女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
虹夏ちゃん(♂)に連れられてやってきた下北沢。勝手知ったる地下への階段。
懐かしい。前世を思い出してから、夢にまでみたSTARRYだ。
「やっと帰ってきた……」
青い髪の人。……リョウさん!
「まさか本当に野良ギタリストをみつけてくるとは。しかも女の子……。虹夏、侮れない男」
「こいつはベースの山田リョウだ。オレの幼馴染みの親友なんだ」
「あ、こ、こんにちは」
「こんにちは」
リョウさん。……見た目は前世とあまり変わらない。中性的な美形。気だるげな表情。ゆったりとしたオシャレなシャツ。
でも、ちょっとだけ、……ちょっとだけ声がハスキーなような。背も少しだけ高いような気がしないでもないけど、きっと気のせい。気のせいということにしておこう。……お、女の子、だよね。
「……なに?」
透き通った蒼い瞳が自分の顔をじっと見つめていることに気付いたリョウ。顔をあげ、ひとりを目を合わせる。
「え、ええと、後藤ひとりです。山田リョウさんは、その、あの、えーと、……女の子、で、すよ、ね?」
ひとりは、おそるおそる尋ねた。1年分くらいの勇気を振り絞った瞬間だったかもしれない。
ぷっ!
虹夏ちゃん(♂)が噴き出した。
「…………もちろん、そうだよ」
よ、よかった。答えてくれるまでの微妙な間が、ちょっとだけ気になるけど……。
へなへなと、ひとりはその場にへたり込む。今日2回目だ。そのまま溶けてしまいそうな身体を、必死に立て直す。
「リョウ、初対面の女の子をからかうなよ! ……お、おい。後藤さん、大丈夫か? しっかりしろ!」
「男か女かなんて、些細なことだと思うけどな」
「あ、え、そ、そうですね。リョウさん、あいかわらず格好いいので……」
「あいかわらず? 初対面だとおもうけど……」
あいかわらずポーカーフェイスなリョウさん。
「リョウは表情に出にくいんだ。変人っていったら喜ぶ奴だ。女の子あつかいするともっと喜ぶ変態でもある」
「……喜んでないし、変態でもないし」
リョウさん、真面目な顔をしていても、幼馴染みの虹夏ちゃん(♂)にいじられて嬉しいのを隠し切れていない。やっぱりリョウさんだ。
「でも、女の子から格好いいと言われたのはやっぱりちょっとうれしいかな。今後は『格好いい女の子』路線をめざしてみよう」
「だーかーらー、リョウ。そんな真面目な顔で女の子をからかうのはやめろって」
え? え? え? リョウさん、結局、……女の子、なんですよね?
虹夏(♂)にとってリョウは腐れ縁の親友だ。そして、女の子と付き合ったことのない虹夏(♂)の頭の中では、『親友』といったら自分と同じ『男』に決まっているのだ。
だから虹夏(♂)は、あえてリョウの性別には触れなかった。親友だと紹介した以上、当然わかってくれるものだと勝手に思い込んでいた。
まさかひとりに前世の記憶があるなんて。そして、ひとりの前世の世界ではリョウが女性だったなんて、……だからこちらのリョウのことも自然に女性だと思い込んでしまったなんて、知るよしもないのだ。
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