ボールの跳ねる音がする。
互いに隙を探りながらバウンドするボールを狙う。
「あっ」
「しゃあ、おりゃ!」
「おっ……はい、外した」
「クッソ~、攻守交代な」
目の前で半回転して抜いていった悟がジャンプしながらシュートを決める。
まぁ、そんなシュートも不安定だった為にゴールリングから外れて落ちた。
「ねぇ、続きないの?」
「うん?あぁ、スラムダンクの続きは寮だね」
「なんだよ、使えねぇなぁ~」
体育館の隅っこで、人の漫画を寝転びながら読んでた硝子から文句が飛んでくる。
まったく、図々しい奴だ。
そんなことを思っていたら、バスケをしていた俺達のいる体育館、そのドアが勢いよく開けられた。
「ここにいたか、いつまで遊んでる」
「何ですか先生」
「俺達になんか用?」
「お前達に任務だ」
その言葉を聞いたとき、俺は遂に来たかと確信した。
俺達に任務を告げたのは夜蛾先生だ。
夜蛾先生が、俺達を見て眉間の皺を指で伸ばしながら言う。
「正直、荷が重いとは思うが天元様のご指名だ」
いいから来い、と先生はそう言って俺達を教室へと連れ出そうとした。後を追う俺達に、先生は歩きながら任務を説明し始めた。
「星漿体……天元様との適合者、その少女の護衛と抹消だ」
「ガキンチョの護衛と抹消ぉ?ついにボケたか……」
「荷が重いと思うなら、もっと術師を増やして欲しいですねぇ」
俺はそう言いながら先生を睨みつける。
早い話、俺は事前に手を打っていた。
打っていたが、やはりこうなってしまったか。
「先生、俺は言いましたよね。天元様の術式の初期化に関して警戒するように」
「備えていたが、起きてしまった……という訳だ」
「天元様の初期化ってアレだろ、メタルグレイモンになる分にはいいけどスカルグレイモンは困るからコロモンからやり直すって、アレ」
「傑、お前説明するって何て説明したんだ?アホみたいな回答が返ってきたぞ」
俺は悪くない、原作のように事前にちゃんと説明した。
原作のように理解されただけだ。教室に着くと、夜蛾先生はノートパソコンを開いた。
「その星漿体の少女の所在が漏れてしまった。今、少女の命を狙っている輩は大きく分けて2つ」
そう言って先生はパソコンのデータを出してくる。
そこには星漿体の少女、天内理子を狙っている存在の資料が載っていた。
「天元様の暴走により現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団Q!」
「なんでコイツら、同じ格好なの?つか、ポーズ取ってるしぃ」
「自己顕示欲の強い馬鹿集団かな」
バチン!と大きな音を立てて違う画像を表示される。
無駄口を叩くなと、キーボードを叩く音で言われているようだった。
「天元様を信仰、崇拝する宗教団体。盤星教、時の器の会!」
「カルトだろ、呪術規定違反してんじゃねぇーの?」
「ちゃんと、私の言った通り調べてくれてます?」
悟の言葉はもっともだ、少なくとも天元様を知る時点で呪術界に関わっているからだ。
そしてもう1つ、俺は事前に先生を通して上層部に要望を出していた。
「あぁ、傑の話を元に調べはした。だが、上層部は少なくとも呪詛師との繋がりはないと断定した。こちらでも裏サイトとやらを探ろうとしたが、見つからないことから杞憂だろう」
「そうですか……やはり」
そう、それは事前に伏黒甚爾への依頼の取り消しだ。
だが、事前のタレコミも無能な上層部は一蹴して聞いてもいない。
いや、禪院家が関わるかもしれないから揉み消しが有力か。
個人で先生が調べてくれたが、それもダメ。
やはり、原作で決まったことは変えられないのか。
そんなはずはない、俺は太った。
俺自身が原作を変えられると証明している。
そう、そんなはずはないんだ。
「天元様との同化は2日後の満月。それまで少女を護衛し、天元様の元まで送り届けるのだ」
「ガキを犠牲にしなきゃ維持できない世界なんか滅んだほうがいいだろ、テイルズから何を学んでるんだよ」
「うるさい!失敗すればその影響は一般社会にまで及ぶ、心してかかれ!」
「先生の年齢じゃ、クロノトリガーだろ」
気乗りしない任務が始まった。
言われた場所に向かって、俺達は移動する。
俺は空飛ぶエイの呪霊に乗って、悟は自分の前方に術式による蒼を出しての移動だ。
ちなみに、俺は呪霊の上で結界を張っている。
効果は俺本体を中心に球体を構築し、姿を隠ぺいするそれだけの結界だ。
動く帳みたいなものだ、呪霊の炙り出しがないだけ。
「傑、お前の言ったとおりになったな」
「六眼と星漿体は因果で出会うことが決まっている。勉強は大事って話さ」
「運命の女ってか、なら今から向かうのはペテルブルグか?」
「ドストエフスキーかい?そうだったら、行く当てもない荒野を彷徨うことはなさそうだ」
「マノンより、俺はマタハリのほうがいいね。どうせなら」
「おいおい、見えすぎる悟じゃ一目惚れしちまうだろ」
くだらないジョークを飛ばしながら、これからの話をする。
いや、今までしたいつかの話だ。
「お前は、そのガキと天元の同化はさせないつもりなんだろ」
「それほど重要な任務なのに、私達が2人しか派遣されない。間違いなく、ダミーだよ」
「でも、本物なんだろ」
「本物さ。だが、2人目がいないとは言ってない」
俺は、本当のことを隠して言う。
本当はダミーだなんて真っ赤なウソ。
ただ、俺が運命に抗いたいだけなのだ。
悟には天元様の同化が、初期化の周期が来るという話をした。
話の出所は学校の図書室とか御三家の書庫とでもでっち上げたのだが、いい感じに騙せた。
だって悟の家に昔の記録があったから、話は意外と信じられたのだ。
「呪詛師集団に情報を流したのは上層部か?」
「あんな目立つ奴ら、残す意味がない。間違いなく騒ぎを起こさせ、注目させるための餌だろう」
「そんで盤星教ね。そいつらはなんでまた、殺したがるんだ?」
「純粋な天元様を信仰してるからね、混ざりものが許せないんだよ」
「まぁ、傑の予想通り金を積んで呪詛師を雇うよな。で、一番ヤバいのが」
「術師殺し伏黒甚爾、旧姓は禪院甚爾、天与呪縛の筋肉モンスターだよ」
そして、別働隊が本命の生贄を運んでいるがカバーストーリーだ。
実際がどうかは関係ない。
大事なのは、天内理子が死ぬという運命の回避。
警戒した悟が伏黒甚爾と戦って時間稼ぎしている間に、天内理子を気絶させて天元と同化させる。
そうすれば天元の呪霊化を防げて、俺はメロンパンに狙われない。
「今更だろ、天元の同化なんて過去にも行われてるのに」
「そうだな、今更だ」
今更になって、死ぬ予定を覆そうとする計画に犠牲を強いることを躊躇している自分がいる。
漫画のような世界だと思っていたのに、漫画であった世界になったからだ。
俺は会ったこともない天内理子という存在を、一人の人間として見ている。
もし、彼女が生きたいと言った時に俺は犠牲を強いることが出来るのだろうか。
「なぁ、あのホテルか?」
「あぁ、残穢を嫌って爆弾でも仕掛けてるんじゃないかと予想してるよ」
「術師が現代兵器ね、ハイカラじゃん」
「悟、ハイカラは死語だよ」
悟と別れるようにして、呪霊をホテルへと向かうように移動する。
部屋は確か上の階層、窓から侵入して移動する。
俺がそんな計画を立てていたら、轟音と衝撃、そして間抜けな悟の声が横から聞こえた。
「あっ」
「クソが!一足遅かったか!」
「傑、素が出てるぞ。これで死んだら俺らのせい?」
ホテルが、目の前で爆破された。
あぁ、畜生!爆破は絶対起きるし、俺が彼女を助けるのも運命だっていうのか。
「すげーな、爆発したのに無傷だぞ」
「無意識に呪力で身を守ったんだろう。それぐらいは出来るだけの呪力はあるってことだろ」
俺は、少女を救うべく急いで呪霊を向かわせる。
そして、落ちてる彼女を捕まえた。
本当に小さな女の子だった。
だが俺に破滅をもたらす、六眼との運命の女。
この子が星漿体……。
「その制服、高専の術師だな。ガキを渡せ、殺すぞ」
「誰でもいい気分なんだ……舐めたこと言ってると殺すぞ、猿が」