女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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※注) この世界のギターヒーローさん(人生二度目)は、原作よりも十倍増しの有名人になってます。


結束バンドの夏休み その1

 

「あーバズってますねぇ」

 

 夏休みも終わりに近いある日のSTARRY。例によってカウンターでグタグタ駄弁っている大人二人。店長(♂)とPAさんだ。

 

「は? バズるってネットのはなし? いったいなにが?」

「結束バンドですよ」

「喜多がやってるSNSか」

 

 店長は自分のスマホをひらく。イソスタで弟のバンドのアカを開く。

 

 『初ライブ成功!』のタグ。演奏中の写真。ライブハウスの照明がキラキラ眩しい。メンバー(男子)それぞれのどアップもキラキラ。飛び散る汗もキラキラ。とにかくすべてがキラキラしている。

 

「相変わらずチャラついてるなぁ。……ていうか、ライブのことはこれだけ? 打ち上げとか、そもそもバンドと関係ない内容の方が多いんじゃねぇの、これ」

「喜多君ですから。でも、タイプの違うイケメン男子3人の写真をメインに、バンド情報の他にスイーツ巡りとかファッションやコスメやおしゃれ情報も満載で、女の子に人気あるようですよ」

 

 たしかに、明らかに女子からのコメントが多いように見える。

 

『イケメンだわ』『みんな格好いい!』『高校生の?』『ライブってどうすれば見れるんですか?』

 

「コメントまでキラキラしてやがる。あんな捻くれた歌詞ばかり歌ってるバンドなのになぁ。でもこれ、確かに閲覧数多いけどバズるというほどでも、……ん?」

 

 店長は気付いた。ちらほらと違和感あるコメントがある。

 

『私を四人目のメンバーにして!』『ポスターにするのでメンバー3人それぞれのどアップ写真ください』『たまに背中だけうつっているピンク色の人は関係者ですか?』

 

「……こいつら、ぼっちちゃんのこと無視してやがるのか」

「後藤さん、スマホ向けられたら隠れちゃいますからね。そもそも、イケメン男子目当てのミーハーファンの目には、後藤さんの姿はみえていないのかも」

「ひでぇな。バンドのアー写にもちゃんとぼっちちゃん映ってるだろうに」

「まぁ、酷いですけどたいした問題じゃありません。演奏に興味ないミーハーの言う事なんて後藤さんは気にしないでしょうし。……それよりも、バズって問題なのはこちらです」

 

 PAさんが自分のスマホを見せる。いくつかの動画サイトを順番に表示する。

 

「なんだ? 喜多のやつ動画もアップしてるのか。……こないだの初ライブ、だよな?」

 

 スマホの中で狂ったようにギターを掻き鳴らしているのは、ジャージを脱ぎ捨てたぼっち。台風ライブの中、店長がスマホで撮った動画だ。

 

「へぇ。これ喜多が編集したのか? スマホで適当に撮影した動画なのに、……ホント、ギター持たせたら超格好いいよな、ぼっちちゃん」

 

 店長(♂)の鼻の下が伸びていく。

 

「ええ。ちゃんと演奏に興味もってくれる人がみれば後藤さんは本当に格好いいんです。で、見てください。この閲覧数といいねの数」

「閲覧数? さっきのSNSとは客層ちがうだろうけど、……お、おお、おおおおおお? 一十百千万十万百……、これはすげえな」

「コメントも見てください」

 

 なになに?

 

『ギターひとりだけ上手すぎる』『やっぱりギターヒーロー?』『このピンクジャージの美少女はギターヒーローさんですか?』『こんな素人バンドにはもったいない』『このライブハウスいけばギターヒーローに会えるん?』『つぎのライブはいつだ?』『絶対見に行きます……』

 

 さきほどのSNSのキラキラしたコメントとは数が違う。なによりも圧倒的に熱量が違う。しかも、こちらは男子3人はほぼ無視。ぼっちに対する賞賛ばかり。

 

「同じタイミングで、ギターヒーローさんのチャンネルも凄いことになってるようですよ」

「と、とりあえずどんな形であれ有名になるのは、ぼっちちゃんにとってもバンドにとっても悪いことではないだろ、……ないよな?」

 

 暑苦しいコメントの山に、店長(♂)は若干引いている。

 

「ギターヒーローといえばもロックに興味ない人でも名前くらいは知っているもともと有名人ですから。けど……」

「……問題なのか?」

「そんなネット上だけの謎のヒーローが、顔出ししたうえリアルなバンドに加入したと知られれば、ちょっとした騒ぎになるのは当然です。そのうえ本人はこんなに美少女でかっこいいし。……SNSでの他の呟きとあわせれば、STARRYでバイトしていることくらいすぐ特定されちゃうでしょうね」

 

 早口でまくし立てるPAさん。強面のはずの店長(♂)の顔が、どよーんと湿る。

 

「……それにしてもおまえさ。その手のネット事情というかネットの闇というか、妙に詳しいよな。もしかして自分もなにかやってるのか? 配信とか、ぶいちゅーばーとか?」

「私の事はいいんです。問題は、あまり騒ぎになると、後藤さんが……」

「うーん、ぼっちちゃんのことだからなぁ。有名になってちやほやされたいとか言ってるけど、実際にそうなったらテンパっちゃうだろうなぁ。……目に浮かぶようだ」

 

「なにを呑気な。……店長! 本当にわかってるんですか?」

 

 PAさんが立ち上がる。常日頃から身に纏っているミステリアスなイメージを吹っ飛ばし、店長(♂)に向けて怒気を発している。

 

「わ、わかってるって。メディアやファンへの対応も含めたバンド活動のマネジメントの相談にはもともと乗ってやるつもりだったんだよ。虹夏に頼まれてたからな。それに、少なくともこの店の中でのぼっちちゃんの安全はオレが責任もって守るし」

 

 いつもと同じヘラヘラ顔の店長(♂)を前に、PAさんがため息をついた。

 

(……本当に大丈夫かなぁ)

 

 

 

 

 

 次の日の午前。ちょっとおしゃれなスイーツのお店。高校生男女数人が集まっている。

 

「やっとはいれた」「ここ一度きてみたかったんだぁ」「はやく食おうぜ」「かわいー」

 

 夏休みも終盤。見るからに陽キャ達が歓声をあげる。

 

「こんな店を知ってるとは、さすがだなさっつー」

「ちょっと喜多、はしゃぎすぎ」

 

 イソスタに画像をアップするためテーブルの上のお皿にスマホのレンズを向けているのは、集団の中でももっともチャラチャラしている赤髪の男子だ。

 

(顔を合わせたのは久しぶりだけど、喜多はいつも通りだ)

 

 久しぶりに会った幼馴染み。いつも通りの様子に佐々木次子はちょっと安心している。

 

「喜多、ライブいけなくてごめんね。さすがにあの雨のなか親が許してくれなくて」

「台風だからしかたないよ。……でも、さっつーにも見せたかったな。オレ達の初ライブ」

 

 まるで王子様のようなキラキラした笑顔。喜多はいつだって私に優しい。

 

「客は全然こないし、いろいろとトラブルもあったんだけどさ。それでも最終的には大盛り上がりだったんだぜ」

 

 バンドのことを熱く語り始める喜多(♂)。一気に熱量が高くなる。

 

 ……喜多(♂)は昔からなんでも平均以上にソツなくこなす奴だった。だけど、……ソツはないけど、何かに本気で打ち込んだことはない。友達付き合い以外の何か、スポーツとか勉強とか趣味とかもちろん音楽に青春を賭ける様な熱血で暑苦しい奴ではない、……はずだった。少なくとも私の知る限りは。

 

「へ、へぇ。それは、本当に残念だった、な」

 

(そんな喜多が、こんなにバンドにのめり込むとはね)

 

 いつもより3倍増しにキラキラしている喜多(♂)の熱気に当てられ、佐々木の顔もすこしだけ熱くなる。

 

「次のライブは、いつ?」

「まだ決まってないけど、休み明け早々にもやりたいって先輩がいってた。こんどは来てくれよな! 約束だ!!」

「あ、うん。もちろん」

 

 さりげなく差し出された小指。指切りをする指が熱い。

 

「そ、そ、それよりも、喜多。もう夏休み終わっちゃうね。今年はいっしょに海行けなかったなぁ」

 

 私達は毎年仲間で海に行っていた。……今年こそは二人きりで行こうと密かに思っていたのだけど。

 

「あ、そういえば今年はどこも行ってないや。ライブや練習やバイトに忙しかったからね」

「そんなに忙しんだ。……今こんなところで私らと遊んでいていいの?」

「今日の練習は午後からさ。スタジオ借りるのも結構お金かかるから、毎日一日中って訳にはいかないんだ」

 

 夏休みの最中にせっかくわざわざみんなで集まるのに午前中だけって……。そうか、午後からバンド練習なのか。熱心なことだ。

 

「ふーん、これから私らと別れて練習いっちゃうのね。……じゃあさ、今日の夜ならあいてる? 私のうちの近所で花火大会があるんだ。規模は小さいけど、綺麗な場所知ってるから二人で行かない?」

 

 さりげなく言ったふりをしながら、佐々木は内心のドキドキを必死に隠す。だが、その努力は実らなかった。

 

「あーごめん。夜は毎日、後藤さんにギター教えてもらってるんだ」

「へ? よ、よ、夜? 後藤と? バンドの練習の他に、毎晩?」

 

 佐々木の声が裏返った。談笑していた他の連中が何事かとこちらを向くが、必死にごまかす。

 

「えーと、教えてもらうといっても直接会うわけじゃなくてネット越しだけどね。オレが無理にお願いしてるんだ。毎日頑張って、少しでも後藤さんに追いつかないと……」

「ふ、ふーーん。そうなんだ……」

「後藤さん、ギター教えるの本当に上手いんだぜ」

「へぇ……」

「ついでに、ギター以外にもいろいろ教えてもらってるし」

「い、いろいろ、って?」

「音楽のことか、ロックの歴史とか。後藤さん、いまだに絶対にオレと目をあわせないんだけど、それでもどもりながら必死にいろいろ教えてくれる姿がいじらしくてさ」

「は、……はぁ」

「もちろん、ギターの演奏そのものも超上手い。ライブの時の後藤さんの超かっこいい姿、みんなにも見せたかったな」

「ふ、ふーん。……同じバンドの欲目じゃないの?」

 

(あ、……今の私の言い方、ちょっと意地悪だったかも)

 

 自分自身の言葉で、佐々木は自分の心を凹ませる。だが、喜多(♂)はそんなことはまるで気にしていないようだ。

 

「ちがうよ。オレだけじゃない。こないだのライブ映像ネットにアップしたら、とんでもない閲覧数をたたき出してるし」

「へ、へぇ」

 

(なんだよその誇らしげな顔は。喜多、おまえ自身のことじゃなくて後藤のことでそんな顔するのかよ)

 

 佐々木は、喜多(♂)がマメに更新しているバンドのSNSや動画チャンネルはもれなく見ている。たしかにライブの動画の後藤は格好良かった。脳みそが痺れた。そりゃそうだ。彼女は……。

 

 またしても佐々木は自分が意地悪な顔をしていることを自覚する。しかし、口からこぼれ落ちる言葉を止めることができない。

 

「で、でもさ。高校生バンドのメンバーにひとりだけあんな有名人がいたら大変だよね。サークルクラッシャーみたいになっちゃったりしないの?」

 

 そう。ギターヒーローといえば、私ですら名前くらい聞いたことがあるネットの有名人だ。後藤は、音楽業界でも注目されている凄腕の女子高生ギタリストなのだ。

 

 ……とはいえ、私もSNSで誰かが指摘するのを見るまで気がつかなかったのだけどね。だって、あの後藤だよ。クラスの子とも一切言葉を交わしたことのない人見知りで挙動不審の陰キャが、あのギターヒーローだなんて。後藤の身近な人間だって気付かないのはしかたないよね。

 

 そ、それはともかく。ギター初心者の喜多が所属するような初心者バンドにひとりだけそんな規格外がいたら、うまくいくわけがないよね。うまくいかないに決まってる。

 

 

 

 

 

「……えーと、さっつー。知ってたら教えて欲しいんだけどさ。最近、動画のコメントでも似たようなことよくいわれるんだ。後藤さんって、実は有名人なのか?」

 

 おもいがけない喜多の告白。佐々木はあきれはてる。数秒間、ポカンと口をあけていたほどに。

 

「え? ほ、本当に知らないの? あのギターヒーロー」

「聞いたこと有るような無いような……。ライブの時にも音楽ライターとかいう人が騒いでたけど、山田先輩には気にする必要ないって言われたし」

 

(そ、そういえば喜多って、なんとか先輩に憧れたとか言い出すまで、バンドとかロックとか音楽そのものにほとんど興味なかったんだった。それにしたって……)

 

「私ですらギターヒーローの名前知ってるし、プロより上手い女子高生ギタリストとして音楽業界でもかなり知られている有名人だよ。そのギターヒーローが下北沢で初ライブやったらしいってネットでは騒ぎになってるの、どうして当事者である喜多自身がしらないの?」

 

(……あれ? どうしてわたし、後藤のことを必死に褒めてるんだろ?)

 

「オレ、ギターは一生懸命練習しているけど、ネットでバンドの情報漁りだしたのつい最近だから、……そ、そんなの凄い人なのか、後藤さん?」

「そうよ! 『後藤さんの凄いところをみんなにも知ってほしい』とか言ってるくせに、自分が一番しらないんじゃない!」

 

 思ったことをストレートに口に出した後、佐々木はまたまた大いに後悔した。今度こそ喜多(♂)ががっくりと本気で落ち込んでしまったからだ。

 

「お、オレ、ロックとか、音楽業界の事情とかまだなにもわからなくて……。後藤さんの足を引っぱらないように必死に頑張ってるけど、まだまだ全然だめで……」

 

「あ、ご、ごめん、喜多。大丈夫! 喜多だって才能有るから。私が保障する。そのうちぜったい後藤みたいになれるって」

 

「ありがとう。さっつーがそう言ってくれるなら信じる。……あ、そろそろ練習の時間だからオレ行くね。ありがとう、さっつー」

 

 その晩、佐々木は眠れなかった。自分でも何故だかはわからない。

 

 

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