女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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うちあげ 1杯目

 

「ライブよく頑張った。今日はオレのおごりだから飲め!」

「おお! 店長太っ腹!!」

 

 記念すべき結束バンド初ライブは無事(?)終了。メンバー達と店長、スタッフは居酒屋でテーブルを囲んでいる。打ち上げだ。

 

「星歌先輩、好き〜」

 

 きくりが店長に抱きつく。

 

「お前は自腹だ、なれなれしくくっつくな! そもそもなんでおまえ打ち上げにいるんだよ!」

 

 煩わしそうに避ける星歌(♂)。だが、イヤそうな顔をしていても、本気で腕力を使ってまできくりをはね除ける気はなさそうだ。

 

「……ていうか、この方、誰?」

 

 そんな様子を正面から眺めながら、喜多(♂)が当然の疑問を口にする。

 

「誰よりもベースを愛する天才ベーシスト、廣井きくりでーす」

 

 もちろん、年上のよっぱらい女を喜多(♂)が知るはずも無い。

 

「ボク、よくライブ行ってました!」

 

 だが、唐突に横から会話に割り込んできた男がいる。リョウだ。

 

「え〜ほんと〜! 君、見る目あるねぇ」

「観客に酒吹きかけたり、泥酔しながらのライブ最高です。顔面踏んでもらったのもいい思い出です!」

 

 喜多(♂)が知っているリョウは、基本的にいつも気だるげで他人の会話にはいってくることはない。それがクールで格好いいと思っていたのに……。なのに、目を輝かせ前のめりついでに早口でツバを飛ばしながら力説する姿に、喜多(♂)は若干引いている。

 

「実力あるのに売れないの、本当に残念です……」

「たしかにバカテクなバンドだが、こんなのが大衆にうけたら世も末だと思うぞ」

 

 星歌(♂)がため息をつく。

 

「……リョウ先輩がこんなんでテンションあげるなんて。オレ、まだまだロックのこと全然理解してなかったかも」

「だから、そこは理解しなくてもいいから」

 

 あっけにとられている喜多(♂)。呆れ顔の星歌(♂)。打ち上げは和やかに進む。

 

 

 

「なぁ、喜多。それって……」

 

 打ち上げ会場、参加メンバー、そしておつまみ。いちいちスマホで記録してどこかにアップロードしている喜多(♂)に気付いた店長(♂)が尋ねた。

 

「あ、俺、結束バンドのイソスタ大臣なので」

「何が楽しいんだ?」

「結束バンドの初ライブ、初打ち上げですからね。今日ライブにこれなかったファン予備軍にも、楽しい気持ちのお裾分けというか」

「ファン予備軍って、……おまえらまだライブ一回しかやってないだろ。今日だって客は5人しかいなかったし」

「でも、練習風景とか日常のことだけでも、マメに更新してれば結構フォロワー数増えるんですよ。こーゆー地道な宣伝が大事かなって」

 

 へぇ。……たしかに、こいつらなら見た目だけでも女性客は食いつきそうだが。面がいいってのは、それだけで得だなぁ。

 

「というわけで、店長今日のライブ動画とってましたよね。ください。アップしても大丈夫ですか?」

「ん? 個人的に撮ったスマホ動画でいいのか? オリジナル曲だし、どこに公開しても問題ないと思うが……」

「……一応きいておきますけど、結束バンド全員、俺や山田先輩や伊地知先輩の姿って映ってます?」

 

 ギク! 冷や汗を流しながら、店長(♂)が顔を背ける。

 

「あ、ああ。ももももちろんおまえらも、少しは、映ってるんじゃ、ないかなぁ? たぶん。一コマづつくらいは」

「……もともとそんな事だろうと思ってましたよ。でも、俺も後藤さんのかっこいい姿みたいし、多くの人に知ってもらいたいから、それでかまいません」

「そ、そうだろう? そうだよな! おまえ、意外とオレと気が合うな」

「えーー、こんなおっさんと気が合うの、いやだなぁ」

 

 

 

 

 

「それにしてもさぁー、今日のライブ最後は大盛り上がりで良かったねぇ〜」

 

 成人組がいい感じで酔っぱらった頃、結束バンドのイケメン達を見渡しながらジョッキ片手にアル中女が叫んだ。

 

「観客5人も居なかったですけど……」

「でもさ、その人達は全員満足してくれたじゃん。もちろん私も感動しちゃったよ」

「……たしかに、な。今日みたいなライブ続けてれば、そのうちファンも増えてくるんじゃねぇか?」

 

 結束バンドのメンバーには視線をあわせず、金髪のやさぐれ中年男がぼそりとつぶやく。

 

「……店長、いい歳したおっさんがなに照れてるんですか? せっかく若い子達がいいパフォーマンスを見せてくれたんですから、店長としてちゃんと正面から誉めてあげてくださいな」

 

 じっとりとした目で睨みながら、PAさんが店長(♂)をたしなめる。

 

「えっ? て、照れてなんかいねぇよ。ていうか誰がおっさんだって?」

「あなたしかいないでしょう」

 

 冷たく言い放つPAさん。

 

「星歌さんがたとえおっさんになっても、私は好きぃ!」

 

 ふたたび抱きついてくるグルグル目の酔っぱらいを、店長(♂)は今度こそ力尽くでふりはらう。

 

 

 

 

 

「まぁ、そうかもな。……ごほんっ!」

 

 店長(♂)はわざとらしくひとつ咳払い。そして、視線をテーブルの対面に座る結束バンドの面子にむける。

 

「た、たしかに今日のおまえらは頑張った。台風にも負けずよく頑張った。店長として褒めてやる。そして、今日いちばん頑張ったのは、なんといってもぼっちちゃんだよな。本当に格好良かった!」

 

 星歌(♂)が指をさしたのは、小上がりのテーブルの真ん中の席にいる結束バンドのぴちぴちティーシャツを着た少女、……のはずだった。

 

「……って、えっ、あれ、ぼっちちゃん? 真っ白に燃え尽きてる?」

 

 だが、そこにあるの真っ白な灰。まるで死力を尽くした試合後のボクサーのように、ぼっちは真っ白に燃え尽きていた。

 

「ぼ、ぼっちちゃん! 灰になるな! 燃え尽きるにはまだ早い!!」

「ぼっち、起きろ!」「後藤さん!!」

 

 

 

 

 

「はっ?」

 

 はげしく肩を揺すられて、ぼっちは正気を取り戻した。

 

「わ、わたし、いままで、なにを……」

 

 身体が動かない。全身の筋肉が極度に疲労している。頭がぼーっとしている。今がいつでここがどこなのか、とっさに思い出せない。居眠りしてた?

 

 目を覚まさねば。でも、眩しくて目が開けられない。むりやり瞼を開いて見れば、至近距離に人の顔。徐々に焦点があってくれば、それは心配そうな表情のイケメン。……イケメン?

 

「き、き、ききき喜多君?」

 

 ぼっちの顔面の真正面、息がかかるほどの距離に喜多(♂)の顔があった。

 

 ひゃーーーーー!

 

 ぼっちは反射的に身体ごと後ろにずり下がりる。必死に喜多(♂)との距離をとる。

 

「後藤さん、……寝ちゃってた? ステージの上ではあんなに格好良かった後藤さんが、こんなに無防備でかわいらしい顔して居眠りしちゃうんだね」

 

 輝くほどのチャラ男オーラが眩しい! ぼっちは思わず顔を背ける。

 

(……そのギャップがたまらないんだけど)

 

 喜多(♂)が口の中だけでつぶやくが、もちろんぼっちはそれどころではない。

 

 どどどどうして喜多君が私の顔を覗き込んで……。わ、私、口開けて寝てた? なんか全身汗臭いし、よだれ垂らしてなかった、よね?

 

 ぼっちはいつもの通り相棒のピンクジャージの袖で口元を拭おうとして、気付く。

 

 あ、あれ? ティーシャツ姿? わたし、ジャージ着てない?

 

「後藤さん、……ライブのこと覚えてないの?」

 

 ライブ? も、もももちろん今日ライブだったことは覚えている。前世と同様にがらんとしたホール。絶望的な雰囲気。それを打開しようと独りであがいたこと。そして、ピンクジャージを脱いで……。

 

 さーっ。

 

 ライブの記憶がよみがえり、ぼっちの顔から血の気が引いた。元に戻りかけた身体が、今度は溶け始める。

 

 や、やってしまった。またしてもやってしまった。メンバーの皆さんを無視して、ひとりでいきってしまった。……大事な大事な初ライブだったのに。

 

「後藤さん、ライブ終わってからずっと夢遊病みたいだったからね。まぁあれだけ頑張ったんだから、疲れちゃうのもしかたがないけど。……おつかれさま。そして、ありがとう」

 

 キターン!

 

 喜多(♂)の背中からふたたび陽キャオーラが噴き出す。庶民的な居酒屋がキラキラ光の洪水に満たされる。隠れ場所を見つけられない隂キャは顔面を両手で覆い、現実逃避するしかない。

 

「そそそそそそんなこと。ライブが上手くいっったのは喜多君の陽キャパワーのおかげですから……」

 

 眩しい。眩し過ぎて喜多君(♂)の顔が見れない。正視できない。

 

 ガラガラのSTARRYのしらけきった雰囲気を、その微笑みだけで一度は完全回復させた陽キャイケメンの超パワー。超至近距離からの直撃を喰らったぼっちの肉体を、容赦なく灼きつくす。

 

 

 

 

 

 ぼっちは尻込み。半分とけた身体ごとずりずりと後ろにずり下がる。まぶしさに耐えきれず振り向く。だが、……そこにも美形がいた。喜多(♂)と同じくらい眩しい美形が。

 

「喜多のいうとおりだ。ぼっちは頑張った。ボクからも言わせてくれ。ありがとう」

 

 りょりょりょリョウさん!

 

 整った顔立ち。クールな表情。常に人を引きつけるオーラを発している喜多(♂)とは逆のタイプ。あまりにも綺麗すぎて一般人には近寄りがたいほどの、文字通りの美形。もちろんぼっちが正視できるはずもない。顔を両手で多い隠して、思い切りうつむいて、床に向かってブツブツとつぶやくだけだ。

 

「ちょ、ちょっと頑張っちゃったのは確かですが、おおおお礼なんて、いわないでください、リョウさん。わ、私、いきってあんな独りよがりの演奏しちゃって、こ、ここは腹切ってお詫びするしか……」

「それはいいから」

 

 苦笑いのリョウさん。しかしその直後、表情がかわる。いつになくマジメな顔になる。

 

「ぼっち、ギタリストは独りよがりな演奏が許される。天才ならなおさらだ。それがロックだ。……その点、ぼっちはもっとエゴイスティックでもいいと思う」

 

 え、えええ? リョウさん、さ、さすがにそれは誉め過ぎです。

 

「誉めすぎじゃない。今日のぼっちのステージを見た者ならみんなそう思ってる。ボクは、今日STARRYで天才ギタリストと共演できたことを、ロックの神に感謝しているくらいだ」

 

 えええ? そ、そ、そ、そそそんな恥ずかしいこと口にしちゃうなんて、あなた本当にリョウさんですか?

 

 案の定、自分で言ってから照れて恥ずかしそうにうつむくリョウさん。……あ、あれ? ちょっと、かわいい?

 

 

 

 

 

「おい! そこのちょっと顔とスタイルが良いだけのクズベーシスト!」

 

 向かいの席で青春している高校生の若者達。それを目の当たりにした酔っ払い店長(♂)が思わず叫ぶ。こめかみに青筋を立てている。

 

「山田! てめー、ぼっちちゃんを口説くなんて100年早い! 離れろ!」

 

 ビシッ! すがりつく廣井を無理矢理ひきはがし、テーブル越しにリョウとぼっちを指さして睨む星歌(♂)。

 

「えっ? て、てて店長さん、ちがいます! りょりょりょりょうさんが私なんて口説くはずが……」

 

 だが、凄みをきかせた酔っ払い金髪やさぐれおっさんの恫喝も、若者達には効果が無かった。

 

「三十路のおっさんうざい。そもそも、星歌さんにそんなこと言われる筋合いないし」

「あんだと。オレはぼっちちゃんの保護者だからな。オレの目の黒いうちは絶対に許さんぞ、……こら、隣のチャラ男、おまえもだ! ぼっちちゃんに気安く触れるな!」

「えーなんでですか、いつも後藤さんに無視されてるひがみですか。今ぼくたち後藤さんと話するのに忙しいので黙っててくれませんか。店長は隣の酔っぱらいお姉さんお二人と仲良くしてればいいじゃないですか」

「うるせー、黙れ! おまえらばっかりぼっちちゃんと仲良くしやがって許さねぇぞ。……オレも仲間に入れろ!!」

 

「て、店長さん! いきなり席を立ってなにを……」

 

「うわー、おっさん、ここ狭いんだからむりやり入ってくるな!」

「おまえ、ちょっとオレと席かわれ!」

「絶対イヤですよ! パワハラやめてくださいよ訴えますよ!!」

「バカヤロー、裁判所が恐くてロッカーなんてやってられるか!」

 

「ひぃぃぃぃ〜〜」

 

 

 

 

 

「ひとりちゃん、モテモテじゃーん」

 

 ふたりのイケメンとやさぐれおっさんに囲まれて今度はツチノコになりかけているぼっち。それをニヤニヤしながら眺めるきくり。

 

「そりゃそうでしょう。ステージの上であんな格好いい姿を見せられたら、バンドやってる男の子はみんなイチコロですよ」

 

 となりのPAさんもうなずいている。

 

「確かにそーかもねー。私も今日のひとりちゃんに脳みそ灼かれちゃったもん」

「……恥ずかしながら私もです。後藤さんが覚醒したあの瞬間、自分の仕事を忘れかけました」

 

 二人とも本心からそう言っている。さきほどリョウが語った言葉を自分のこととして噛みしめている。『今日STARRYで天才ギタリストのステージを目撃できたことを神に感謝している』というのは、長年音楽で飯を食っているふたりにとっても決して大げさな表現ではなかった。

 

「……あれー、そういえばさぁ、バンドメンバーがひとり足りないね。星歌さんの弟さんは?」

「虹夏くんなら……、そういえばさっき頭冷やして来るって席立ったまま帰ってきませんね」

 

 きくりとPAさんが店内を見回しても、虹夏(♂)はどこにもいない。

 

「……虹夏君の場合、もともと後藤さんに脳みそ焼き切られちゃってましたからね。今日のライブでついに限界突破しちゃったのかも」

 

 うふふ。……と口元を隠しながら、PAさんが妖しく笑う。

 

「いーなー、青春だなぁ。……でもさー、ひとりちゃんはあんな感じだし、ライバルはあのパリピイケメンチャラ男くんとクズ優男美形ベーシストくんでしょ。弟さんも大変だよねぇ」

「そうですね。虹夏くん、店長さんと血が繋がってるとはおもえないマジメな熱血君ですし、あんまり思い詰めなければいいんですけど」

 

 今やとても元人間だったは思えないピンクスライムとツチノコのキメラ姿のぼっちの隣の席を、本気で奪い合っているイケメン二人とおっさん。PAさんはそんな様子を視線の端にとどめながら、声をひそめる。

 

「なんにしろ、STARRY従業員としては、将来性豊かなバンドの皆さんにはできればいつまでも仲良く活動つづけて欲しいのですが……」

「そうだねぇ。それは私も同感。ひとりちゃんには楽しくバンドやって欲しいよねぇ。……でも」

 

 きくりもちょっとだけ声をひそめる。腕を組んで難しい顔をする。バンドマンの顔になる。

 

「でも、……うーん、うーん、大きな声じゃ言えないけどさ、この調子じゃあ『いつまでも仲良く』は難しいかもねぇ」

 

(やっぱり……。結束バンドメンバーのこの状況をみれば、誰でもそう思いますよねぇ)

 

「メンバー内の痴情のもつれで解散なんて普通にあることだし、そもそも高校生が組んだバンドなんて長続きする方が珍しいし。……まぁ、それも含めて、青春だよね! くそー、私にはもう無縁の世界だなぁ! ひゃっはー、ビールおかわりぃ!!」

 

 だが、それは一瞬。アル中女はたちまちいつもの様子に戻ってしまった。

 

(やれやれ。外野はお気楽でいいですね)

 

 PAさんはひとつため息。

 

(……とは言っても、外野なのは私も同じ、ですか)

 

 そしてジョッキを一気にあおる。

 

「わたしもビールおかわり!」

 

 

 





おもいのほか時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。みんなインフルエンザ(A型)とコロナ(2度目)と年度末の残業と某北の果てのJ リーグチームの絶不調のせいなのです。
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