死ぬ予定の夏油傑になった凡人   作:nyasu

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実は分かってないけど無下限術式を使ってるんじゃね?

2007年 8月

 

「いっくよー!」

 

消しゴムと鉛筆が投げられる。

放物線を描いたそれは、鉛筆だけが静止した。

 

「うん、行けるね」

「げっ……何、今の?」

「悟を対象にした自動選択か」

「そっ、今までマニュアルでしてたのをオートマにした。呪力の強弱、質量、速度、形状、物体の危険度を選別できる。毒物はおいおいって所かな」

 

何処かで聞いたことあるような話に、あぁと声が出る。

 

「最小限のリソースで運用し、自己保管の範疇で反転術式を回すのか」

「よく分かってんじゃん、前からやってた掌印の省略も完璧。赫と蒼、同時発動もボチボチ。あとの課題は長距離移動と領域」

「素晴らしい、悟は最強になったんだね」

 

忙しい夏の季節になったのだと実感した。

ところで、ふと気になったので聞いてみる。

 

「素人質問で恐縮なんだが、その選別はブラックリスト方式だと抜けが発生しそうだからホワイトリスト方式を採用してるのかな?例えば呪力の強弱というが弱い呪力でも当たるとまずい術式はどうするんだい?多分、術師と非術師で考えてるんだと思うんだがその場合、無機物などの呪力が無い物はどうなんだ?あと質量はどのくらいの重さから静止するんだ、何キロからとか決めてるのか?速度というが、その速度は知覚出来るかどうか分からない速度ならどうだろう。上限としてはどのくらいの速度になれば発動出来なかったりとかするんだろうか?あと形状の危険度はやはり悟の認識に左右されるのだろうか?なら一見無害だと思われるような形状だった場合、認識外からの攻撃は……いや、そもそも術式の対象を悟にしていてそれ以外というが、それ以外を認識しているのはどうやってるんだい?呪力をレーダーのようにして判断してるのかな?」

「おう、そうだな」

「うわぁ……キモ、なんかそういう設定のアラとか気にして噛みつきまくってくるオタクみたい」

 

うるさいな、硝子みたいに適当じゃないんだよ。

気になったりする人間だから、オタクやってんだよ。

ファンタジーだからの一言で済ませられる女は帰ってくれないか。

 

「まぁ、アレだよ、よく分かんないけど出来るから……うん、俺って天才だし」

「あと、前から気になっていたんだが無下限呪術ってグリーン・グリーン・グラス・オブ・ホームみたいなもんだろ?限りなく分割して0に近づいて結果として到達出来ないのは分かるんだが、順転と反転は何なんだ?」

「いや、俺ジョジョ分かんないから」

「なんでスタンド名って分かるんだよ」

 

硝子のツッコミが冴え渡る。

ホンマや、こいつ分かってるやんけ。

 

「まぁ、ウチの秘伝書には0を分割した負の自然数とかマイナス1個分のリンゴみたいなのが発生するって書いてるから……うん」

「0を分割……妙だな?」

「硝子!頼む硝子、一回黙ってくれないか?ややこしくなるから」

「普通に不定形じゃん、高校数学勉強してる?」

「硝子!頼んだよね、違うじゃん!そこは黙るべきじゃん!」

 

そうなのである。

答えを求められないのだから数学的に考えたら不定形なのである。

硝子の奴、そこに気付けるとは天才か?

 

「良いんだよ!アキレスと亀なんだよ、1+1/2+1/4みたいなのを無限にやるから本来ない何かがあんだよ!全部数えたことねぇだろ、ないって言い切れねぇからあんだよ!」

「つまり、1+から始まって途中で1/2^nが負の値になればいいなら、1/2^n=−1になってそこから無限に継続していくってこと?」

「硝子!違うじゃん、お前そういう賢いキャラじゃないじゃん!深く考えるなよ」

「待て悟、硝子はこう見えて大体のことは卒なくこなしてセンスねぇなぁと煽ってくる奴だぞ!」

「そうだった!コイツ、窓の人に基礎だけ習って独学で全国模試とか上位の奴だった!」

 

頭を抱える悟。

クソ、硝子の学力は化け物か!

俺と悟のテストの合計でも総合点ではギリ勝てるくらいだからな!

良いんだよ、呪術師はそこそこの成績でも。

 

「つまり、n=log2(−1)ってこと?」

「傑!対数関数出してきたぞ!お前のせいだぞ、何とかしろよ」

「悟、私は悟ほど頭が良くないから数学は赤点なんだ」

「何やってんだよ!出来ねぇこと、言ってんじゃねぇぞ!お前が始めたんだろ」

 

いや、なんか数学的な話とかされると思わないじゃん。

もっとフワッとした答えを悟がしてくるかと思うじゃん。

呪術関係ないじゃん、学校の勉強じゃん。

 

「分かんないの?2をn乗すると−1になるんだよ、頭悪いなぁ」

「おぉ、なんか分かる気がしてきた」

「後は複素関数で定義するんだよ、オイラーの公式使えば簡単でしょ」

「ダメだ傑、お前が分かった気になっても、俺が分からなくなってきた」

「安心してくれ、気の所為だった。何でオイラーの公式の話になるんだ、オイラーどこから来たんだよ」

「大体4.532iじゃん、何が分かんないの?」

「なんでアルファベットが数学に出てくるんだ?」

「傑、つまりそういうことなんだ!俺は感覚でそれをやってるんだ!」

 

硝子!本人が分かってないのに使ってるぞ!

多分、お前のほうが無下限呪術理解してるぞ!

流石、医者になるだけあって地頭良かったんだな!

 

「じゃあ、発散は何なんだ……一体、どんな数式を使うんだ」

「いや、それは普通に1とか2とか足しまくったら無限に増えるよねって話じゃん」

「馬鹿な……シンプル過ぎる……」

「もう、無下限呪術の話はやめようぜ」

 

た、確かに!発散なんだから無限に増えるじゃないか。

いやいや、でも一番謎なのは虚式茈だ。

だが、五条家の秘伝だし俺が知ってるのもおかしいか。

 

「ねぇ」

「硝子、ラット貸してくれよ、実験するからさ」

「さっきそれぞれの同時発動って言ってなかった?順転と反転、同時に使ったらどうなるの?」

「……言ってない」

「あれ、そうだっけ?」

 

硝子!君のように勘のいい餓鬼は嫌いだよ!

お前、今、地雷原の上でタップダンスしてるぞ!

結局、あやふやなまま硝子の追求は流れた。

 

「傑、大丈夫か?ちょっと太った?」

「タダの食べ過ぎさ、大丈夫」

「二郎系食い過ぎた?頼むから運動してくれよ」

 

煩いなぁ、背脂マシマシなのが食べたいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その年の夏は多忙だった。

災害の影響か、まぁ例年通り呪霊だらけだ。

蛆のように呪霊が湧いた。

祓う、取り込む、祓う、取り込む。

戻ってしまった呪霊の味、吐瀉物を処理した雑巾味。

 

何の為に?当然、新しい明日の為だ。

呪術の核心、そして思いついた方法によって縛りは釣り合いが取れなくなり、味は最悪だ。

 

祓う、取り込む。

あの日から自分に言い聞かせている。

人が死ぬなんてのは周知の事実、原作を知った上で俺は死ぬことを覚悟してきたはずだ。

ブレるな、生きるための覚悟を決めろ。

 

「分かっているよ、もう止まる気はないんだ」

 

俺は側に立つ、リコちゃんに向かってそう言った。

 

 

 

風呂上がり、自販機で飲み物を飲んでると後輩の灰原と会う。

あぁ、そうか。まだ生きていたのか。

 

「何か飲むか?」

「悪いですよ……コーラで」

 

灰原に飲み物を渡して、既視感を覚える。

何だか見たことあるようなないような、原作にこんなシーンがあったのかもしれない。

ふと、思ったので聞いてみる。

 

「灰原、明日死ぬとしたら怖くないか?」

「そうですね……自分は物事を深く考えない性質なんで、死ぬ直前まで分からないです!」

「そうか……そうだな」

 

直前まで、そりゃ想像でしかないもんな。

悪いな灰原、お前が死ぬと分かっていても救えない俺を赦してくれ。

心の中で謝罪した俺の前に、終わりを告げる足音が聞こえた。

 

「君が、夏油くん?」

「そういうアンタは九十九由基か?」

「どんな女がタイプかな?」

「自分の命より他人を優先出来る女かな」

 

カチリ、と何かがハマったような感覚だった。

あぁ、遂に終わりが来るのか。

 

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