女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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ライブ前日

 

 結束バンド初ライブ前日、STARRY。

 

「店長。ちょっと話題になってるみたいですよ」

 

 カウンター。 例によってスマホを眺めているPAさんが、例によってうだうだしている店長に声をかけた。

 

「話題? ネットで?」

「ええ。実は先日、結束バンドのチケット販売のために後藤さんが路上ライブやったらしくて」

「へ? ぼっちちゃんが路上ライブ? ひとりで? ……なわけないよな。誰と?」

「……それは横においといて」

 

(あ、こいつ露骨にごまかしやがった)

 

 しかし、店長(♂)はあえて問いただしたりしない。PAさんがこんな反応の時、いくら問い詰めても絶対に答えが返ってこないことを知っている。時間の無駄なのだ。黙って話の続きをうながした。

 

「どうやら観客の中に後藤さんがギターヒーローだと気付いちゃった人がいたようで、その動画がネットに出回ってて……」

 

 PAさんが示すスマホの動画の中、ピンク色のジャージの少女がギターを掻き鳴らしている。隣にもうひとりいるようだが、顔は映っていない。

 

「動画のタイトルは『このピンクジャージ、まさかギターヒーロー?』か……。こんなジャージ着てこんなにギター上手い女子高校生なんて、世界中探しても他にいないだろうからなぁ」

「そりゃそうでしょうねぇ」

 

「ライブのちらし、……らしきものも映ってるけど、これぼっちちゃんが手作りしてくれたのか」

「後藤さん、ライブのためにここまで。……ホント健気な子ですよねぇ」

「メンバーの連中は知ってんのかな。……って、あー、ここ数日STARRYにへんな問い合わせがあると思ってたら、それかぁ」

「問い合わせ、ですか?」

「ああ、ライブ予定の『結束バンド』のギターについて教えてくれって。有名な雑誌の編集部からもあったぞ」

「まさか、教えたんですか?」

「教えるわけないだろ。ライブ見に来いって言ってやったよ。……も、もしかして、明日STARRY満員御礼になったりする?」

「嬉しそうですね、店長」

「そりゃぁ、店の経営を考えれば、な……」

 

 店長。こちらを顔を向けないが、ニヤけているのがわかる。

 

(そりゃ虹夏くんや後藤さん達のバンドの初ライブですもの。お客さんたくさん来てくれれば嬉しいでしょうね。ただ心配なのは……)

 

 PAさんが振り向く。後ろに視線を向ける。そこでは、例によって例のごとく結束バンドのメンバーが打ち合わせをしている。記念すべき結束バンド初ライブに向けて。

 

「台風、それてくれればいいですね」

「……そうだな」

 

 

 

 

 そんな店長(♂)とPAさんの後ろ。結束バンドのメンバーがやっていたのは、完成したTシャツのお披露目会だった。

 

「先日の打ち合わせでは良い案が出なかったので、Tシャツはオレの案になりました」

 

 じゃじゃーん。

 

 虹夏(♂)の隣でポーズを決めているのはリョウ。細身に長身、モデルのような体型。黒地にでかでかと結束バンドのロゴ入りのTシャツを着こなしている。相変わらず肌はさらしていない。

 

「実はオレ、デザインとか得意なんだ。格好いいだろ」

「格好いいのはモデルがいいから」

「へぇ先輩、これまたずいぶんと無難な、……い、いえ、確かに格好いいデザインっすね」

「この超かっこいいデザインを『無難』とは失礼だな」

 

「結束感あっていいんじゃないですか? 無難なものを無難にきちんと作りあげるというのは、それはそれで才能が必要なんですよ。音楽だっていっしょです」

 

 PAさんがメンバーの会話に入ってきた。

 

「オレの才能を理解してくれる人がいた!」

「そーゆーものですかね?」

「無難にみえるかどうかも結局はモデル次第」

 

 おそろいのTシャツに盛り上がっている男子三人を横目に、ぼっちはため息をつく。

 

(前世の時も思ったけど、最初から虹夏君がデザインすればよかったのでは。みんなでワイワイ考えるのは楽しかったけど……。それにしてもリョウさん、何着ても似合う。中性的というか本当にモデルさんみたい。……素敵な人だな)

 

 この時、ぼっちの視線はリョウの胸部に集中していた。そんなぼっちに向けて、リョウが声をかける。

 

「ぼっち、ぼくのことを『素敵な人だ』とでも言いたげな顔だね。……でも、そんなに見つめないで。照れる」

 

(ひいいい! ま、まさか、リョウさんに心を読まれた?)

 

「ふっふっふ、ぼっちの考えている事はだんだんとわかるようになってきたかも。……こないだぼっちの胞子を吸い込んだからなかな」

 

(え、えええええ?)

 

「おおおおいリョウ、変なこと言ってぼっちちゃんをからかうのやめろ! ぼっちちゃんの身体溶けだしてるじゃないか!!」

「お、オレもTシャツ着るから後藤さん見てくれ! ……ていうか、後藤さんも着れば? 先輩も、みんなで着換えましょうよ!!」

「そうだな。打ち合わせはTシャツ着てやろうか」

 

 

 

 

 

 

 なし崩し的に、メンバー全員でTシャツを試着することになった結束バンド。ぼっちは女子用の控え室で着換えている。

 

「あ、あれ?」

「どうした? ぼっちちゃん」

 

 ぼっちと虹夏(♂)、ドア越しの会話。

 

「これ、サイズが……」

「えっ?」

 

 カチャリ。

 

 ドアが開き、ぼっちが出てきた。おずおずと。いつも以上の前屈みで。

 

「……ちょ、ちょっと、だけ、小さいかも、しれません」

 

 ぼっちは身を縮こませている。全身を隠す様に。

 

「ええ? 注文まちがえ……」

 

 虹夏(♂)は黙る。声が続かない。その視線は、一点に固定されていた。

 

「え、……に、虹夏、くん?」

 

 ぼっちは気付いた。虹夏(♂)の視線の先に。いったい何を視ているのかに。……虹夏(♂)だけじゃない。リョウも、喜多(♂)も、ついでにPAさんと店長さん(♂)も同様に凝視している先。それは……。

 

「ふぇぇ??」

 

 つい先ほど、ぼっちがリョウのTシャツ姿に見とれていたのとは逆だ。みんながぼっちを見つめている。しょうしょうサイズが小さいシャツを。露わになったボティの線を。おへそを。そして、胸を。

 

 反射的に、ぼっちはその場に座り込んだ。

 

 

 

 

 それは、客観的にみれば、多少サイズが小さめではあっても夏場ならどこでも見かける、ちょっとピチピチな程度のTシャツだった。

 

 だが、ぼっちは男の子にこんな目で見られたことはない。少なくとも自覚したことはない。これが生まれて初めての経験だ。恥ずかしさというより、へんなものを見せてしまって申し訳ないという気持ちでいっぱいいっぱいだ。

 

「ご、ごめんなさい。みない、で、ください。……す、すぐに、着換えてきますから」

 

 そんなぼっちを背中に隠すよう立ちはだかったのは、PAさんだ。

 

「後藤さん、ちょっと小さいくらいで気にするほどおかしくないですよ。かえって可愛らしいくらい ……って、こら、そこのチャラ男とクズベーシストとやさぐれ中年! 本人が嫌がってるのにスマホを向けない!!」

 

(……とはいっても、後藤さんスタイルいいですねぇ。とくに胸の破壊力がすごい。そりゃ男の子の視線が集まるのも当然か。おっと、感心してる場合じゃなくて)

 

「虹夏くん、このシャツ、物販用なら他のサイズもあるんですよね」

 

「え? い、いえ、とりあえず初ライブに間に合うようメンバー分しか作ってなくて、物販用は次のライブからと……」

 

「はぁ、仕方ないですね。じゃあ後藤さん、ライブ本番は上からいつものピンクジャージを羽織りましょう? ……って、こらぁ、写真を撮るなって言ってんだろうが、そこの三十路のおっさん!!」

 

 

 

 

 

 再開した結束バンド打ち合わせ。メンバーは一心不乱に、……テルテル坊主を作っていた。

 

「テルテル坊主、結構むずかしいよな」

「意外と時間がかかってしまった……」

「こんなの作ったの、幼稚園以来ですもん。仕方が無いですよ」

 

 打ち合わせ後の解散直前、台風に備えて照る照る坊主をつくろうと言い出したのはぼっちだ。めずらしく強い口調で訴えるぼっちを意外に思いながら、他のメンバーは黙って従ったのだ。

 

 テーブルを囲んでの照る照る坊主の作成中、ぼっちはピチTの上からピンクジャージを羽織っていた。シャツ胸部の結束バンドのロゴも、ぼっち=ギターヒーローのトレードマーク(?)であるピンクジャージの下に隠されている。

 

 ……が、それでも、男子達は意識しないわけにはいかない。先ほどのぼっちの姿が脳に焼き付いている。どうしてもチラリチラリとぼっちの胸に、おへそに、視線が向いてしまう。思いのほか時間がかかってしまったのは、そのせいだ。

 

「じゃ、じゃあ、テルテル坊主もできたし、そろそろ明日にそなえて解散しよう!」

「ライブ楽しみだね、後藤さん」

「あ、はい……」

 

(台風、だいじょうぶ、だよね……。せめて前世の時より、ちょっとでもましになってくれるよ、ね)

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば……」

 

 解散後の帰り際、思い出したように喜多(♂)が口を開いた。聴いていたのは、たまたま近くにいたリョウだけだ。

 

「結束バンドのSNS、最近フォロワー数が一気に増えたんですよ」

「へぇ。喜多がマメに更新してくれるからね。けっこう宣伝効果あるみたいで、感謝しているよ」

 

 喜多(♂)にむかってリョウが頭を下げた。

 

 性別を誤解していたとはいえ憧れている人に感謝されたのだ。喜多の頬が自然に緩む。

 

「ついでに、ここ数日へんなコメントが多いんですよね」

「アラシって奴かな。有名になった証拠。……で、どんなコメント?」

「えーと、オレ等のことかっこいいと言ってくれる人とか、逆に練習風景をみてギター以外は下手くそとバカにするのとか……」

「どちらも真実だから仕方がない。……コメントの返答はどうしてるんだ?」

「基本的に無視してますよ。あと、なぜか後藤さんのピンクジャージをネタにするコメントが増えてきました。なんとかヒーローがどうとか、こんなバンドじゃもったいないとか……。山田先輩、そのなんとかヒーローって何のことかわかります?」

 

「……喜多は気にしなくていいよ。いまは初ライブを成功させることに集中しよう」

 

 

 

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