死ぬ予定の夏油傑になった凡人   作:nyasu

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ひょっとして、五条悟が死なないと思ってたから同化失敗したんじゃね?

都立 呪術高専 筵山麓 護衛3日目 15:00

 

赤い鳥居が幾重にも立つ、長い階段を登っていくと高専結界へと入ることが出来る。

全てはこの日のため、理子ちゃんと天元の同化のために強くなってきた。

 

「悟」

「あぁ」

「ふぅ……これで一安心じゃな」

 

階段を登り終えた俺達は、周囲を警戒する。

俺は知っている、奴が襲撃するのは結界に入ってからだと。

 

「ハァ……二度とゴメンだ、ガキのお守りは」

「あぁ?」

 

轟音、ただ音しか聞こえない高速での移動。

俺達が油断したであろうタイミングでの襲撃。

 

「馬鹿な!」

「見えてんだよ、術師殺し!」

 

しかし、一瞬術式を解除したのは悟のブラフ。

誘い出すための罠、まんまと引っ掛かった伏黒甚爾と悟の間には隔絶した空間が広がる。

ニュートラルの無下限が攻撃を届けさせない。

 

「悟!」

「問題ねぇ!ベストコンディション、負ける気がしねぇ!」

「やるじゃねぇか、ナマッたかな?」

 

悟と伏黒甚爾が睨み合う。

俺が援護しようと動こうとすると、それを見た悟が口を開く。

 

「傑、天内優先!行け!」

「あぁ……任せたぞ」

「誰に言ってる、俺は最強だぞ!」

 

今度は見えた。

今回の悟は、五条悟と違う。

しっかり睡眠を取り、俺の知ってる情報もある。

五条悟は負けて最強に至ったが、悟は違う。

本当に勝てるのか……原作を変えれるのか?

 

「夏油……」

「何してる!早く行けって!」

「行こう……こっちだ」

 

理子ちゃんを抱えて、呪力で肉体を強化する。

そして踵を返し、俺達は薨星宮に向かっていく。

向かうのは薨星宮へと続く専用のエレベーター。

エレベーターの出口まで、それが黒井さんと我々の取り決めだった。

襲撃が予想されることから逃げれるように、エレベーターには乗らないことにしたのだ。

お別れも済ましているが、理子ちゃんの目には涙が浮かんでいる。

 

「時間が惜しい、夏油頼む」

「お嬢様……」

 

此方を名残惜しそうにする黒井さんと、それを一切見ないように俺の胸に顔を埋める理子ちゃん。

原作とは違う、だが変えちゃいけない事もある。

 

「ダメだ、やはり最後のお別れをしよう。大丈夫、私も最強なんだ」

「夏油……」

 

そっと理子ちゃんを降ろすと、そこからは示し合わせたかのようにお互い駆け寄る。

お互いに駆け寄り、抱き締め、別れを惜しんでいた。

今、悟は戦っている。

万が一負ければ、今度は俺だ。

もう油断しないし、不意打ちにも対応してみせる。

 

「黒井……今までありがとう」

「お嬢様、ご武運を……」

「うん……行こう、天元様の所へ」

 

そう言ってエレベーターに乗った理子ちゃんの後を追う。

俺は原作の夏油のように油断しない。

悠長に薨星宮の解説もしないし、事前に罠だって張る。

 

「出てこい」

「何をしておるのじゃ、夏油!」

「悟が死んだ時の保険だよ」

 

だから、使えもしない雑魚呪霊である蝿頭をエレベーターの昇降路に敷き詰める。

恐らく奴は落ちてくるだろうが、空中戦を強いることで多少は体力を削れるはずだ。

 

「もうすぐ薨星宮だ、そこまで行けば天元が守ってくれる」

「五条は大丈夫なのか?」

「あぁ、私達が最強なんじゃない。最強が私達なんだ」

 

二人で最強じゃない、最強の二人なんだ。

俺だって、死なないために足掻いてきた。

最強だという自負だってもってる、まぁ悟にはそろそろ勝てなさそうだけどな。

 

「……理子ちゃん」

「夏油?」

「もう来てる、走れ!」

 

エレベーターが地下に着いた途端、バラ撒いていた呪霊の消失反応が発生する。

馬鹿な、想定よりも早すぎる。

原作なら着いてから喋ってる余裕すらあった。

 

「術式順転、展!」

 

薨星宮の一部が一時的に黒く染まる。

俺を中心に、沼地のように黒い呪力が溢れ出す。

そして、その沼地からは絶えず呪霊が出てくる。

それはまるで、百鬼夜行だ。

 

「はいお疲れ」

「来たか」

「おいおい、動揺もしないとは薄情だね」

 

悟がどういった戦いをしたかは分からない。

だが、奴が来たということは原作のように戦ったということだろう。

 

「夏油!」

「行くんだ、理子ちゃん」

 

理子ちゃんを背後に、伏黒甚爾と相対する。

時間を稼ぎ、彼女を天元の下まで行かせるのが俺の勝利条件。

 

「私の術式は呪霊操術。階級差2級以下の呪霊を無条件で調伏出来る。呪霊自身の呪力で呪霊の術式を発動できる」

「術式開示か、お前が俺のことを教えたんだろ?学校でも呪霊を出さないとは用心深い奴だ」

 

いや、別にそんなつもりはなかったし、出すまもなくやられたんだが。

しかし、そんなことも知らずペラペラと奴は話し続ける。

 

「だが、俺のことを教えたのは悪手だったな。五条悟は常に無下限を発動していた。それに極度の警戒、お前俺の呪具を教えてたな」

「まさか」

「連続で術式を使わせた。脳が焼き切れるからな、恵まれた奴らは苦労が多いな」

「黙れ、もういい」

 

そうか、ハイになってるのか。

自分が持ってない術式、それも最高峰の才能を持つ奴を倒したから。

 

「コンプレックスの塊が、死ね!」

「お前がな!」

 

出し終えた入口を一度しまう、俺の前には呪霊の群があり、それが命令一つで突撃する。

殺到する呪霊、等級は低いが目的は直接攻撃じゃない。

呪力による過剰強化を用いた呪霊爆弾。

 

「術式順転、爆!」

「チッ」

 

攻撃は同時だった。

駆ける術師殺し、奴が踏み込み接近する。

その周囲には人混みのように壁となる呪霊が足止めし、追加で黒い地面から湧き上がった呪霊が内側から破裂するようにして爆発する。

決定打にはならないが、その爆発による熱や衝撃、そしてぶつかる肉片が奴の肉体にぶつかっていく。

 

「死ね」

「何で無傷なんだよ」

「何ッ!?」

 

呪霊の紫の血飛沫が飛び交う中、全身を紫の血塗れにした奴が拳を振るった状態で静止する。

だが、その拳は俺の肉体に届く直前で静止していたのだ。

 

「術式順転、展!」

「何かしたな?」

 

再び俺を中心に広がる呪力、黒い沼地のような呪霊の入口が薨星宮に展開される。それを見て奴は後ろに飛んで距離をあける。

常時発動は呪力の消費が激しいが仕方ない。

 

「踏み込んだら沈むな」

「なんで見えないのに分かんだよ」

「それ以外が見えてんだ、なら見えない物も見えてるみたいなもんだろ。問題は、俺の拳が阻まれたことだ」

 

そう言って、持っていた刀剣を地面に叩きつける。

掘削機を当てたように飛び散る地面、一部の砂利が呪力を展開した沼地に沈んでいく。

 

「やはりな」

 

奴からはどう見えてるのか分からないが、何かを確信したな。

 

「だが、俺とお前の勝利条件は違う」

 

伏黒甚爾が動く、地面を蹴って、壁を蹴って、建造物を足場に高速移動する。だが奴の動きを、今度は捉えている。

一度目とは違い、何処から来るかも分かるし、呪力で強化しているからだ。

薨星宮の建物を蹴って、縦横無尽に動き撹乱してくる。

 

「お前は足止め、俺は星漿体の殺害。悪いが付き合ってられん」

「いいや、逃がさないさ」

 

二体目の呪霊による結界術を発動すべく、離れた場所に呼び出し対応する。

だが、その呪霊が弾け飛ぶ。

 

「何!?」

「目線、心拍音、筋肉の動き、お前の身体から発せられる情報が何かに指示しているのを教えてくれている。まさかと思ったが、呪力のない物を通さない結界か。人を物扱いとは天与呪縛のこと、俺より知ってるじゃねぇか」

 

弾け飛んだ呪霊を思わず見れば、そこには数打ちのナイフのような呪具が呪霊のいた所に刺さっていた。

種を明かせば、奴の言う通り俺は嘱託式の結界術を利用した。

一定呪力のある物を通さない代わりに呪力の含まない物を通す、聖域。

それとは逆、呪力のない物を通さない代わりに呪力のある物を通す結界、強度を確保するために核となる基を破壊されたら使用者が死亡する縛りを設けている。

まぁ、自分で使う場合は設けないが今回は呪霊にやらせる場合なので別だ。

 

「あと1体、テメェの近くにいるな。タネが分かれば呪具を使えばいい」

「そうか、さっきの地面を攻撃した際に確認したか」

「さぁ、俺を止めれるなら止めてみろ」

 

俺を無視して、奴が理子ちゃんを追い掛けるらしい。

だが、それはブラフで蝿頭をチャフに悟を殺していた気がする。

今は薄れていても、原作の記憶として覚えている。

どうする、本当に追い掛けるのか、それともブラフか。

 

「じゃあな!」

「理子ちゃん!結界術、禁足!」

 

宣言通り、奴が動き出す。

呪霊を呼び出し、命令するには時間がない。

だから自分で発動する。

命を賭けた縛りがない分、強度は劣るが足止めにはなる。

 

「ぐッ……ハァハァ……」

「馬鹿が」

 

腹に、呪具が突き刺さっていた。

動けない縛りのせいで隙を晒した。

 

「誰かを尊ぶ生き方を選んじまった時点で、テメェの負けだ」

「お前がな……術式順転・黑」

 

分解して行使していた順転のプロセスを分解せずに本来の形で使う。

死体となった呪霊から呪力を集め、武器の格納呪霊に停止命令を与え(当然、野良呪霊と同じなので一瞬だけ)、頭上に巨大なゲートを開き、暴発するほどのありったけの呪力を供給し、手持ちの呪霊を間に合うだけ展開しようとする。

 

「チッ、寝てろ!」

 

奴の攻撃がこちらに迫る。

中途半端な量だが仕方ない。

出現する位置座標を重ねて、束にして、ありったけの呪力で強化する。

 

頭上には、肉団子のような巨大な呪霊が黒い光を孕みながら落ちてくる。

拡張術式、無常で生み出した巨大な呪霊だ。

 

「拡張術式……ガッ!?」

 

……意識が……自爆さえさせれば……

 

「面倒な置き土産しやがって……見殺しにしてぇが、親に恵まれたな」

 

動け……俺が死ねれば……呪霊が……

 

「だが、恵まれたお前らが俺のような呪力のない猿に負けたんだ」

 

畜生……猿は、嫌いだ……

 

「長生きしたきゃ覚えてな」

 

最後に見たのは、落ちてくる巨大呪霊に向かって、呪具を片手に飛び掛かった伏黒甚爾の姿だった。

 

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