五条悟は気付いた。
自分だけが強くても意味がないことを……救えるのは救われる準備のある奴だけだと。
自分一人が強くなったところで、敵を倒せるだけであって。
それは別に誰かを守れる訳ではないのだと。
一人で強くなるのではなく、周りを強くしていかないといけないと。
「私に話を持ってきたということは、分かっているんだろうね?」
「あぁ、報酬はkg10万だ」
「話が早くて助かるよ」
五条悟は決意した。
必ず、かの暴飲暴食の塊を消さねばならぬと。
悟にはダイエットなど分からぬ、だってマッチョだから。
高校1年生の夏、裏取引が行われた。
高校生になって最初の夏が来た。
今年も毎年のように多忙で、人手不足は上層部の政治ゲームのせいで呪術師が足らないからじゃないか?
アイツら消えたほうがいいんじゃねぇのか?
とか、考えるくらいには多忙だった。
特級だからを理由に北海道から沖縄まで行かされたりする。
なんなら、そこから青森行って長崎に行ってと、回る順番くらい考えろよ非効率だろうが、とかすら思う。
好きで特級になったんじゃねぇんだけど。
そんなことを愚痴っていたら、悟が俺にいい考えがあると言って何処かに行った。
俺は思った、あの時死亡フラグみたいだなとか思うんじゃなくて全力で悟を止めるべきだったと。
「傑、長期休暇もぎ取ってきてやったぞ!」
「は?」
「上層部の奴らもさ、このまま肥満で特級呪術師失いたくないだろって言ったら納得してくれたよ。嫌味は言われたけどな」
「ちょっと待ってくれ、休み?えっ?」
俺は思いがけない言葉に感動した。
サンキュー悟、愛してるぜ!
「で、この人が冥さん。お前のダイエットの先生ね」
「初めまして、夏油傑くん。素晴らしい、胸が踊るね」
「は?」
「やっぱダイエットって言ったら詳しいの女子だろ、冥さんはこう見えて肉体改造詳しいから!」
「ちょっと待ってくれ、ダイエット?えっ?」
俺は思いがけない言葉に絶望した。
ファッキュー悟、大っ嫌いだバーカ!
「ってことで、あとよろしく」
「さぁ、夏油くん。私の指導で金のために痩せてくれ」
「ちょ!?な、なんで運べるんだ!離せ、は……ち、力強っ!?ち、ちくしょーめー!」
逃げようとした俺の襟首を、冥さんが掴む。
そうだった、カラスの人だった。
武器は斧なマッチョの人だった。
つまりゴリラだ、片手で170kgの俺を引きずるだと!?
「安心しろ、俺が変わりに呪霊は祓うからよ」
「いいよ、俺がやるから!」
「だからお前は、安心して脂肪を落とせ」
「違う、そうじゃない!話を聞くんだ!」
何処かに運ばれる俺に向かって、五条と硝子が目元にハンカチを押し当てながらサムズアップしていた。
おい、お前ら嘘だって分かってるからな!
硝子はドナドナなんか歌ってんじゃねぇ、見せもんじゃねぇぞ!
だが、現実は非情である。
俺はどこかに連行された。
ダイエット初日、俺は学校の教室に連行されていた。
グラウンドから引き摺られて、どこに連れてくかと思えば校舎だった。
「さて夏油くん、私は君の体重を減らす代わりに金を貰うことになっている。この意味が分かるかな」
「分かりません」
「つまり、体重が増えたり減ったりすればボーナスということだよ。今の体重から減らした分だけではなく、体重を減らした分だけだからね。勿論、縛りに抵触しない」
「分かんねぇーって言ってんだろ、話聞けよ!ってか縛りまで結んだのかよ!」
ガチじゃねぇーか!
アイツ、俺をガチで痩せさせようとしてる。
「任せたまえよ、私は何時だって金の味方だ、だって金は裏切らないからね。なーに、痩せてからは自由だ。人並みに痩せたら、好きなように過ごしたらいいさ」
「やるしかないのか……それで、教室で何するんですか」
「無論、勉強だよ。正しいダイエットは運動ではなく、座学から始まるからね」
そこから、冥冥によるダイエット講座が始まった。
なお、講座費用は五条家で支払われ済みだそうだ。
この講義、有料なのかよ。
「ダイエットは3つ必要なことがある。1つは代謝、1つは除脂肪、1つは腸内環境だ」
「はぁ……なるほど?」
「まず筋肉だね。筋肉は代謝を上げてエネルギーを求める、増えれば勝手に痩せるって寸法さ。まず筋肉だが、鍛えてから24から48時間しか筋肉の合成はないんだ。ボディビルダーがパーツごとに鍛えるのは負荷や超再生のためというわけさ」
「へぇー」
「ただ鍛えるのでもダメさ。大事なのは単位時間負荷ではなく、総時間負荷。100キロ10回と50キロ20回は同じ負荷になる。つまり、50キロを40回やる方が、100キロ10回より2倍負荷が大きいのさ」
なるほど、質と量の話だな。
負荷の重いトレーニングで質を取るか、軽いトレーニングを回数こなすかって事か。
「まぁ呪術師には関係ないけど」
「えっ?」
「呪力で分解する方が効率的じゃないか。筋肉は、反転術式で増やしてもらえばいい。同級生の才能を利用しない手はないだろ?」
「アイツ、頼るとオッサンみたいだから年確バレねぇよ、ってタバコ買いに行かせられるんですけど……」
クズ二人とか言うが、アイツもクズの部類である。
「あぁ、素敵です。姉様」
「誰!?いつの間に」
「次に脂肪に関してだが」
なんか、ちっこいガキがいるのにナチュラルにスルーして黒板に、化学式みたいなのを書く冥さん。
なんだこれ、マジで授業じゃねぇか。
「えー、このようにタンパク質の最小単位がアミノ酸で、プロテインよりもアミノ酸の方が効率的なのさ。あと、時間当たり吸収率の観点で見ると、1度に取れるのは30グラム程度のタンパク質になる。それ以上は吸収出来ないからね、運動直後に摂取が望まれるのは分解と合成が始まるからであり」
「豚が、ノートも取らないとは……ほら、これを写せ」
「すいません」
なんか生徒が2人増えてた。
あれ、おかしいな科学の授業かなこれ。
「脂肪と言っても、先行研究では3種類が提唱されていて、内臓や皮下脂肪の他に筋肉にある異所性脂肪がある。やってはいけないと呼ばれる空腹によるダイエットも、アレはアレでケトン体を利用しているものなのだが、ケトン体の作用に関しては私は個人的には懐疑的だよ」
「なるほど……分からん」
「あぁ、眼鏡姿の姉様」
先生、授業聞かないで写真撮ってる奴がいます。
お金払い出しました、チェキかな?
「脂肪は遊離脂肪酸という形に分解しないとエネルギーとして使えなくてね、リパーゼという酵素を活性化させ、中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセロールに分解するんだが、これを呪力で応用する」
「現代知識にオカルト混じって頭バグりそう」
「最後に腸内環境だが、痩せやすい肉体作りに必要なのだが、まぁ今度にしようか。さて、早速やってもらいたいことは断食だ」
「断……食……!?」
そして始まるダイエット。
7日間の謎ドリンクしか飲めない断食、いらない細胞をトリコで見たオートファジーで捕食して作り変える。
そこから健康食品ばかり食べて腸内の細菌を増やす。
なんか培養液で増やしたとかいうのを自分の呪力で強化して取り込まされた、胃酸に強いらしい。
更に、岩盤浴とサウナで内側の深部体温と外側の体温を上げて、体質改善。
汗の種類が違うというが、違いは分からない。
「経費で落ちるから好きなだけ食べるといい。アミノ酸だけ取れとは私は言わないよ、A5肉は美味しいねぇ」
「うおぉぉぉ!俺は人間火力発電所ォォォ!」
「うるさいぞー、んまー」
呪力で脂肪と筋肉を分解、体内に入るなり消化吸収能力を呪力で強化、分解して出来た脂肪酸とやらを使って通常よりも心臓とか血の巡りを強化して早く動かすのに使用、超高速で吸収したタンパク質を元に筋肉の増強、これを反転術式と並行して行う。
「よく、漫画などでパワーアップする描写があるけどね。結局、痩せてるのはエネルギー消費の過程だから材料もなしに筋肉の増量なんて出来るはずないんだよ」
「こ、呼吸がしやすくなっていく!これが、波紋のエネルギー!」
「脂肪がなくなって、呼吸しやすくなっただけでしょ。知らんけど……マッコリ下さい」
おい、お前学生なんだから酒はやめろ!カルピスみたいなもんって、全然違うだろうが!
「人の金で食う焼き肉うめぇー」
「経費で落ちるからね、水も取りたまえよ。水の分痩せたら、請求書に計上するからね。水分がないと血流が足らなくなるよ」
「代謝が落ちるんですよね、座学で学びましたよ」
そして……夏油傑は筋肉モリモリのマッチョマンになった。
「や、悟!」
「……お前……傑か?」
「久しいね、悟。元気にしていたかい?」
「誰だテメーは!俺の六眼がお前を夏油傑だと言っている!だが、俺の記憶が否定してんだよ!」
「何で分かんねぇんだよ、キショいな!オラァ!」
せっかく痩せたのに全否定されたので、冥さん直伝の体術で殴りかかった!
あの人な、金のためならな、人間をとことん追い詰めるんだぞ!
善くもやりやがって!一発殴らせろ!