女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「伊地知先輩!」
学校帰り。校門を出たところで声をかけられた伊地知虹夏(♂)は振り返る。
見覚えのない女の子だ。一年生?
「……なんだい?」
見るからにマジメそうな女の子が、モジモジしながら上目遣いでこちらの様子をうかがっている。あまり嬉しくない予感がする。これはきっと……。
「きょ、きょ、今日は、山田先輩と、一緒じゃないんですね」
「ああ。……リョウはバイトだよ」
(やっぱり……。この子もリョウ目当てか。告白するなら、リョウ本人にしてくれよ)
「あ、あの、……お、お付き合いしている人は、いるんですか?」
(伊地知先輩、格好いいし、優しいし、頭良いし、モテるし、ファンの子も多いし。……いつも一緒の山田先輩がいない今日こそが、千載一遇のチャンス!)
「いないよ。でも、……オレ達バンドやってるんだ。今はそのバンドがとても大事な時だから」
(リョウの野郎、毎回毎回おまえに告白する子に断る口実を考えるオレの身にもなれって!)
「バンド? ご、ごめんなさい。私ロックとか詳しくなくて。……で、でも、勉強します! きっと好きになりますから!」
(先輩のバンド、SNSで見ただけだけどメンバー3人ともイケメンなのよね! も、もちろん一番は伊地知先輩だけど……。)
「勉強って……。ロックとかバンドってそんなものじゃないんだけどな。でも、もし興味あるんなら、こんどライブやるんだけど、……見に来る?」
(もしかしたら結束バンドのファンになってくれるかもしれない。……もしリョウが面倒ごとに巻き込まれても、自業自得だし)
「い、行きます! ライブハウスってちょっと恐いけど、友達も誘って絶対行きます!! 先輩の格好いいところを見せてください!!」
「おう! まかせとけ!!」
よし。とりあえず、チケットノルマ達成!!
「リョウくん!」
STARRYからの帰り道。声をかけられた山田リョウが振り向くと、そこには複数の女性がいた。
「……なに?」
リョウよりも年上。『女の子』というにはちょっと、……かなり、年上のお姉様が10人ほど。いつの間にか取り囲まれている。
「新しいバンドに入ったのね。長い付き合いの私達に、どうして教えてくれなかったの?」
(前のバンドの追っかけか……)
確かに見たことがある顔が複数いる。女子大生だったかOLだったか。
リョウは身構える。過激な追っかけとのトラブルは、過去にも何度か経験がある。前のバンドをやめた理由のひとつでもある。
「……どこで知ったんです? ボクたちの結束バンドは、初ライブもまだなのに」
「バンド系のSNSを漁ってて見つけたのよ。練習風景の動画とかも見たわ」
(喜多がやってるSNSか。意外と宣伝効果(?)あるんだな……)
「前のバンドに比べたらまだまだ下手くそでがっかりしたでしょ。もっと将来性のあるバンドを追っかけた方がいいと思うよ?」
「ふふふふ。お姉さんたちはね、イケメンで才能あるリョウくんに一目惚れしちゃったの。もう一生リョウくん推しを貫く覚悟を決めてるのよ」
取り囲む女性たち全員が頷くのを見て、リョウはひとつため息をついた。
(ボクが音楽活動をやってる限り、逃してくれる気はないみたいだな。……いや、私生活にはからんでこないだけ、むしろ良識あると感謝すべきなのかな?)
「じゃあ、教えて。ボクの新しいバンド、……結束バンド、どう思った?」
「正直言って、微妙ね。イケメンの男の子たちメインに華やかな売れ線を目指すのか、ギターをメインに本格派を目指すのか、方向性があいまいだわ。はたしてリョウくんに相応しいバンドなのかしら」
(伊達に追っかけやってるわけじゃないんだな。たしかに、ボク自身も迷ってるところだし……)
「結成したばかりの高校生バンドにそこまで期待しないでほしいな。方向性については近々ハッキリさせるから。……で、お姉様方。きょうはそれだけを言いにわざわざ来たの?」
「推し活の一環よ。お姉さん達はね、実力あるけどまだまだ人気もお金も無いチケットノルマに苦しむ若い悩めるイケメンバンドマンを助けてあげて感謝してもらうのが趣味なの。……どう、ファンってありがたいでしょ?」
「……うん。ありがたくて涙がでるよ」
「喜多!」
放課後。教室を出たところで、喜多郁代(♂)は振り向いた。
「なんだ、さっつーか」
そこに居たのは、喜多(♂)の幼馴染みである佐々木次子。そして、よくつるんでいる女の子達。
「喜多、今日はめずらしくジャージの子、……後藤、さん? といっしょじゃないんだ」
「後藤さんはバイト。オレは今日シフトはいってないから、バイトの後にスタジオ練習で合流するんだ」
ふーん。
怒っているような、哀れんでいるような、……長い付き合いだけど、こんな顔のさっつーは初めてかもしれない。
「ねぇねぇ喜多君、最近つるんでくれないと思ってたら、バンドやってるんだって?」
女の子の中のひとりが声をかけてきた。腕を絡め、胸を押しつける。顔が近い。
「あ、ああ。始めたばかりだけどね」
「へぇ、よく続くねぇ」
「自分でも驚いてる」
「バンドって、喜多君なにやるの?」
「ギターとボーカルだよ」
「喜多、あんなに練習してたけど、……ギター少しはうまくなった?」
背中に背負ったギターを眺めながら、さっつーが尋ねる。またさっきの顔だ。
「後藤さんと比べたら、まだまだぜんぜん下手くそだけどね。……ほら、指堅くなったろ」
ふーーーん。
いつものようにまったく遠慮することなく気安く手を握ってくるさっつー。硬くなった指先をつんつんしている。
(後藤さんもこれくらい気安く手を触れられたら、ギターの練習ももっともっとはかどりそうなんだけどな……)
「後藤って、ピンクジャージの?」「はなしたことないわ」「ひと目見てわかる陰キャよね」「バンド、というよりヒッピーって感じだけど」
一方で、さっつー以外の女の子達は後藤さんの話題で盛り上がる、……が、やっぱりそーゆー評価になるよなぁ。
「後藤さん、凄いんだぜ! あのギターを聴いたら、みんなも絶対ファンになるよ」
……はぁ?
女の子達がポカンとした意外そうな顔。これは、本気で後藤さんの凄さを教えてやらねばならないようだ。
「そうだ! オレ達、今度ライブやるんだ。みんなも来てくれよ」
「ライブ? いくいく、サッツーもいくよね?」
「え? わ、私はあんまり興味ないから」
「何言ってるの。ライブハウスよ! かっこいい男の子いっぱいいるかもよ!!」
「わ、わたしは、……喜多が後藤といっしょにギター弾くとこなんて別にみたくないし」
「なに小声でゴニョゴニョ言ってるのよ。あんた喜多君の幼馴染みでしょ、みんなで喜多君の晴れ姿みなきゃ。ねっ、行こう! 他のクラスの子たちも誘ってさ」
「う、うん」
みんな、ありがとう。絶対いいライブにするぜ!
「父、母、妹、犬……」「一枚、二枚、三枚、……何回かぞえても一枚あまる」「ライブまであと十日なのに、誰も誘えていない」
青ざめた顔でつぶやいているのは、もちろんぼっちだ。
人生二周目のぼっちは、二周目ゆえに油断していた。ふたたび結束バンドのメンバーと巡り会えると『知っていた』から、他の友達を作ろうとしなかった。友人を作る努力など必要ないと思っていた。……ライブのチケットのことなんて、すっかり忘れていたのだ。
どうしよう? ギターヒーローのチャンネルをつかうのは、できれば避けたいし……。
「おねえちゃん、誰もお友達いないもんねぇ」
「お、おねえちゃんは、話さないだけで、学校にたくさんいるんだよ」「冗談でもそんな事いっちゃだめだよ」「人の痛みがわかる子になりなさい……」
前世同様、妹が無邪気に姉の精神に深刻なダメージを与えてくる。それに耐えながら、必死に記憶をたぐる。
前世ではどうしたっけ? 誰にチケット買ってもらったっけ? ……そ、そうだ、思い出した! お姉さんと路上ライブ、だ。