女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「あれが照明さんで、あっちはPAさん」
虹夏ちゃん(♂)がSTARRYの案内と、スタッフさんの紹介をしてくれる。
よかった……。
そこに居たのは、よく知っている顔ばかり。PAさんは、……うん、間違いなく女性だ。
そして、本番前のスタジオ練習。
「これ今日のセトリと楽譜。オレ達はインストバンドなんだ」
前世と同じ曲。あまり難しくない。目をつむってだって弾けてしまう。インストバンドなんだから、ギターの私ががんばらないと……。
ふーー。
リーダーである虹夏ちゃん(♂)が大きく深呼吸。
「よ、よし。ふ、二人とも準備はいいか? たたたかが練習だ。緊張しないで、リラックス、して、いこうぜっ!」
「虹夏。……君が一番緊張している」
「……し、しょうがないだろ。3人で合わせるの初めてだし、これが本番前最後の練習なんだし、一発で決めないと」
だ、大丈夫かな、虹夏ちゃん(♂)。かなり緊張している? 前世の虹夏ちゃんも本番になるとちょっとあがっちゃうタイプだったけど……。
「やれやれ。普段は元気がいいだけが取り柄のくせに、……後藤さんは、平気?」
「あ、はい」
初めてじゃないし、STARRYだし、……なによりも、虹夏ちゃん(♂)とリョウさんが一緒ですから。
練習が始まった。
虹夏ちゃんが男の子だったのには驚いたけど、これは確かに結束バンドだ。虹夏ちゃん(♂)もリョウさんも、ふたりの癖はよく知っている。私の腕が、指が、身体が完璧に覚えている。絶対に忘れるはずがない。
……って? あれ?
それは、演奏が始まってほんの数秒後。
あれ? あれ? どうして?
ひとりは大きな違和感を感じていた。
虹夏ちゃん(♂)とリョウさんの音が、テンポが、……合わない。ちがう、合わないとかいう問題じゃない。根本的に間違ってる。ミスってるんだ。
ひょ、ひょっとして、私が知ってる二人よりもかなり、……下手? じゃ、じゃなくて、初心者? 前世の時もこうだった? ……あ、あ、あ、改めて思い出してみると、私も含めて前世はもっと酷かった、か、も。
し、し、仕方がないよね。この結束バンドは最近できたばかりだし、はじめての合わせだし、……虹夏ちゃん(♂)緊張しているし。
で、で、でも大丈夫。大丈夫。私がサポートしてあげる。ふたりを引っぱってあげる! 少しだけ大人になった私にとって、この程度の合わせはちょちょいのちょちょいですから!
ジャラーーーーン!
通しの演奏が終わった。
(ぜ、前世の時よりはかなりましに弾けた、と思う、けど……)
おそるおそる顔をあげる。二人の沈黙が恐い。
うっ! うっ! うっ!
に、虹夏ちゃん(♂)が唸ってる。や、やややややっぱり、ダメだった?
なぜか前世同様スタジオに転がっている完熟マンゴーの箱。そこに飛び込んで隠れようと構えたひとりの両手を、がっしりと虹夏(♂)が握りしめた。
えっ?
金髪イケメン元気小僧の顔が近づく。超至近距離。鼻と鼻が触れそうなほど。
ええっ? 近い、近いですぅぅぅ。
そして、叫ぶ。
「うまい! うまいね、後藤さん!!」
ひいいいい、息とツバがぁぁぁ。
もともと可愛らしいかった虹夏ちゃん。男の子になってもかわいい系は変わらない。むしろ、ちょっとやんちゃな雰囲気がブレンドされて、破壊力がましている。
そんな虹夏ちゃん(♂)に至近距離から見つめられて、れれれ冷静でいられるわけがないぃぃぃぃ!
「虹夏。後藤さんがビックリしている」
興奮している虹夏ちゃん(♂)を、リョウさんが引き剥がす。さりげなくひとりの肩を抱きながら、自然に間に入る。ひとりは、リョウを盾にして、背中にひっつき後ろに隠れる形になった。
「あ、あああ。ご、ごめん。あんな上手いギター初めてだから感激しちゃって、つい。……後藤さん、本当にごめん。だからそんなにおびえないで! リョウの後ろから出てきて!」
「まぁ、たしかに上手い。非常識なほどにね。……後藤さん、ホントにバンドやってないの?」
え、えへへへへ。
(バンドは、……これからやるんです。あなた達と)
テレテレと、ひとりは頭をかいた。