死ぬ予定の夏油傑になった凡人   作:nyasu

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呪霊がいないところで意味ないんじゃない?

髪を金髪に染めた、ケツとタッパのデカイ女がそこにいた。

二の腕、太腿、共に太い。

ゴリラだ、メスゴリラだ、面は良いけど。

 

「少し、授業をしようか」

「授業、ねぇ……」

「そもそも、呪霊とは何かな?」

「人間から漏出した呪力が澱のように集まり生まれた存在」

「エクセレント」

 

基礎的な、呪霊に対しての知識だった。

確か、呪霊のいない世界が作りたいんだっけか。

 

「すると呪霊のいない世界の作り方は2つ。1.全人類から呪力を無くす。2.全人類が呪力をコントロールする」

「1は禪院甚爾か。超人を生み出すなんてアメコミか、あるいはニーチェかな?」

「ニーチェを引用するなら、非術師という末人を変革出来れば呪いは生まれなくなるね」

 

人類がゴリラになるのか、猿の惑星かな?

だが、根本的なことがこの女は間違えている。

 

「面白い話ではあったが、意味のない授業だった」

「何?」

「そもそも、呪霊をなくす必要はありますか?」

「君は、呪霊が存在してもいいというのか」

 

愚問だな。

俺の計画に、呪霊という存在は必要不可欠だ。

何を目的にそんな事をしようとしてるのか、悲劇のない世界でも作りたいのか。

そんな事をしたとしても、無駄なことだ。

 

「貴方は、達成した後のビジョンがない。世界を変えたとして、それはゴールではなく始まりなんだ。世界がどうあるべきかは勝者の理論であって、世界はどういうものかを考えるのが敗者の理論だ。BLEACHは読んでませんか?ジャンプには真理が載っている」

「なら君はこんな世界でいいのかい?」

「構わない。なぜなら呪霊がいない世界でも人は争うし、人類が術師になろうとも今の呪術界が世界規模になるだけ。意味のないことなら、やらなくてもやっても同じだからだ」

 

人は術式や呪力総量や出力、血筋や権威で優劣をつけるだけだ。

石器時代から何も成長していない猿でしかない。

そして、この世界は呪霊や呪力があってこそ成り立っている。

 

「世界は変わらない。だからこそ、自分を変えていくのが目指すべきあり方。その為に呪力は必要な呪いであり、祝福である。特別であるために苦しむが、特別であるからこそ凡人には出来ない手段を取れる」

「君は……何を言って……」

「呪霊がいなくても人の悪意は終わりがない。なら、毒をもって毒を制すように、呪いには呪いを、悪意には悪意を利用して対抗しなくてはいけない。あらゆる手段を持って我々は絶望という暗闇を克服しなくてはならない、それが幸福という物だからだ」

 

覚悟こそが、幸福をもたらすのだ。

メロンパンという底しれない悪意を克服しなければ、凡人である俺や全ての非術師に幸福は訪れない。

九十九由基が呪霊のない世界を生み出そうとしても、きっと人間の可能性を追い求める奴が、きっと立ちはだかることだろう。

自分の好奇心のために、他人の犠牲を厭わない。

それが奴の持つ、無邪気で残酷な子供のような悪意であるからだ。

 

「ハハッ、しっかり狂ってるじゃないか。その理論では目的のためには他人の犠牲を厭わないってことになる。悪意に対抗しようとする君自身が悪意になっているよ。ニーチェも言ってただろ、怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならないって」

「肝に銘じておきますよ」

 

九十九由基との邂逅はそれで最後だった。

次はどこで会うのか、それとも会わないのかは分からない。

だが、もう始まったのだ。

これから灰原は死ぬ、そして俺は呪詛師になる。

これはその始まりに過ぎない。

 

 

 

1週間後。

灰原が死んだ。

お土産の約束は果たされず、後輩の一人を失った。

 

「なんてことのない……2級呪霊の討伐任務のはずだったのに……クソ!」

 

七海が放り投げた椅子が遺体留置所の中で跳ねる。

どうして灰原は死んだのかな?

上層部の悟に対する嫌がらせか、呪術師家系の人間にはリスクは負わせたくなかったから一般家庭出身の者に危険かもしれない任務を押し付けたのか。

 

「アレは土地神でした……1級案件だ」

「遅かれ早かれ我々は死ぬしかない。術師はクソだから七海は辞めた方がいい。死に方くらい自分で選べる」

「何が言いたいんですか、俺達は死ぬために呪術師をやってるんじゃない!」

「死は絶対だが、死に方は変えられるって話さ」

 

それがこの世界のルール。

運命で決まっていることは覆せない、早いか遅いかの違いでしかない。

逆に言えば運命を変えないなら、時期は変えられる。

 

 

 

この日が来たかと、俺は吸っていたタバコを吐き捨てながら思った。

任務は人口過疎な田舎の村における、呪霊討伐。

なんてことのない任務で、俺にとってはキーポイントとなる任務だ。

 

簡単な呪霊の討伐だった。

ただ、調伏しただけで終わる、そんな案件だ。

 

「これは何だ?」

「何とは?これが一連の事件の原因でしょ」

 

悪意を持って人を害する、猿が喚く。

うんざりしながら、吸い慣れたピースに火を着ける。

鼻腔を通る独特な苦みとバニラに似た甘い香り。

タールと一酸化炭素が、嫌なことを忘れさせてくれる。

 

「この二人は頭がおかしい!不思議な力で村人を襲うのです!」

「私の孫もこの二人に殺されかけたことがあります!」

 

不思議な力が人を殺す?本気でそんなことを思ってる自分が正常だと思っているのだろうか。

 

「分かった分かった、このガキ共がいなけりゃ納得するんだろ」

「何言ってんだ、さっさと退治してくれ」

「退治ねぇ……それって具体的には、もしかして殺せって言ってる?おいおい殺人教唆かよ」

「何なの!アナタ、何しに来たのよ!早く化け物をどうにかして頂戴!」

 

キンキンとメスの猿が喚き散らす。

うるせぇなぁ、人を人だと思わないお前らのほうが化け物だろう。

 

「いい加減に――」

「黙れ、次に喋ったら喋れなくなるまで殴りつける。理解してから喋れよ」

「何を言って――」

 

喚く猿の一匹を殴り飛ばす。

所詮は猿、人間の姿形をしていても言葉が通じない。

 

「愚かだった。言っても無駄だもんな」

「あっ!うぐっ!や、やめ!」

 

猿の頭を踏みつける。

1度、2度、3度。

何度も何度も何度も……。

 

「キャァァァ!」

「あぁ……動かなくなっちゃったな」

「いや、いやぁぁぁ!」

 

喚きながら逃げ出すメス猿を無視して、俺は座敷牢の前に来る。

そこにいるのは殆ど半裸で、痩せ細り、アザだらけの双子の女の子達だった。

決して化け物ではない、庇護すべき子供達だ。

 

「初めまして、俺は夏油傑。見ての通り……そうだな、悪人かな?」

「悪い人……なの?」

「そうだ。自分の願いの為なら、手段を選ばない悪党だよ。さて……君達はこのままでは死ぬと思うが、俺と一緒に来るかい?勿論、死なないかもしれない、どちらでもいいよ」

「……連れてって!ミミとナナはここに、居たくない!」

「あぁ、素晴らしい。君は決断できる、勇気のある子だ。さぁ、ここから連れ出してあげよう」

 

座敷牢を壊して、子供達を連れ出していく。

邪魔するためか、農具を片手に襲い掛かってくる猿を痛めつけてやったが殺しはしなかった。

まだ、やるべきことがあるからだ。

 

 

 

誰かの車に子供達を乗せて、向かったのは病院だった。

無免許運転だが、もう誘拐したから犯罪者だ。

盗難は今更って奴だろう。

 

「リコちゃん、やってくれ」

「…………」

 

盗んだ車で、実家までやってきた俺は今生の両親をこの手に掛けた。

痛みも苦しみもなく殺した。

殺したくなかったが、呪術界の奴らに報復で苦しめられるかもしれないから慈悲だった。

彼らは……両親は、今でも俺の中で生き続けている。

すまない、こんな息子を許してほしい。

 

 

 

かつて手に入れた呪詛師の使うサイト経由で仕事を依頼した。

資産を凍結される前に引き出した架空の口座から、盤星教に変わる宗教団体の情報だ。

今度集会があるらしく、金を積んで特別ゲストとして招待してもらうことになった。

ついでに仕事を持ってくる仲介人とコンタクトを取った。

ソイツは俺のことを知らないが、俺はコイツが禪院甚爾、あるいは伏黒甚爾と仕事していたことを知っている。

 

「よぉ、特級呪術師」

「もうそこまで調べたのか、今は呪詛師だよ」

「みてぇだな、アンタの依頼に関しては順調さ。そっちのガキどもは?」

「今預かってるんだ。そうだ、新宿まで車で連れてってくれないか?金なら弾む」

 

仕事の話しついでに、車で新宿まで送らせた。

昔の友達に別れの挨拶をしようと思ったからだ。

硝子の奴、予備校終わりには、いつもタバコを吸ってからバイクに乗って高専寮に帰ってるからな。

 

「よぉ、火はいるか?」

「アンタ、そんなキャラだったけ?」

 

喫煙所で目立つ女子高生に声を掛けた。

タバコを吸いながらやってきた俺に、キョトンとした顔で硝子が固まる。

 

「素の俺はこんなだよ、ホントはヘビースモーカーさ」

「ピースかよ、センスねぇ……パーラメントでしょ」

 

咥えていたタバコを、硝子の咥えているタバコの近くまで持っていってやった。

タバコの先と先で、火を灯すって算段だ。

火が着くと、お互いに煙を深く吸い込み、話し始める。

 

「フゥ……一応聞くけど、冤罪だったりする?」

「冤罪だよ、俺が殺したのは両親だけ。村人なんか、知らないね」

「意味分かんねー、じゃあ誰が殺したんだよ」

「さてね」

 

まぁ、メロンパンの仕業だろうな。

修正力だとは思うが、それを起こすとしたらメロンパンか上層部だ。

しばらくして、タバコを吸いきった俺は車まで戻ることにした。

そんな俺を引き止めるように硝子が話しかける。

 

「悟、来るって」

「帰りの途中に会えるさ、そういう運命だからね」

「ハハッ、ロマンチストかよ……」

「じゃあな硝子、タバコは控えろよ」

「……そっちこそ」

 

俺はそれに、振り向かずに手を上げて対応した。

 

「独りで抱え込むなよ、馬鹿野郎……」

 

後ろ側に、手を振って別れの挨拶としたのだ。

 

 

 

硝子と別れたら、帰り道で待ち人が来る。

見知った呪力、五条悟がそこにはいた。

人混みを無視して、悟が問い掛ける。

 

「説明しろ、傑」

「硝子から聞いただろ」

「意味分かんねぇよ!なんで親を殺した!冤罪なんじゃねぇのかよ!」

「報復で拷問されると思ったからさ。それにもう後戻りする気はないんだ」

 

いつか、俺を殺す最強。

悟、もう決めたことなんだ。

 

「まだ間に合うだろ!真犯人を捕まればいい、俺達なら絶対出来る」

「傲慢だな」

「ああっ!?」

「お前でも無理だよ悟、敵は千年も前から生きてる化け物さ」

「何が言いてぇんだよ……」

 

意味がないんだ。

結局、俺達は戦い、俺は死ぬ、そして奴に利用される運命なのだ。

 

「お前が最強でも不可能なことはある。学生時代に学んだだろ?」

「だから俺だけじゃダメなんだろ!お前だけだって、ダメなんだよ!」

「悪いが死に方は決めた。後は自分に出来ることを精一杯やるさ」

「ぐっ……くっ!」

「止めたければ止めろ……だが、それは無意味だ」

 

理子ちゃんが死んだ時から、全てが終わったんだ。

そして、リコちゃんと出逢った瞬間から全てが始まった。

私に出来なかったことを、俺が成し遂げる。

その為のプランは出来上がっている。

 

 

 

最初の大仕事を始めるべく、俺は宗教団体の施設にいた。

盤星教の生き残り、名前を変えて今も残る団体だ。

政治家や実業家、宗教を利用している奴らは名前が変わろうが教義が変わろうが、気にしないのだ。

だから、まだ残っていたのだろう。

 

「ホントにその格好で出るのか?」

「良いんだ。これが正装だからな」

 

袈裟を着た状態で、壇上に上がる。

どんな紹介の仕方をしたのか知らないが、手短に行こう。

 

「あーあー、皆さん。お待たせしました、それでは手短に……俺に従え、異論はあるか?」

 

反対の声しかその場にはなかった。

そりゃそうだ特別ゲストがトチ狂ってたら、そうなる。

 

「困ったな……そうだ、園田さん壇上へ……そうアンタだ、みんな知ってるお偉いアンタと俺でディベートしよう。アンタが認めるなら誰も文句は言わないさ」

「良いだろう、尤も誰も君を認めないだろうがね」

 

壇上に上がる男が一人。

理子ちゃんの殺害を依頼して逃げた奴だと調べはついてる。

1つ、此方から問い掛ける。

 

「質問だ、天内理子。この名前に覚えは?」

「天内理子……まさか!?」

「やれ、リコちゃん」

 

俺の影から首のない女学生が現れる。

そして、すぐさま園田の首を掴む。

掴まれた園田は一瞬で内側から弾けた。

 

「さて……俺に従え、異論はあるか?」

 

1人、2人と拍手の音が響く。

それはいつしか会場を埋め尽くし、万雷の拍手となった。

忌々しい拍手だったが、今は実に気分がいい。

 

さぁ、俺達の抵抗を始めよう。

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