女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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台風襲来

 

「結局、台風来ちゃいましたね。まさか直撃とは」

「そりゃてるてる坊主くらいでどうにかなるわけないからなぁ」

 

 開店前のSTARRY。雨にぬれたPAさんがタオルで頭を拭きながら、店長と会話をしている。

 

「午後は電車すべて計画運休が決定ですって。洪水や停電への注意喚起に不要不急の外出自粛要請まで。……みんなお客さんの入り見て心おれなきゃいいですけど。ていうか、これじゃ今日出演するバンドのメンバーも来れないんじゃないですか?」

 

「ぼっちちゃんは始発で来てくれたよ。でも客はなぁ……。場合によっちゃ中止も検討せんとな。あー、店長として頭が痛い! ……まぁ、あいつらバンド続けていけばこんな理不尽たくさんあるんだから、乗り越えられるようにならなんと」

 

 星歌(♂)は一気に吐き捨てる。ため息をつきながら、天を仰ぐ。

 

「……ハンカチありますよ」

「いらねーよ。ちょっと煙草すってくる」

 

 

 

 

 

 

「あ、ひとりちゃん!」

 

 ずぶ濡れになりながら入店してきた二人の女性。たまたまフロアをウロウロしていたぼっちと目が合った。

 

「あ……路上ライブの時の、……き、来てくれたんですか?」

「もちろん! わたしたちひとりちゃんのファンだし!」

 

 ファン1号さんと2号さんだ。

 

「台風のなか、ありがとうございます」

「わたしたち、この近くに住んでるの。たまたま小降りだったからちょっと早いけど来ちゃった」

「台風ふっ飛ばすくらい格好いい演奏期待してますね!」

「は、はい、任せてください!!」

 

(1号さん2号さん、やっぱり来てくれた!)

 

 前世よりも酷い台風直撃の中、自分がチケット売ったお客さんがきちんと来てくれたことに、ぼっちは少々舞い上がる。

 

(大丈夫。台風はひどいけど、きっと、きっと大丈夫……結束バンドのメンバーも一緒だから)

 

 

 

 

 

 

「……こ、こんにちわ〜」

 

 土砂降りの中、おそるおそるドアをあけ、店内を覗く人影。ちょうどドアの前にいた星歌と目が合った。

 

「すいません。まだ開店前……」

「あ! お、お、おひさしぶりです、星歌……先輩」

 

 ひとりの女性がこそこそと顔をだす。

 

「え? きくり? えええ? おまえ、……なんの用だ?」

「や、やだなぁ星歌先輩。私は客だよ客。ライブハウスの客なんだからライブ聴きに来たに決まってるでしょ。こ、この店、客の扱いがなってないなぁ」

 

 唖然とした顔の店長。その前でへらへらと笑う廣井きくり。手に持っているのは、安酒の紙パックだ。

 

「……酒飲んでるのか? こんな時間から?」

 

「うん! お酒大好き! 今では素面の時の方が少ないくらい。……でも、お酒のおかげで私ちょっと有名になれたんだよ、知ってる?」

「あ、ああ。SICKHACKのことは気にかけてた。凄腕のベーシストが酔っぱらいって話ももちろん知ってる。でも、ステージのパフォーマンスのためだと……」

 

「へっへっへ。嬉しいな。星歌先輩が今でも私の事を気に掛けてくれてたなんて……」

「そりゃ、おまえのベースの才能を誰よりも知ってるのは、オレだ」

「そーだよねぇ。私に音楽のこと教えてくれたのは……、音楽だけじゃない。あれやこれや人生のいろいろすべてを教えてくれたのは星歌先輩だよねぇ。そんな星歌先輩に恩返しで特別に教えてあげる。今の廣井きくりはねぇ、……りっぱなアル中でーす!!」

 

 焦点の合わないぐるぐる目のまま鬼ころし紙パックを握りしめ、自分がアル中だと高らかに宣言する女。

 

「……おまえ、しばらくみないうちに面倒くさい奴になったな」

 

 星歌(♂)は立ち上がる。きくりににじり寄る。

 

「え、な、ななななに、なに? 星歌さん」

 

 しげしげときくりの全身を見つめたあと、星歌(♂)はため息とともに言葉を吐き出した。

 

「おまえ、酒臭いだけじゃなく、ガリガリじゃないか。ちゃんと飯食ってるのか? そんなんでバンドやっていけるのか?」

「よ、余計なお世話だよぉ、星歌先輩。酒さえ飲んでいれば、わわわ私は無敵のベーシストになれるんだからぁ……」

 

 星歌(♂)はきくりの両肩をつかむ。まったく無遠慮に顔を近づけ、正面から諭すように語りかける。

 

「なぁ。オレは、酒に溺れてダメになったバンドマンを何人も知ってる。おまえ、オレのところから出てく前はそんなんじゃなかったろ。酒やめろ。時間かかるなら、オレが岩下やFOLTの店長にも話しつけてやるから!」

 

 きくりは一歩下がる。星歌の両手をふりほどく。

 

「ば、ばーか、ばーか! 相変わらずのおせっかい野郎! ……やっぱり、帰る」

 

 踵を返すきくり。それを無理矢理引き留める星歌(♂)。

 

「まてよ! バンドやめたって飯ぐらいオレが食わせてやる。なんならまたいっしょに……」

 

「あー、あー、きこえない。きこえない。何も言わないで。……今の私はひとりでも生きていける立派なバンドマンなの! あなたに甘やかされるまま閉じこもっていた陰キャで根暗な廣井きくりは、お酒の力のおかげでいなくなったの。もうどこにもいないの!」

 

「じゃあ、おまえ、……なんでここに来たんだ?」

 

 

 

 

 

「あ、お姉さん!」

 

 星歌(♂)と押し問答しているきくりを、ぼっちが見つけた。

 

「ほらほら昼メロはいい加減にして。若い子達が見てますよ」

 

 PAさんが手を叩き、星歌(♂)ときくりを引き剥がす。

 

「あ、ひとりちゃ〜ん、来たよ〜」

「き、きてくれたんですね、お姉さん!」

 

「え? おまえぼっちちゃん目当てで来たの?」

「そ〜だよ〜。イェ〜イ!」

「あ、そ、そういえば、お姉さんと店長さん、お知り合いなんですよね」

「ああ。……ただの大学の後輩だよ」

「そーそー、私はただの後輩ぃ」

 

『ただの』に妙に力がはいった二人の口調に、ぼっちはちょっとだけ違和感を感じた。

 

「今日来たのはねぇ、先輩バンドマンとしてひとりちゃんに教えてあげたいことがあったんだぁ」

「あ、……お姉さんが私に教えたいこと、ですか?」

 

「おまえがぼっちちゃんに教えられることなんて、あるわけないだろ」

「う、うるさいなぁ、星歌さんは黙ってて! ひとりちゃん、ギター無茶苦茶うまいけど、ライブ初めてって言ってたよね?」

「あ、は、はい。そうです、けど」

 

(生まれかわってから『初めて』ですけど)

 

「じゃあ覚えておいて! いい? 君は絶対にあがっていく人間だ。だから初ライブ、自分とバンドの仲間にもっと自信を持って。それが無理なら、……酒でドーピングもありだぁ!」

 

 ガシッ!

 

 廣井の顔面を、正面から星歌(♂)が手の平で掴む。

 

 ギリギリギリギリ!

 

 こめかみを、顎を、頭蓋骨を、指の力で締めあげる。

 

「せ、星歌さん! 痛い痛いいーたーいー!」

「女子高校生のぼっちちゃんになんてこと言いやがる! このアル中が!」

「私があんな恩知らずな別れ方しちゃった時には怒らなかった星歌先輩が、ひとりちゃんに冗談をいっただけでこんなに怒るなんてぇ……」

「おまえ、もう帰れ」

 

「お、お姉さん。 ……わかりました。ステージ、結束バンドの仲間に自信もっていきます!」

「へっへっへ、さすがひとりちゃん、私の言いたいことわかってくれた? ……星歌さん、そろそろ離してぇ!」

 

 一見、感動的な会話だけど、やさぐれ男が小柄な女性にアイアンクロー掛けながらってのは、いったいどういう状況なんだ?

 

 遠目で見ていた虹夏(♂)は、知らない女性の顔面を締め付け続ける兄を、止めるべきか否か判断できなかった。

 

 

 

 

 

 

「こ、こんにちわ〜」

 

 ライブ開始直前。いまだにガラガラのSTARRY。ばんっ、と勢いよくドアを開け、ひとりの少女(?)が押しかける。

 

「私、ばんらぼってバンド批評サイトで記事描いている者ですが」

 

 PAさんが対応したのは、一見して顔は幼い。服装も中学生くらいに見えないこともない。なのに自らを取材目的のライターと名乗る、ちょっと痛い女性。

 

「あ、あたし、ぽいずん♡やみ14歳で〜す」

「アポとかとってらっしゃいますか?」

 

 営業用のにこやか笑顔で対応するPAさん。

 

「ごめんなさ〜い、とってないですぅ。……えーと、ギターヒーローさんの取材をお願いしたいんだけど」

 

 まったく悪びれる様子も無く、いきおいだけで押しまくる気満々の自称14歳。

 

「その件については、すべて店長からお断りしているはずですが……」

「あ、お店には迷惑をかけませんので、ご本人に取り次いで頂ければ〜」

「ご本人と言われましても、……私どもには誰の事やらさっぱりですので」

 

 PAさんのけんもほろろの対応に、自称音楽ライターの顔から嘘臭い笑顔が消えた。

 

「しらばっくれるんですか? こんな場末のライブハウスの人間には理解できないかもしれないけど、ギターヒーローさんの正体があかされれば今の邦ロック業界にドカーンと衝撃が……」

「失礼ですが、あまりお名前も知られていないマイナーなライターさんが業界のことを語っちゃうのは、ちょっと痛いと思いますよ」

 

 女性ふたりのあいだ、盛大な火花が散る。

 

「じゃ、じゃぁ、今日ライブする予定の『結束バンド』に取材を〜」

「……初ライブの高校生バンドにいったい何を取材するんです? いい大人が未成年相手に迷惑行為はやめた方がよろしいかと」

 

 かちん! ぽいずん♡やみの頭の中でなにかが切れた音がした。

 

「迷惑行為? わ、わたしは、ギターヒーローさんの大ファンなの! だからおねがい、ヒーローさんにあわせて! 取材なんてどうでもいいから!」

 

 自称14歳がPAさんに縋り付く。ギターヒーローにあわせろとダダをこねる。その姿は、たしかに14歳、いや小学生に見えない事もなかった。

 

「……店長どうします、この変な子?」

「台風のおかげでギターヒーロー目当ての連中もこない平和な初ライブになるかと思っていたが、それでも来る奴は来るんだなぁ」

「ネットでの人気を考えれば、無理もないかも。……本気のファンみたいだし、たたき出すのも可哀想ですけど」

 

「しかたねーなー、……おい!」

 

 無精ヒゲに金髪、細いが目つきが悪い空手使いのやさぐれおっさんが睨む。

 

「……な、な、なによ、暴力でもふるう気?」

「ただの客としてライブ見るだけなら、たたき出すのは勘弁してやる」

「は?」

「もし変な記事かいたら、……『ぽいずん♡やみ14歳』を、おまえの親御さんにばらすからな」

 

 スマホで検索した結果をPAさんが突きつけた。

 

「ひぃぃぃ、い、いつの間に! わ、わかったわよ。今日は客として、ギターヒーローさんを拝むことにするから!」

 

 

 

 

 

「そろそろ時間ですね。台風直撃の初ライブ、……なにやらハプニングの予感しかしませんが」

 

 時計を見ながらPAさんが店長(♂)に声をかけた。その隣にはあたりまえのように酔っ払いベーシストがいる。

 

「まぁ多少ハプニングがあった方がロックっぽくていいんじゃない? それよりも、終わったら打ち上げ行くんでしょ? 私おいしい場所知ってるんだけど」

「こいつウゼぇ……」

「飲み会覚えたての学生に通ずるウザさですね」

 

「……だいたいおまえ、いまさらオレに対してなんでそんなに馴れ馴れしく振る舞えるんだよ?」

「そりゃぁ、……私はひとりちゃんのお姉さんだから」

「よくわからん。ほんとウゼぇ」

 

 

 




 
 
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 
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