眼の前を、何度も虹龍が通り過ぎる。
正確にはある程度近付いては見えない半球状の結界に沿って滑っているのだ。
「理解出来るか分からないが、説明しよう。私の使える拡張術式は3つ。蠱毒、増嵩、無常。互いを喰らい、呪力による強化を行う呪力の集約である蠱毒!」
互いの下半身を噛み合う呪霊が現れる。
ある意味、自らの尾を噛む蛇、ウロボロスのように見える。
「鋼の錬金術師は知ってるかい?」
自分の周囲に複数、黒い水面のような物が生まれて互いを喰らい合う小型の呪霊が飛び出してくる。
それがそのまま最後の一体になった時点で、特攻していく。
今は互いを食べて呪力を集めるためロスが発生しているが、これをロスなく純粋に呪力のみの抽出と混ぜることが出来れば極ノ番うずまきに発展するはずだ。
「グォォォォ!!」
通常時より呪力の増えた雑魚呪霊が初めて痛恨打を虹龍に与える。
自死する勢いで突撃するものだから、鱗を数枚剥いでちょっとした傷を与えた。
……貫通させるつもりだったが硬いな。
「何してる!縛りだらけの帳がなくなったら無防備だろうが!」
「その為の君だろ、フォローも出来ないのか?」
「チッ、出来らぁ!」
チャンスとばかりに突っ込もうとする虹龍、だが強制的に真下に落下する。
五条の術式による妨害だ。
「それ、見えるかい?傷口にいる呪霊」
虹龍に向けて指差しながら俺は言う。
「とても考えたんだ、技ってのは名前が必要だからね。呪力化した呪霊を復元する過程。例えば、中途半端に復元して何度も同じことを繰り返したら?スパゲティコードのように復元するプログラムのような設計図はグチャグチャになって奇形や異形となって顕現する。増嵩……それはお前の呪力を喰らい、増え、嵩み、蝕む拡張術式だ」
虹龍の傷口から虫のような呪霊が肉を喰む。
自分の尻尾で、その虫型呪霊を虹龍は潰すが、片足や羽が取れた潰れた状態の呪霊は内側から新しい足や頭部を出してくる。
今まで羽があった場所に、頭部が生まれて新しく肉を噛む。
千切れ飛んだ肉体の一部からは胴体などが生えてきて、新しい個体として傷に突っ込む。
増嵩、敵や自分の呪力を元に増殖する拡張術式。
蠱毒のような呪力の収集を敵で行い、取り込まれてから呼び出される際のプロセスをバグらせることで中途半端に復元され、不安定な造形で召喚される。
召喚された呪霊は自分の呪力で肉体を再生させ、結果的に増えたり肉体のパーツを増やして嵩んだりする。
「無駄だ。プラナリアのように千切れた所から増えるし、ダメージを負った呪霊は過剰な再生によって嵩んで大きくなっていくぞ。尤も頭や腕が複数あって気持ち悪いけどね」
「キメェ、蛆虫が群がってんじゃねぇか!」
「やめたまえ、あとで取り込むのに気分が悪くなるだろ」
「蛆虫だらけの鰻みたいなもんだぞ、喰うのかよ」
喰うんだよ!
増えたり生命力の観点だと、虫系の呪霊が相性良いんだよ。
動物とかでもいいけど、ケルベロスみたいになるだけだし後はアキラみたいなのに出てくる肉団子みたいな状態。
「最後に無常だ。キメラモンから着想を得た、これは失敗作だ。常に不安定で不定形、自分でもどんな風になるか分からない」
呪霊を呼び出す際に、元の姿に復元するプロセス。
それをバグらせるのではなく、今度は重ね合わせるように同時に行う。
すると、呼び出される呪霊は半分正しく、もう半分は間違った状態で現れる。
「呪霊の呪力は独立しているからね」
混ざらないけど無理矢理、形にされたら。
互いの肉体が混ざって呼び出される。
先程の増嵩が自己の過剰再生による複製と奇形化なら、こっちは複数の呪霊の合成による奇形化だ。
「互いのパーツを組み合わせた化け物の出来上がりさ、尤も使った呪霊は何故か回収できなくなるけどね」
あるいは、それも縛りなのかもしれない。
呼び出したのは人間の頭と下半身を切断して縦長にくっつけたような化け物。
手足が複数ついていて、ムカデのようになっている。
マネキンや骸骨、ゾンビや猿などの比較的に人に造形が近い呪霊をくっつけた巨大ムカデだ。
「巨大であることはそれだけで脅威だ、落ちろ」
それを虹龍の頭上に呼び出す。
胸部分には様々な呪霊の頭部がびっしりあり、抱きしめるように虹龍に絡みつくと、鱗に向かって頭部が噛みついていく。
内側からは自分の肉を喰いながら、肥大化する虫達。
外側からは合成呪霊による拘束と攻撃。
そして……
「――――」
落ちてくる五条が逆さまになりながら何か分かったような顔をしていた。
正直遠くてなにか言ってるけど聞こえない。
ただ、まっすぐ両腕伸ばしていた。
「あれは……」
突如現れる青い光、それが虹龍の内側と外側に発生する。
あの野郎、俺と似たようなことしやがって、パクリじゃ!
内側と外側から吸い込む引力でズタズタにするつもりだな。
「んん~、横取りは感心しないな」
ゴリゴリ削られて血飛沫を上げる虹龍の調伏に入る。
五条に殺されるか、俺に調伏されるのが早いかの勝負だ。
「あっ、ズルじゃねぇーか!」
「そういう術式なんでね」
弱れば弱るほど呪霊玉になる速度は増していき、あっという間に出来上がる。
どっかに呪力化して引っ張られるのが見えたのだろう。
いつの間にか五条が横にやって来ていた。
「まぁ、俺に感謝するんだな」
「おいおい、弱らせたのは私の方だが?」
「はぁ?お前より俺のほうがダメージ与えてたけど?」
「やれやれ、横取りしといてマウント取るなよ」
「ポジショントークで気持ちよくなってるのはお前だろ?」
お互い、無言で睨み合う。
このガキ、一度分からせたほうが良いな。
同じ気持ちなのだろう、五条もやる気満々だ。
今のお前なら、俺でも勝てる。
「俺を舐めるなよ、ガキが」
「余裕無くなって俺とか言ってるのウケる」
「…………」
「…………」
先に動いたのはどっちか、俺は無色の帳である聖域を発動する。
これで、何も――。
「――ガラ空きだぞ」
眼の前に広がるドアップの五条悟。
はぁ?
「ぐぁぁぁぁ!?鼻がぁぁぁ!」
「はい、雑魚!」
右ストレートが顔面に炸裂する。
コイツ、呪力を使わずに殴って来やがった。
「ク、クソが……」
「見えてんだよ、呪力を抑えりゃ通れるってのはな!」
確かに、一定の呪力を拒む設定だから一般人程度のコントロールできない微量の呪力はスルーしてしまうが、早すぎる。
どうして聖域の弱点に……そうか!
「そうか、六眼か!」
「正ッ、解ッ!」
五条が此方に手を向ける。
術式・蒼か、だがそれは悪手だ。
俺は掌印を作って、何も付与しない無色の意味のない結界を作り出す。
「術式順転!」
「虚空!」
五条悟対策、何も付与してないだけの結界。
グレーの球体に俺は包まれる。
一瞬、硬直する五条。
「チッ!」
「無駄だ」
俺のやりたいことに気付いた五条が順転で生み出した球体を背後に移動させる。
だが、俺に引力は働かないし最初の慣性のまま、俺は五条に突っ込むのだ。
背後は海、貴様に逃場はないぞ!
虚空、それは簡易領域と領域展延の中間のような結界。
動けず生得術式が使える簡易領域とは違い、生得術式が使えず動ける領域展延とも違う。
動けず生得術式が使えない、一見デメリットしかない結界。
だが、デメリットはそれに見合ったメリットをもたらす。
動けず生得術式は使えないが、必中効果と術式効果を中和する。
何も付与されてない帳は、その付与されるべき効果の分のスペースに術式を流れ込ませ、中和するのだ。
「おい、馬鹿!」
「あっ……」
両手で俺を抱える五条、だが勢いは止まらず術式反転も使えない五条は弾くことも出来ず、抱えたまま背後に倒れる。
「しまった!」
「んぎぎぎ、ったはぁー!ダメだぁぁぁ!」
二人して海に落ちた。