女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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家庭訪問 その2

 

 

「結局、映画観てゲームして遊び倒してしまった……」

「楽しかったですけど、……Tシャツのデザイン考えないと!」

 

 いつの間にか外は暗くなっている。さすがにこれは不味いと感じた皆は、あらためてぼっちの部屋に篭もる。

 

「そうだ! ツイスターまだやってない。ツイスターやろう!!」

 

 喜多(♂)の膝の上にちゃっかり座っているふたりが、思い出したように叫んだ。

 

「うむ。たしかにツイスターは必要だ」

 

 リョウが頷く。

 

 ぶっ!

 

 虹夏(♂)と喜多(♂)が同時に噴き出した。

 

(つつつツイスターって、参加者が組んず解れつ絡み合う、昔のゲームだよな?)

(そ、そうです。強制的にあられもないポーズとらされたり、いろんなところが触れちゃったりする嬉し恥ずかしのあれですね)

 

「お姉ちゃんねぇ、ツイスター得意なんだよ。私とだけじゃなくて、ひとりでイメージトレーニングよくしているし。普通の人間には絶対に不可能なポーズもできるし!」

 

「ふ、ふたり、余計な事言わないで! え、えーと、す、好きだし得意なのは確かですが……」

 

(前世の虹夏ちゃん(♀)や喜多ちゃん(♀)とツイスターやったのは楽しかったな。けど、この世界だと……)

 

 ぼっちが部屋の中を見渡す。虹夏(♂)と喜多(♂)の目が、なぜかギラギラと血走っているような気がする。

 

「……りょ、リョウさんとなら、いい、です、け、ど」

 

「うむ、くるしゅうない。受けてたとう!」

 

 したり顔で頷くリョウ。そして立ち上がる。やる気満々だ。

 

 ぶぶっ!

 

 だが、リーダー虹夏(♂)は許してはくれなかった。

 

「だめだ、だめだ、だめだ。遊ぶのは終わり! Tシャツのデザインを考えるぞ!!」

 

 

 

 

 

「えー、それじゃあらためて今日の本題。結束バンドメンバーでTシャツのデザインを決めよ〜」

 

 虹夏がタブレットとスケッチブックを取り出す。

 

「ツイスターは?」

「だめだって言ってんだろ、リョウ! いい加減にしろ」

「後藤さん、デザイン頑張ろう」

「……た、たまにはみんなにいいとこ見せないと!」

 

「できた!」

「早いな、喜多」

「コンセプトは友情・努力・勝利!」

「ジャンプか!!」

「かっこいいでしょ!」

 

(……き、喜多君。前世は可愛らしいデザインだったはずけど、今回のこれは、……なんというか、少年っぽい? やっぱり男の子だ)

 

「ボクも考えた」

「お、リョウもやる気になったか。……なんだこれは? シャツに写真をプリントしただけじゃないか」

「ピザ。あと唐揚げ。どちらがいい?」

「まだ食い足りないのか、おまえ。マジメにやれ!」

 

(リョウさん、基本的に前世と同じなんですね。さすが一貫してる)

 

 

 

 

 

「あ、わ、私のデザインも見てください」

 

 ここまでのやり取りで、ぼっちは思った。

 

 これは、……もしかして、ワンチャンあるのではないか? と。 今の結束バンドメンバーならば、前世で却下されてしまった私の超おしゃれデザインが採用される可能性もあるのではないか? と。

 

 おずおずとスケッチブックに描かれたイラストを掲げるぼっち。ちょとだけ誇らしげな顔。

 

「えへへ。お、おしゃれ過ぎ、ますか、ね?」

 

 それは、シャツ一杯に描かれた謎言語の謎単語の謎フォント。そして大量の無意味なファスナーと鎖。

 

(うわぁ。だ、ダセぇ〜)

(厨二か!)

 

 ……しかし。半ば呆れながらも、虹夏(♂)は自らの心の奥底に湧き起こる衝動を抑えきれない。

 

(くっ、理性ではダサいとわかっている。わかっているのに、本能の部分でアレを否定しきれないオレがいる。ぼっちちゃんにいい顔をしようという訳じゃない。……オレの、17年間男子として生きてきたオレのこの熱い『男の子魂』が、たしかに揺さぶられているんだ! あの意味の無いファスナーに! 鎖に! 謎フォントに!!)

 

 喜多(♂)も同様だ。

 

(こ、これは、女の子とはとても思えぬセンス。後藤さんが男前なこと、心に中二男子を飼っていることは知ってたけど。……も、もしかして、後藤さんが自信満々ということは、ステージの上であの鎖をじゃらじゃらさせてギター弾くのってかっこいいのか? ロックならば許されるのか? これがメタルって奴か? オレもそんな気がしてきたぞ)

 

 そんな二人の反応をみて、ぼっちは図に乗ってしまう。

 

「こ、これだとライブ中、服にばかり目がいっちゃいますよねぇ」

 

 ヘラヘラと笑うぼっち。……こーゆーところは、前世からまったく成長していない。

 

 だが、そんな調子に乗るボッチに、リョウが横から水を差す。

 

「ぼっち。残念だけど、これは物販にはつかえない」

「え? な、なぜですか、リョウさん」

「ファスナーも鎖もコストがかかりすぎ、値段が高くなりすぎる」

「あ、……そんなぁ」

 

「しかたがない。ぼっちのデザインの才能にまだ時代がついてこれないだけ」

「そ、そうですか。それなら、……仕方ないですね」

 

(リョウ、助かった。危うくぼっちちゃん案を採用してしまうところだったぜ。……ちょと残念だが)

(さすが山田先輩。でも、鎖をじゃらじゃらできなくてちょっと寂しいような気も……)

 

 

 

 

 

 ぼっちは大きなため息をついた。露骨にガッカリ落ち込んでいる。

 

(ぼっちちゃん。本気であのデザインがかっこいいと思っていたんだなぁ)

 

 虹夏(♂)は、少しでも気をそらそうと話を向ける。

 

「も、も、もしかしてぼっちちゃん、私服もこんな感じ……かな?」

 

「あ、服はお母さんが買ってきてくれるので。……好みじゃないから一度も来た事無いけど」

 

(ぼっちちゃんが好みじゃない、ということは……)

 

「ぼっち、……ボクはぼっちの私服、見てみたいな」

「オレも、ジャージ以外の後藤さんみたことない」

「ぼっちちゃん、お願いだ。着てみてくれ」

 

「えっ???」

 

「ぼっち、おねがいだ」「後藤さん!」「ぼっちちゃん!!」

 

「えええっ?」

 

 ずいずいと迫ってくる三人の男の子達。目が恐い。もちろんぼっちは男の子に迫られたことなどない。その迫力におもわず後ずさる。壁際に追い込まれる。半分溶けながらパニック状態に陥る。

 

(こ、こ、こんな展開は、予想していなかった。ま、まさか男の子もいるのに、こんなことをいわれるなんて……)

 

「おねえちゃん、着てあげたら。このままだと、せっかくお母さんがかってくれた服、かびちゃうだけだし」

「ふ、ふたりまで??」

 

 妹にまで裏切られ、ぼっちは絶望するしかない。

 

 

 

 

「おねえちゃん、ほら、さっさとジャージ脱いで」

「ちょ、ちょっとふたり、はしゃぎすぎだって」

 

 ぼっちが着換え終わるのを廊下で待つ三人。皆あらぬ方向を向き関心の無い素振りをしているが、そわそわと挙動不審を隠しきれていない。

 

 はらり。

 

(こ、これは、ジャージを畳に脱ぎ落とした音?)

 

 三人の耳は、戸の向こうから聞こえる僅かな音や気配に全集中している。視覚以外の五感六感セブンセンシズすべてを最大限に研ぎ澄まし、部屋の中の様子を伺っている。妄想力を最大限に解放、着換え中のぼっちの姿を頭の中で全力再構成しているのだ。

 

「ほらほら、ズボンも!」

「きゃっ! だ、だから、ふたり、無理矢理脱がさないでぇ!」

 

(む、無理矢理ぬがす?)

 

「ついでに下着ももっと可愛いのに変えちゃえば?」

「な、な、なに、バカな事言ってるの!」

 

(いま、この壁一枚の向こうに、下着姿のぼっちちゃんが……)

 

「お姉ちゃんもういい? 戸開けちゃうよ?」

「ま、まって、ふたり。まだ胸のボタンが……」

 

(むむむむ胸のボタン?)

 

 ごくり。誰からともなく、生唾を飲み込む音がきこえた。

 

 

 

 

 

「おまたせ〜」

 

 ふたりが勢いよく戸を開ける。

 

「うっ、こ、これは……」

 

 そこにいたのは、白いセーラー風にリボン、紺のロングスカートの少女。甘々のロリータ系ファンションがもともとの凜々しく可愛らしい容姿とマッチして、見た目だけならまるでお人形。完璧な清楚お嬢様なぼっち。

 

 さらに、生来のおどおどと怯えたような仕草と相まって、本能的な庇護欲をかき立てる。ついでに、そんな甘い雰囲気の外観でも隠しきれないスタイル抜群のシルエットは、背徳的でさえあった。……視線がさだまらず別の世界に逝っちゃったようなぼっちの表情が、なにもかにもぶち壊しているけれどもそれはともかく。

 

「か、かわいい……」

 

 呆気にとられた虹夏(♂)が無意識のまま口走る。根が真面目で女の子と付き合ったことのない熱血小僧は、この手の甘々な雰囲気の女の子に免疫がない。あっという間に脳みそが灼かれた。文字通り、即死だ。

 

「やはりぼっちはダイヤの原石だったか……。お義母さん、あなたの娘さんに出会えて良かった」

 

 リョウが天に感謝を捧げる。いろいろ打算が無いとは言わないが、それを含めても女性に対してこのような感情を抱くのは初めての経験だ。そして天に誓う。この子を逃すわけにはいかない、絶対に。

 

「後藤さん、こっち向いて!」

 

 一も二もなくスマホを向けるのは、もちろん喜多(♂)だ。普段のオドオドして奇行ばかりで人見知りの後藤さん。演奏中の男前で格好いい後藤さん。そして、きちんと着飾ればこんなにも可愛らしい後藤さん。……このギャップがたまらないんだ。こんな後藤さんの真の姿を、すこしでも多くの人にわかって欲しい!

 

「あっ、しゃ、写真は、ちょっと……」

 

「うんうん、ぼっちちゃんはかわいいんだよ」

「虹夏、いまさら何を言ってるんだ?」

 

「あ、あの、もう脱いでも?」

 

「まってまってぼっちちゃん。前髪も上げてみなよ」

 

 えっ? こ、こ、この展開は、前世でも覚えがある。た、たしか、腐海の蟲みたいな私の体質のせいで、大惨事に……。

 

「後藤さん、オレがセットしてやるよ」

 

 だ、だめです! だめです! だーめ〜〜!!

 

 ……あっ!

 

 その瞬間、閃光がきらめいた。空間が灼かれる。灰色の胞子が飛び散る。

 

 

 

 

「みんなー、デザート食べる?」

 

 後藤父と母がぼっちの部屋の戸を開けると、そこは、……腐海。干からびた人間のミイラのうえに胞子が降り注ぐ世界。

 

「え、えええ?」

 

「きゃ〜塩とお札よぉ」「れ、霊媒師を呼んだ方が」「きゃははは、みんなお姉ちゃんみたいになっちゃった!」

 

(も、もう一回生まれかわったら、今度こそは前髪をあげても胞子にならない女になるんだ……)

 

 

 




 
 
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