女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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家庭訪問 その1

 

「ぼっちちゃん家、あとすこしで着くはずだ」

「たのしみですね」

「……うむ」

 

 結束バンドのメンバー(後藤ひとり除く)が、だらだらと駄弁りながら歩いている。向かう先はもちろんぼっちの家だ。

 

「オレ、一度メンバーみんなの家に行ってみたかったんだ。……って、リョウ。おまえなんで居るんだ?」

「虹夏、ボクだって結束バンドのメンバーだ」

「普段のおまえなら『お婆ちゃんが今夜が峠』とかいって、絶対こーゆーのついて来ないくせに」

「ぼっちの家にいくというのに、このボクが行かないわけがないだろう」

「まぁまぁ先輩方。……後藤さんの家ってどんな感じなんだろうなぁ」

 

 

 

 

「……いっいええい! ウエウエルカム〜〜!」

 

 パンパンパン!!

 

 三人が後藤家のドアを開けた瞬間、出迎えたのは星形メガネに付けヒゲ。大事な客人を迎えるための正装に身を固めたぼっちが、クラッカーを打ち鳴らす。

 

「ぼっちちゃん。楽しそうだね……」

「……あっ、はい」

 

 

 

 

 ぼっちは人生二周目だ。こんな事をしてもスベるのはわかっていた。だがそれでも、これをやらずには居られなかった。

 

(だ、だって、お客様は男の子もいるし、こうでなきゃ私が私じゃないみたいだし、そもそも私が普通におしとやかに男の子をお迎えしたって気持ち悪いだけだし……)

 

 ……要するに、男の子が実家に遊びに来るという前世ではあり得なかった空前絶後の事態を前に、ぼっちは完全にテンパっていた。何をすべきかわからない。だから、つい前世と同じ行動をとってしまったのだ。

 

 

 

 

 案内された部屋は、ごくごく普通の畳の和室。

 

「ふ、普通だ」

「女の子っぽくない部屋だね」

「後藤さんのことだから、もう少しロックな感じかと思った」

 

「あ、あの、本当は、お客様を迎えるためにミラーボールとか風船とか用意しようと思ったんですけど、家族に止められちゃって……」

 

「い、いや、普通のままでいいよ」

「この盛り塩やお札は最高にロックだ」

「後藤さんっぽくて、いい部屋だと思うな、オレは」

 

「じゃ、じゃあ飲み物とってきます。楽にしていてください」

 

 

 

 

 虹夏(♂)は、女の子の部屋に入るのは初めてだ。失礼だとわかってはいても、ついつい部屋の中をきょろきょろと見回してしまう。

 

「あ!」

 

 そして、見つけてしまったのだ。ぼっちの机の上、綺麗なフレームに飾られた二枚の写真。結束バンドのアー写と、その隣にあるのは、……いつも通り俯いた少女と、触れるか触れないか絶妙な距離感で横に並ぶ緊張した顔の男。ぼっちと虹夏(♂)のツーショットだ。

 

(ぼっちちゃん。お、オレとの写真を……)

 

 一瞬、息が止まった。身体が震えた。感きわまった。虹夏(♂)は心の中でむせび泣く。男子として生まれて17年、こんなに嬉しいことない。

 

(ひ、密かに写真飾るくらいなら、オレに直接告白してくれればいいのに。い、いや、こ、こ、ここは、男として、オレから告白してあげるのが正しいよな、うん)

 

 虹夏(♂)の頭の中で、壮大なスケールの妄想が始まる。ぼっちと二人での人生設計が超高速で組み立てられていく。告白、お付き合い、二人でメジャーデビュー、プロポーズ、結婚、第一子、そして紅白出場が決まったところで、現実に還る。重大な問題に気付いてしまったのだ。

 

(あ、やばい。ぼっちちゃんがこんな写真を飾っていることをリョウや喜多に見られたら、オレ達の結束バンドの結束が……)

 

 そんな虹夏(♂)の後ろ、喜多(♂)が叫び声をあげたのは、ちょうどその時だった。

 

「あ、オレとのツーショット写真、後藤さんこんなところに飾ってくれてるんだ!」

 

 えっ?

 

 振り向くと、ガチガチに緊張したぼっちと、無造作にさりげなく肩を抱いた満面の笑みの喜多(♂)。ツーショット写真が、壁に掛けてある。

 

 続いて、リョウも。

 

「ふっふっふ。ボクとのツーショットは、こんな大きなポスターだ」

 

 ええっ?

 

 逆の壁には、ぼっちとリョウ。ポスターサイズに引き延ばされたツーショット写真が、しかも二人でニコニコ腕を組んだ写真が、堂々と貼られていた。

 

 えええ? そんなぁ。

 

 

 

 

 

 麦茶をいれたぼっちが部屋に戻ってみれば、主役が居ないはずなのに、部屋の中が妙に盛り上がっていた。

 

「そのお札、お姉ちゃんがお化けに取り憑かれたから貼ってあるの〜」

「わんわん」

 

 ふたり? ジミヘン? いつの間に!

 

「喜多くん、ギターでみによんずの歌ひいて〜」

「じゃあ今度来るときまでに練習しておくね」

 

 ふ、ふたり! 喜多君に抱きついて、腰の上に乗っかって……。

 

「わんわん」

「あははは、ジミヘン、人懐こいなぁおまえ」

 

 ジミヘン、虹夏君を押し倒して、顔をなめ回して……。

 

「ふ、ふ、ふたり! ジミヘン! お姉ちゃん今から大事なお話するから、あっちで遊んでてね〜」

「え〜つまんない〜」

「後藤さん、オレは別にふたりちゃんがいても大丈夫だよ」

「オレもジミヘンいても問題ないかな」

 

(ま、まずい。五歳児と犬に、コミュ力で完全に負けている……)

 

「……しかたがない」

 

 今まで黙っていたリョウが、満を持した感をまといながら口を開いた。

 

「Tシャツのデザインは、ボクとぼっちの二人で決めよう。ご家族はいないんだよね。二人でリビングに行こうか」

 

 リョウは呆然と立ち尽くしているぼっちの手を取った。そして、二人で階段を降りようとする。

 

「うわ、リョウ、ちょっと待て! じ、ジミヘン、わるいけど降りてくれ」

「わううん??」

「ふ、ふたりちゃん、オレちょっと後藤さんと大事な話があるから、また今度遊ぼうね! ね! 」

「え〜、喜多君のうわきもの〜」

 

 

 

 

 だが、Tシャツデザインの打ち合わせが始まることはなかった。後藤家の両親が買い物から帰ってきたのだ。

 

「いや〜感動だなぁ〜。ひとりのお友達が遊びに来てくれるなんて」

「しかも男の子なんて。……たくさん食べてね!」

 

 ピザや唐揚げを囲みながら、後藤家+結束バンドメンバーがなごやかに盛り上がる。

 

「は、はじめまして。バンドリーダーの伊地知虹夏です。ぼっ……ひとりさんをバンドに誘ったのはボクです。ひとりさんのおかげでとても助かってます」

「ええと、喜多郁代です。後藤さんとは同じ高校で、仲良くさせてもらってます」

「初めましてお義父さん。山田リョウです。ひとりさんとはバンドの他に週に何度か『二人だけ』で曲の打ち合わせなんかもしている仲です」

 

「えっ? リョウ、なにそれ。オレそんなこと聴いてないぞ!」

「ふっふっふ、ボクらは特別な仲だということさ」

「りょりょリョウさんには、貸したお金の催促しているだけで……」

「お、オレだって、いつも後藤さんと二人きりでギター習ってるし」

 

「うふふふ。みんな、ひとりと仲良くしてあげてくださいね。……あなた、何むくれているの?」

「む、むくれてなんていないよ。……バイトも一緒なんだよね。ひとりが迷惑掛けてないかい?」

「ええ、ライブハウスの接客ですけど」

「せ、接客?」「ひとりが?」

「え、ええ。初日からきちんと出来てましたよ。まるで前もって仕事内容を知ってたみたいに」

 

「ギターだけは人並み外れた才能があったけど、人付き合いはまったくもってダメダメだったひとりが、接客かあ……。きっと君達のおかげだね、ありがとう」

 

「お、お父さん! そういうことは言わないでぇ!」

 

 

 

 

 

 ……あ、なんかいいな、この雰囲気。

 

 実の娘に対して、日常的にかける言葉はちょっと辛辣だけど、隠しようのない大きな愛情を感じさせる両親と妹と犬。後藤家のほのぼの雰囲気に、男子三人ともこころがほかほかしていることを自覚してしまう。

 

 この親子と、もっと深くつきあいたい。

 

 ……とはいえ、ぼっちとしては、友人達に家族の風景を晒すのはちょっと恥ずかしい。

 

「み、みなさん、早くTシャツのデザインを決めましょう。私の部屋へ……」

 

「ひとりさん。お義母さんが用意してくれたピザとお義父さんが揚げてくれた唐揚げはまだ残っている。無駄にするわけにはいかないよ」

「り、リョウさん、……さっきから、なんか口調が変で、すよ」

 

「喜多くん、虹夏くん、映画観よう! ゲームの方がいい? ツイスターもあるよ」

 

 ふたりが喜多(♂)と虹夏(♂)にすがりつき、おねだりしている。

 

「ふたりもああ言ってるし、ゆっくりしていってくださいね」

 

「……まぁちょっとくらいなら、遊んでもいいか」「うん」

 

 




 
 
 
ちょっと長くなりそうなので、つづきます。
 
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