『疾風』は妹の責任を取りたい。   作:ねをんゆう

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08.ママパワー

 一緒に暮らす。

 

 簡単にそうは言うけれど、実際のところリューにはそれほど自由に使えるお金はない。それこそ突然に部屋を1つ借りることなんて出来るような立場でもないし、今更冒険者に戻ることも出来ない。故に酒場での仕事は継続しているし、一緒に暮らすのであれば自分が転がり込む以外に方法はない。

 

 つまり……

 

 

「……あれだけ大きなことを言っていたのに、居候ですか」

 

 

「い、いえ。もちろん生活費は出しますから……」

 

 

「しかも仕方ないとは言え、夜帰って来るのも遅いですし。食事だって朝しか一緒に取れませんし」

 

 

「……あの、もしかして怒っていますか?」

 

 

「怒ってません、怒る理由がありません」

 

 

「た、偶には早く帰って来ますから!お願いして来ます!」

 

 

「別に良いです、お仕事なので仕方ないですし。ただ、側に居るとか離さないとか言ってた人がこれだけ相手を放置するのもどうなんですかね?って、私は客観的に見て当然の疑問を呈しているだけです。個人的には別にどうでもいい話ですが」

 

 

「や、やっぱり怒っているじゃないですか……」

 

 

「怒っていません。今日もたくさん稼いでくればいいんじゃないですか?私もお仕事が忙しいので」

 

 

「サ、サラ……」

 

 

 一緒に朝食を食べながら、片頬を膨らませて目を閉じている彼女にタジタジとして受け答える。

 

 ……いや、これに関してはリューだって本当に申し訳ないと思っている。しかし酒場で働いている以上、主戦場は夜であるし。帰って来た頃には彼女は眠っている、そうでなければ精神力の回復が間に合わないから。

 休日もそれほど多い訳ではないし、こうして話すことが出来るのも朝方くらい。それだって彼女に依頼があれば無くなってしまう時間だし、本当の本当に申し訳ない。怒るのも当然だ。朝食だって作ってくれるのは彼女なのに。

 

 

「……わ、分かりました」

 

 

「?」

 

 

「サラ。私は明日、仕事を休みます」

 

 

「……え?」

 

 

「というより、定期的に仕事を休めるようにお願いしてきます。そしてその日は、依頼だろうと何だろうと貴女の側に居ます」

 

 

「い、いえ、あの、そこまでは別に……」

 

 

「いえ、もう決めましたので。私にとって何より大切なのはサラですから、貴女をおろそかにするようなことはあってはならない」

 

 

「あ……う……」

 

 

 変に嫌味っぽく言う癖に、いざこう返されてしまうと顔を赤くして目を逸らしてしまうので。リューだって少しずつ彼女のことが分かって来る。

 きっと彼女は確かに自分を受け入れてはくれたけど、まだ素直にはなれていないのだと。けれど同時に甘えたい欲というものは確かにそこにあって、しかしそれを素直に言い出すことが出来ない。

 ……故にリューは考えた。自分が何をどうするべきか、自分に足りていないものは何か。彼女に何をしてあげたらいいのか。その結果。

 

 

「それではサラ、行ってきますのハグをしましょう」

 

 

「……頭でも打ちました?」

 

 

「共に生活をしている者達は毎朝こうするのだとシルから聞きました」

 

 

「多分それ、夫婦とか、お付き合いされている方々だけの話だと思いますが。別にアストレア・ファミリアに居た頃にもそんな習慣は無かったでしょう?」

 

 

「……」

 

 

「……な、なんですか」

 

 

「そうだとしても、サラがして欲しそうなのでします」

 

 

「んなっ!?そ、そんなこと私は……!」

 

 

 心の距離をより近付けていくために、まず触れ合いが大事なのだとシルとアスフィは言った。それこそ抱き付いたり抱き付かれたりという行為があったからこそ、以前はあれほど仲良くなれたのだと。それがなければ一般的なエルフの同性同士の距離感になってしまうと。

 ……そう、それでは駄目なのだ。リューが求めるのは以前のような彼女との関係だ。一緒に暮らせれば、それで終わりという訳ではない。成長した見た目に騙されず、あくまで彼女を年下の妹だと思って、可愛がらなければならない。

 

 

「さあ、来なさい」

 

 

「な、なんで私から行くと思ってるんですか……」

 

 

「……なるほど。それはその通りだ、私から行かなければなりませんね」

 

 

「そ、そういう意味では無くてですね……!うみゅっ!?」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「……本当に、素直ではないですね」

 

 

「……もう、子供じゃないので」

 

 

「分かっていますよ」

 

 

 子供ではなくなってしまったからこそ、子供のように甘えられなくなってしまったのだと。本当は甘えたいのに、それを素直に言えないのだと。

 だってそうでもなければこんな風に抱き寄せられて、抵抗一つすることなく力を抜いてされるがまま、などと言うことはありえない。

 

 

「寂しい思いをさせてしまい、すみません」

 

 

「……別に、寂しくなんかないですし」

 

 

「大丈夫です、明日は絶対に一緒に居ますから。約束します、買い物にも行きましょう」

 

 

「……そうですね、ベッドももう一つ必要ですし。昨日みたいに勝手に私のに入って来られても困りますので」

 

 

「それは要りません」

 

 

「な、なんでですか……」

 

 

「一緒に居られる時間が減ってしまう。私がそれは嫌なんです。不自由をさせてしまいますが、そこだけはどうか許して欲しい」

 

 

「……………………そ、そこまで言うのなら。まあ、仕方ないですね?お金もその、有限ですし、無駄には出来ませんから。節約のためになら、仕方ないですね」

 

 

「ええ、これは仕方のない話だ」

 

 

 誰に言い訳をしているのか、思わず笑ってしまいそうになるけれど。そんな言い訳で甘えてくれるのなら、いくらでも付き合う。そうして言い訳を立てるだけでこうさせてくれるのなら、いくらでも聞く。

 ……まだ、自分から抱き返してはくれないけれど。少しずつ心を解きほぐしていって、その問題を取り除いていって、いつかは全てを委ねてくれるように。

 

 

「ではサラ、行って来ます」

 

 

「っ」

 

 

 このまま離したくはないけれど、もう時間もないから。だから最後にせめてと彼女の額にキスを落として、身体を離す。

 ……きっともう、エルフとしてどうこうとか、多分自分は一生言うことは出来ないだろうけれど。それも別に気にしない。

 

 それはまあ一応は女として、いつかは好きになった男性と〜、というようなことを考えていた時期はあるけれど。今はそれより大切なものがあるから。

 将来的なそういう可能性を例え捨てることになったとしても、自分にはこの子を守る責任がある。それこそ、もう口にだってしてしまったのだし。今更額にするくらいで彼女が喜んでくれるのなら、いくらでもするとも。

 

 

「……よくないですよ、こういうのは好きな男性とかにするものです」

 

 

「ふふ、まるでエルフのようなことを言いますね」

 

 

「っ……もう、早く行って来てください。遅刻しますよ」

 

 

「ええ、また夜に」

 

 

「……はい、いってらっしゃい」

 

 

 そうしてリューは家を出る。何事もないように、顔を赤らめている彼女に軽く手を振って。自分の想定通りに、自分の想像通りに運んだやり取りに、安堵感を抱きながら。

 

 

 

 

 そして同時に、疲労感も抱きながら。

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 

 

 

「な、なんてザマニャ……」

 

「出勤直後にそんな疲れてることある?」

 

「え、エルフの習性を破るのって、そんなに疲れることなんだね……」

 

 

 しかしそう、実のところ。

 潔癖エルフの代表格とも言えるこのリュー・リオンにとって、現在の日々はなかなかに心を削っているものでもあったりした。

 

 

「い、いくらなんでもキスは……キスはやり過ぎた……」

 

「で、でもキスって言っても親愛のものなんだし……」

 

「そうそう。それも同性の家族になんて、むしろリューの方が意識し過ぎなんじゃない?」

 

「エロニャ!エロエルフニャ!!」

 

「だ、だれがエロエルフですか!!」

 

 

 理屈では分かっている、実際にそれを言い訳にしてあんなこともしたし、こんなこともした。手を触れることすら滅多なことが無ければしないリューがここまで積極的になれたのは、単純に相手が幼い頃からアリーゼと一緒になって可愛がっていた後輩だからである。

 彼女にベタベタと引っ付くアリーゼに倣って、自分でも相応に接触していたからである。そうでなければ、その経験がなければ、こんなことは絶対に出来なかった。

 

 

「それで?少しは心を開いてくれたの?」

 

「……まあ、その、あの子も押しに弱い子なので。強情なところはあるのですが、こちらから開いてあげれば」

 

「やっぱり言い方がなんかエロいニャ」

 

「アーニャ、いい加減うるさいニャ」

 

「にしても驚いたよね、まさかリューが『エルフとしての自分を捨てたい』なんて言い出すなんて」

 

「いえ、その……自分の融通の効かなさに嫌気が刺したと言いますか……」

 

「それを今更言うのかニャ……」

 

「でも良いことだと思うよ。誰かのために自分を変えるって、すごく難しいことだと思うし」

 

 

 シルから手渡された水を飲み、リューは一先ず立ち上がる。

 これから仕事が始まる、この生活にも慣れていかなければならない。今後の自分の人生は、あの子を支えるために費やすと決めている。流石に今直ぐここをやめるつもりはないが、今後の身の振り方も少しずつ考えていかなければならないし……

 

 

「それに私、聞いちゃったんだ。どうも色んな国の偉い人とかファミリアが、サラさんのことを狙ってるみたい」

 

「え……?」

 

「クロエとルノアなら分かるんじゃないかな、サラさんの力の価値」

 

「あ〜……まあ確かに、狙われそうっていうか。求める人は割と多いんじゃないかな」

 

「精神的にぶっ壊れた息子が居る〜、みたいな話は結構あるのニャ。治すためにアホみたいな金注ぎ込んでるって金持ちも多いニャ〜」

 

「……そんなことが」

 

「いくらフレイヤ・ファミリアの後盾があると言っても、そういう必死な人達を止めることは出来ないと思うし……」

 

「っ!?今こうしている間にもサラが……!!」

 

「はいはい落ち着くニャ〜」

 

「ま〜たこの頭堅物エルフは先走るんだから」

 

「むぐっ」

 

 

 シルが言いたかったのは、あくまでそういう可能性があるということ。そしてそれほどに彼女の力には価値があり、狙う者も多く居るということ。

 彼女はこれまでの活動実績からして、それなりに味方は多い。少なくとも彼女に救われている浮浪者達は、襲われている彼女を見掛ければ直ぐさまに助けに行くことだろう。それでも彼等はあくまで浮浪者であり、1つのファミリアに対抗出来るほどの力などない。

 

 

「サラさんを守ることは、そんなに簡単なことじゃない。私はそう言いたいんだよ、リュー」

 

「……」

 

「それにね、リュー。多分サラさんが抱えてる問題って、アストレア・ファミリアに関係したことだけじゃないと思うの」

 

「え……?」

 

「もっと根深い……もっと致命的なものがあると思うの。それが何かは私も分からないんだけど」

 

「……気のせいでは、ないのですね」

 

「うん、だからこれからもしっかりとサラさんのこと見てあげてね。リューなら気付けると思うから」

 

「……わかりました」

 

 

 精神的にキツかろうがなんだろうが、それは所詮は自分の中のエルフの矜持との戦いでしかない。そんなものと長く戦っていられる余裕などない、それはシルからのそんな忠告なのだろう。

 まだまだサラのことを理解することは出来ていない、理解するには長く時間を置き過ぎた。故にこれから埋め合わせていかなければならない、普通よりずっと濃密にして。

 

 

「そもそも、それだけ優秀な治療師なら他のファミリアが支援してくれるんじゃない?活動を助ける代わりにうちのファミリアに入ってくれ〜、なんて言われたら条件飲んじゃいそう」

 

「「………あ」」

 

 

 さらっとルノアが出したその言葉は、意外にもリューとシルの頭に突き刺さった。

 

 

 

**************************

 

 

 

「済まなかったな、時間を取らせてしまって」

 

「いえ、代わりにお力をお貸しいただけましたから。本当にありがとうございました」

 

「そこまで感謝されることはしていないつもりだが……あの場所では、そうでもないのか」

 

「はい、その通りです」

 

 

 冒険者と浮浪者の喧嘩があった。

 そんなよくある話を聞き付け、サラがその場所に来た時、付近は想像以上に酷い有様となっていた。

 

 このような行く当ても寄り掛かる術もない者達が集まる場所には、これ幸いとばかりにストレスの発散、八つ当たりを目的に、うだつの上がらない冒険者が立ち寄るということも珍しい話ではなかったりする。

 暴言程度であるならまだ易しい方。ギルドさえも味方になってくれない彼等にいくら暴行を加えようとも、滅多に罪に問われることはない。そして今回はどうやらそれが行き過ぎてしまったらしく、その惨状はサラでさえ見た瞬間に一瞬息が止まるほど凄惨なものだった。

 

 ……もちろん、彼等だって単なる善人ではない。盗みや暴力だってするような者も居るし、大きな罪を犯してここに行き着いたという者も居るだろう。しかしだからと言って、断罪というものは無関係の者が無関係の相手に振り下ろして良いものではない。少なくとも骨が突き出るほどに激しく腕をへし折るようなことを、される筋合いなどない。

 

 

 (手が足りない………っ!!)

 

 

 サラの魔法は広範囲の回復をすることが出来ず、必ず1人ずつにしか行えない性質がある。回復速度自体も決して速い訳ではなく、速度を一定以上に上げようとすれば依存症状が出てしまうような欠点もあった。命に関わるような怪我をしている者が複数居るような時、彼女は治療師としての役割を果たし難いというところがある。

 

 ……そして今回。

 そんな時に現れたのが、リヴェリアだった。

 

 

「正直、ここまでとは思っていなかった。噂だけは聞いていたのだがな」

 

「いえ、まあ、流石にあれほどのことは早々起きません。普段は精々八つ当たりに殴られた程度で済みます。……今日の件については、流石にギルドも動くでしょうし」

 

「……君がここで働いている理由は」

 

「単なる私の自己満足です、ここの人達のせいにするつもりもありません。人によっては"救うべきでない人間"と言って私を批判するかもしれませんが、私はそうは思わなかった。……それだけのことです」

 

「……そうか」

 

 

 こうして茶を飲みながら話に付き合っているのも、彼等を助ける為に力を貸してくれたリヴェリアに対する感謝を示すため。そうでなければ今直ぐにでも治療をした彼等の事後ケアを優先した筈だ。

 そしてそれが分かっているからこそ、リヴェリアは複雑な顔をするしかない。なにせ彼女をどうこうする以前に、この街には解決しなければならない問題があると実感したからだ。実際に目にして、目を背けていられない問題があると言うことを理解したからだ。

 そもそもこの問題を解決しなければ、彼女はこの場所から離れることなど出来やしない。逆の立場であれば、リヴェリアだってそう思う筈だ。勧誘どうこう以前の問題が、ここにはあった。

 

 

「それで、今日はどうされたのですか?私の力が必要な事案が起きたということでしょうか」

 

「いや、君がディアンケヒト・ファミリアを抜けたと聞いて、様子を見に来ただけだ。少し心配にも思ってな」

 

「それは……別に顔繋ぎなど無くとも、言ってくだされば治療は行いますよ?事情が違うので、お安くは出来ませんけど」

 

「ああ、それは改めてこうして向き合って確信した。君はそういう人物だ、とても好ましいと思う」

 

「……そ、そうですか」

 

「!……ふふ、意外と可愛らしいところがあるらしい。褒められ慣れていないのか」

 

「い、いえ、そういうことでは、ないのですが……」

 

「……ふむ」

 

 

 エルフとしての年の功なのか、それとも同じくらいの年齢の娘を育てていた経験故なのか。彼女のその様子からリヴェリアはなんとなく、なんとなくこの短時間であっても気付いたことがいくつかあった。

 

 

「君の勤勉ぶりと仕事への真摯さについては、以前から聞き及んでいた。その責任感の強さ故にここに行き着くことになったと、そういう理解でいいだろうか」

 

「い、いえ、そんな、そんな立派な理由では無くて……本当に私の、ただの自己満足で……」

 

「……どのような理由があろうと、君の行動はあの場所に住む者達の救いとなっていた。それだけは行動を起こした人間の責任として、受け止めるべきだろう。事実と賞賛を受け入れるのも責任のうちだ」

 

「そう、ですかね……」

 

「ああ」

 

「……」

 

「……」

 

 

「……君の行動は、才能のある者でも簡単には出来ない素晴らしいものだ」

 

 

「……!!」

 

 

「君は多くの者を救っている。肉体的にだけでなく、精神的にも。それは能力に関係なく、君自身の行動の選択によるものだ。君の魔法だけでなく、君がここに居るという事実が彼等の救いになっている。彼等を救っているのは君の力ではなく、君自身であることもまた受け入れるべきだな」

 

 

「………ぁ」

 

 

「……君は凄いな、その責任感は他の団員達にも見習わせたいくらいだ。よく頑張ったな」

 

 

「ぁ………ぇ、ぁ……ぅぁ……」

 

 

 ポツリと、1滴の滴が落ちる。

 相当な重傷を抱えているのだと、それを見てリヴェリアは一瞬で分かった。それほど関わりのない人間の言葉であったとしても、彼女にはこれほどの効果があるのを見て。その精神がどれほどヒビ割れていたのか、直ぐに理解出来た。

 

 

「君1人でこの街の問題を背負う必要はない。……いや、背負わせてしまっている私達大人が言うべきことではないのかもしれないが」

 

「ち、ちが……」

 

「分かっている。だがそもそも、この問題だけではない。アストレア・ファミリアが壊滅した後の民衆のケアもまた、本来なら私達がしなければならなかったことだ。それさえも君に押し付けてしまったことは、私達の責に他ならない」

 

「っ」

 

「すまなかった」

 

 

 【甘園】という眷属ではなく、16歳の少女として見る。するとリヴェリアには目の前の少女が単なる子供にしか見えず、そんな彼女にどれほどの責を押し付けていたのかと、改めて感じさせられた。

 彼女の中にあるその根深い捻れもまた、元を辿れば自分達が押し付けた責が元になっていることは言うまでもない。彼女をここまで追い詰めたのは他でもない自分達であり、大人達である。

 

 ……少なくとも今のリヴェリアは、ロキの言ったような『ファミリアに来てくれないのに問題だけ持ち込まれても困る』という言葉が馬鹿らしくさえ感じていた。問題を持ち込むどころか、問題を押し付けていたのは自分達だったのだから。

 アストレア・ファミリアを求める民達の声を知っておきながら、それを無視し続けていた自分達の怠慢こそが、1人の少女の心を砕き続けていた。その果てに彼女は誰にも頼ることもなく、たった1人でこの街に残る自分達が目を逸らし続けていた闇と向き合う事となってしまった。

 どうしてこれを無関係と言えよう。少なくとも目の前のこれを無関係だと切り捨てるようなことがあれば、リヴェリア・リヨス・アールヴというエルフはここで死ぬこととなる。

 

 

「君の活動を手伝わせて欲しい」

 

 

「ぇ……?」

 

 

「あの場所をどうにかするために、我々もギルドに掛け合う。だがそれは我々の力だけではどうにもならない。実際にあの場所で現状を見てきた君の力も必要だ」

 

 

「…………………なにを、返せば」

 

 

「……困った時に、治療をしてくれるのだろう?」

 

 

「で、でも……」

 

 

「それだけで十分だ。……いやむしろ、この街の問題に取り組んでくれている君に対価を求めることさえ間違っていると私は思う。もちろん君の意向は尊重する、強引な解決もしないと誓おう」

 

 

 リヴェリアは母親だ。そして自分の娘と同じ年頃の少女の考えていることなど、求めていることなど、それなりに分かる。

 それこそがリューとは違う経験値であり、リューには出来なかったことを成せる力である。自分以外の人間、それも子供のような理屈の通りにくい相手を説得させるために、何年もかけて身に付けたその思考と精神は。それこそロキが『ママの力』とも呼ぶようなそれは、目の前の少女にとってはあまりにも突き刺さるもので……

 

 

「君の行動力と責任感という価値を、もう少しだけ貸して欲しい。私達ではなく、君の存在こそがあの場所を救うために必要なんだ。……どうか協力してくれないだろうか」

 

 

「………………は、い」

 

 

 

 リヴェリアはまだ知らない。

 

 まさか今彼女がリュー・リオンと和解(仮)をして一緒に暮らしているということなど。

 

 リヴェリアはまだ知らない。

 

 まさか今彼女がフレイヤ・ファミリアの後盾を得ながら活動をしているということなど。

 

 彼女のその行為は確かにサラの心を救う一助になったことは確かではあるものの。想定していた以上の面倒事を齎すきっかけとなることまでは、今の時点では到底想像さえすることは出来ていなかった。

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