異聞艦隊これくしょん── 三国海戦奇譚   作:謎のks

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序章──戦国の修羅と鋼の乙女②

 

 〜♪

 

 そこに いずるは まっかな おばけ

 

 みたら かくれて かず かぞえ

 

 ぎらり ぎらぎら めが あえば

 

 おまえの からだを ちょんぎるぞ

 

 ひーい ふーう みーい よーお

 

 まっかな おばけ でていった

 

 ちのいけ のこして でていった ──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──地獄。

 

 その業火の支配する悍ましい光景は、喩えるとそんな風に呼ぶ者が多いだろうか?

 そんな炎上する戦場…数多の屍を築き上げ出来上がったその場所で、灰色のアヤカシと戯れる「悪鬼」が一匹。

 

『GRUァァアアア…ッ!!』

 

 灰色のアヤカシが放つは片腕に取り付けた「砲塔」から撃たれた凶砲弾だった、しかしアヤカシの動きは鈍く発射された弾丸も威力も速度も期待出来ないものだった。ひらり…と敵の砲撃を避けた悪鬼、隙を突いて素早くアヤカシの眼前へ躍り出ると──

 

 

 ──ザシュッ!!

 

 

『GYAAaaaaaああぁぁ…!』

 

 得物の刀を振り下ろし、灰色のアヤカシに致命傷を付ける。

 悪鬼の必殺と共に深紅の血飛沫は舞い上がり、アヤカシは絶叫しながら作った絶望に歪みし顔を、屍の山に平伏した。辺りにはダレのモノか定かではない()()()()()()()()が転がっていた。

 

「………」

 

 悪鬼は、朱く塗られた顔を一切の動きを見せずに只、睨んだ。

 鷹の眼(まなこ)に頬の十字傷、鬼の形相で口を閉ざす。…正に明王の如き威圧がある。

 その目の先に映りし「影」…それは憎悪か、狂気か、夢か、幻か、果ては──

 

「フ…はは、ははは、ふはははははははは、あははははっ!!」

 

 ──運命に囚われた、悲しき愚者か…。

 

 悪鬼は嗤いながらその醜悪の姿を晒すと、そのまま背を向けて炎の中へ身を隠した。

 

 悪鬼羅刹は求め彷徨う、次なる戦場(いくさば)は、何処…──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──ヨコスカ国、本丸客間。

 

 おえいと町人たちが深怪棲艦に出くわす少し前…ヨコスカ城内の四畳半の間にて、正座し対面する二人の男が居た。

 

 一人は陣羽織を着る眼光鋭い男。固く閉ざされた口は寡黙を表し、気を張っては周囲の殺気を感じ取っていた。

 一人は年季ある皺が見える老人、目の前の鷹の目の男とは対照的に口元は朗らかに静かな笑みを浮かべていた。

 

 薄暗い部屋の中角行灯の光が両者を照らしていた、鷹の目の男は先程から見えぬ気配を探っていたが、四畳半部屋の周りには人の気は無かった。

 

「………」

 

 鷹の目の男は対する老人に一つ頷くと、老人は変わらぬ笑みを湛えながら口を開いた。

 

「ありがとうございます将軍、では…これまでの近況を伺いましょうか?」

「承知しました、ミツマサ様…」

 

 将軍と呼ばれた鷹の目の男は、敬服する主人の言葉を皮切りに報告を始めた。

 

「先日クレ国との同盟関係の是非を主題に二国間の当主会談が行われました、協議の結果…同盟締結は為されました。正式な発表はまだですが詳しい内容をこれから詰めようと存じます」

「そうですか、それは本当に何より。これも先の会談でクレに強襲した、深怪棲艦を倒した貴方の尽力の賜物ですね? 信頼を得た証拠ですよ」

「いえ。敵を葬ることが私の役割なれば、国内であれ外であれそれに変わりはありません故」

 

 ミツマサの賞賛を前にしても、淡々と己の使命を説く将軍。鷹のような鋭い目つきも相まって少々不気味で冷たい印象だ。堂々としたのもあり一見慇懃無礼な態度だが、将軍の人となりを理解しているのか、はたまた「含み」があるのかミツマサはいつものように微笑みを返した。

 

「ほほほ、そうでしたね。それにしても漸くですね…クレ国内の猛将たちの意見を纏めるのも一苦労でしたでしょう、イサギさんには全く頭の下がる思いです」

「はい、ですがあくまで表面上の関係。向こうが盟約を破り此方の虚を突いて侵撃を開始することも有り得ます、油断無きように私から軍部にも伝えます」

「表面上であれ味方に懐疑的なのはいただけませんよ将軍? ですが…私からも「武雄隊」によく聞かせましょう、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それが宜しいでしょう」

 

 淡々と報告を続ける将軍、次に相対するもう一国について言及した。

 

「次にサセボ国は…変わらず此方に向けて攻撃を続けております、要所となる拠点を航空爆撃により破壊し、着々と侵略を継続。我々の座するヨコスカ本国まで駒を進めております」

「航空母艦、空から攻撃する艦娘ですか…厄介ですね。こうなることは見えていましたが」

「偵察機による敵影探査手法は昔より使われ、一部の識者もそれを攻撃転用する考えは持っておりましたが…敵の迅速な判断と行動に対する意識が足りなかったようで、頭上の鳥を撃ち落とすことは叶いませんでした」

「ふむ、これからは対空防御を思案せねばなりませんね?」

「承知しております、第三警備部隊には既に対空強化を促しました。直ぐに本国の守りは固まるでしょう」

「流石の手際ですね、ありがとうございます。…これからの戦いは我々も航空部隊を配備すべきですかね?」

 

 ミツマサの言葉に、将軍は険しい顔を崩さずに首を横に振る。

 

「難しいかと。私自身空母艦娘の有用性は高いと思います、ですが…本国は艦娘の砲撃、特に戦艦娘の巨砲至上主義を掲げる者たちは数多くおります、一部の天陽一族と軍部にもその考えが根強く、配備したなり先ず反感を買うことでしょう。あまり刺激させるのは不味いかと」

「そうでしたね、それに…我が国が保有する艦娘の数も年々減ってます。主力たる第一部隊も第二遊撃部隊も、先の戦いで沈んでしまった娘が山といますから、補充しようにも「証」の有る女性をどう捜索するか…」

 

 ミツマサの言わんとしていることは、ヨコスカ本国のある本島又は領海内の群島、その中を「深怪棲艦」の目を盗んで移動するにも一苦労であるからだ。一歩でも外に出向けば海中に潜む深怪棲艦に襲われる可能性がある。

 目的の場所へ出向くにしても艦娘又は人間の護衛を付ける必要があった。深怪棲艦は艦娘で無ければその艦体に傷を付けられないが、出会っても交戦せずに逃げる前提で戦慣れしている傭兵に護衛を頼むことも、ここ最近で増えていた。

 それでも危険なので、一般市民には城下町以外に出歩く際はヨコスカ軍部に報告し、艦娘の護衛を付けるよう呼び掛けている。

 ともかくただ外に出ただけで敵に出くわすことは確実なのだ、更には三国との戦いで艦娘の数も減少。本国を守る要員を外すわけにもいかず、簡単に新たな艦娘を探せない状況であった。

 

「艦娘の減少は我が国に限った話では無いですが、加えて我々の目先にはサセボの脅威もあります。このまま行けば何の道我が国が脅威に晒されることでしょう」

「では…何か策はありますか?」

 

 ミツマサに問われた将軍だが、またも黙って首を振るだけ。しかし一応の考えはある模様で程なく明言する。

 

「キヒトが言うところによると、同盟を結んだクレ国に救援要請を送るのが得策だと」

「そうですね、しかし同盟とはいえこの短期間で相応の戦力を貸し与え下さるでしょうか?」

「ご安心下さい。話によるとクレ国は最近貸し戦力を他小国に派遣するという、傭兵紛いの生業を始めた模様です」

「あぁ成る程、言い方は良くありませんが最悪その貸し戦力を利用すれば良いのですね」

 

 ミツマサは得心行った様子で頷くも、将軍はただでさえ強面な顔を苦い表情に歪ませた。

 

「気を抜くことはなりません、此方がクレ国に対し下手になれば何を要求されるか分かりません。それこそ「隷属要求」も有り得ます」

「確かに。まぁイサギさんに限ってそれは有り得ませんが…裏に何者かが居るのか知り得ない以上、先に動くのはいけませんね?」

「えぇ、我らの目的はあくまで「世界に創造主たる天陽一族の威光を知らしめる」こと、何モノの下に就くことも許されません。それを押してでも戦力を求めるというなら、陛下のご意向も伺わなければなりません」

「そうですね、それに……」

 

 そう区切るとミツマサは目を左右に動かして辺りを見回す、再度無人であることを確認すると、先程よりも小さな声で話し出す。

 

「私たちの"目的"についても、一度陛下に相談せねばなりませんしね?」

 

 将軍はミツマサの言葉に顔を歪ませたまま、深いため息を吐いた。

 

「ミツマサ様、お言葉ですが今この状況では…」

「はい、無論この戦乱においてはまだ時期尚早で発言することではないでしょう。ですが…矢張り私は深怪棲艦のこともある以上、ゆくゆくは向き合わなければならないと思いますよ? 今この状況そのものが「特異」である以上は…ねぇ?」

「……あまり気は乗りませんが、私としてもその方法しか無いと思われます。我々人類の真の敵は… 深怪棲艦で間違いありません故」

 

 将軍とミツマサは話をひと段落させると、互いに頷き合って意思の合致を表す。

 秘密裏に行われたであろう二人の会談は閉幕となった、後は「サセボ国の動向を伺いながら、クレ国との軍事条約も視野に入れ防御対策を講じる」ことを考えつつ、話は終わりを迎える…筈だった。

 

 ──ビー! ビー! ビー!

 

「…ん?」

 

 将軍はこの場に似つかわしくない異音を察知するも、徐に懐を弄(まさぐ)ると手に「受話器のようなもの」を取ると、少しばかり考えて数個あるボタンの内一つを押して、手にしたものを耳に当てた。

 

「俺だ、川内か?」

 

『──やっほー殿様、というか出るの遅くなかった?』

 

 川内と呼ばれた人物は、通信機から発せられた声から少女だということが解る。そんな川内は将軍に対して通信を取るのがいやに遅かったことを指摘した。将軍は言葉短かに回答する。

 

「俺は機械(からくり)全般が不得手だ」

『あー、何処が通話ボタンか分からなかったんだ。この前なんて受信切っちゃったもの、ダメだよ殿様〜頭が通信も取れないなんて良い笑いものだよ?』

「善処しよう。それより…報告があるのだろう?」

 

 将軍に促されると、川内は朗らかな声色から一転し鋭く低い音程で状況を伝えた。

 

『──城下に深怪棲艦が現れたよ、一隻だけだからはぐれみたいだね』

 

「…っ!」

 

 川内の言葉に目をカッと開くと、将軍は傍に置いた刀をもう片方の手で取ろうとする。

 

『あぁ待って! 現れたんだけど…様子がおかしいんだ。一人の「女の子」が前に出たら途端に大人しくなってさ、おかげで今のところ人的被害は確認されてないよ。流石に建物は何件か駄目になってるけど?』

「ほぉ…?」

 

 川内は将軍を制止させると訂正して正確な情報を伝えた、しかし──将軍の目に宿る「黒炎」は消えなかった。

 

「解った、俺が行く。お前はそこで例の少女と化け物の動向を見張っていろ」

『っはぁ……了解、あんまりやり過ぎないでね?』

 

 川内は呆れたようにため息を吐くとそのまま通信を終えた、将軍も通信機を切ると外に出る用意を始めた。腰の帯刀やら籠手の装着など短めの支度を済ませると、ミツマサに向き直り用事が出来たことを釈明した。

 

「申し訳ありません、城下町に深怪棲艦が現れた模様です。一匹のみのようなので()()()()()()()()()()()

「そうですか。…大変ですね? 話を聞く限りどうやら群から離れた「迷い」のようですね。昨今の艦娘不足が祟ったようです、貴方に余計な労力を掛けてしまいこちらも申し訳なく思います」

「いえ、これも国主たる我が役目です。では…」

 

 そう言うと将軍は足早に部屋を後にする、平静を装っていたが漏れ出る「鬼気殺気」は誤魔化せなかった。

 将軍の居なくなった部屋、行灯の光はミツマサの柔らかな笑みが「暗く、哀しく」変わっていくのを映し出していた。

 

「貴方は何処までも修羅の道を行くのですね、将軍? ですが…いつか必ず来る太平の世は、貴方を必要とするでしょうか……私はただ、それのみこそ案じています」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 川内の報告を受け深怪棲艦の出現地点へ馬を走らせる将軍、城下町に入る頃には人混み多くなっていくも何とか現地に辿り着いた。状況は騒然としているようでがやがやと町民たちが騒ぎながら「なんなんだ、どうなってんだ!?」と言った疑問の飛び交う光景が映る。

 

「──何事だ?」

「っ!? しょ、将軍閣下!」

「へへぇ~~っ!」

 

 将軍は近くに居た町民たちに声を掛けると、町民たちはその場に正座し首を垂れる。将軍はそんな定型挨拶より状況を伝えろと言うと、その場の町民二人が説明をし始める。

 

「へぇ、さっき深怪何某が現れたんですが。暴れ回るそれに娘っ子が出て来て頭をこう…犬を撫でるみてぇにしたんです。したらバケモンも大人しくなって」

「ありゃ「おえい」だや、オラの行きつけの茶屋の看板娘でさぁ。元気があって気立ての良い出来た娘だぁ!」

「何…?」

 

 正座した町民二人の話に将軍は、まるで狙い澄ますかの如く鷹の目を鋭く細め、眉を顰める。

 

「──…」

 

 目の前には、深怪棲艦の化け鯨と地味な茶色着物を着た一人の少女。町民の言った通りおえいと呼ばれた茶髪の少女は、深怪棲艦の黒い皮膚を優しく撫でては自然な笑い声を上げていた。

 

「あははっ!」

『KYゥイイイ!』

 

 …成る程、と大方の状況を察すると将軍は馬から降りると、ゆっくりと歩を進める。その足取りはまるで──

 

「…ん? え、しょ、将軍様!」

 

 おえいは突然現れた一国の主たる将軍に駆け寄ると、挨拶もそこそこに事の次第を説明した。

 

「──…そうか、ご苦労だった」

「いえ、そんな! 私もなんでこうなったか…その、そう言っても信じてもらえないでしょうけど?」

「いや、そこは理解している」

「そうですか? 良かったです。あ、ええと…それじゃあこの子は」

「ああ、()()()()()

「そうで…えっ?!」

 

 唐突な言動に驚きを隠せないおえいだったが、将軍はゆらりと前に出るや刀を抜き、得物を深怪棲艦に向けた。

 

『KYゥイイイ!?』

「しょ、将軍様! 何を…?!」

「これは深怪棲艦、人々に害を為すモノだ…ならばこうするのは当然だろう?」

 

 将軍は刀を異形の怪物に向けると同時に、研ぎ澄まされた「殺気」を隠すことなく放っていた。将軍の「まるで戦場に居るような」深い殺意に、おえいは息を呑んでは言葉が咄嗟に出て来なかった。

 

「っ! ……だ、だからって。この子は迷子になっているだけで!!」

「ほぅ、なら貴様は仮に人喰い虎が町に出ようと同じく迷子と言うか? 言っておくがこれは虎以上に凶悪だぞ。それに──コイツは我々の「敵」だ、それ以上の干渉は無意味だ。被害が出る前に叩っ斬るより他ない」

 

 将軍は深怪(えもの)をジッと見据え、鋭い眼光を外さずに説いた。人に仇名す異形は…始末するしかないのだと。

 

「そんな…虎だとか敵だとか決めつけないで! その子は…っ!」

「おいっ、おえいちゃんこっちさ来い危ねぇから! 将軍様が化け物さ倒してくれるってよ!!」

 

 おえいの腕を取った町民は無理やり彼女を後ろに下がらせた、町民たちは化け鯨とそれに相対する将軍を囲むと声援を送った。

 

「将軍様!早いとこやっちまって下せえ!」

「将軍さまー!がんばれえー!」

「ちょっと、皆! 何で……どうして!?」

 

 おえいが反論しようとするも、周りの町民たちは声を荒げて将軍を後押しすると、おえいの叫び声を掻き消していく。

 完全に蚊帳の外に放り出されたおえい…もはや為す術もなく成り行きを見守るしか出来なかった。

 

『K…KYゥイイイーーーッ!!』

 

 殺意を感じ取ったのか化け鯨は吠えると、口の中の得物──単装砲塔──を見せつけては、勢いつけて将軍に襲いかかる。その姿はまるで「追い詰められた鼠が激情に駆られた」ような怯えたものにも見えた。

 

「──ふん…っ」

 

 すると──あっという間の出来事だった。将軍が音も無く消えたかと思えば、化け鯨の真ん前まで”移動”していた。

 

「──お前を、断罪する」

 

 

 ──ズバァッ!!

 

 

『KYゥイイイーーーッ!?』

 

 将軍はそのまま刀を振り抜くと、化け鯨はあっけなく真っ二つと成った。

 

「っ!!」

 

 化け鯨の中身が断面図となって露になると、胴体に罅が走り火が燃えると勢いよく爆発四散した。

 

「うおおっ、すげぇ!! どんな武器も通じねぇ言われとる深怪棲艦を、あっさり斬り伏せちまった!」

「流石我らヨコスカ国自慢の将軍様だぁ! この人が居るなら何が来ても怖かねぇ!!」

「将軍様ぁーーーっ!!」

 

 町中から歓声が上がり、()()()()()()誰しもが深怪棲艦の排除に歓喜を表した。

 

 

 ──これを哀れと思うか、はたまた至極当然と思うか?

 

 

 兎にも角にも脅威は去った。そう町民たちは喜び合った…しかし。

 

「──…っ! 皆退いてっ!!」

 

「っ!? お、おえいちゃんどうした…お、おいっ?!」

 

 おえいは押し合う町民たちを無理に押し退けると、刀を収めている最中の将軍に近づく。将軍もおえいに気が付くとその眼を向けて話し掛けた。

 

「…何だ?」

「貴方…っ!」

 

 ──スパンッ!

 

「…っ!?」

 

 将軍は何かを叩きつけるような大きな音が響くのが聞こえたが、それが「自分の頬をおえいが叩(はた)いた音」だと気づいたのは、その次に将軍の頬に熱が帯びていると知覚した後だった。

 

「確かに深怪棲艦は恐ろしい存在かも知れません、でも…それが殺しの理由になるとは私にはとても思えないっ! 何故こんなことをしたんですか、貴方は国を護ることが仕事で、()()()()()()()使()()()()()()筈でしょう!?」

「お、おえいちゃん!!」

「何やってんだあの娘っ子は…っ!?」

「幾ら下々の者にも優しい将軍様でも…ぁあ~こりゃあ斬られるわ、成仏しろよぉ~なんまいだぶなんまいだぶ」

 

 町民たちがおえいの愚行──将軍の頬をぶつ──を肝を冷やしながら見ていると、当の打たれた将軍は──おえいの顔と目を確りと見つめながら視線を向けると淡々と問い掛ける。

 

「…お前、あの深怪棲艦が怖くないのか?」

「怖いですよ、怖かったですよそれはっ! いきなり現れて街を破壊して回って…でも、あの子の鳴き声が…まるで「助けを求めているように」聞こえて、変なのは重々承知してますけど…でも……迷子になっていただけなのに、危険だからって排除するのはおかしいって…だから…っ」

 

 おえいは感情を言葉に乗せて発露していく、そして終いには瞳から一粒の「涙」を流している。それはどんなに冷酷な将軍でも理解出来る…「優しさ」の垣間見える怒りと悲しみの入った激情であった。

 

「…面白い」

「な、何ですか! そうですよ悪いですよね! 将軍様の頬をぶつなんて前代未聞だって理解してますっ、でも…許せなかったんです。罪に問われるならそれでも構いません、自分でもやってしまったとは思うので…ですがどうか、お母ちゃんや家族の皆には」

 

 将軍が表情を変えないままそう零すと、おえいは慌てながらも後悔などしていないと言わんばかりに開き直る。そんなおえいを見て将軍は次に──先ほどの険しい表情からは想像も尽かないほどの「温和な笑み」を浮かべる。

 

「いや、確かに私…()()()()()()。しかしアレは深怪棲艦、何を仕出かすか分からない以上ああするより他無い。許せとは言えんがお前たちを守るためだったとは理解してほしい」

「…っえ!? えっと…もしかしてご無礼を許して下さるので?」

「まぁ当然の反応だと俺も自負があるつもりだ、ところで…ふむ、見た方が早いか」

「へっ? 今何と…」

 

 何やら雲行きが怪しくなり始めたのを察知しおえいが聞き返すと、答えることなく将軍はおえいに近づき不意におえいの肩を掴むと──

 

 

 ──ガバッ。

 

 

 そのままおえいの着物の肩部分を脱がし、その柔肌を露出させた

 

「──・・・ヒェッ!!?」

 

 先程まで怒りに燃えていたおえいは、今度は突然の出来事に顔を赤くする。幸い()()()()()()()()()()()。どよめく町人たちの中の男衆は何処か鼻を伸ばした様子で、女衆も「あらやだ!」と頬を赤く染めている者が何人か居た。

 おえいの肩の部分が見えるまで着物を脱がした将軍は、首の後ろを見やると…得心がいったように頷いた。

 

「矢張りか。その人を意に介さぬ言動、そしてナニモノであろうと慈悲を見せる物腰…もしやと思ったが「当たり」だったか」

「ちょ、ちょとぉ、あの……ええ?」

 

 将軍の説明不足も相まって訳が分からぬこの状況、言葉がしどろもどろになるおえいであった。

 

 少しの間を置いて着物を元に戻すと、将軍は鋭い視線をおえいに向けて語りだした。

 

「お前は「艦娘」という存在を知っているか?」

「え? …は、はい? 艦娘って確か国お抱えのヒト型兵装(からくり)という…?」

「そうだ。兵装(からくり)と言うが艦娘の素体は「生身の女性」に限定される、十数年前に当時の高僧であった「天照大師」が呼び出した「異界の戦士」の魂を宿した少女たちにな」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、そして艦娘と成るためには「清らかな心を持つ女性であること」が絶対の条件…らしい、俺は忌々しいことだと思うが? 今の時代にそんな柔らかな感情を持つ者は少ない、おかげで探すのも一苦労だ」

 

 不満を漏らしつつも、前提を踏まえて将軍は結論を出した。

 

「お前が、新たな艦娘なのだ」

 

「……へ? 私が艦娘?? んーー……?」

 

 先程までの憤りが何処かへと去り、おえいは必死に今の状況を理解しようと頭を働かせた。が将軍はそれを制止するとおえいの首を指差した。

 

「無理に理解する必要はない、事実だけ聞き入れてほしい。…さっき俺が首の後ろを見ただろう、そこに艦娘の証である「印」がある」

「…あ! そう言えばお母ちゃんに「アンタいつの間に刺青なんて入れたの?」って言われてた! 何のことか良く分からなかったんですけど…そういうことですか!?」

 

 言われたおえいは首後ろに手を当てて大袈裟に驚いて見せた、どうやら彼女にも心当たりがある様子だが、将軍は構わず言葉短かな説明を続ける。

 

「印には”比叡(ひえい)”と刻まれていた…そう、お前は「比叡」だ」

「ひ、ひえぇ…?」

 

 おえい、元い比叡は思考が追い付かない頭から絞り出された言葉をオウム返しした。

 

「そうか、お前が……」

「あ、あの…?」

 

 将軍は先ほどのミツマサとの密談の中の「証のある女性の捜索」についての会話を思い起こす、あれだけ見つけ出すのが困難であると話し合っていたにも関わらず、こんな簡単に見つかってしまうものかと将軍は何処か呆れたように思うと──ほんの少し、肩の力が抜けると口角を上げては鼻で笑う。

 

「…ふ」

「(えっ、さっきからなんでこの人和やかな笑顔なの!? ちょっと前の無礼もあるから正直怖いですぅ!!?)」

 

 そんなことは露知らずおえいは戦々恐々していると、矢張り先ずは非礼を謝るべきと将軍に対し声を掛けた。

 

「あ、あの。改めまして…先ほどは申し訳ありませんでした。私…納得出来ないからと将軍様の頬を」

「いや、気にしなくていい。むしろ気に入った…正しいと思える考えをはっきりと口にした、お前は強いな?」

「え!? いえ、そんな…」

 

 将軍はおえいの謝罪を快く受け入れ、おえい自身も──尊い犠牲は忘れていない上で──やり方に問題はあるかも知れないが、将軍自体は「悪い人ではなさそう」と思い直した。ともあれ二人の間には先の棘のある雰囲気から一転し柔らかな空気が漂い始めた。

 

「名前は…おえいだったか? 今から比叡と呼ぶぞ?」

「は、はい」

「比叡、今日この時よりお前は──」

 

 

 

 ──俺の女になれ。

 

 

 

「…ぇ? ……ひ、ひええええええええぇっ!!?」

 

 場が収まりそうになった手前で将軍の「爆弾発言」が飛び出し、おえい改め比叡は「独特の叫び声」と共に今日一番の驚きを見せ、外野もガヤガヤと将軍の言葉の真意をまことしやかに話し始めた。

 

 ──こうして、茶屋の娘であった比叡の「艦娘」としての物語が幕を上げた…!

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──これが、私と将軍様の出会いでした。

 

 ここからの話は──兵器として半端な私と、不器用な生き様しか出来ない彼とが紡ぐ物語。

 

 でも…この時の私は、まさか自分が「あんな戦い」に身を投じることになるとは、思いもしませんでした。

 

 悲しく、辛く、険しい…そんな戦いの果てに願う平穏は、目を凝らしても未だ見えない彼方にありました──

 




 とうとう投稿してしまった・・・。本当はもっと練りたかったけど、これ以上遅らせるとこの先投稿出来るか分からないので、中途半端かもしれませんがやらせてもらいました。
 続きはまだまだ先になりそうですが、何とか書いていきたいと思います。具体的には「艦すと」終了かその前ぐらいになる…かな?
 そして今後の投稿予定として…序章を除いた全「3章」を予定しており、一章区切りで完成次第逐次投稿していきたいです。某FGOのメインシナリオみてーな感じです。
 さぁ~てさて、これ完成まで何年掛かりますかねぇ? ハハハ考えたくねぇ~~!?
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