下向きすぎだ。ちょっとモテるからっていい気になるなよ。もっと練習しろチャラ男。
リードギターは、……特に言うことないよ。もう少しこちらに顔を向けて弾いてくれると嬉しいな。オレはぼっちちゃんのことはちゃんと見てるから」
さんざんもったいぶった末にでてきた店長のコメントが、これだ。
「……おい兄貴、なんだそのコメントは。もっとマジメにやれ!」
「ぶーぶー、差別だ。男女差別反対!」
「ちゃらくて何が悪いっすか! おじさんのひがみっすか?」
「ひーー。 か、完全に目をつけられてしまった……」
「うるせぇ! 店長に文句あるのか、小僧ども! ともかく、おまえらがどーゆーバンドかはわかった。……合格だ」
こうして、結束バンドの初ライブが決まったのだ。