女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド 作:koshikoshikoshi
「そういえば、後藤ひとりちゃん。君、あだ名とかないのか?」
それは本番直前のひととき。練習が終わり三人はとりあえず一息ついて、出番をまっている時のことだ。
男の子の虹夏ちゃんに名前で呼ばれると、心臓がドキッとする。
「ひとりちゃんだから、……『ぼっちちゃん』は?」
さ、さすがリョウさん。いろんな意味で前世と変わってない。
「さすがにそれはちょっとどうかと思うぞ、リョウ」
やさしい虹夏ちゃん(♂)が反対してくれる。でも、わたしはそれがいいんです。
「ぼぼぼぼぼっちがいいです。ぼっちでお願いします! あだ名で呼ばれるの初めてでとても嬉しいです!!」
「なんか涙出てきたぞ、おい。本当にそれでいいのか? 後藤さん」
もももももちろんです!
虹夏ちゃん(♂)がなんて言おうと、私のあだ名は『ぼっち』だ。これしかない、絶対に。そして、バンド名は……。
「ちなみに、バンド名は結束バンド……」
リョウさんが、表情を変えないままボソッと語る。
「ぎゃーー。やっぱり変えようぜ、それ」
「だめ。虹夏が決めたんだから」
ぷぷぷと笑いながらさらに追い込むリョウさんと、頭を抱える虹夏ちゃん(♂)。あいかわらずいいコンビだな、このふたり。
「結束バンドさ〜ん、そろそろ出番です!」
……さて、出番だ。前世での初ライブは完熟マンゴー仮面だった私だけど、今回はどうしよう?
人生二度目の私にとって、何度も何度も数を重ねたSTARRYでのライブ。今さらそれほど緊張することはない、……はずだ。きっと。
でも、ラノベとかドラマとかでよくあるよね。転生したものの前世の知識で調子に乗ってしまった主人公のせいで、この先の歴史が改変されちゃったりするの。
わたしは、前世とおなじく虹夏ちゃん(♂)やリョウさんとバンドやりたい。結束バンドで活動する未来が変わって欲しくない。ていうか、それ以外の人生なんて絶対無理。……そのためには、やっぱり前世と同じように段ボールかぶった方がいいのかな?
「来たか……」
ごくり。
虹夏ちゃん(♂)が生唾を飲み込んだ。
「い、い、いいか、みんな。いよいよ本番だ。リリリリラックスしていくぞ」
声が震えている。身体も。
「虹夏、おちついて。ボクがついてる。それに、ボク達にはぼっちがいる。さっきの練習を思い出して」
虹夏ちゃん(♂)がリョウさんと、そして私の顔を見る。
「そ、そうだな、リョウ。……ぼっちちゃん、君がいればなんとかなるような気がしてきたよ」
え、ええ?
「……そう、オレ達にはぼっちちゃんがいる。演奏技術を求めるのは次でいい」
自分自身に言い聞かせるようにつぶやく虹夏ちゃん(♂)。いつのまにか震えが止まってる。
「い、いいか、ふたりとも! 今日のところは、下手でも、……いや一番下手なのはオレだが、それはともかく、恐くても、とにかく、とにかく、楽しく弾くことだけ心がけるんだ。できるよな!」
拳を握りしめた虹夏ちゃん(♂)。カラ元気かもしれない。それでも、威勢良く拳を振り上げ気合いを入れる姿は、……ちょっとかっこいい。見習いたいです。
「おおーー」
リョウさんも腕をふりあげる。でも、まったく気合いの入っていない声のまま、まったくやる気があるようにはみえない。いかにもリョウさんだ。
そして、リョウさんの視線が私に向けられた。『ここは虹夏に調子をあわせてやってくれ』と、その目が語っている、……ような気がする。
(す、すごいぞ私。リョウさんのアイコンタクトを理解できた!)
「お、おおー」
精一杯威勢良く腕を振り上げる。
ぼっちとリョウの様子を見て、虹夏(♂)は満足げに頷く。そして、ステージにむけてふたりの手を引いた。いつの間にか瞳の中に炎が灯っている。あつくるしく叫ぶ。
「い、いいか、いくぞ!! これが、結束バンドの初ライブだ!」
こ、こんなに虹夏ちゃん(♂)が気合い入ってるのに、……これは私も全力でいくしかない、よね?