女の子はひとりだけ! 男だらけの結束バンド   作:koshikoshikoshi

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夢がかなうかもしれない その1

 

「あら虹夏君、今日は早いですね」

 

 下北沢STARRY。バイトに来たばかりの伊地知虹夏(♂)に声をかけたのは、スタッフであるPAさんだ。

 

「うわ! お、おはようございます。……ちょっと早く来すぎちゃったかなぁ、ははは」

 

 はははと笑いながら、虹夏(♂)はごまかす。しかし、店に入るなりキョロキョロと誰かを捜していたのを、PAさんは見逃してはくれなかった。ニヤリと微笑むと年下の純情男子をからかい始める。

 

「……うふふ。後藤さんならまだ来ていませんよ」

 

「えっ! お、オレは別にぼっちちゃんを捜していたわけじゃ……」

 

 ウソである。

 

 虹夏(♂)は、先日のライブでぼっちを抱きしめちゃって以来、彼女に避けられているような気がしていた。バイト中でも練習中でも、ふたりが正面から向き合う場面になると、ぼっちはあわてて踵を返す。そして、リョウかPAさんか兄貴の後ろ、そうでなければ段ボールやゴミ箱の中に隠れてしまうのだ。

 

 ……なぁ、ぼっちちゃん。女性であるPAさんや大人の兄貴の背中に隠れるのはわかるのだが、なぜリョウは大丈夫なんだ? 自業自得とはいえショックだぜ。

 

 それはともかく、そんなわけで虹夏(♂)は仕事前の時間に偶然を装ってぼっちに話す機会をつくり、あらためて謝りたいと思っていたのだ。もちろん誰にも内緒にしていたつもりだったのだが、小僧の企みなど年上の女性からはみえみえだったのかもしれない。

 

「はいはい、そういうことにしておきましょう。……ホントあなたたち兄弟で似たような趣味してますよねぇ」

 

 は?

 

「いえいえ、こちらのお話です。後藤さんはまだですけど、代わりに山田君が黄昏れてますから相手してあげたらどうですか?」

 

 

 

 

「リョウ、どうしたんだ?」

 

 PAさんが言うとおり、控え室にはリョウがいた。仕事もしないで座り込み、何やら考え込んでいる。

 

 虹夏(♂)にとって、リョウは家族以上に付き合いの長い幼馴染みだ。普段は顔を見るだけで何を考えているのかわかってしまう。

 

 だけど、ここ最近のリョウはちょっとだけ変だ。こーゆー妙に難しい顔をしていることが多い。こいつが悩むような内容といえば、だいたいは腹が減った、金がない、そうでなければ音楽のことくらいのはずなんだが。……もしかして、こいつがおかしくなったのも結束バンドとしての初ライブの頃だった、か?

 

「おい、もしかして、ライブでミスったこといまだに悩んでるのか? 結果的に大成功だったんだから気にするなよ」

 

 そう。先週行われた結束バンドの初ライブは、一応は成功だったのだから。ほとんどすべて、ぼっちちゃんのおかげとはいえ。

 

 

 

 

「ライブ、良かったよな。実はオレ、あれ以来ちょっとだけドラム上手くなったような気がするんだ」

 

 自分で言うのも何だが、あの時は実力以上のものが出せたんじゃないかと思う。……もしかしてオレ、本番に強いタイプ?

 

「あの日の虹夏のドラムは緊張しすぎでいつも以上に酷かった。まぁ、ボクも似たようなものだったけど」

 

 容赦ないな、親友。少しは誉めてくれてもいいだろうに。

 

「……あれは、すべてぼっちのおかげ。下手くそなボクらが、それでもなんとか最後まで演奏できたのは、ぼっちがリードしてくれたから」

 

 わかってるよ。それくらいオレだってわかってる。でも、結束バンドとして初めてのライブだったんだ。少しくらい舞い上がったっていいじゃないか。

 

「同年代で、……いや年下なのにあそこまで上手い人間がいるとは、ショックだった。今でも信じられないくらいだ。いったいどれだけ練習したらあれだけ弾けるのか、想像も出来ない」

 

(リョウの奴、今日はよくしゃべるな。ぼっちちゃんの事だから?)

 

 リョウはオレよりもバンド経験がある。作曲もできるし、音楽的才能ってのはオレよりも遙かに上だ。才能だけじゃない。音楽に対する姿勢も同じだ。

 

 そのリョウをしてここまで言わせるのか。恐るべしだぜ、ぼっちちゃん。

 

 

 

 

「……まぁ、悩んでもしかたないだろ。ぼっちちゃんの技術にショックを受けたっていうんなら、これからいっしょに練習していこうぜ」

 

 こいつ、基本的にカスでクズでちゃらんぽらんで人生舐めてるくせに、こと音楽に関してだけは異常にストイックだから、これしかないだろ。

 

「悩んでない。考えていたんだ。……今後のこと」

 

 今後?

 

「なぁ、虹夏。ボクの夢って知ってるよね」

 

「ああ。1番はニートになること。2番はヒモ、だったか。どこまで本気なんだ、おまえ?」

 

 見た目かわいらしい顔してるくせに、とことんロックな男だぜ。……ま、まさか、おまえ、ぼっちちゃんのヒモになりたいのか?

 

「それもいいな」

 

 真面目な顔で答えるリョウ。

 

「え、本気? あ、あんな人見知りで素朴な子だましてヒモになろうなんて、お、おまえをそんな子にそだてた覚えはないぞ」

 

「……冗談」

 

 本気としか思えない表情だったが。

 

「ワリとマジメな話をすると、ボクの3番目の夢は音楽関係の職に就くことだ。作曲でも裏方のエンジニアでもいいけど、できればバンドで食っていけるようになりたい」

 

 はぁ。リョウが本気でそう考えていたのは知ってたよ。だから結束バンドに誘ったんだし。……で、結局、何を考え込んでいたって?

 

「……夢が、かなうかもしれない。それも早い時期に」

 

 へっ?

 

 

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