都立 呪術高専 筵山麓 護衛3日目 15:10
「アンタ、禪院の人間なんだって?」
「あの家は棄てた、今は伏黒だ」
「棄てられたの間違いでしょ」
奇襲を防いだ五条の前に、伏黒甚爾が相対する。
持っている刀は二つ、術式を知っているということは無策とは思えねぇ。
さっき俺を刺した刀とは違う。
「俺は呪力が0になる代わりに、身体能力や五感が強化されている。そして、体内領域まで構造物と同じ扱いになるため透明人間扱いで結界すら素通りできる。そして俺は武器庫呪霊を飼っていてな、それを飲み込むことで呪具を持ち込める」
「知ってるよ、天与呪縛の術式開示か。能力の底上げなんて、奇襲できなくてビビってんの?」
「焦んなよ、六眼相手の奇襲は透明なままじゃないと意味ないからな。呪具を使わない理由もなくなった。これから説明してやるよ」
向こうの勝利条件は天内の殺害か逃走。
こちらの勝利条件は無力化か時間稼ぎによる他の術師の増援。
だが、隠す結界である薨星宮は外から気付かれるのは難しいだろ、それこそ未登録の呪力を感知するくらいじゃないと日々入り口を変えられる薨星宮の性質上、場所も分からない。
「ここから先は、心を折る戦い。俺は今から2つの手段で攻撃する、選びな」
「なんだそれ、ゲンスルー戦かよ。さては、ジャンプ読んでんな」
「釈魂刀、あらゆる物の硬度を無視して魂を切り裂くことができる能力。天逆鉾、発動中の術式を強制解除する能力だ。これからお前を絶えず攻撃する、術式は無効化し、呪力の強化は硬度を無視して斬り伏せる」
戦う気か、なら天内を気にせず意識はこっちに向いてるってところか。
さっきのは奇襲用、あれなら呪力強化で防げるが硬度無効は呪力で強化された呪霊の皮膚すら斬れそうだ。
無下限で壁を作っても術式の強制解除されたら、防げない何でも斬れる刀で攻撃って訳だ。
勝ち筋は、遠距離から順転ですりつぶす。
「星漿体は後で殺す、お前を生かしてる方がリスクだろうからな」
「そうかい、なッ!?」
速い……!それに呪力が全くないから気配が読みづらい。
どこに消えた、林か!奴め、林の中を高速で移動している。
「…………」
背後、呪具の異質な呪力が近づいてくる。
そこか!術式順転・蒼!
「…………」
蒼が炸裂したが、強制的に解除された。
なるほど、だが引き寄せた大気や発生した衝撃はそのままって訳だ。
吹き飛んでいき、奴はそのまま仏閣へとぶつかっていく。
「残念、近寄らせねぇよ!」
「いいんだぜ、俺はこのまま星漿体を殺しに行っても」
「逃げんのかよ、術式持ってねぇと戦えないのか?」
「そっちこそ常時無下限張ってねぇと、戦えねぇか?」
野郎、建物の中から奇襲するつもりか。
だが、勘頼りではなく奴の呪具を追跡すれば位置は分かる。
邪魔なら吹っ飛ばせばいい。
「強がるなよ、術式への負荷は焼き切れを起こす。後、何回順転を使えばお前は焼き切れるかな?」
「ちくちくチキン戦法かよ、弱い奴は大変だね」
「俺は弱い猿だからよ、恵まれた術師様には工夫を凝らすんだよ」
それにしても……速すぎんだろ!
「術式順転・蒼!最大出力!」
遮蔽物を踏み台にさせず、広い視界を確保し、そして障害物を巻き込み攻撃するために周囲にバラ撒く。
たとえ強制解除しようとも物体に働く慣性は無効化できないのは確認した。
魔法カードを破壊しても、効果は無効化されないみたいなもんだろ。
呪力消費もロスは限りなく少ない、すべて薙ぎ払っても問題ない。
自分を中心に地面から何まで抉る。
そこにいるであろう仏閣も、何もかも巻き込んで破壊した。
さぁ、これで隠れも出来ないし、解除されても武器になる廃材だらけだ。
「なッ!?」
そこに見えたのは大量の蠅頭。
近づけないように無下限で防御する。
クソ、チャフみたいに使って呪具の呪力を追わせないつもりか。
あの呪霊の中に飼っていたのか、アイツの位置が分からん。
死角も出来た、だがそんなの無駄だ。
「蒼!」
「甘いな」
術式順転・蒼を用いて薙ぎ払おうとした瞬間、頭上から攻撃が来る。
新しい呪具、鎖のついた物だ。
こいつ、新しい呪具を……どちらか一方の末端が観測されない限り何処までも無限に鎖が伸びる効果を持つ伸縮自在の鎖、そして天逆鉾!
「チッ、そこかぁ!」
「おっと」
順転で引き寄せた地面の土を壁に、天逆鉾を弾く。
クソ、蠅頭にまた身を隠して遠距離から攻撃かよ。
天逆鉾がダメでも、鎖のほうなら術式が通る。
「後、何回だ?」
「くっ!?」
近くにいる、だが見えている。
この近距離で順転を当てれば……避けられた!?
刀剣が届くほどの近距離、だがそれでも放った無下限が避けられるのか。
この近距離で最大出力は自分も巻き込んでしまう、よく知ってるじゃねえか順転の弱点。
地面が崩れる、奴は地面を切り裂いて此方の体勢を崩しにきたのだ。
「さすがにドラえもんじゃねぇんだ、ずっと浮いてる訳じゃねぇだろ」
「なんでドラえもん知ってんだよ」
術式順転を背後に展開、引き寄せを使って距離を開ける。
対象、俺に限定した。
「逃げんなよ」
「鎖!?」
林の間を鎖が通っていた。
だが、俺と鎖の間には無下限により無限があるから到達されない。
いや、違う!関係ないのか!
鎖が体に巻き付いてくる。
当然、それは拘束できず抜け出せるスペースがある。
しかし、雁字搦めにされ、鎖と鎖同士が絡み、即席の拘束具として機能しようとしていた。
無限ごと包もうとしているんだ、ボールの中に物を入れるみたいに、直接固定できなくてもいいようにだ。
周囲に術式順転を用いて逃げれるスペースを確保する。
「…………」
いつの間に、背後に!?
まずい、術式順転・蒼!
天逆鉾を持って待ち構える伏黒甚爾に向かって術式を放つ。
が、強制解除され呪力となって解けていく。
奴め、最初に使った短刀を飛ばしてきやがった。
だが、無下限術式で通じねぇ!
「随分と、辛そうだな?」
「全然、余裕だし」
また新しい呪具、三節棍に見える。
術式効果の付与は……ない!?特級呪具游雲か!
「さぁ、次はどうだ」
今度は木々を破壊して、それを蹴り飛ばしてくる。
何であの呪具、壊れないんだよ!蹴り飛ばすのも馬鹿力すぎるだろ!
蒼じゃ引き寄せてしまう、だから無下限で防ぐしかない。
「気付いてるか」
「あ?」
何かが口元を濡らす。
拭き取ったそれは、赤い血だ。
……しまった……負荷を掛け過ぎたか。
鼻血は出ているが、頭痛はしていない。
まだいける。
「順転の連続使用、無下限の常時展開、対象の選択、呪力による強化、長時間の六眼の使用。あと、どれくらい持つかな」
「蠅頭出した時点で、他の術師が寄ってくる」
「だからどうした、足手纏いが増えて苦労するのはお前だろうぜ」
今ほど広範囲での術式行使は巻き込みかねないから出来ない、と踏んでる訳か。
警戒するのは天逆鉾だけ、ならやりようはある。
「悪いが、時間を掛けるつもりねぇ!」
「こっちのセリフだよ!」
再び、破壊された木々が蹴り飛ばされて飛んでくる。
何度やっても結果は同じ、何を狙っている?
「蒼!」
「死ね」
木々が圧縮され、砕かれ、摺りつぶされる。
そんな塊の陰から、奴が現れた。
蹴り飛ばした木の陰に隠れていたって訳だ。
狙いは、近接戦闘による攻撃か。
素人丸出しの作戦じゃないか、蒼で距離を取って今度こそ潰してやる。
背後に展開、見知った呪力!狙いは背後の術式・蒼!
「無駄だ!」
鎖の付いた天逆鉾が飛んでくる。
その後ろには、先ほどのように短刀が飛んでくる。
術式の強制解除の後に、後ろから飛んでくる短刀で突き刺そうって魂胆か。
だが、強制解除できるのは天逆鉾だけ、ついてる鎖の呪具さえ引き寄せて軌道を変えたから問題……。
「ガフッ……?」
「2つねぇとは言ってねぇぜ」
ない、はずだった。
腹に突き刺さる短刀、なぜ、いや天逆鉾の異質な呪力。
2本目が存在した、そんな馬鹿な。
だが、この距離なら俺の間合い。
「無駄だ」
「ッ!?」
此方の攻撃を躱され、腹に突き刺さった短刀が抜け落ちる。
奴が鎖を引き寄せ手に持っていた天逆鉾が首に刺さり、次に太腿を引き裂かれた。
短刀の先、そこに破片がある。
その破片には天逆鉾の異質な呪力、コイツ短刀に罅を入れてそこに天逆鉾の一部を固定していた。
「ダメ元だったが一撃入ったな」
「…………」
「一瞬でも気を逸らせれば、本体の天逆鉾でやろうと思ったが破片でも出来るじゃねぇか。運がいいぜ、競艇でも働いて欲しいがな」
身体が動かない、頭痛ぇ……死ぬのか?
反転術式だ、それに賭けるしかない。
「じゃあな、五条悟」
呪力と呪力を賭け合わせる。
集中しろ、俺なら出来る。
待ってろ、傑、天内。
今すぐ、こいつを……。