女神フレイヤから紋章を受け取ってから数日、当然ながら襲撃のようなものは一切なかった。
それこそ依頼のあった人達からそれについて聞かれたことはあったが、『女神フレイヤ様が私の仕事を応援してくださっている』と伝えたら、皆感心しながら納得してくれる。恐らくこの付近でだけではあるかもしれないが、彼女に対する人々の好感度は上がったかもしれない。それはとても喜ばしいことだと、サラは素直にそう思う。
「……午前中は、依頼なし。お昼まで魔道具を作っていようかな」
依頼が無いのは良いことだ、偶にはこういう日があっても良い。こういう時こそ魔道具の制作を進めるべきであるし、あのお香だって今度訪ねる時のためにもう1つ作っておきたい。
この生活のいいところは、治療院に居た時よりも少し遅めに起きていいことだろう。治療院では朝早くに起きて色々な仕事をしなければならなかったが、今は早く起きたところで魔道具制作くらいしかやることはない。
直ぐに対応が必要な人は扉を叩いてくれるし、そうでなければポストに依頼を入れておいてくれる。あまり寝過ぎて時間を疎かにする訳にはいかないが、魔法使用による精神疲労をある程度回復出来るくらいには眠れるのは重要だ。
……それでも最近は回復しきれていないことも多いが。こればかりは仕方がない。そもそも魔法の消耗が大き過ぎる、本来は多用すべきではないものなのだろう。
「えっと、何処まで作ったかな……」
ガサガサと机の上に広げた物を整理しつつ、作りかけの魔道具と睨み合う。
魔道具というものはそもそも作れる人間というものが少ない、故にレシピのようなものが殆ど存在しない。特に今作っているものは先人(アミッド)に教わったものとはまた別方向のもの、自分で道を切り開いていかなければならない。時間がかかるのは当然、頭が特別良い訳でもないので試行錯誤も必要だ。
……正直、これが一番気が滅入る。
本当に自分の感情なんて全部捨てることが出来たらいいのに。一時的に捨てることは出来ても、本当に無くなるわけではないのだから。
失敗ばかり続けば落ち込むし、疲れる。自分の心は癒せない、故に集中力にも限界がある。可能な限り時間は注ぎ込んでいるが、成果があまり出ないのは本当に辛い。せっかくの才能なのに、自分のせいで上手く活かすことが出来ないのだから。それを自覚する度に辛くなる。
才能だけは一級品なのに、持っている人間が愚か過ぎて。他のもっと賢い人が使えば、もっと多くの人を救える筈なのに。どうしてこんなものが自分のところに来てしまったのかと、そう、思ってしまう。
「……ふぅ」
結局、その日は夜になるまで依頼も緊急の診断も入ってくることはなかった。本当に珍しく、誰とも会うことのない1日。ずっと魔道具と格闘し続けた、ある意味では外回りをしているよりもよっぽど疲労を感じる1日。
そうまでしても魔道具の製作は全体の20%くらいしか進んでおらず、進んだだけマシと捉えるか、自分の才能の無さに心底呆れるのが正解か。
しかし唯一幸いであったのは、女神フレイヤに献上したあのお香について、もう少し簡単な作り方をふと思い付いたこと。こういう突然の天啓があるのだから、開発作業というものは分からない。理論上上手くいけば、製作時間をもう少し短縮することが可能だろう。
……その理論が正しければ、の話だが。
こういうことが結果的に全部自分の思い込みで、実際には大失敗ということも過去に何度かあった。そういった苦い経験もまた、変に期待し過ぎるなという忠告を自分に与えてくれる。
残念ながらそれを実践するのは明日以降になってしまうが、せめて次にバベルを訪れる時までにはもう1つ作っておきたい。感謝の気持ちは行動で示すべきだ。自分の才能で認めて貰ったことは、才能で返すべき。故に多少無理をすることになっても、それだけは完成させたい。
「……?」
コンコン、と小さなノック。
顔を知っている人ならばベルを鳴らすし、本当に緊急の時には扉を叩いてくる。けれど、正直この感じは初めてだった。こんなにも上品にノックをされた経験は、正直それほどない。
つまりは患者ではないのか?治療院に居た知り合いが顔を見に来たのだろうか?そんなことを考えていても仕方がないので、上着を着て立ち上がる。もしかしたらフレイヤ様が直接訪ねに来た可能性だってあるのだし、最低限の格好はして……
「お待たせしました、ご用件は……」
「サラ」
「え……?」
扉を開けた瞬間に、右手を誰かに引っ張られる。
強盗ではない、だって敵意がないから。
強引だけど、暴力的ではない。
だってそれは凄く優しい手付きだったから。
「ふみゅっ!?」
相手は女性。手を引っ張られたままに胸に抱き寄せられ、そのままフワリと抱き締められてしまう。
……困惑する。
混乱する。
予想していた事態の何もかもと違う。
想像していた光景と何もかもが違う。
「あ、の……?」
「………」
相手の顔が見えない、見えないように抱き締められている。……けれど、こんな風に人にされたのはいつ以来だろうか。優しい人の温もり。暫く忘れてしまっていた気がする。聞こえてくる心臓の音、誰かに包まれている感覚。
「サラ」
「………!!」
「サラ」
「リュー、さん……?」
「ええ、私です。サラ」
「っ」
反射的に離れようとした自分を、彼女は逃すことのないように腰に手を当てて引き寄せる。離れないといけないのに、自分よりずっと力の強い彼女がそれを許してはくれない。
……5年が経っても、彼女には敵わない。戦闘などしてもいない自分なのだから、当たり前の話ではあるのだけれど。
「はな、して……離して、下さい……!」
「離しません」
「知らない、です……貴女のことなんて、私は知りません!!私なんかに、構わないで……!」
「サラ……」
そうだ、彼女はもう自分とは何の関係もない。
だって『疾風』は死んだ、アストレア・ファミリアの生き残りはもう自分だけなのだから。だから正義の眷属としての責任を負うのはもう自分だけで良い。そんな自分に、彼女はもう近付いてはならない。
だから受け入れてはいけない、突き放さなければならない。彼女はもう十分に頑張った、もう自分の人生を生きてもいいのだ。
これ以上自分に関わって、また存在を周囲に知られてしまって、あの時のように……あんなことを彼女が人々から言われてしまうようなことがあるくらいなら、ここで……!
「サラ」
「知りません!人違いです……!」
「サラ」
「違います!私はただの治療師です、貴女のことなんか……!」
「私は今でも貴女を愛している」
「……っ」
そんな、そんなありきたりな言葉を。今更言われたところで。別に、何とも思わない。
だってそんなの関係ない、そんなことを言われても自分のやることは変わらない。この人と関わらない。この人に関わらせない。もうこの人を傷付けさせない。絶対に巻き込んだりしない。そう決めたのだ。
あの日、あの時、助けを求めに行ってしまった日に。自分を見た瞬間に悲しげな顔をして顔を背けた彼女を見て、そう誓ったのだ。もう十分に傷付いた人に、まだ助けを求めようとした自分に、心底幻滅した。
それまで同僚達と楽しそうに働いていた彼女に、あんな顔をさせてしまったことが……本当に辛かった。だからもう同じことは繰り返さない。この人はあの場所で生きていくべきだ。
……そう思っているのに。
どうしてか身体に力が入らない。動かない。引き離さないといけないのに。遠ざけないといけないのに。嬉しいだなんて、思ったらいけないのに。この感情は、いつもみたいに、捨てないと……
「……辛い思いをさせてしまった。私はあの時、貴女を1人にするべきではなかった」
「……」
「あの時、貴女から顔を背けてしまったことを……後悔している。私のただの自己満足で、貴女を拒絶してしまった」
「っ」
「すまなかった、今更だと分かってはいる。謝罪ならいくらでもする。取り返しのつかないことをしてしまったことも理解している。……私は何もかも間違えた。貴女にだけは幸せになって欲しいと思っていたのに、むしろ貴女を苦しめるようなことばかりしてしまった」
「そんなこと!!……っ!?」
「……ふふ、やっと顔を合わせてくれた」
「〜〜〜!!!」
ずるい。
ずるい、ずるい、ずるい。
本当にずるい。
この人はいつの間にこんなことが出来るようになったのだろう。いつの間にこんなずるいことをするようになったのだろう。不意打ちが過ぎて心が乱れる。
要らない、要らない。自分の心なんて本当に要らない。こんなものが無ければこんなに苦しい思いなんかしなくていいのに。こんなものが無ければもっと上手く振る舞えるのに。こんな風に、心配させなくても済んだのに……
「……なんでですか」
「……」
「なんで、今更になって関わろうとするんですか……もういいじゃないですか。私のことなんか忘れて下さい。気にする必要なんかありません」
「そういう訳にはいかない」
「それともなんですか?自分に余裕が出来たから私に構いに来たんですか?だとしたら随分と勝手な話ですね、迷惑なのでもう関わらないでください」
「……そうかもしれない。だがそれでも、私はもう一度貴女と関わりたいと思った」
「意味が分からないです……私と貴女はもう他人です。こんなことして貰う義理はありません。高潔なエルフ様は他人との接触なんて嫌いじゃないんですか」
「そんな輝夜みたいなことを言わないで欲しい。……私は今でも、貴女を家族だと思っている」
「……勝手過ぎます」
「ああ、自分で言っていても虫唾が走る。どんな顔をしてこんな事を言っているのかと、自分で自分を殴りたくなる」
「……」
ポツリと、涙が落ちる。
それを見て、リューは昨日アスフィと途中から何処からともなく参戦して来たシルが言っていたことを思い出した。
頼りになる友人達。
自分なんかよりもよっぽど多くを見て理解している友達の言葉は、全くもって間違ってなどいなかったのだと。もしあのまま自分の勢いだけでここに来ていたら、とっくに自分は折れてしまっていた。それくらいには彼女からの拒絶の言葉の数々は、実のところリューの心に深く深く突き刺さっていた。
『サラさんはね、多分まだまだ子供なんだと思うよ』
『子供……?』
『賢くて優しい子はね、我慢しちゃうの。嫌な事も辛い事も全部我慢して、全部飲み込んじゃう。それから諦めちゃう』
『諦める……』
『自分が全部我慢すれば、全部上手くいくから。ならそれが一番良いんだって、思い込んじゃう』
『……』
『だからね、一番目をかけてあげないといけないのは、問題を起こす子じゃなくて、そういう我慢をしちゃう子なの。そうやって我慢し続けていたら、その子は傷付くばかりで、成長も出来なくなっちゃうから』
だからきっと、そうして我慢をし続けて来た彼女の心は……どれだけ見た目は成長していても、子供のままなのではないかと。シルはそう話した。
つまり何を言いたいかと言うと、別に今ならまだ取り返しがつくということ。そうでなければシルがリューの話を出した時、一瞬であっても彼女の表情に変化は現れなかった筈だから。
『先に折れたら駄目、無理矢理にでも心を開きに行かないと。だからやるのは夕方とか夜がいいかな、疲れてるところを狙いに行こう』
『そ、それは流石に……』
『リオン、貴女は手段を選んでいられる立場ですか?』
『っ』
『エルフとしての矜持と、大切な妹の未来。貴女はどちらを守るつもりなのですか?』
『…………そんなの、迷うまでもない』
そこでリューは、自分の中のエルフとしての意識が、彼女の手を取るための邪魔になってしまうことを理解した。
だって以前もそうだったから。自分は顔を合わせる顔がないと言って、彼女を拒絶した。このまま彼女のところへ向かっても、何処かでまた同じ事を繰り返してしまうのではないかと。自分で自分が怖くなった。
だから取り敢えず、肉料理を食べることにした。
……いや、一見すれば馬鹿みたいな話であるが、エルフは肉料理をあまり好まない。生まれた里にもよるが、それはリューであっても同じだった。だから少しでもエルフとしての気質を潰すために、それをした。
それが実を結んだのかどうかは、正直分からない。けれど彼女を優先すると決めた時点で、それくらいは迷うことなく出来ることを条件として自分に課した。それほどの覚悟を持って、ここに来たつもりだ。
「貴女を助けたいだとか、自分の間違いを正したいだとか。私は今日ここに、そんな大それたことを言いに来た訳ではないんです」
「……?」
「私はもう一度、貴女と暮らしたい」
「……!?」
「今日はそれを言いに来た」
むしろ、それ以外の言葉は蛇足なくらい。
言いたいことはたくさんあるし、彼女にしてあげたいことだってたくさんある。けれど多くを語っても意味がない。だからこのただ1つの願いを持って、ここに来た。これ以外のことは求めない、これ以外のことは願わない。だからこれだけを、叶えに来た。
「突然、来たと思ったら……意味、分かりません……」
「それ以外は今は求めません。私から願うのはこれ1つ」
「それが、大き過ぎるんですけど……」
「願いを叶えてくれるまで、帰るつもりはありません」
「……普通に迷惑です」
「ここから一歩たりとも動かない」
「それなら、勝手に立っていればいいじゃないですか……早く離してください……」
「離さない。頷いてくれるまで、貴女もこのままだ」
「……拒否権無いんじゃないですか。力に物を言わせて相手に言う事を聞かせようだなんて、最低ですね」
「最低でも構わない」
「……フレイヤ様に、活動の後盾になって貰っています。ここで大声を出したら、助けに来てくれると思いますけど」
「既にフレイヤ・ファミリアに話は通している。ガネーシャ・ファミリアにも当然」
「……それは正直、少し引いてます」
「それくらい本気ということです」
もちろん、それは嘘である。
どちらのファミリアにも話は通していないし、大声を出されたら流石に不味い。一応シル経由でフレイヤ・ファミリアは動かないとは言え、リューはそんなことは知らないのだから。これは一種の賭けでもあった。本当にそこまでする程に嫌ならば、糸口を変えなければいけないから。つまりこれは、彼女の本気度を測る行為でもあって。
「……じゃあ、もう餓死するまでこのままでいいですよ」
「なるほど、ずっとこのまま抱き締めていても良いということですね」
「……そんなに、口上手かったですか?」
「私は別にこのまま何日居ても嫌ではないので」
「私は嫌です……」
「どうすれば願いを叶えてくれますか?」
「叶いません、帰ってください」
「どうすれば一緒に暮らしてくれますか?」
「くどいです、やめてください」
「どうすれば私を受け入れてくれますか?」
「良い加減にしてください、そんなことはあり得ません」
「絶対に諦めません、なんでもします」
「…………それなら、"キス"でもしてみたらどうですか?エルフの貴女に出来るものなら、ですけど」
「では失礼」
リューは彼女の前髪をかき上げ、その唇に自分の唇を合わせる。なるべく躊躇などしないように。なるべく自分でも何も考えないように。
予めこういうことを言ってくるかもしれないと想像していて本当に良かった。シルがそう予想してくれていて本当に助かった。キスくらいならやってみせると、決心しておいて本当に良かった。
おかげで一切の躊躇もなく、それをすることが出来た。やはり心構えというのは大切だ。
「っ………………………………………!?!?!?!?」
まあ当然、された方はそんな心構えなど欠片程度もしていなかったけれど。
「……ど、どうでしょう。本気度は伝わりましたか?」
「………………ふぇ」
「あ、あの……?」
きっと自分も真っ赤な顔をしているのは間違いない。けれど目の前の彼女はそんな自分なんかよりも、もっともっと真っ赤な顔をしていて、何が何だか分からないような様子でアワアワとしている。
どうせリューにはそんなことは出来ないだろうと、そんな意地悪な条件を出したのだろうが。こちらにはあのシル・ブローヴァが付いているのだ。負ける道理など何処にもない。
「な、なな、何してるんですかぁぁああ!?!?」
「な、何と言われても……!貴女がしろと言ったのでしょう!」
「い、いつからそんな人になったんですか!?こんな風に誰にも構わずキスをするような人になってしまったんですか!?だったら幻滅します!!最低です!!最悪です!!嫌いです!!大っ嫌いです!!」
「し、失礼なことを言わないでください!私はこれが初めてだ!」
「なな、なんでそんな大事な物を私にしたんですかぁ!?貞淑なエルフじゃなかったんですか!?」
「貴女になら捧げてもいいと思ったからだ!」
「へぁっ!?」
「……貴女とまた暮らせるようになるためなら、キスくらいいくらでもする。私はそれくらい本気で、ここに来た。ここで躊躇するような生優しい覚悟で、私はここに立ってはいない」
今が攻め時であると、流石のリューにだって分かった。
彼女の腰を更に引き寄せて、自分の顔をまた彼女に近づける。鼻と鼻を合わせるような距離、彼女の目が直ぐそこにある。
ああ、恥ずかしい。
それは当然だ。けれどこの距離で目を見られても、何の憂いも無いような覚悟を持ってここに来た。だから自信を持って示せる。
「あの、リューさんって、そういう趣味があったんですか……?」
「…………も、もし貴女がそれを望むのであれば、少しは考えますが」
「の、望まないですけど……」
「そ、そうですか……………と、とにかく、約束通りキスをしました。私と一緒に暮らして下さい」
「………………〜〜!!」
もしこれで折れてくれないのなら、流石にもう手はない。本当に数日、ここで立ち尽くしていなければならなくなる。出来ればそれは避けたいが、そうなったらもう本当にやるしかない。倒れるまで立っていれば、今の彼女なら流石に放置したりはしないだろうから。
……そんな情けない話にはしたくないけれど、それでも。
「……1つ、教えてください」
「なんですか?」
「なんで、私のことを、そこまで……」
「貴女が私の家族だから」
「……!」
「大切な家族のためなら、私はなんだってする。それが唯一生き残った最愛の妹であるのなら、私の人生を賭けたって良い。……貴女を幸せにするためなら、私はもう一度闇派閥と戦うことだって出来る……っ!?」
……きっと、その言葉が彼女にとって一番効く言葉だったのかもしれない。
この日初めて、リューは彼女の方から抱き締められた。自分の胸に顔を埋めながら、精一杯に抱き付いてくる彼女に驚く。拒絶でも、受け入れるでもなく、自ら飛び付いてきた彼女に、嬉しいけれど、困惑した。
「………します」
「え?」
「一緒に、暮らしてもいいです……」
「本当ですか!?」
「だから……」
「?」
「だからもう、闇派閥となんか戦わないでください……!」
「!!」
「なんでもしますから……なんでも言うこと聞きますから……!だから……」
それまでずっと保とうと努力していた無表情なんかかなぐり捨てて、大粒の涙を流しながらそう困惑する彼女の顔を見る。そして、そこでようやく分かった。5年の月日を超えて、リューはようやく理解した。
闇派閥と戦う自分達、そんな姿を見て彼女が何を思っていたのかを。そして闇派閥に壊滅させられた自分達、それについて彼女がどう思っていたのかを。
「もう……死なないで……」
「サラ……」
そうだ。悲しくて辛かったのは、彼女だって同じだった。ファミリアの家族達が自分とリューを除いて居なくなってしまって、特に彼女の場合は当時、拠点でいつも通りにアストレアと家事の手伝いをしていたくらいなのだ。
それなのにいきなりあんなことになってしまって、何も知らないうちに姉達がリューを残して全員死んでしまって。……きっと、それを本当に実感出来たのも、あれからもっと後の話だった筈で。
「……約束します、私は貴女より先には死にません。これから先ずっと、貴女の側に居ることを約束します」
「……はい」
「だから、また一緒に暮らしましょう。辛いことも苦しいことも、分かち合ってこその家族です。それに私は貴女と、嬉しいことも、楽しいことだって分かち合いたい」
「……はい」
「サラ」
彼女の顔を上げさせて、その涙に濡れた顔を拭う。
こんなにも可愛らしい子を、自分は一体何度泣かせれば気が済むのだろう。何度この涙を自分で拭わせてしまったのだろう。
……もう、これで最後にしなければならない。泣かせてしまった分だけ、これからもっと笑わせなければならない。それが姉としての、自分の責務だ。
「私は貴女を、愛している」
「……本当ですか?」
「ああ、約束する」
もうこれだけは、決して破らない。
もう2度と、この子を1人になんかしない。
これだけは、絶対だ。
絶対に、絶対だ。