その死体は、加茂家の人間によって運ばれていた。
上層部の指示により秘密裏に運ばれた遺体、運んでる者達は何も知らない。
「しっかしホントに重いなぁ、一体何が入ってんだぁ」
「あれ、今動きませんでした?」
「何を言ってるんだ、さっさと運ぶぞ!」
その巨大な棺、それは特級呪術師である夏油傑(180kg)の半分であった。
なお、身体に穴が空いててもほぼ100kgである。
さてそれを取り寄せた存在がいた。
その名も羂索、千年もの間生きてきた努力の呪術師だ。
運ばれた和室、そこに黒い着物を纏った女が入ってきて襖を閉める。
その女こそ、何を隠そう努力の呪術師、羂索である。
「これが、特級呪術師夏油傑か。まさか、たかが呪霊操術をここまで昇華するとは……やはり、私から生まれるモノは私の可能性の域を出ない。私が創るべきは私の手から離れた混沌だと確信を得られたよ」
この千年、呪霊操術は幾度となく見ていた。
だが、そのどれもが大した物ではなかった。
それは、呪霊操術の使い手が呪霊を調伏出来なかったり、数度しか取り込まないなどの理由がある。
原因は、言わずもがな呪霊の味が恐ろしく精神的に苦痛をもたらす物だからだ。
それを凌駕するほどの信念、あるいは取り込むことが当たり前だという間違った認識でもなければ無理だろう。
「敬意を払おう夏油傑、君は新しい千年の礎になるのだ」
それは悍ましき呪術、脳を取り替えることによる肉体の乗っ取り。
「……ッ!?ハァハァ……馬鹿な!肉体は直したはずなのに、直してから得たはずの肉体が、馴染まないだと!!」
圧倒的な負荷!立ち上がることすら困難、呪力の強化によってやっと立ち上がれる。
「ハァハァ……全身を強化しなければ、まるで高地に居るように呼吸すらままならない!なんて、なんて過酷な肉体……そうか、これほどの縛りを設けていたのか!」
しかし、今はその縛りによる恩恵はない。(勘違い)
あるのは、死亡した時に残った脂肪だけである。
「じゅ、呪力の最適化の前に肉体の最適化が必要だな」
これは千年の、ほんの一時、呪術師人生で初めてのダイエットの話である。
羂索の朝は早い。
早朝、誰にも気付かれてはいけない暗躍している羂索は、その類まれなる結界術を用いて、姿を隠蔽した状態で走る。
「ゼェハァ……ゼェゼェ……ヌッフゥゥゥ!まだ5分も走ってないのに、足が千切れそうだ!頑張れ私、負けるな私!ヌオォォォ!」
全身が内側から爆発するような感覚を味わいながらも、目標の1時間を達成する。
ダイエット中なので、朝食は大量のキャベツを塩を掛けて取り込みまくった。
「フゥゥゥ!水と野菜しか取れないとは、なかなかキツイ」
運動だけが一日のやることではない。
計画のため、昼は地方へとスカウトへと赴く羂索。
そこは、年に何度も噴火する火山地帯。
一般人もいないそこに、彼はやって来ていた。
「あ、暑い!だが、これでいい!脂肪が燃焼する!」
「誰だ貴様!」
「私の名前は羂索、新しい世界を見たい呪術師だ。私と手を組み、呪霊による世界を作らないか?」
「失せろ!」
火山の中にいる生まれたての特級呪霊、自然の恐れから生まれた存在と半日戦い、説得の末に仲間にする。
昼、大量の汗の分だけ水を飲む。
「人間とは、恐ろしいほど水を飲むのだな」
「違う!飲んでも飲んでも渇くのだ、この肉体はかなり無理をして手に入れたからねぇ……」
夜、サンドバッグを殴りながら今後のことを考える羂索。
例えば海外の呪術師のスカウトとか、今後の高専の運営、それに伴う根回しと裏工作。
自分が生んだ息子の状態確認と宿儺の指の設置、さらに契約した呪霊の取り込みと多岐にわたる。
「ハァハァ……ハァ!?ここまでして、2キロしか減ってないだと!?」
常人でも心折れそうになりながらも、200kgまで測れる特別製の体重計の前に絶望する。
「まだだ!天元……私は貴様と違い運動したんだ!1日中!食事制限!運動消費の!!ダイエットの1日を!まだだ、まだ1日目だ!」
それは気の遠くなるようなダイエットの日々だった。
「ファミチキ、揚げたてでーす……あっ、えっと、何にしますか?」
「ち、違う!身体が勝手に、すごいなこんなの初めてだ」
「あの……お客様?ファミチキですか?すっごい指さしてますけど」
「違うんだ!財布から金を出すな!あぁ、クソぉ!」
「えっと……つ、次のお客様もおりますので」
謎の怪現象により、ダイエット中に幾度となく肉体の制御を奪われ掛けたりもした。
だが、ようやく一般人並の体型100kg台に突入した羂索は呪霊達と打ち合わせをする。
「来る、10月31日我々はハロウィンパーティーを決行する!場所はパリピの坩堝、渋谷!」
「…………なんて?」
「失礼、本当は渋谷で五条悟を封印する計画があるんだ」
まるで、肉体に魂でも憑依してるのか。
自分が自分じゃなくなるような感覚を味わいながらも計画とダイエットを継続していく。
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え」
「悪いね、残穢を残すわけには行かなくてね……フゥ」
「なぁ、最近太った?」
「…………太ってない」
時に真人の成長と威力偵察のために暗躍したりもした。
ポップコーンを片手に、した。
「宿儺の指と呪胎九相図は回収した」
「やっぱり太ったよね?無為転変する?」
「…………しない」
誘惑を跳ね除け、特級呪物も回収したりした。
全ては、因果の外にいる伏黒甚爾により同化に失敗し、呪霊と化した天元を取り込むためである。
そして、来る10月31日渋谷にて、現代の最強に挑む。
「領域を纏う領域展延。これにより五条悟の術式を中和する。そして、四層からなる結界!真人による改造人間!特級呪霊複数体!止めに獄門疆、開門後半径4メートル以内の位置に対象を一分間留める事で相手の動きを封じ込める事ができる!効果は絶大で一度嵌ってしまうと身体に一切の力を入れられず呪力も断つ!封印条件の一分とは対象者の脳内時間での一分であり、現実での数秒の足止めでいい!この戦い、我々の勝利だ!」
万全の準備で五条悟を倒すべく、戦いを挑むのだった。
しかし、やはり最強。
0.2秒の領域展開、特級呪霊2体の鏖殺、想定を上回る戦いが繰り広げられる。
計画を破綻させることへの怒り、それと同時に湧き上がるのは想定を上回る人間の可能性への歓喜。
「獄門疆が決まらないかもしれない……仕方ない、私が直接出るか」
脳内時間1分、もしものために暗躍していたこの姿を現す。
死んだかつての親友と会えば、動揺は隠せない。
フッ、他愛ない。
私の計画は、完璧なんだ!
「や、悟!」
「誰だてめーは?」
「久しぶ、げらぁ!?」
そこにいたのは、変な前髪の筋肉モリモリのマッチョマン。
誰?コイツらの仲間?刹那、五条悟は殴っていた。
落花の情並みの条件反射で殴っていた。
謎の呪具が獄門疆という生きた人間が結界術を極めた成れの果てなのも見抜いて蹴り飛ばす。
「ガバッ!?が、ぐ、ぎざま……な、なぜ!」
「誰だよお前は……この六眼に映る情報が呪力も肉体も夏油傑だと言っている」
「にゃらば、にゃ、にゃぜぇ!……なんで分かるんだ!」
「だが俺の記憶が!それを否定してんだよ!さっさと答えろ、誰だよお前!」
蘇る三年間の青い春、なお獄門疆はすでにない。
あるのは別の人間の足元。
「なんで分かるんだよ……キショいな」
「だって、デブじゃねぇーじゃん!」
「デブじゃない……だと……」
刹那、よみがえるダイエットの日々。
その奮闘は脳内時間で1分を越える。
「しまったな……」
「じゃあな、終わるまで消えてな」
「認めよう、やはり人間の可能性は素晴らしい!だが、私は諦めない、必ずや封印を解き!呪術全盛の平安の世を築き――」
渋谷事変、完!
高専の一室、酸素呼吸機を付けた男性が目を覚ました。
「……ハッ!?何だ夢か、まさか俺がメロンパン入れになるなんて」