死ぬ予定の夏油傑になった凡人   作:nyasu

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呪術がバレなきゃ、法に反しても揉み消されて無罪じゃね?

冷たい石畳の上、俺は横たわっていた。

金縛り、身体が全く動かない。

戦闘があったはずなのに、周囲は何も変化はなく、何なら音すらもしない。

 

違和感。

 

意識だけは覚醒し、しかし身体が動かせないことから脊髄でもやられたかと思ったが、どうにも違うらしい。

そう思ったのは、俺の前に彼女が現れたからだ。

 

『理子ちゃん……』

 

口は動いてないはずだが、何故だが声は出た。

理子ちゃんは見下ろすように俺を見ていた。

ここにいるというのはあり得ない、ならこれは夢だろうか。

随分と意識のハッキリしている夢である。

 

『…………』

『すまない、私は……痛てッ!』

 

ポカリと、理子ちゃんに俺は腹パンされた。

いや、動けないとはいえ殴らなくても良いじゃないか。

というか、何で何も言ってくれないんだ。

 

そんな不満を漏らしそうになりながらも、夢を見るなんて未練がましいなと自分の事を少し思った。

自分の境遇と理子ちゃんの境遇を重ねていたからだ。

 

『理子ちゃん?』

『…………』

 

無言の理子ちゃんに訝しんだ俺への回答は、拳を突き出す物だった。

そして、一本だけ立てられる小指。

それはまるで、指切りげんまんをするような形で、それだけで分かった。

 

『そうか、約束か』

 

なるほど、納得がいった。

 

 

 

失っていた意識が浮上する。

同時に与えられるのは強烈な激痛。

呼吸は苦しく、全身が痛い。

そして、悍ましい気配。

 

「ハァハァ……ゴフッ……」

『…………』

 

霞む視界が捉えたのは、見たことある女学生の制服だった。

ただ俺が知ってるのと違い、制服姿の彼女には頭部がない。

ミイラのような細い手が、俺の首を締めに来る。

ペナルティだ、俺が彼女に負い目を感じたからだろうか。

見守ってもらう約束を守れそうにない。

 

「やめろ……死にたくない……」

 

結局の所、死ぬつもりになっても土壇場で俺は自分の身が可愛かった。

戦ってたときは、理子ちゃんの同化を死にたくないから願ってたくせに死んでも守ろうと矛盾した行動をしていた。

理子ちゃんの手が、俺の首に触れる。

 

 

 

瞬間、流れる……存在しない記憶。

 

 

 

走っていた。

俺はひたすら、何処かを目指して走っていた。

だが、一瞬で身体が動かなくなる。

何かが、顔に、触れている。

 

『手間掛けさせやがって』

『嫌だ!こんな、死に――』

 

視界が回る。

世界が回る。

頭が焼けるように熱い、胸が破けるかってくらいに痛い、身体から力が抜ける。

ただ、痛みが押し寄せて……長い痛みの末に痛みが消えていく。

痛みの次は寒さだ、身体が寒くて、でも動かせない。

そして、気付けば倒れ伏した俺を見ていた。

俺は俺ではなく、理子ちゃんだった。

 

 

 

意識が戻る。

眼の前には俺の首に触れたまま動かない理子ちゃん。

理解した、彼女が首を折られて死んだこと。

そして、俺が成そうとして終ぞ出来なかった死後の呪霊化に成功したこと。

呪霊になるのに肉体は関係ないのだろうか、まぁ祈本里香は頭部がなくなってたのに呪霊化してたか。

死という負荷が、呪力0の殺害によって齎され、変質したのかもしれない。

 

「ハハハ……」

 

身体から力が抜けていく、出血多量なのかもしれない。

原作じゃ迎えがあったのだろうか、原作でも腹切られていたよな。

一度知ってる感覚が襲ってくる。

知っている、俺はこれを知っているし、今も教えてもらった。

死だ、死が迫っている。

 

「死に際で、やっとかよ」

 

独特の感覚、呪力がなくなったかと錯覚するような感覚。

改めて、呪力というものを感じ取る。

それを、編み込むように、混ぜるように、重ねるように出力する。

 

「反転術式」

 

膨れ上がるように傷口が蠢き、傷が塞がる。

ひゅーんひょいね、なるほど分かりやすい、これが分かんないのはセンスねぇかもな。

 

「ごめんね、理子ちゃん」

『…………』

「約束だ、ずっと一緒だ」

 

結局、もう何もかも手遅れだ。

俺はメロンパンに狙われることだろう。

だが、運命は変えられる可能性を理子ちゃんは示してくれた。

原作は、運命は変えられるのだ。

 

「もう迷わないよ、だから側で見守ってくれ」

 

どんな手段を用いても、俺は生きてみせる。

だから、約束通り見守ってくれ。

理子ちゃんの味は、吐瀉物を拭いた雑巾のような味だった。

 

 

 

薨星宮の外に出る。

外に出て最初に見たのは、あったであろう神社仏閣の構造物の無惨な姿だった。

そして、クレーターの出来てる場所には血溜まりだけが残ってる。

 

「やはり、負けたのか」 

 

どんな手段を用いたのか分からないが、負けないと思っていた悟が負けた。

まるで天が味方するように、運良く勝てたんだろうか?

所詮、因果から外れた奴も運命の下では舞台装置の1つにしかなかった訳だ。

 

高専に向かう迄に、蝿頭の大群を一気に取り込む。

全く数だけは多い烏合だな、蝿頭のチャフは原作通り行われたか。

 

「夏油さん!」

「えっと……誰だったかな?」

 

名前も知らない術師らしき奴が話し掛けてくる。

覚えてないということは、百鬼夜行とかで死ぬモブだろうか。

見れば何人かの術師も、蝿頭のせいでてんやわんやとしていた。

 

「夜蛾先生はいるかな?」

「夏油!」

「あぁ、先生。やはり任務は失敗しました。悟は後始末をしに、行ってます」

 

治療される間もなく、俺は反転術式を会得した。

だから、探す時間はまだある。

 

「おい、待て!もっと詳しく」

「邪魔しないでくれないか、気が立ってるんだ」

 

お前に何が分かる。

俺の計画が、何年も費やした時間が無駄になったんだ。

だが、俺自身は中身が違うからか、原作を変えることが出来ている。まだ、希望は失われていない。

 

 

 

制止を振り切り、窓を使って盤星教を虱潰しに当たる。

だがどこに行っても、終わってから俺は到着することになるのだろう。

 

「術式反転」

 

呪霊操術のプロセスを思い出す。

 

呪霊の呪力化→取り込み→召喚→使役→抽出。

更に最近の見解と拡張術式の流れから整理すると。

呪霊の呪力化→呪力の収集→存在の書き換え→取り込み→強化→召喚という名の復元→使役→抽出だ。

 

このプロセスを逆順処理するのが術式反転。

使役している呪霊がいることが前提になるようだ。

抽出に関しては、うずまきの事であるのでまた違う処理になる。

そして、使ってみた結果。

 

「呪力の抽出か」

 

まず自らが使役している呪霊であることが条件になるようだ。

呼び出した蝿頭はいつも使っている謎空間に吸い込まれる。

そして肉体を分解、強化の逆なのか呪霊自身の呪力を吸収、書き換えた情報を削除するのか支配している感覚が消失、後は勝手に穴から出てくるのだが呪霊玉のような状態で出てきて霧散する。

 

「捕まえた呪霊の呪力を奪い、残り滓を放出しているみたいなものか。だが、呪力の塊であるから弱体化しすぎると存在できないようだね」

 

特級とかなら等級を低くして逃がす感じだろうか?

何が素晴らしいって私の呪力量が回復しているということだ。

感覚的な物だが、呪霊の呪力を奪っているのか。

これは消費していない状態なら総呪力量も増えるのだろうか?

名付けるなら、漂白することから術式反転・皓とでも名付けようか。

そして、順転である呪霊操術・黑と反転である呪霊操術・皓。

合わせるなら灰……いや、鈍色から鈍か。鼠色の鼠よりは良いだろ。

 

「まぁ、そんなことに拘る必要はないんだけどね」

「着きました、夏油さん」

 

時刻は夕方、何人かの教徒を殴って割り出した教祖の居場所。

まぁ、逃げられてしまうのだろうけどな。

夕暮れに、盤星教の施設へと行く道を進んでいると赤子の頭に蚯蚓のような体の呪霊が現れた。

 

「醜いな、おいで……」

 

祓い、取り込む。

数年ぶりの吐瀉物の味、この先に悟がいる。

日が沈む、施設の中に入り地下へと降りていく。

重苦しい扉、ゆっくりとそこを開くと眩しいくらいライトの明かりが目に入る。

そして、拍手喝采が響く。

 

「傑、遅かったじゃないか」

「悪い、遅れた」

「いや、早いのか。盤星教の施設が幾つあるかって話だよな」

 

悟がゆっくり歩いてくる。

その両手には、白い布の被せられた遺体がある。

それを満面の笑みを浮かべた奴らが拍手している。

 

「傑、コイツら殺すか?今の俺なら、多分何も感じない」

「必要ない……理子ちゃんは俺の中で生きている。もう今となっては……いや、もっといい方法がある」

「傑?」

 

理子ちゃんを奪い取り、そのまま廊下にゆっくり下ろす。

そしてズボンからベルトを外して、開けた扉を締めて取っ手にベルトを巻き付けた。

これで少しは開けにくいだろ。

 

「俺は少し八つ当たりする」

「えっ?」

「友人がカルト団体に殺されたんだ。暴力沙汰を起こしてしまう未成年がいても可笑しくないだろ、呪術規定にも反してないさ」

 

そうだから、これは俺の八つ当たりだ。

 

「えっ、はっ?ふげっ!?」

「ほら笑って拍手してろ」

「キャァァァ!ぶぇ!?」

「待てよ、逃げるな猿が」

 

手近にいたオッサンを殴って、逃げようとしたババアの髪を掴んで床に叩きつける。

 

「な、何してるんだ!うぉぉぉ!」

「いいね、掛かってこいよ」

「君、やめないか!おい、彼を押さえろ」

「今からお前ら猿どもは全員、平等に病院送りだ!」

 

痩せた若者が突っ込んで来るので喉に肘をぶつける。

両サイドから捕まえに来るオッサン達を投げ飛ばして床に転がす。

 

「ハハッ、混ぜろよ」

「悟、後で怒られるぞ」

「なにそれ正論?俺、正論嫌いなんだよね」

「知ってるよ」

 

俺達の八つ当たりが始まった。

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