そもそも呪霊操術の味ってどんなだ
物心つく頃からバケモンが見えていた。
物の良し悪しというか、明瞭な思考を獲得したのは凡そ4歳くらいだと思われる。
その頃になると、感情的にならないというか、脊髄で行動しないというか……まぁ少しは考えて行動できるようになっていた。
一応、地続きと記憶はあるし自分の人生もある。
なんで泣いたんだとか怒ったのだとか、子供なりの良く分からん理由も何となく覚えてる。
ただ、そういった子供っぽさは徐々になりを潜め大人の思考が身に着く。
理由は俺が転生したいい大人であり、そんな大人の記憶が溶け込むのに4歳くらいまでかかったからだと思う。
いや最初から記憶はあったのかもしれないけど理解とか自覚するほど脳が発達してなかったのだろう、多分。
「あんま覚えてないな」
自分が子供の時に見ていたアニメの内容とか、友達とやったゲームの話とか、事細かく覚えていたりする人はいるんだろうか。
俺の場合は、前世の記憶は結構曖昧だった。
ただはっきり覚えていることもある。
「夏油傑って……呪術廻戦じゃん」
死ぬ間際の数年間は意外と覚えてた。
蠅のような大きさで、子供みたいな顔をした虫がいる。
色は紫とか茶色とか多種多様。
手を翳すと吸い込まれるように手のひらに光の粒になって集まっていき、ドロッとした黒い球に早変わりした。
呪霊操術、夏油傑が持つ生得術式。
術式っていうのは、身体とか魂とか脳とか諸説あるけどそこに刻まれてる回路みたいなもの。
で、そこに呪力と呼ばれる負の感情から生まれる謎エネルギーを注ぎ込むと超能力というか異能みたいな不思議なことを起こせる。
まぁ、ジャンプの漫画みたいだよな。
「今やってる幽遊白書みてぇ」
なんならこれから出てくるハンターハンターとかでもいい。
勝手に決められる念能力みたいなもんだろ、これ。
俺はジャンプを読みながらそんなことを思った。
四歳児でも漢字が読めることは感謝しかない。
ナルトもブリーチもワンピースもない、だがドラゴンボールやシャーマンキングやジョジョがある。
90年代でもおもしろいじゃん、やば。
夏油傑じゃなかったら、俺は適当に大企業の株を上場したての頃に買ったりして小金持ちになって、前の人生をトレースするようにそこそこ勉強して、就職してイケメンになるであろう顔と声優から授けられた最高の声を使って彼女を作って、平凡に人生を送ると思う。
でもそうじゃなかった、そうはならなかったんだよ俺、だって俺は夏油傑だ。
夏油傑、俺は呪術廻戦におけるラスボス……メロンパンこと、け、け、なんとかに呪霊操術を持ってるから狙われるのだ。
確か、理由はアニメで見たけど何とか理子ちゃんがED流れてる時に頭パーンされて、灘神陰流か!って生き残っ……あれ、死んだんじゃなかったか?たぶん死んだせいだ。
で、天元様っていうのが進化して天地と合体とかそんなんで呪霊になるから抽出して結界を日本に張って、人類が呪術師になったり、過去の呪術師が出たり、そんで……アメリカ兵が攻めて来たり、ブラックホールとかで戦ってあれ?ラスボスって死んだのか?途中から、封印された五条悟が闇落ちした伏黒と戦うような……封印のために、俺の肉体が必要なんだっけ?
「とにかく、何もかも天元ってのが悪いんだ!同化失敗して俺の肉体が狙われるのだ」
平凡に生きててもたぶん、なんやかんや呪術師にされるんだろうなぁ。
「あっ」
手に持っていた黒い球が霧散して、呪霊が消えてなくなる。
そうか、取り込まないと自然消滅するのか。
まぁ、ガキの頃から黒い球にしてから投げていた記憶がある。
よく考えるとどういう原理なんだこれ。
「あと、馬糞みたいな味がするんだっけこれ」
そこらへんにいるから、また新しい呪霊を黒い球にする。
試しに飲み込んで味をみてみるが……
「うえぇ、これは病む」
強烈な甘さ、ついでに胃の中身を戻しそうになったときに広がるような酸っぱさ、次に来るのは口に留めてられないような激痛、最後に後味はべっとりと苦みが残ってる。
「なるほど、これは不味い」
青春は甘酸っぱいとも言うし、酸いも辛いもともいうし、世知辛いともほろ苦い思い出とか。
人の思いには味に関する項目が加わる言葉がある。
人の負の思いから生まれる呪霊が、いろいろな味があるのも必然なのかもしれない。
そして、使役ができる。
使役ねぇ……
「出てこい」
どこにしまってるのか、その答えは謎空間だった。
俺の周りに黒い影が集まってそこからポンと通過するように蠅頭とよばれる使役した雑魚呪霊が出てくる。
うーん、不思議だけど呪術って何でもありなんだな。
「まずは一体目か、いろんなこと考察しないと俺は死ぬ。あと、我慢して呪霊を食べないと死ぬ」
「傑、ご飯よー、今日はハンバーグよー!」
まぁ、今はゲロ不味い球よりもハンバーグで口直しを優先した。
四歳の朝は早い。
まず7時に起きて朝食を取る、自主性を育てるべく自分で着替えて母親と幼稚園に行く。
祓い、取り込む。
友達と先生に挨拶したあと、スモックを着て遊びの時間。
祓い、取り込む。
今度はお勉強、絵を描いたり汚いひらがなを書いたり、鋏と糊で工作したりする。
祓い、取り込む。
そして、お昼寝の時間は呪霊や術式に関して考察する。
たった1日で家より、呪霊がいやがる。
人が集まる場所は多いんだな、やっぱ。
あと、ゲロ不味い味は慣れない。
もっと小さければ一気に複数飲めるんだけどな。
「…………」
そもそも、あの黒い球は何なんだろう。
飲み込むとき何か光るし、術式でああなっているのは分かるけど。
あれって呪霊なのは分かるけど質量保存の法則から外れてるんだよな。
大きかろうと小さかろうと、丸呑みサイズに成形されるし……拡張術式だっけ、術式の解釈で色々出来るのって。
「…………」
大きい呪霊はあのサイズまで圧縮されてるはずだ、じゃないと飲み込めないから。
じゃあ、もっと飲み込むサイズを小さくすることくらい出来るはずだ。
それに子供の俺で丸呑みなら大人の俺ならもっと小さいサイズを飲み込むはず。
でも大人の俺も丸呑みギリギリだったのを考えると、成長に合わせて大きくなったとも考えられる。
縛り、とかじゃないなら無意識に調整していた?
ダメだ、眠いから後でにしよう。
お昼寝の時間が終わったら、アンパンマン鑑賞である。
すごい、アンパンマンって毎日やってたんだ。
しかもビデオだ、ビデオ使ってる。
懐かしいなと思いながら、アンパンマンを見て心がうきうきする。
肉体に精神が引っ張られているんだ。
あれ、これって映画見ながら特訓してた呪術の訓練に使えるんじゃないか?
ちょうど蠅頭いるし、こいつに一定の呪力を込めればいいんじゃないか。
たしか呪霊を呪力で強化出来るはずだし、し過ぎるってこともないだろうし。
「呪力ってどうやってこめるんだ」
まず、そもそもが問題だった。
まぁ、呪術廻戦の世界だって自覚してから数日だし時間はある。
領域展開とか反転術式とかいつか使えるようになるはずだ。
今から死なないために訓練するぞ!
そして、3年が経過した。
「な、なんの才能も!ありませんでした!」
夏油傑、小学1年生。
呪力を練るどころか纏うことすら出来ずに成長してしまった。