「昔、なんの映画か忘れたんだけどスタンドライトで拷問しようとしたものがあったんだ。今みたいに、スタンドのケーブルを引き抜いて、こうやって配線をむき出しにしたあとにコンセントを付けるんだ」
剥き出しの配線、配線同士をぶつけると火花が散った。
「まぁ、聞いた話によると人間は抵抗値があるから感電死しないし、延々と激痛になるらしいんだけど」
「止せ!分かった!儂の携帯からサイトに飛べる、メールを開け!」
「なるほど、知り合いから来るメールで匿名URLを共有しているのか……よし、俺の携帯でもサイトにアクセス出来たな。種が分かれば簡単な仕組みだった」
ネットにあるのにURLを知る奴しか入れないような仕組みになってた訳だ。
いや、ネットのことなんて分からんがこんな簡単なの高専じゃ調べられなかったのか?ハッキングとか、そういうのは発展途上ということかな。
「もう降伏する!そうじゃ、もう一人ここに来るのを知っておる!ソイツの術式も教えるぞ!悪い話ではあるまい」
「紙袋の男だろ、俺の親友が相手する予定だ。じゃあな」
片方の配線を鼻に突き刺す。
「ぐぁぁぁ!?おい、何故刺した!やめろ、それを近付けるな!約束が違う」
「教えろしか言ってねぇだろ」
「よせ!いぎゃぁぁぁ!?」
眼球にもう片方の配線を突き刺すと同時に、呪詛師が痙攣する。
仮に死んでも、呪術規定に違反するかな?
「なんだ、死ぬのか……食べていいぞ」
死なないと聞いてたのに、残念だな。
携帯をポケットから取り出し、数少ない友人の欄から悟に連絡した。
「もしもし、悟」
『何、何か分かったか』
「理子ちゃんに3000万の賞金が掛けられてる。明後日の11時だ」
『天内の首に3000万だって』
窓から外を見れば、黒井さんが紙袋の男をボコボコにしている。
呪術界のことを知ってるし、元呪術師だったりするのかな。
ふむ、俺がいなくても分身を解除するのは一緒か。
「式神!?」
「いや、式神とは違う。悟、そっちに紙袋の男が行っただろ」
『あぁ、いい術式持ってんのに勿体ねぇ』
後は悟が何とかするだろう。
さて、物語ならこのまま黒井さんを置いていくのだが、原作を変えられるか試してみよう。
「万が一のことがあります。夏油様のほうが早い。先にお嬢様のところへ!」
「万が一などというものは私達にありません。それに、黒井さんが人質にされる可能性もあるなら、置いていけません」
「非術師などに遅れを取ることなどありません!」
「私は非術師ではなく呪詛師を警戒している」
一瞬で誘拐を実行できる相手、そんなことが出来る相手は一人しか想定出来ない。
誘拐されるのは戦闘が終わった頃、それほどの時間は経っていないはずだ。
つまり、既にコチラを監視している。
「見ているんだろ、呪詛師」
「…………」
「夏油様?一体、何を……」
馬鹿な、近くにいないのか?
黒井さんを誘拐したのは、伏黒甚爾ではないのか?
いや、そんなはずは……あ、あれは!?
「ぐっ!?」
「夏油様!?あっ……」
黒い何かが見えた。
見えただけだ、全力で呪力による強化と防御をしてもなお、動きは見きれない。
強烈な腹痛だけが、理解出来た物だった。
誰かが、身体を揺すっていた。
「……い!傑!起きろ、大丈夫か!」
「あぁ……だ、大丈夫だ」
何時間……いや、何分だ。
骨折はしていないが、打ち身はしているか。
殴られた?いや、蹴られた?どちらにせよ、攻撃はされたか。
「夏油!黒井が!」
「すまない、私のせいだ」
「そうか?お前を気絶させるなんて、相当な奴だろ。言ってた術師殺しって奴?」
「咄嗟に呪力で守ったが、このザマさ。すごい速さだった」
やはり、アレには抵抗出来ないかもな。
それに、黒井さんは誘拐された。
また、変えられなかった。
「相手は次に人質交換的な交渉をしてくるだろ」
「目的は、私達から理子ちゃんを離れさせることだ。悟は理子ちゃんを高専で匿うつもりだろ?」
「何か不味いのか?」
「呪力が一切なかった。恐らく、高専の中にいた場合には気付ける者はいないだろ」
連れてってもいいが、その場合は出し抜かれることだろう。
寧ろ、奴がいないと言い切れる沖縄なら、まだやりようはある。
「それに、まだお別れも言っていないからね」
「ロリコンかよ、お前天内に甘すぎ」
「それとも、守り切れる自信はないかい?」
そう言って煽れば、悟は面白いのように反応してくる。
「チッ、分かったよ!いいか、天内を連れていくことで少しでも黒井さんの生存率が下がるようなら、やっぱりお前は置いて行く」
「分かった。それでいい……」
「逆に言えば……途中でビビって帰りたくなってもシカトするからな。覚悟しとけ」
そして、俺達の戦いはこれから始まるのだった。
海。
そこは、沖縄の海だった。
そこに、アロハシャツの男と水着に麦わら帽子の女がいた。
「めん!」
「そーれ!」
天内理子と五条悟である!
チケットを買って沖縄まで移動したら、相手が持ってるであろう黒井さんの携帯のGPSを利用して居場所を特定した。
まぁ、語るまでもない瞬殺で終わった。
そして、海ではしゃぐ悟達を黒井さんと俺は見ていた。
「非術師に遅れを取るなど……」
「アレを同じ括りにするのはどうかな、あんなのはゴリラだ」
「一瞬のことで、私には何が何やら」
恥じているところ悪いが、どうしようもないだろアレ。
気を落とさないように慰めていると、ナマコ片手に理子ちゃん達が海から上がってくる。
「黒井!夏油!焼きそばじゃ!海と言えば焼きそばらしい!」
「傑、ソーキそば喰おうぜ!」
はっちゃけてるなぁ……理子ちゃんに関しては悟の入れ知恵だろうか。
任せろ、私ほどグルメな男はいない。
元デブが言ってるんだ、間違いない。
「それから花畑も行くぞ!」
「あぁ」
「あと水族館じゃ!美ら海水族館は有名なんじゃぞ」
「そう……だね……」
理子ちゃんが笑顔で此方に報告してくる。
罪悪感……それは、俺の力不足が原因だ。
闇サイトに関しては夜蛾先生に報告した、先生も動こうとしていたが結局は証拠不足。
上層部の判断は変わらず、盤星教は無害認定されている。
それが原因で天元との同化は危ういと何故分からない。
「傑、日差しにやられたか?」
「大丈夫さ。それより、悟ずっと寝てないだろ」
「分かってるよ、襲ってくるのは高専だろ。仮眠はしてるし、今日の夜は絶対寝るさ」
「あぁ、常に緊張させるのがあっちの狙い。そして術式中和の呪具も」
「術式が効かないなんて、お前で慣れてる。心配はいらねぇよ」
俺はその言葉をまだ疑っていた。
確かに仮眠は取っていたが、今日寝るかは原作通りになるかもしれないから疑っている。
本当に、寝るんだろうか。
夜、ホテルの一室で悟がベッドの上で寝ていた。
「……傑、どうしてデブに」
「なんの夢だよ、マジで寝てんじゃん」
あれぇ?思わぬところで原作と違うぞ。
今まであんなに失敗したのに、何なんだ。
なんだか疲れた思い悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
寝室を抜け出し、冷蔵庫にあるであろうビールを取り出す。
カシュッと小気味よい音を出すそれを飲みながら、バルコニーから夜空を見た。
沖縄の夜空は随分と綺麗だった。
「未成年の飲酒は関心せんな」
「理子ちゃん」
「そこは誰だ!とかではないのか」
「まぁね、寝れないのかい?ホットミルクでも用意しようか」
「子供扱いするでない!まったく、大人の真似事をしても大人にはなれんのだぞ」
いや、これは、まぁそういうことにしとくか。
理子ちゃんはこっちの気持ちを、知ってか知らずかバルコニーの方にやってくる。
そのまま俺と同じように、夜空を見る。
「夏油、貴様なにか思い悩んでいるな。この大人のレディたる妾が聞いてやらんこともないぞ」
「悩みなんて……」
「ふん、そんな顔で説得力ないぞ。どうせ、妾のことで悩んでいたのだろう」
理子ちゃんはそう言って、つまらなさそうにする。
まぁ半分正解、どちらかというと自分のことだ。
「例えば自分が死ぬ運命だとして、誰かを犠牲にすると助かるとする。理子ちゃんならどうする」
「馬鹿だな、そんなの死ぬに決まってる。誰かを犠牲にしたら、きっとずっと後悔する」
「そうか……そうだよな」
「ハァ……星漿体として特別であった時から、そんなことはずっと考えている」
「君の場合、死なんて生温い物じゃない。天元に身体を奪われ、ずっと意識だけは生きている。生き地獄だよ、そんなの」
メロンパンに体を奪われ、意識はどこにあるのだろうか。
それは生き続けるのではないだろうか、次の肉体に移るまで。
それはまるで、理子ちゃんはとても境遇が似ている。
「夏油、それでも私は同化するよ」
「何故、今なら海外に逃げられる。悟とも相談してある」
「でも、それは夏油達が困るだろ?」
理子ちゃんが俺の提案に、そう返してくる。
「初めてだった。こんな風にやりたいことが出来たなんて……それこそ同化が嫌になるくらい幸せだった」
「じゃあ」
「だから!だから、知らない誰かより……黒井や夏油や悟のためなら、友達とか近所の人とか、そういう身近な人の為なら悔いはない!もう、妾がそう決めた」
理子ちゃんが俺を見て言う。
「だが……」
「まったく、仕方ないやつじゃ」
理子ちゃんの身体が、不意に目の前に近づいてくる。
いつの間にか俺は、彼女に抱きしめられていた。
「妾の意識があるというなら、ずっとお前達を見守ってやる」
「自己犠牲の果てに救いなんて」
「犠牲ではない……妾はお前たちの未来の礎となるのだ。だから約束しろ、妾の事でもう思い悩むな」
「君は……」
「ふん、黒井達には内緒だからな!妾はもう、寝る!夏油もさっさと寝ろ!」