死ぬ予定の夏油傑になった凡人   作:nyasu

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脳をストックできたら理論上、複数術式が持てるんじゃね?

待ち合わせ場所はホテルだった。

なんでそんなとこなんだよと思ったが、密室で話ができるからという事であった。

待ち合わせ場所には青年とババアがいる。

 

「よぉ、アンタがオガミ婆?なんて呼べばいい」

「それで良いよ、仕事柄だが本名は名乗ってないんだ」

 

ホテルのラウンジには、俺と孔時雨がスーツ姿でいた。

そりゃ、普通のときは袈裟なんて目立つ格好はしないからだ。

 

「長く仕事をしてるとね、昔の女に会いたいって奴も出てくるもんさ」

「御託はいい。少し、話がしたいんだ。チケットなら用意してやる」

「約束を破るんじゃないよ」

「あぁ、推しのライブに行きたい気持ちは分かるつもりだ」

 

お前……とオガミ婆から何だかキラキラした視線を向けられる。

やめろやめろ、婆さんは好みのタイプじゃねぇ。

 

「肉体の一部が必要って事だったな、これでいいか」

「げっ……人の小指かよ」

 

俺が懐から出したハンカチに包まれた物体を、孔時雨がドン引きする。

綺麗な指だった。

白くて、少しだけ指先は紫色で、まるで最近切り落としたような腐敗してない指だ。

 

「昔、約束でもした女のかい?古風だねぇ」

「詮索はしないって話だろ」

「そうだったねぇ、まぁ終わったら部屋から出るから孫は好きにしていいよ」

「チッ、下世話な。だから、ホテル選んだな」

 

しかも、男じゃねぇか。

元男を抱く変態だとでも思われてんのかよ。

 

 

 

仕事は終わりだと孔時雨は帰り、3人でホテルの1室に入る。

どういう教育をしているのか躊躇なく指を飲み込む孫、ヤベェな。

長い詠唱の末に、オガミ婆が肉体の情報と魂の情報の完全降霊を行う。

 

「天内理子」

「ぐっ……くっ……」

 

孫と呼ばれた青年の顔が、身体が、骨格から何まで変わっていく。

そこにはあの日の天内理子の姿が再現される。

そして、理子ちゃんが目覚める。

 

「……ここは、夏油?」

「おぉ、素晴らしい。実に素晴らしい」

「効果は私の呪力が尽きる迄だよ。半日は保つが、程々にしないと男を抱くことになるよ……ヒヒッ」

 

理子ちゃんが、そこにはいた。

何が起きたか分からない、混乱した様子であった。

俺のそばにいるリコちゃんとは別物、記憶は共有していないということだろう。

仮説にはなるが、死んだ地点で記録された情報をコピーしてるのではないだろうか。

例えば、肉体に残った情報の中には魂もあるのだ。

いや、だとしたら呪霊であるリコちゃんの指から生まれたこの子が記憶を共有できていないのは可笑しいか。

 

「夏油……ここは、これはどういうことじゃ」

「説明するから、少し待っててくれないかな。さて、オガミ婆」

「なんだい?」

「貴方に最大限の感謝と敬意を払おう。呪詛師という猿を私は嫌悪しているが、貴方のような人間は別だ。素晴らしいよ……その術式、欲しいね」

「がッ!?」

 

俺の胸から、白い腕が伸びてオガミ婆の喉を掴む。

掴んだところから、皮膚と皮膚が溶け合い繋がる。

手首まで減り込んで、喉には断面なく滑らかに同化した腕があった。

そう、リコちゃんの腕だ。

 

「説明する約束だっただろ。彼女はリコちゃん、そこの理子ちゃんの元になった存在だ。いや、彼女から生まれた存在かな。術式は同化術式、触れた対象と混ざり合う術式だ。呪霊になってから発現したのは、術式は持っていたが、発動出来るように脳が出来てなかったのかもしれない」

 

ズズズと俺の身体から分離するように首無しのセーラー服を来た女の子が出てくる。

服も透過して、オガミ婆の身体に腕を同化させた状態で立っていた。

 

「色々悩んでいた時期だった。結論も出て、諦めた時でもあった。きっと、キリストが死んだ時の弟子達と同じ気持ちさ、そして復活を目にした私は……いや、俺にとっては福音のような物だった」

「何をしておる!何じゃそれは!夏油!」

「死は絶対だ、抗おうにも訪れる。そうだな、ファイナル・デッドシリーズの映画は知ってるかな?つまり死は回避できないと言うのが真理だ。だが、死んだ後は違う」

 

リコちゃんが片腕を伸ばして、理子ちゃんの首を締める。

それだけで喉と腕は同化して、侵食して、オガミ婆のように肉体の権限を奪う。

電気信号で動いているのが人間だから、遮断したら動けない。

 

「死んだ地点で筋書きは終わり、この世界では異物になるんだ。いや、遺物とでも言い換えようかな?。思えば俺という異物のせいで、私も中途半端に運命に囚われていた」

 

リコちゃんという存在は、俺は知らない存在だ。

俺という人間の影響による原作の改変。

生きている時ではなく、死んでから発生した。

 

「起こるべきことは過程を問わずに起きてしまうんだ。結果だけは必ず変わらない、死は絶対だ。だが、それ以外はある程度変えられると確認出来た」

 

例えば、このオガミ婆の存在とか消したらどうなるのか。

ターニングポイントが何であるのか、変えられるのかは分からないが、少なくとも伏黒甚爾は復活できなくなる。

 

それだと特級に殺されるんだろうか?

宿儺が伏黒恵を使って復活出来なくなるかもな。

まぁ、メロンパンか戦力を削られて困る俺のどちらかが、復活させる事になり何だかんだ伏黒恵は生き残るんだろうけど。

死滅回遊を阻止する計画はあるが、起きてしまうんだろうな……。

まぁ、色々な課題が発生するが俺が死んでも復活する手段として、見逃す手はない。

 

「まぁ、何が言いたいかというと死にたくないから一度死ぬことにした。リコちゃんの同化を使うことで不死になるんだ。そのために、お前を取り込む」

 

リコちゃんの同化が進む。

オガミ婆の身体の半分以上が、リコちゃんに沈んでいた。

どうやら随分と長話をしていたらしい。

 

「もう聞こえないだろうが、同化したアンタは人間かな?それとも呪霊かな?正解はリコちゃんという呪霊だ、安心して欲しい実績はある。私の両親と同じようにリコちゃんの中で生きてくれ、そして私と共に新しい明日を拝もうじゃないか」

 

同化するということは、それだけで呪霊に近付いていく。

肉体の半分以上が呪霊化した地点で呪霊操術の対象になる。

そこからは、謎の空間に格納する事ができる。

呪詛師を生かしたまま空間内で分解したが、脳だけ残っていれば術式の発動は可能だった。

 

リコちゃんの体内に脳をそのまま入れておけば、数に限りはあるが別の術式は発動可能だ。

後はリコちゃんの術式で適当な呪霊の脳か人間の脳を、術式持ちの脳と同じ形に変えてやれば他人の術式を模倣した呪霊や改造人間も生み出せる。

 

他にもリコちゃんを通して脳を調べ上げて、他人の脳を術式向きにすることも理論上は可能だ。

そのためには術師と非術師の比較と、ちょっとした改造を何度かやらないといけないけど。

真人は出来るようになるまで改造人間を量産しながら脳の構造を調べていたのかな。

 

さて、次は理子ちゃんか。

 

「本命は婆さんだけだったが思わぬ副産物だ。肉体と魂の状態は術式発動中は維持されるはずだが、もし同化した場合はどうなるのかな?」

 

理子ちゃんがリコちゃんに取り込まれていく。

正確には、リコチャンが理子ちゃんの身体に沈んで行くような感じか。

餅のように張り付いた青白い皮膚が、理子ちゃんを包むように覆い隠し、そのまま理子ちゃんが立っていた。

 

「…………」

「姿が変わった真人や直哉みたいな感じかな。喋ってみてくれ……無理か、声帯や頭部はあっても喋ってくれないか」

 

同化した結果は、五体満足な理子ちゃんになるだけだった。

元々の呪霊として生まれた状態から変化することは出来ず、見た目は変わって元に戻っても喋れない事には変わりなかった。

 

 

 

ホテルからの帰り道、リコちゃんを通して婆さんの記憶を覗き見る。

なるほど、詠唱による補助がないと使えない訳だ。

縛りによる底上げでようやく発動出来る能力のようだ。

 

リコちゃんは術式効果が終わったはずなのに姿を保っていた。

呪力0であるから術式効果を消費せずに肉体を維持していた伏黒甚爾のように、変化後の魂と肉体情報を同化により自分の物にして再現している事で保っているのだろう。

つまり、降霊術で呼び出した人物を設計図に肉体を再構築したようなもんだ。

自分の魂の形を知覚して姿を変えた真人みたいなもんだろ。

 

 

後の課題は、真人のように魂を変える存在。

リコちゃんを通して、俺はリコちゃんを、リコちゃんは俺の魂を知覚している。

感覚的になるが、肉体の全てを理解すると理解出来ない何かがあるのだ。

 

呪霊は見えないが、それ以外が見えているなら見えてない物の姿は浮き彫りになって見える現象に近いかもしれない。

後は莫大な呪力で覆うことや領域展開でカバーするしかない。

領域展開は構想はあるが今後の展開次第だな。まだまだ課題は多い。

タクシー料金を払って家に帰ると、夜の時間なのに電気がついていた。

作り置きした晩ご飯を食べて寝てないのか。

 

「ただいま」

「おかえ……えっ?」

「どうしたの菜々子……えっ?」

「えっ?」

 

家に帰ったら、子供達はやはり起きていた。

しかし、俺を見て固まる。

どうしたんだろ……あぁ、リコちゃんか。

リコちゃん!?えっ、仕舞ってたのに何でいるの!

 

「リコ様?」

「…………」

「わぁ!綺麗な顔!」

 

うんうんと頷くリコちゃん。

いや、ちょっと待て!頷いた?

あれ、なんで出てきてるんだ?仕舞っていたよな?

 

「リコちゃん、もしかして意思があるのか?」

「…………」

 

すげぇ顔で、何言ってんだお前みたいな呆れた態度を取られた。

ヤバい、ウチの呪霊が自立してる。

っていうか、呪霊操術の謎空間からどうやって出たんだ。

 

「いぇーい、ピースピース」

「かわいい、制服いいなぁ」

 

あっ……写真に写るんですか。

おかしいな、今までの同化って人間を食べた呪霊みたいに取り込んでも呪霊のままでいたんだけどな。

写真に写るって、受肉してるじゃん。

実体があるってことは、改造人間と同じか。

 

「あっ」

 

試しに入口を展開したら、美々子と奈々子を残して垂直に落ちてった。

一応、仕舞えたりするんだな。

 

「あっ、出てきた……あ痛っ!?」

 

殴られた。

なんで……?

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